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特集 いよいよワールドカップ 五郎丸歩×田村優 豪華対談 ~第1回 JAPANの現在地~

ラグビー 2023年8月19日(土) 午後2:00

ラグビーのワールドカップフランス大会まで1か月を切りました。2015年のワールドカップをともに戦った五郎丸歩さんと田村優選手による豪華対談(ことし6月に実施)をテキストでほぼ全文を掲載いたします。コアファンも「にわか」と呼ばれるファンも大会が待ち遠しくなるような話を聞いてきました。さまざまなテーマに沿った対談を3回にわけてお伝えします。第1回は「JAPANの現在地」です。

 

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五郎丸歩と田村優

 

五郎丸歩さん(福岡市出身 37歳)

現役時代は日本を代表するフルバック。正確なキックが持ち味で、テストマッチ通算711得点は最多記録。2015年のワールドカップで、強豪・南アフリカからの歴史的勝利に貢献し、大会のベストフィフティーンに選ばれる。プレースキックの際、両手を体の前に合わせる独特な「五郎丸ポーズ」で大きな注目を集めた。


田村優選手(愛知県出身 34歳)

横浜キヤノンイーグルスに所属する現役のスタンドオフ。日本代表キャップ数は70。4年前のワールドカップ日本大会では正確なキックや的確なゲームコントロールで日本を初のベストエイトに導いた。

 

さあ、いきなり核心を突く質問から、2人の対談が始まります。

日本はどこまで勝ち進めるか!?

 

(五郎丸)

彼ら(日本代表の選手たち)は頂点を目指すと言っていますね。競技者である以上、そこを目指さなくちゃいけないというのは理解できる。ただ、まず目指してほしいのはベスト8に入ることです。2019年で初めてベスト8に入って違う世界を見たと思うけど、自国開催のベスト8とヨーロッパで開催される大会でベスト8に入るのは全くレベルが違うと思います。

 

(田村)

たしかに違いますね。

 

(五郎丸)

ピッチの状況も違うし、環境も違う。ラグビー文化が進んだヨーロッパで、まずはベスト8に入って、その上を目指してほしい。

 

(田村)

ベスト8に入って、前回と同じ成果出すだけでもすごいですよね。みんなが同じ方向に向かっていくっていうのが一番大事だと思います。それがベスト4でもベスト8でも良いと思うんです。目標を言うとやらなきゃいけなくなる。そのプレッシャーを自分たちにかけているのだと思います。難しさは出てくると思いますが、目標設定は間違っていないと思いますし、目標を達成するための練習をするはずだと思うので、僕は信じてますね。

 

合宿で円陣を組む選手たち

2019年にベスト8入ると言った時、みんな無理だろって言っていました。2015年、南アフリカに勝つって言ったら、みんな笑っていました。なので、できない理由はどこにもないと思います。今のみんながそう信じているのであれば、必ず実現するんじゃないかなと思います。

日本ラグビー 2015年からの成長

(五郎丸)

もう目標が違う。対戦相手が全く違います。

 

(田村)

強豪チームとテストマッチが組めるようになりましたね。組んでもらえるようになりました。

 

フランスとの強化試合(去年11月)

(五郎丸)

いわゆる「ティア1」と言われる強豪チームと普通に試合ができるようになったというのが、ステータスが上がってる証拠ですね。あとは、やっぱり応援してくれるファンの人たちがいるという部分もあります。選手の実力が上がってもファンがついてこなかったら、日本に来て試合しましょうというメリットにはならない。

 

(田村)

そうですね。他のチームもやるメリットないですもんね。

 

(五郎丸)

今、ファンの方々と強化の部分がうまくいっていると思います。世界的に見ても非常に魅力のある世界観が国内でできてきているんじゃないかなと。やっぱり国立競技場が満員になるような試合って昔じゃ考えられなかったし、秩父宮ラグビー場って、15年の前はガラガラだった。そこからみんなの努力でここまで上がってきたっていうのは素晴らしいことですね。

 

(田村)

日本でやる価値というのは間違いなく上がりましたね。結果が出たのでそうなったんでしょうけど、その過程も良かったし、日本代表を抜けていった先輩たちがいいものを残していってくれたからこそだとも思います。

 

2019年日本大会 スコットランドに勝利した日本 

やっぱりチームとしての価値が上がっているので、ラグビー自体も価値が上がって、日本のスポーツの中でもよりレベルの高い競技になってきたんじゃないかなと思いますね。

 

(五郎丸)

15年はプレーが制限されていて、これしかやっちゃダメというものがあった。でも19年のメンバーは、ほぼ強豪チームと同じようなプレーができる。オフロードパスやりますとか。あとは対戦相手によって戦術をすぐ変えられる。このスキルと賢さ、実行力というのは、間違いなく19年でかなり上がったし、おそらくこの23年を戦うメンバーは、そこからもう一歩ステップアップしていると思うので楽しみですね。

 

(田村)

強いですよ、今のジャパン。サンウルブズ(世界最高峰のリーグ、スーパーラグビーに参戦していた日本のチーム)がない分、なかなかチームとしての経験が少ないので、我慢して選手を信じてあげられるかっていうところが鍵じゃないかと思いますね。どれぐらいジェイミーHCが失敗を許容するかですね。

 

ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ

前ヘッドコーチのエディー・ジョーンズさんの時は、ワールドカップまでに強豪チームとやる機会が少なったので、これすれば負けないという制限があったと思うんです。前回大会はサンウルブズがあった分、みんなでそれを学ぶ時間があった。ただ、今回ちょっとコロナでその時間が少なくなっているし、サンウルブズもなくなっているので、何試合かでいろんなエラーが出ると思います。それをどれぐらい許容して、制限するところは制限していくのか、楽しみです。

 

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日本の課題は!?

