特集 阪神タイガース 18年ぶりのリーグ優勝

プロ野球・阪神は、巨人に4対3で勝ち、18年ぶり6回目のセ・リーグ優勝を果たしました。まずは優勝を決めた試合から振り返ります。(下のメニューをクリックで各項目へに直接進みます)
11連勝で決めた18年ぶりの”アレ”
1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
巨人 0 0 0 0 0 0 1 1 1 3
阪神 0 0 0 0 0 3 1 0 x 4
阪神は優勝へのマジックナンバーを「1」として、今夜、甲子園球場で4位の巨人と対戦しました。
大山選手 先制の犠牲フライ
試合は5回まで両チーム無得点で迎えた6回裏、阪神はワンアウト一塁・三塁のチャンスで4番・大山悠輔選手の犠牲フライで1点を先制しました。さらに続く佐藤輝明選手が新人から3年連続20号となるセンターへのツーランホームランを打って、3対0とリードを広げました。
佐藤選手の20号ツーラン
投げてはここまで7勝をあげている先発の才木浩人投手が持ち味の威力のあるストレートを軸に7回をヒット3本、1失点の好投を見せました。
先発の才木投手
9回は、今シーズン途中から抑えを任された5人目の岩崎優投手がホームランで1点を失いましたが、阪神が巨人に4対3で勝ち今シーズン初めての11連勝で、リーグ優勝を果たしました。
岩崎投手のもとへ走り寄る選手たち
阪神は、2005年以来18年ぶり6回目の優勝です。
18年ぶり6回目のリーグ優勝を決めた阪神の選手たちはマウンドに集まり、岡田彰布監督を6回、胴上げして、球場に集まった多くのファンと優勝の喜びを分かち合いました。
また阪神の元選手で、ことし7月、脳腫瘍のため28歳で亡くなった横田慎太郎さんのユニフォームを同期入団で優勝投手となった岩崎優投手が掲げていました。
岡田彰布監督(優勝インタビュー)
あす広島に行くので、何とか甲子園でたくさんの皆さんの前で、絶対に優勝を決めたいと思っていた。うれしく思う。1点差でも勝ちは勝ちで、それは9回の抑えの岩崎投手が一番、分かっている。安心して見ていた。
ーー 自身が指揮していた2005年以来、18年ぶりのリーグ優勝
優勝から遠ざかっていたチームで1年で優勝できると思っていなかった。フロントも含めて、みんなの力を結集した結果だ。強いタイガースを作って喜びを分かち合いたい。
ーー 11連勝で優勝を決めた
勝負は9月と言い続けたんだけど、まさかここまで強くなるとは。ちょっと勝ちすぎた。みんなが力をつけてくれた選手のおかげだ。あまり苦しい時期もなかったし、5月にすごい勢いで連勝して、それが9月の連勝にもつながったと思う。
ーー 投手陣について
西勇輝投手と青柳投手でいっぱい勝てると思っていた。2人にはちゃんと帽子をとって聞いてほしいんだけど、最後は帳尻を合わせてくれた。村上投手や大竹投手などみんなでカバーしてくれた。ブルペン陣もみんなすごくて、勝っているゲームで誰を出してもいけた。JFKまではいかないですが。
ーー 打線について
あまり変えないで、優勝までこの打順でいけたのは野手も適材適所で仕事をして役割を果たしてくれたからだ。
ーー 優勝を「アレ」と表現してきた
ここまで人気というか、浸透すると思わなかった。一応きょうで『アレ』は封印してみんなで優勝を分かち合いたい。『アレ』を決めたのはリーグ優勝までで、日本一は何と言うか、ことばを決めてないので、いいことばがあったら教えてほしい。
ーー クライマックスシリーズに向けて
リーグ優勝したからには当然、負けられない。まだ通過点で、日本で一番最後まで野球できるようにしたい。
ーー ファンに向けて
ことしはすごい数の人たちが来てくれているみたいで、本当にありがとうございます。日本全国に阪神ファンがたくさんいると思うが、これ以上は入れないので、テレビやラジオを通して応援してもらいたい。自分たちはそれに応えることしかできないので、引き続き、応援よろしくお願いします。
優勝会見を詳しく
会見に臨む左から 大山選手 岡田監督 近本選手
岡田彰布監督
就任1年目でこんなに早くきょうを迎えると思っていなかった。5月ごろから白星を重ねて、若いチームなので、試合の中で徐々に力をつけていったが、そのスピードが速かった。手応えはあったが、勝負の9月はどうなるかというところで、本当に力をつけてチームみんなの力だと思う。
