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特集 大関 貴景勝「横綱にさえなれれば何も望むものはない」~大相撲九州場所~

相撲 2023年11月4日(土) 午後0:00

大関貴景勝は、角番で臨んだ9月の秋場所で、優勝決定戦で平幕の熱海富士に勝って4回目の賜杯を手にしました。NHKの大相撲中継でおなじみの吉田賢アナウンサーが、貴景勝にインタビューして秋場所の相撲と九州場所に臨む意気込みを聞きました。

 

貴景勝と吉田賢アナウンサー(右)

横綱昇進の議論を預かる日本相撲協会の審判部は、貴景勝に九州場所での「綱取り」がかかるかどうかは明言せず「千秋楽まで見なければ」と述べていますが、貴景勝は「夢の横綱になるために、命を懸けるぐらいの気持ちでやらないと」と力強く決意を口にしました。

 

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名古屋場所を休んだのは無駄でなかった

4回目の賜杯を手にした貴景勝(秋場所千秋楽)

ーー秋場所の直前に取材で話を聞いたときに、「こんなに膝のこととか体のこととかを気にしなくて臨めるというのは、久しぶりやなあ」と言っていましたね。

 

サポーターもつけなかったし、後半になって 若干膝の疲労などもありましたが、初日から膝のことをあまり考えずに相撲が取れたので、去年の後半ぐらいの感覚でやれました。7月の名古屋に休ませてもらったのも無駄じゃなかったと。

 

ーーでも名古屋場所の最中はつらかったのではないですか。

 

治療には一生懸命励むんですけれども、7月に休んだところで、良くなるという保証はないですし、また名古屋場所を毎日テレビで見ていたら、みんなキラキラしているんですよ。何と言うか、本当にいいなと感じると言うか、輝いて見えると言うか。大関昇進を目指す力士が3人いて、夢に向かって命削りながらやっているというのを見たので、そういう気持ちになったんです。相撲はつらい部分やきつい部分がいっぱいあるけれども、1場所出ていないだけで、こんなに力士ってキラキラしているんだなと感じた。何か相撲っていいな、すばらしいなと。私も長くやっていて、ちょっとはすごいなと思うのですけれど、やっぱり与える影響というのは大きいのかなと感じました。

先輩横綱や大関が築いたものを守るためにも熱海富士には負けられなかった

貴景勝に敗れ3敗目を喫した熱海富士(秋場所13日目)

ーーそういう意味では、肉体的にも気持ちの面でも名古屋場所の休場というのは貴重でしたね。秋場所は終盤に優勝争いが過熱してきたあたりはどうでしたか。

 

(先頭の熱海富士を)追いかけていた方なので、そこまで優勝争いという気持ちはなかったです。ただやっぱり番付的に水を差してはいけないというのはありました。


ーー大関の責任としてそうですよね。熱海富士関に簡単に優勝させるわけにはいかない。


自分がそのまま優勝させてしまうと、数々の先輩横綱や大関が守り抜いてきたものを崩してしまうんじゃないかなという怖さがありました。それだけはできないと。先輩横綱や大関の顔に泥を塗るようなことはできないなと思いながら毎日土俵に上がって、何とかいい位置につけておかないと、と。

 

優勝決定戦は熱海富士(右)をはたき込みで下した (秋場所千秋楽)

ーーそして優勝決定戦ですけれども、そうした思いがすべてあそこに凝縮されたと。

 

そうです。負けられない。必ず勝たないといけない。ただそれだけです。

 

ーー熱海富士関が右を差してくるのはかなり警戒しましたか。

 

はい、もちろんそうです。とにかく一歩目を封じないと。差されたら私はもう相撲が取れない人間なので。

 

ーー少し左に動いて左からガッとおっつけてやろうと。

 

胸から来ると思っていたんです。13日目の対戦では胸から来たんで。それが(決定戦は)いきなり頭からかましてきたので、(自分が思ったよりも)ちょっと左にずれてしまったんですが。右差しを封じに行っていることは間違いないです。まあ、左に動いたというのも間違いないところです。