(五郎丸)

去年11月にイングランドと戦った時にスクラムをやられたし、ブレークダウンもうまくいかなかった。ひとつもうまくいかず、パニックになっていた。

イングランドとのテストマッチ(去年11月)

その敗戦からスクラムはやっぱり強化しなくちゃいけないと思います。アルゼンチンも強いし、イングランドも強いし、チリも強い。まずはやっぱりラグビーの土台であるスクラムをどれだけ強化して修正するかっていうところが、この数か月でやらなくてはいけないところかなと。

 

(田村)

ベースのところですね。けっこう時間が限られているので大変ですね。

 

(五郎丸)

あとはキッキングのところですかね。キックを蹴られてボールを処理できなかった。去年のイングランド戦はかなりいかれた部分があった。相手が身長1メートル90センチぐらいのバックスリー(バックスのウイングとフルバック)が入ってくると、そこの対策は今後やっていかないと同じことが起きる感じはします。

 

イングランド戦でタックルを受けるリーチ選手

(田村)

短い準備期間で試合にも勝たなきゃいけないし、土台を上げて、なおかつチーム全員でゲームの運び方も体で覚えなきゃいけない。土台がしっかりしていれば積み上げるだけなんですけどね。

 

(五郎丸)

15年の時を振り返ると、それこそワールドカップに行く前なんて誰一人期待してないところがあった。チームの中でも本当に勝てるという自信を持てたのはおそらくラスト2週間ぐらい。テストマッチの一番最後、ジョージア戦の時にスクラムがビタッと止まってそこからチームが本当にひとつになった。本当に4年のうちラスト2週間ですごく強くなって自信を持った。期待感を持てなかったチームが、大会に入ってとたんに強くなった。19年のロシア戦は開幕という部分や自国開催というのもあって、バタバタしたところもありましたが、アイルランドまでの1週間でグッとチームが強くなってきた感じがしましたね。

 

2019年日本大会 初戦のロシア戦に勝って勢いに乗る

(田村)

どうしてなんですかね。15年も南アフリカに勝って、そこから一気に乗ったじゃないですか。19年、僕らはロシアには勝ちましたけど、乗るまではいかなかったのでヤバいなと思っていて。ワールドカップ前の最後の試合で南アフリカにボコボコにされていたし、何も変わってないねというふうにみんな思っていたので、そこからみんながギアを一気に上げた感じがありました。

 

(五郎丸)

今大会も9月に開幕しますが、7月に国内で連戦して8月にイタリアでテストマッチをして本大会に臨む。どこでチームのスイッチが入るのかは、やっぱり注目したいです。

 

(田村)

イタリア戦である程度の成果がほしいですよね。やってきたことができたとか、スクラムが安定したとか。

フランス大会で注意すべきこと

(五郎丸)

今大会すごく気をつけなくちゃいけないのは、ピッチの条件だと思います。19年は全部自分たちの想像の範囲内。芝生の状況もそうだし、食事も、ホテルも、移動も。今回はフランスということで、ピッチの条件が非常に気になっています。

 

宮崎合宿では”フランスを想定した芝”を導入

(田村)

フランスのピッチはどうですか?(※五郎丸さんは現役時代フランス1部トゥーロンでプレー経験)。

 

(五郎丸)

悪くはないんですけど、やっぱりキックオフ時間が21時というのがすごく気になっています(1次リーグのイングランド戦とサモア戦)。やっぱりちょっと濡れるところもある。国内リーグでは19時半キックオフまではあるけど、それ以降のキックオフって経験したことがないんじゃないかな?

 

 

(田村)

イングランド戦の21時、嫌ですね。僕、個人的に太陽出ていてほしいんですよ。暗いと強い相手がより強く感じるんですよ。ちょっとでも曇っていたりすると、相手も意気揚々としてくる。天候とグラウンド、そこが一番鍵かなと思います。

 

(五郎丸)

21時の試合開始となると、午前中は基本的にそんなに体を動かさず、午後ちょっと体動かしてそれでもまだ時間がある。フランスを経験した時に21時の試合開始がかなりあったんですけど、調整の仕方がわからなかった。どのタイミングからスイッチ入れようかと。午前中は基本寝て、昼から体を動かし始めて、それでもまだ時間が余る。21時までの時間の使い方をどこかでやっておいた方がいいんだろうなと。

 

浦安合宿の初日 全員で集まって指示を聞く選手たち

(田村)

あとは雨降らないでほしいですね。

 

(五郎丸)

ふだんはカラッとしているけど、21時となるとちょっとウエットになる。去年11月のイングランド戦も、昼間は芝生がドライだったけど、ナイターになったらちょっと湿ってきて。

 

(田村)

ボールが滑り出したりすると、ちょっとジャパンは嫌ですね。相手の土俵で試合をするというのは一番苦手ですよね。

 

 

(五郎丸)

あとはイングランドのヘッドコーチがボーズウィック氏になって(※15年エディー・ジョーンズHCのもと日本代表のフォワードコーチを務めた)日本代表のことを知り尽くしている。その辺の駆け引きを楽しみにしています。

 

⇒五郎丸さん × 田村選手 スペシャル対談第2回はここから

 

この記事を書いた人

小林 達記 記者

小林 達記 記者

平成26年NHK入局。神戸局、大阪局を経て、スポーツニュース部。

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