ーー 強さの理由
チームの中にいると、成長しているかは分かりづらいが、普通にやっていたら白星を重ねていったというのが正直な気持ちだ。監督が言うのはおかしいが、何となく強くなった。
ーー 胴上げで6回宙を舞った
久しぶりだったが、軽くなったんでね。6回目の優勝ということでみんなで6回と決めた。達成感はあるが、自分の時以来、18年ぶりやったんやなと。はっきり言うて。
ーー 前回優勝した2005年との違い
前回は、2003年の優勝メンバーが多くて完成されたチームで、自分が言うこともなくて、選手とのコミュニケーションは少なかった。ことしは自分がやりたい、守り重視の野球を伝えていけないと思い、選手と話す機会が増えた。
大山選手は先制の犠牲フライ
大山悠輔選手
優勝することができて本当にほっとしている。(今夜の試合で先制の犠牲フライは)どのような形でも1点をと考えていた。自分の犠牲フライで先制し、ホームランで追加点をあげ、その後はピッチャーが粘って投げてくれた。
ーー 今季のバッティング
自分ができないことを無理にやるのではなく、自分ができることをしっかりやるだけだと思って打席に立っていた。自分としてはまだまだだと思うが、結果的にチームが勝てているのでそれが一番だと思う。
近本光司選手
優勝した瞬間はほっとした、よかったなという感情だった。試合が終わって裏方のみなさんとことばを交わす中で、喜んでくれているのを感じることができてさらによかった。
ーー 今季デッドボールで2回離脱
1度チームを離れてみて客観的に見ることができた。復帰したときに違う感じで打席に入ることができて、そこから勝ちを重ねていけたのでよかった。
ーー 今後に向けて
クライマックスシリーズ、日本シリーズと続くのでもう1回チームを作り上げていきたい。
中野拓夢選手(ウイニングボールをつかむ)
9回の先頭バッターのフライを捕った時点で最後は違う人のところにいくと勝手に思っていた。だが、9回はすべてのアウトを自分が取ったので、『持っているな』という気持ちだった。
ーー セカンドへのコンバートについて
慣れないポジションでスタートしたが、ここまで順調に来ている。ショートの時よりもバッティングのことを考えることも増えたので打撃にもいい影響が出ていると思う。チームの優勝が決まったので、個人としてもタイトル(現在リーグ最多安打で3本差の3位)を取れるようにヒットを狙っていきたい。
岩崎優投手
ほっとしましたね。それが一番です。(自己最多の32セーブは)みんながいい形でつないで来てくれた結果の数字だと思うので、失敗も何回かありましたが今までにない経験もでき、ありがたいです。
ーー 安定感を支えた源は
コンディショニングがすごくできていたと思います。今までのシーズンを踏まえトレーニングやストレッチを見直しました。
ーー 7月に脳腫瘍で亡くなった横田慎太郎さんの登場曲「栄光の架け橋」でマウンドに上がった理由
横田選手のユニフォームを掲げる岩崎投手
亡くなられたあと横田さんの分も背負って戦うと決めていたので、そういう思いでマウンドに上がりました(目に涙を浮かべる)。
ーー リリーフ陣の活躍について
みんなが出ているところで、ちゃんと仕事をこなしているので、みんなで負けじと言うか、互いに高めあったブルペンだと思います。
村上頌樹投手
去年と全く違ったシーズンを送れているので、とても充実している。毎試合、毎試合、勉強しながら成長させてもらっている。
ーー 最も印象に残った試合
(4月22日の中日戦でヒット2本に抑え、プロ初完封をあげた試合をあげた上で)9イニングをしっかり投げ切れたというのが自信になったし、次の試合もその自信があったから今まで投げてこられた。
ーー ここまで防御率1.76、最優秀防御率のタイトルに向けて
意識しすぎずに自分のピッチングができるようにキャッチャーの坂本選手と話してやっていきたい。
大阪で行われた阪神の祝勝会には岡田監督や選手たちが優勝を記念して作られたTシャツを着て参加しました。
岡田監督が選手たちに向けて「みんなは、ほとんどが初めてだと思うけど私は5回目です。リーグ優勝ということでビールかけをするが、もう1回するからね。日本一のときの予行演習ということで、成績にちなんだ喜び方を自分なりに考えてやってください。優勝おめでとう」とあいさつしました。
このあと選手会長の近本光司選手のかけ声に合わせてビールかけが始まりました。