 

熱海富士との優勝決定戦(秋場所千秋楽)

ーー大関が変化したことがいろいろ言われていますが、私は見ていて、熱海富士関にまともに行かせないために、左からおっつけていかないと、ということなんだなと思いましたが。

 

よく見ている人はそう思うのですけれども、お客さんは、あれはやっぱり変化だと思うんです。でもしょうがないと思います。私はとにかく負けられないですから、何があっても負けちゃいけないっていう気持ちがありました。ただそれだけです、負けると先輩方のいろいろな記録を熱海富士関が塗り替えるわけです。これはできないんですよ。熱海富士関がどうということはないのですが、いろいろな力士たちが上にいて壁になって止めてきたのを、簡単にはやらせないぞという気持ちがありました。

綱取りへは、いい星を挙げて判断していただくという気持ち

同じ常盤山部屋の隆の勝(左)を旗手に優勝パレード

ーー11勝4敗で優勝ということになったのですが、この成績についてはどうですか。

 

これについては本当に、物足りないと言われてもしょうがない。4敗しての優勝は過去3例しかない。優勝は優勝なんですが、本来は優勝できる星ではないなと。結果的にそういう場所になったので、そこは13勝、14勝というようなところまで持っていかないといけないなと思いました。

 

ーーそれだけに今度の九州場所は、綱取りということになると高いレベルが求められると言われていますが、そのあたりの意識はいかがですか。

 

本当に自分が決めることではないですから。審判部の親方衆や横綱審議委員会の方々に推挙されて上がるものですから。私はとにかくいい星を挙げて、あとは判断していただくという気持ちです。特に自分では、一生懸命取るだけです。

 

巡業のぶつかり稽古で熱海富士に胸を出す(10月12日 静岡県焼津市)

ーーこれまで悔しい思いをしていますからね。

 

2回失敗していますから。まあ相撲の神様に認めてもらえるか、認めてもらえないか。最後の横綱への昇進というのはそういうものだと思って九州場所までにやれることをやり、あとはベストを尽くしていきたいなと思っています。

果たせていない横綱という夢に向かって

ーー大関は横綱について夢っていう言葉を使いましたよね。

 

夢ですよ。私は横綱を目指すという条件で相撲をやらせてもらいましたから。父に「相撲界に入って横綱を目指すんだったらやっていい」というふうに言われたので、正直なことを言えば、まだ夢は果たせていないのです。優勝していろいろな人に、良かったねと言われますが、 横綱にならない限りは、夢は破れたのと一緒ですから。

 

 

ーー夢に向かってという気持ちですね。

 

そうです。それがこれまで支えてきてくれたので。横綱になるためには大関にならなければいけないし、大関になるためには三役にならなければいけない。そういう気持ちでやってきました。なので、本当は大関に上がったときに一気に行きたかったんですが、もう5年目になります。いろいろなけががあっても、横綱に上がりたいというのがあったから頑張れたんです。その横綱を諦めるときは、自分で無理だなと思ったときは、もう辞めるときだと思っています。そのあたりはダラダラする気は全くないです。

 

ーー大関の言う過去2回の失敗を踏まえたうえなのですが、何がだめだったのでしょうか。

 

精神的なものじゃないでしょうか。過去2回は、腹をくくっているんだけれど、くくり切れていなかったのでは。命懸けるぐらい、そのくらいの気持ちでやらないと。横綱というのは今まで73人しかいないんですから、そんなに簡単じゃないです。腹をくくり切らなければいけないです。

 

 

ーーキラキラ輝いて見えた土俵で綱を張ると。

 

そうです。それにさえ、横綱にさえなれれば、もう何も望むことはないです。

 

ーーハハハ。だめですよ、上がってからもありますから。

 

上がったときに見える景色もあると思うので、とにかく向かっていきたいです。

 

【雑誌「NHKG-Media大相撲中継」九州場所号から】

 

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