ストーリーバレーボール

脱“しごき”はできる? 益子直美さんと考える「指導のあり方」

2020-11-13 午前 09:00

スポーツを通した若者への指導。そのあり方ひとつで選手たちの未来は大きく左右されます。はつらつと成長していく選手がいる一方で、深く傷を負う選手がいるのも事実。10月には兵庫県の中学校で、柔道部の顧問が部員に暴力を振るい逮捕されるなど、深刻な事例があとを絶ちません。

若者たちとどう向き合い何を大切にしていけばいいのか、問われる私たちの価値観。

11月8日のサンデースポーツでは、ゲストの益子直美さん(バレーボール)、解説の上原浩治さん(野球)、中澤佑二さん(サッカー)の日本代表経験者が集結!自らの経験をもとに、若者の指導はどうあるべきか。考えをぶつけ合いました。

数えきれないほど叩かれて…

 

今年、国際人権団体が世界に向けて衝撃的な報告書を発表しました。そのタイトルは、「数えきれないほど叩かれて」

 

日本の25歳未満のスポーツ経験者のおよそ5人に1人が、指導者や先輩から暴力を受けたことがあると答えたのです。報告書に書かれた事例のひとつ、現在プロバスケットボール選手のユウマさん(仮名・20代)の例です。ユウマさんは高校時代、プレーでミスした時に指導者から日常的に暴力を受けていたといいます。

「普通に殴られたり、みぞおちとかにガーンとやられたり。

(中略)。

だいたい1000、2000、3000回とかいってるんじゃないですか。」

 

 

教育現場での暴力が問題視されて久しい今でも、スポーツの現場ではいまだに暴力・暴言を伴う指導が残り続けています。

若者へのスポーツ指導はどうあってほしいか。街の人に話を聞いてみると、その価値観は様々です。

 

「スポ根ドラマであったような時代じゃない。指導者の方はそのことを意識してほしい。」

「やる気を出させる指導法が、スポーツだけでなく仕事の場面でも求められている。」

「たくさん走らされた時はつらかったけど、そのおかげで強くなれた気がする。」

「“厳しい指導もやむを得ない”と言ったらいけないけど、指導者の人も一生懸命やっているし気持ちはすごくわかる。」

 

というように、時代の変化を感じ取り価値観のアップデートを求める声がある一方、それぞれの体験から一部容認してもいいのでは…という声も。

「トスを上げてほしくない…」 益子さんの学生時代

スポーツの現場から、若者が傷つく環境をなくすために。バレーボール女子元日本代表で活躍した益子直美さんは、指導の現場に向けて積極的に発信を続けています。原動力となっているのが、学生時代に監督から手をあげられながら指導を受けた経験です。

 

 

益子

私も「昭和の世代」なので、指導者に怒られるのが当たり前だと思っていたんです。ミスをすると毎日怒られて殴られて、自分のプレーに自信がなくなってしまいました。自分はエースなのに「トスあげてほしくないな…」と思うくらい、試合が怖くて怖くて仕方がなくて、本当にネガティブな選手でした。社会人になっても目標は「引退すること」でした。

恩師の先生たちには本当に感謝しています。情熱を注いでいただいて、全日本にまで育てて頂きました。周りから見たら成功体験だろうと見えると思うんですけど、自分では技術と体力面はすごく伸びた一方、心の面は育っていなかったなと感じています。先生たちには申し訳ない、複雑な気持ちもあるんですけど、私の思いは発信していきたいと思っています。子どもたちには私のような選手になってほしくない。そういう思いで活動しています。

指導者の暴力は連鎖する?

実は暴力を振るう指導者は、選手時代に自分も暴力を受けたことがある人が多いと考えられています。なぜ指導現場での暴力行為は連鎖していってしまうのか。スポーツ指導者の暴力問題を心理面から研究する専門家、流通科学大の内田遼介講師はその理由を次のように考えています。

 

 

暴力を伴う指導を受けた人は、「その指導に意味がなかった。マイナスに働いた」と考えると、心の中に不快感が生まれます。こういった時、一部の人はその不快感を解消するために、「その指導で成長できた」と考え直し、結果として暴力を容認するようになるケースも出てくるのだといいます。

かつて自分が受けた指導を否定することを、自分自身の否定のように考えてしまう。高校まで部活動のサッカーで育った中澤佑二さんは、その考えに納得する点があると言います。

 

 

中澤

僕もどちらかというと「厳しい指導」を受けて育ってきたんですけど、自分の中でそれに「成果があった」と思ってしまっていました。こういった事は他の人にとっても当たり前なんですね。今の現場の指導者の方は一生懸命教えてるんでしょうけれども、それがなかなかうまく伝わらない。伝え方にちょっと問題があるのかなと思います。

 

暴力を伴う指導、怒る指導が連鎖している現状に対して益子さんは、こうした指導法が選手の育成にとってもマイナスに働くと考えています。

 

益子

「怒る指導」というのはいわば「答えを与える指導」ですよね。私自身そうした指導を受け続けてきて、なかなか「考える力」がつかなかったと思っています。自分の意見や考えを言う機会は全くなく、全て監督の言うとおりに動いてしまっていました。主体性や自主性が全くなかった。そして、ミスをすると怒られるので、リスクの高い際どいところにスパイクを打つことを避けて、無難なプレーに逃げていました。ミスを恐れてチャレンジできないことで、「技術を高める」という点でもよくなかったなと思います。

「怒るの禁止」大会が目指すのは

若い選手たちをどのように指導していけばいいのか。益子さんは5年前からユニークな小学生のバレーボールの大会を開いています。この大会だけの特別ルール、それは「監督が怒ってはいけない」ということです。