この中で岡田監督はルーキーの森下翔太選手からビールをかけられるなどして、笑顔を見せながら選手たちと喜びを分かち合っていました。
優勝の勝因分析! 二遊間&ボールの見極め
18年ぶりのリーグ優勝の要因を守りと攻撃の両面から探ります。
まずは守備からです。
阪神は、ここまでリーグ最少失点を続けています。背景には岡田監督が「守り勝つ野球」をテーマに掲げ徹底的に守備を強化したことがあります。
就任後、真っ先に手を付けたのがセカンドとショートの二遊間です。
セカンドで軽快な守備を見せる中野選手
ルーキーから2年間、ショートのレギュラーに定着し、昨シーズンはベストナインに選ばれた中野拓夢選手をセカンドにコンバートしたのです。持ち味の俊敏性などを生かすための決断でした。
ショートは、肩の強さに定評がありともに5年目の木浪聖也選手と小幡竜平選手を秋のキャンプから競わせました。この二遊間が関わるプレーでキャンプから重点を置いたのが、「ダブルプレー」をしっかりと確実にとることでした。
春のキャンプで木浪(左)と小幡
昨シーズンまでの阪神は、ダブルプレーをとれる場面で二塁でアウトにできても、一塁がセーフになってランナーが残るケースがありました。岡田監督は、残ったランナーが失点につながっていたことに気づき、課題と捉えて、ひたすら基礎練習を課しました。
キャンプで鳥谷臨時コーチの指導を受ける
選手たちはノックを受けるだけでなく、打球が飛んで送球が二塁を経由し一塁に到達するまでのタイムを繰り返し計るなどしてむだを省いて、プレーの精度を高めていきました。
迎えた今シーズン、ショートは主に木浪選手が起用されるなか、ダブルプレーの成功率を示す「併殺奪取率」は9月10日の時点で69.4%になりました。昨シーズンの58.7%から格段に上昇したのです。
ダブルプレーがほしい場面で、バッテリーがゴロを打たせてアウトを確実に2つとる。岡田監督が生み出した新しい二遊間の守りを中心に何度もピンチの芽を摘み取ってきたことが、今シーズン、ここまでリーグ最少失点「374」につながり強さを裏付けています。
次は攻撃面です。
今シーズンの阪神の攻撃で際立ったのがフォアボールの数。ボール球を見極める意識がチームに浸透し、地道に出塁して得点につなげたことで勝利を積み重ねてきました。
延長10回 大山の押し出し四球で近本が勝ち越しのホームイン(5月25日)
9月13日の時点でフォアボールを選んだ数は452個と12球団で断然トップです。昨シーズンの358個に比べて、大きく増やしました。
岡田監督は開幕前から選手たちにボール球を見極める重要性を伝え、さらに選手の年俸につながる基準のフォアボールのポイントをこれまでより上げるよう球団フロントに申し出たのです。
押し出し四球で生還した森下(左)を迎える選手たち(8月1日)
ボール球を見極め、フォアボールを選ぶことの重要性について岡田監督は「逆の立場で考えると、守っている時にフォアボールで出塁されるとものすごく嫌。特にセカンドとショートの二遊間は、仕事もいろいろと増えるし、やることも多くなる。ヒットを打たれるのは仕方がないが、フォアボールで出塁されるのはつらい」と現役時代にセカンドで活躍した自らの経験を踏まえて語っていました。
口酸っぱく選手たちに伝えてきたことはチームに浸透しきのう時点で4番の大山悠輔選手は、昨シーズンの59個を大きく上回る88個で、1番・近本光司選手が64個、さらに2番の中野拓夢選手は5月の時点で、早くも昨シーズンの18個を超えていました。今シーズンは、13日の時点で53個になっていました。
大山の押し出しの四球で生還した近本を迎える岡田監督(8月23日)
またチーム打率は、リーグ3位ながら▼得点数が500、▼出塁率が3割2分4厘でいずれもリーグトップです。シーズンを通してフォアボールで地道に出塁し、それを得点につなげてきました。
岡田監督は、8月22日の中日戦でフォアボール9個を選んで勝利したあと、報道陣に対して「大事なところでボール球を振らない雰囲気で、ベンチの選手もボールを見極めた時がいちばん喜んでいる」と話し、ボール球を見極める意識がチームに大きく浸透していることを明かしました。
決して派手とは言えないものの、岡田監督の目指す堅実な野球が18年ぶりの優勝をつかむ礎となったのです。
優勝への軌跡
