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ただ選手のために!自転車ロードレースを支える"裏方さん"の仕事

2020-01-29 午前 09:00

倒れ込む選手を抱きかかえる学生スタッフ、選手の横を走りながらペットボトルの水を手渡すチームメイト。いずれも箱根駅伝の感動的なシーンですが、200kmを超える距離を6時間近くかけて走破する東京オリンピックの自転車ロードレースでも、選手を舞台裏で支える“裏方さん”の存在が欠かせません。

史上最も過酷なレースになるといわれる東京オリンピックの自転車ロードレースで、特に重要な役割を担うとみられるのが、メカニックとマッサーと呼ばれるスタッフです。テレビに映る華々しい競技映像の裏側で、彼らはいったいどんな仕事をしているのでしょうか。2019年10月、栃木県宇都宮市で開催された「ジャパンカップサイクルロードレース」で取材しました。

選手、天候、コースに合わせてミリ単位で調整するメカニック

2019ジャパンカップ 日本ナショナルチーム

 

毎年秋に宇都宮で開催される「ジャパンカップサイクルロードレース」は、国内最高ランクの国際ロードレースです。2019年の大会には、台風19号の影響が残る中、世界のトップ選手を含む21チーム、120人を超える選手が出場しました。

 

日本ナショナルチーム 浅田顕監督

 

裏方スタッフの仕事を取材させて欲しいという申し出を快く受け入れてくれたのは、浅田顕監督が率いる日本ナショナルチームです。今回は、将来、日本の自転車ロードレース界を背負って立つ若手選手を中心にしたチーム編成で臨みました。自転車の整備を担当するメカニックは、市川貴大さん(1993年生まれ)です。

 

メカニック 市川貴大さん(JCF強化支援スタッフ)

 

市川さんに「毎日必ず行う仕事は?」と聞くと、答えはなんと洗車。自転車にはチェーンや変速機など、オイルを塗っているパーツが多いため、少しでも走行すると小さな砂利が付着します。それを放置したまま高速で走ると傷や破損の原因になるんだそうです。市川さんは、レース前はもちろん、レース後も入念に自転車を磨き上げます。
ネジに緩みがないかをチェックするのもメカニックの大事な仕事です。高速で走ると地面から受ける振動でネジが緩むことがあり、放置すると選手が転倒して大きな事故につながる可能性が高まります。

 

 

タイヤの空気圧やサドルの高さ、ハンドルの位置などの調整も行います。選手の体型や好みだけでなく、その日の天候やコースの状態、選手の調子に合わせて、ミリ単位の調整が必要です。今回、ジャパンカップに出場した選手は6人、市川さんはたった1人で、6人分の自転車と予備の自転車3台を整備しました。レース直前、ネジ一つひとつを入念に確認し、オイルを丁寧にさしてから選手に自転車を手渡した市川さん、その表情は自信に満ちていました。

 

市川貴大さん

ロードレースは自転車でタイムを競う競技です。もし機材に何かトラブルがあれば、勝負する以前に競技が終わってしまいます。だから、完璧な整備をして当たり前という世界です。僕も元々は選手だったのですが、自分の走りに限界を感じました。父が車の整備士で幼い頃から機械いじりを体験していたこともあり、メカニックに転向しました。

 

チームカーに乗り込む市川さん(左)

 

レースが始まると、市川さんは浅田監督が運転するチームカーの後部座席に乗り込みました。パンクなどのトラブルが起きた時、その場ですぐに対応するためです。選手同士の接触や転倒でパーツやフレームが破損すれば、道端で修理します。自転車の調子が悪い場合などは、車の上に積んだ予備の自転車と交換します。トラブルによるロスタイムを1秒でも短くするため、メカニックには、高い技術力はもちろん、状況に応じた的確な判断も求められます。

市川貴大さん

チームカーの車内では、ライバルとのタイム差を測ったり、アナウンスされるゼッケン番号と選手名を照合したりするなど、監督の補佐役も務めます。メカニックの中には職人肌の人もいて、選手とのコミュニケーションが取りづらい人もいますが、僕は選手の気持ちもわかるので、何でも言える、より選手との距離が近いメカニックを目指しています。

選手の体と心のコンディションを整えるマッサー

マッサー 西幹祐太さん(JCF強化支援スタッフ)

 

自転車のケアをするメカニックに対してマッサーは、選手の体と心のケアをするスタッフです。今回、日本ナショナルチームのマッサーを任されたのは、西幹祐太さん(1990年生まれ)。西幹さんによると、マッサーはマッサージャーの略。でも、マッサージだけを担当しているわけではありません。例えば、選手がレース中に飲むドリンクの準備や補充、補給食と呼ばれるレース中の軽食の手配もマッサーの仕事です。激しく体力を消耗する選手に、走りながら効果的に栄養補給を行うため、オリジナルの固形食をつくることもあります。

 

選手にドリンクを渡す西幹祐太さん

 

宿泊先のホテルと掛け合って、十分に休息がとれる環境を用意するのもマッサーです。食事のメニューを確認したり、チーム車両が使用する電源を確保したり、選手が身につけるジャージやシューズの洗濯を行うなど、チームの雑用を一手に引き受けていると言っても過言ではありません。
こうした雑用をこなしながら、レース前とレース後に選手の体を入念にケアします。マッサージやストレッチを施しながら、選手がどんな練習を積んできたのか、どの筋肉がどのくらい疲労しているか、ケガの兆候はないか、など、選手一人ひとりの体のコンディションを探り当てていきます。

 

西幹祐太さん

レース後のマッサージは、選手1人に対して1時間〜1時間半程度行います。時にはケガを隠そうとする選手もいるのですが、マッサーにはすぐわかります。マッサーは、マッサージを通して選手の体のコンディションを管理するわけですが、選手のメンタルケア、いわばカウンセラーのような役割も担っています。レースの結果が悪ければ、自信をなくさないよう声をかけたり、ナーバスになっている選手には緊張をほぐしてあげたりします。最高のパフォーマンスができるように気を配り、体にも心にも栄養を補給するのが、マッサーの仕事であり、責任なんです。

 

 

厳しいトレーニングを積み重ねて肉体を鍛え上げ、テクニックと駆け引きを身につけて戦いに挑むのはもちろん選手ですが、その活躍の裏には、選手を支える大勢のスタッフの存在があります。猛暑の中で行われ、肉体的にも精神的にも、とてつもないタフさが求められる東京オリンピックの自転車ロードレース、選手を支えるメカニックとマッサーの仕事ぶりを想像しながら中継映像をご覧になっては、いかがでしょうか。

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