 

 

今年1月、福岡県で行われた大会。ある試合で益子さんが見ていたのは、コート上の選手たちではなく、ベンチに座る監督です。見てみると、監督はついつい普段の調子で厳しい言葉が出てしまいます。

 

「おい!お前が声出してないから(ボールが)捕れんたい!お前が捕らんならだれも捕れんよ!」

 

と、このようにもし監督が声を荒げてしまうと、益子さんが監督に近づき声をかけます。

「先生、ちょっと落ち着きましょうか」。

注意とともに手渡したのは、「×マーク」が書かれたマスク。声を出して怒ってはいけないだけでなく、イライラして脚を揺らすのも控えてもらいます。

 

 益子

今の小学生は、普段から本当に厳しい指導を受けていることが多いんですよね。なので年に一度ぐらいは、「怒られずに自由に楽しめる大会」を作りたいなと思って、このルールを決めました。

 

笑顔でプレーする子どもたちのVTRをみた上原浩治さん。大会の意義を理解する一方で、選手としてレベルアップしていく事を考えると、気になる点も口にしました。

 

 

上原

小学生など年齢が低い子どもたちに対しては、楽しさを覚えさせることでその競技が好きになるきっかけになるので、すごくいいことですよね。ただ気になるのは、中学・高校と学年が上がっていったとき、楽しさだけじゃなくて「勝ったときの喜び」や「負けたときの悔しさ」を経験した方が、どんどん上達していくと僕は思うんですけど。

 

この意見に対して益子さんは。

 

 

益子

それはごもっともですね。ただ、怒る指導=答えを与える指導で、選手たちが先生のいいつけだけを守るようではよくないですよね。この大会には「子どもたちが自分たちで考えて行動できるようになってほしい」というビジョンがあります。子どもたちに対しては、「答え」ではなく「質問」を投げかけます。どうしたらいいプレーができるか。子どもたちが課題を自ら解決できるような声かけ、気付きを与えられるような声かけを意識します。自分から考えて行動するって本当に難しい事だと思うんですけど、声かけ次第では子どもたちでも出来るんですよね。小さいうちから自分で考えて行動できる、そんなスポーツの環境を作っていきたいなと思っています。

指導者たちも葛藤

「怒ってはいけない」バレーボール大会に参加したあるチームの監督は、「怒らない指導法」を普段の練習でも取り入れ始めているといいます。

 

「今までは“怒って強くなるなら怒ろう”と思っていたのですが、怒ってばかりでは選手のいいところが出ないのかなと、大会で感じさせられました。」

 

一方で、率直な戸惑いも。

 

「笑って楽しくワイワイ言いながら、強い子供を育てられるのかなというと、ちょっとそれは無理かもしれない。伝え方で、うまくやらなければいけないというのは、まだまだ考えないといけない。」

 

現在学生にラクロスを教えている中澤さんは、こうした指導者の葛藤に共感できる部分があるそうです。

 

 

中澤

なかなか難しいところがありますよね。やはり指導者としては選手にうまくなってほしい、楽しんでほしいと思って、「熱量」を持って指導しているんですけれども、もっともっとうまくなりたいという子どもがいる一方で、逆にそこまで「熱」がない子どももいます。チームの中でもいろいろな子がいますから、その子たちに合わせた指導をしていくために、言葉の「伝え方」はいつも気にかけています。

 

大学の同級生にスポーツ指導者が多い上原さんは、指導者たちが語っていた悩みを教えてくれました

 

上原

僕らの時代と今の時代は全然違うものだと思うので、指導者の方たちもすごく大変な思いをしているんじゃないかなと思いますね。僕らの時には「許されていた」厳しい言葉を今の子どもたちに言ったら、すぐ問題になってしまうので通用しないといいます。あと、中には「絶対手をあげてこない」と前もってわかっていて、指導者に対してなめた態度をとる子どもたちもいる、というのは聞いた事ありますね。

 

暴力は確かにいけないことだとは思いますけども、本当にその選手が悪い時、例えばチームのみんなに迷惑かけた時に、多少厳しく対応するのはいいんじゃないかなと思うんですよね。そういう時でも怒らない、完全に何もしないとなってしまったら、どうなのかなと思いますよね。

指導者たちはビジョンを持とう!

選手の年代によって、チームによって、ひとりひとりの選手によって、スポーツに求めるものは様々。その中で、益子さんは若い選手たちのために、今の指導者たちが求められるものをこう考えています。

 

 

益子

やっぱり一方通行の指導ではダメで、「ティーチング(Teaching)」ではなくて、「コーチング(Coaching)」にならないといけないですよね。子どもたちがどう思っているのか、どういう事をやりたいかを引き出していかないといけない。そして、目先の勝利だけではなくて、子どもたちに将来どんな大人になってほしいか。スポーツを通して、そのための人間性をどう育てるか。指導者たちがしっかりとした「ビジョン」を持って指導をしてほしいなと思っています。

 

いかなる場合も「暴力はいけない」というのは当然のこと。その上で厳しすぎる言葉を投げかける怒る指導や暴力・暴言を伴う指導は、果たして若い選手たちのためになっているのか。指導者たちには、自らの価値観にとらわれるのではなく、子どもたちにとって何が大切なのかを考え、それに見合った指導法をどんどん学んでいく事が求められています。

現場で選手を育てていくのは指導者ですが、日本のスポーツのあり方を考えていくのは、メディアやファンを含めた、スポーツに携わる者全員の役目なのではないでしょうか。

 

 

サタデースポーツ/サンデースポーツ

 

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