18年ぶりのリーグ優勝を果たした阪神。長きに渡ってファンが待ち望んだ歓喜までの道のりです。
阪神は15シーズンぶりに縦じまのユニフォームに袖を通した岡田彰布監督のもと、開幕4連勝で好スタートを切りました。
まずはプロ3年目の25歳、村上頌樹投手です。
村上頌樹投手(5月30日)
1軍での登板は、昨シーズンまでわずか2試合でしたが、4月12日の巨人戦では7回まで1人のランナーも出さない完璧な内容のピッチングを見せました。
4月は中継ぎを含めて4試合に登板し2勝0敗、25イニングを投げて無失点の抜群の成績を残し、3月と4月の月間MVPに選ばれました。
もう1人は28歳の大竹耕太郎投手。
大竹耕太郎投手 5月の月間MVP受賞会見で
昨シーズンのオフに初めて行われた現役ドラフトでソフトバンクから加入しました。
開幕ローテーション入りをつかみ取り、キレのあるストレートとタイミングを外すチェンジアップを駆使したピッチングで、5月の月間MVPを受賞しました。
チームは、5月に9連勝や球団の月間勝利記録に並ぶ19勝を挙げるなど絶好調でした。
一方、昨シーズン2年連続の最多勝など3つのタイトルを獲得した青柳晃洋投手は、開幕戦で白星を挙げたもののなかなか安定せず、5月20日に1軍の出場選手登録を抹消されました。
さえない表情の青柳投手(5月19日)
6月には今シーズンから抑えを任された湯浅京己投手がリリーフに3回失敗するなど、精彩を欠いて投手陣に不安を残しました。
さらに打線も1番・近本光司選手と佐藤輝明選手がともに打率1割台に低迷するなどして、得点力が落ちて大きく負け越しました。
三振に倒れた佐藤選手(4月21日)
それでも前半戦を46勝35敗、引き分け3で勝ち越し、2年ぶりに首位で終えました。
勝負の夏。8月を支えたのは主軸たちでした。
さよならヒットの大山選手(8月22日)
4番の大山悠輔選手が打率3割3分7厘の活躍、不振にあえいでいた佐藤輝明選手が打率3割ちょうどに復調しました。
佐藤選手のソロホームラン(8月23日)
投手陣は、先発とリリーフがともに安定したピッチングを見せて、3日の中日戦から13日のヤクルト戦まで今シーズン最長の10連勝をしました。
セーブを挙げた岩崎投手(8月26日)
16日に優勝へのマジックナンバー「29」を初めて点灯させた阪神は、29日に1回消滅したものの今月(9月)1日に再点灯してからは順調に減らし、ファンが待ち望んだ18年ぶりのリーグ優勝を果たしました。
前回2005年の優勝も岡田監督のもとで
阪神が前回優勝したのは18年前の2005年で、当時チームを率いていたのが岡田彰布監督でした。
岡田監督が確立させたジェフ・ウィリアムス投手と藤川球児投手、それに久保田智之投手の「JFK」と呼ばれた鉄壁のリリーフ陣がチームを支えました。
攻撃陣はベテランの金本知憲選手や通算381個の盗塁をマークした赤星憲広選手、さらにこの年、チーム歴代最多となる147打点を挙げた今岡誠選手などがけん引し、2003年以来、2年ぶり5回目のリーグ優勝を果たしたのです。
阪神は、2005年を最後に17年間にわたって優勝から遠ざかりました。ペナントまで目前に迫ったシーズンもありましたが、わずかのところで逃してきました。
3年ぶりの優勝を目指した2008年は開幕から首位となりましたが、この年に開催された北京オリンピックに出場するため主力が不在となった8月以降に失速。最大13ゲームの差があった巨人に逆転されました。
この年は、まさかの2位に終わり、当時の岡田彰布監督は責任を取って辞任しました。
その後、2009年からの10年間は、▼2位が4回と▼3位が1回、▼4位が3回、▼5位が1回、それに▼最下位が1回でした。
前任の矢野燿大監督が就任した2019年からの4年間はすべて3位以上で、いわゆる「Aクラス」の成績でした。それでも優勝には届きませんでした。
このうちおととし(21年)のシーズンはルーキーだった佐藤輝明選手などの活躍で開幕ダッシュに成功し、6月には2位のヤクルトに大差をつけて首位を独走。しかし、このシーズンも後半戦に入って打線が振るわず、ヤクルトに首位の座を奪われました。
その後は、驚異的な追い上げをみせたもののゲーム差なしの2位に終わり、またしても優勝を逃しました。
この記事を書いた人

中村拓斗 記者
平成30年NHK入局 福岡県出身
東筑高校野球部出身(ポジションは三塁コーチャー)
令和4年シーズンから阪神を担当