特集 藤川球児が迫る!楽天の寮で若手選手を支える“異色の経歴をもつ寮長”

今回の「球自論」は、プロ野球若手選手たちが共同生活を送る楽天の寮を取材。そこで選手たちを支えているのが寮長の中村稔(なかむら・みのる)さん59歳です。プロ野球選手が全員必ず通る寮生活。若手選手に寄り添い、熱い思いで支える寮長の仕事とは?藤川球児さんが迫ります。(サンデースポーツ 2023年8月27日放送)
異色の経歴をもつ寮長
藤川さん「やってまいりました。泉犬鷲寮、“飛び立て、翔ばたけ、輝け”。(寮は)懐かしいですね」
現在、29人の若手選手が寝食を共にしている楽天の寮。5年前から寮長を務めるのが中村稔さんです。実は藤川さんと中村さん、初対面ではありません。
藤川さん「私が知っているのは、審判の・・・」
中村さん「いやいや、もう寮長です」
プロ野球審判からの転身
中村さんはプロ野球の元審判。32年間、通算2876試合を裁き、選手が選ぶ“ベストアンパイア”に輝いたこともありました。
55歳で審判の定年を迎えたあと、球団に熱望され、寮長に就任しました。
藤川さん「元審判じゃないですか、32年間も。そのやってきたことが今この寮生活の中で、一番生かされているなというシーンは?」
中村さん「審判って楽しいことないんですよ。3割打てるわけじゃないです。ファインプレーもないです。首位打者もなにもないです。普通が当たり前です、審判というのは。だからこの寮生活も普通に寮長って立場を普通にやらなきゃいけない」
審判と同じように黒子として、“普通”を心がける中村さん。しかし、その熱心な仕事ぶりは想像を超えるものでした。寮長としての1日が始まるのは早朝4時。
中村さん「(選手が)グラウンドを散歩したり、まだこの時間は誰も来ませんけど、5時半くらいには」
誰よりも早く起きて、練習施設の見回りや準備に奔走します。それが終わると、風呂掃除。隅々まで、丁寧に。すべて自分でやらないと気が済まないそうです。
中村さん「選手のルーティンに合わせて。選手が5時とかに来る、それに合わせてお風呂に入れるようにしておくのが僕の仕事だと思う」
藤川さん「それはもう、選手のため?」
中村さん「そう、選手のため。選手が気持ちよくきれいなお風呂に入ってもらいたいということ。そこが原点です」
藤川さん「それってやっぱり、審判のところからきていませんか?」
中村さん「そうかな」
藤川さん「だって(手を)抜いちゃいますよ、普通の人だったら。僕たち選手上がりで、いいところだけを見せればよかったら、抜くところは必ずあるじゃないですか。でもおっしゃるとおり、常に同じじゃなきゃいけないという」
中村さん「審判からきているのかな?」
藤川さん「きてますよ。電車の定刻に乗り遅れたことないんじゃないですか?」
中村さん「ないない、絶対ない。『寮長早すぎます』って言われる、出発時間が」
藤川さん「それやっぱり職業ですよ」
中村さん「ははは(笑)」
プロを育てる“食生活”
そんな中村さんが必ず立ち会うようにしているのが、選手たちの食事。
中村さん「見ておかないとわからない。ちゃんと食べているか。いつもここにいる」
選手「寮長のスタイルですよね。これが」
体が資本のプロ野球選手。食事をしっかりとれているか、親のように見守ります。中には、中村さんのおかげで食生活が改善できたという選手も。
辰見鴻之介選手「『ごはんの前にお風呂に入った方がいい』と寮長に言われて。そしたら頭もスッキリして、苦手だった朝食がいつもよりいっぱい食べられるようになった」
中村さん「(辰見投手は)どっちかと言うと、食が細いほう。食べるのもゆっくりだから。それよりもっと寝起きが遅いから、目を覚まして来いと。それを守っているよな、毎日」
中村さん「昔俺が寮長になった頃は、ほとんど朝食を食べなったのよ、寮生が。なんだこれ?と思って。誰も来ないとか、2人とか3人(しか来ない)とかあったんですよ。『お前らこれおかしい』となって、“朝食は必ず食べろ”というルールにして」
藤川さん「朝食を食べるメリットが2軍の選手は特に朝から練習しますから、非常に大事ですよね」
中村さん「僕はやっぱ野球が好きだし、選手のためと思うから。選手が1人でも1軍に入ってもらって活躍してもらえれば、それが一番楽しみだし」
中村さんは審判になる前の5年間、日本ハムの内野手として1軍も経験したプロ野球選手でした。しかし、ほとんど出場機会のないまま引退。当時の苦い経験が、いまの選手への思いにつながっていると言います。
中村さん「選手のころは(朝食を)ほとんど食べなかった。その反省点を踏まえて、同じことを選手にやってもらいたくない。(生活も)一流の選手は一流の道を行く。だめな選手は一流の道を行かない、行けない」
そして、30年あまり審判として培った経験も選手たちに還元しようとしています。現在も2軍の練習試合で審判を務めることがある中村さん。試合に出場したピッチャーなどに専門的なアドバイスを送ってきました。
中村さん「プレート板の使い方ひとつとか、けん制の仕方とか。ファームの試合で、けん制でボークをとられて『ちょっと見て下さい』って来ますから。『こうやったんですけど、だめですか?』って、よくそういう話しをしますね」
藤川さん「そういうギリギリのプレーを求められる」
中村さん「うまくそこで使いこなせばお前の技術になる。けん制もひとつの武器だと」
今シーズン1軍で先発ローテーションの一角を担う、荘司康誠投手も中村さんから助言をもらった選手のひとりです。
荘司康誠投手「ランナーが出たときのけん制の仕方とか、細かい部分まで寮長に確認していただいたりもしたので。『1軍でやらないとだめだぞ』と最初のころ言ってもらっていましたし、普通の寮長とは絶対違う」
“愛情”を注ぐ日々
日常生活から野球の技術まで、献身的に支える日々。その合間を縫って、大切に育ててきたものがあります。寮長になった5年前に種をまいたアサガオ。花言葉は“愛情”です。
中村さん「こっそり育てています。選手は誰も知らないです、アサガオを育てていること。朝はもう咲いているんですよ、4時、5時くらいに。水をあげるとまた元気になるんですよ」
中村さん「寮長の仕事は、天職、じゃないけど、今のところ人生のすべてですね。今すべてここに費やしています。プロ野球で始まって、審判、寮長…。なかなかありがたい仕事です」
藤川さん「これ以上ないですか?」
中村さん「そう。これ以上ない、素晴らしい仕事です」
きょうの“自論”
中川キャスター:選手たちを見る目が本当にお父さんみたいであたたかいですよね。それでは球児さん、今回の自論をお願いします。
藤川さん:“夢追う親父”とさせていただきました。いまこんな時代に、こんな親父いますか?選手たちからのコメントを聞いて分かるとおり、選手に助言ができるんですよ、審判だったから。選手にとっては、困っていること新しいこと、プロでやっていかなければいけないことを全部教えてくれる。選手からしたら非常にありがたい。中村さん自身がずっと野球畑で育ってきて、それが生かせているとおっしゃっていたので、どのチームもこういう寮長が欲しいだろうなと思います。