特集 豊昇龍 初優勝への15日間 ~推し相撲・番外編~

アツき名古屋場所を制したのは関脇・豊昇龍だった。大関昇進がかかる場所で、トップに立つ平幕力士を追い… さまざまな重圧をはねのけ、抜群の集中力で初優勝。そして大関昇進を確実にした24歳の15日間の戦いに迫った。
3日目での黒星 まだ余裕を感じた序盤
大関昇進がかかった名古屋場所、豊昇龍は決意を示すべく新しい濃紺の締め込みで臨んだ。
初日の協会ご挨拶 豊昇龍は一番左
昇進の目安に届くには今場所12勝以上が必要。そのために許される負けはわずかに3つだった。厳しい条件だったが「大関昇進は気にせずに、1日一番」と、まずは目の前の取組に集中力を高めていた。
注目の初日は前頭筆頭の翔猿との一番。
初日 翔猿に押し倒しで勝利
立ち合い、様子を見たように立ち、相手が下がったところをバランスを崩しながら押して出た。ひやりとする相撲だったが、白星。幸先良くスタートした。
豊昇龍
相手ははたきもあると思ったので、立ち合いしっかり見ながら。意外と緊張しましたね。逆に緊張があってよかった。(締め込みは)自分は青が好きなので、前と同じ青だと変かなと思ってちょっと濃くした。
2日目、大関経験者の正代に勝ったが、3日目は錦木との対戦。
3日目 錦木に敗れる
前日、横綱・照ノ富士に勝って勢いに乗る相手にはたき込みで敗れ、早くも初黒星を喫する事態になったが、このときはまだ余裕があるように感じた。
豊昇龍
まあ負けたんでしょうがない。立ち合いは悪くなかったと思うが、流れが悪かった。あしたから注意しながら相撲を取っていきたい。
気持ちを切り替えて、4日目は大関経験者の御嶽海に、5日は小結・阿炎に勝って1敗で序盤戦を終えた。
5日目 阿炎に勝って4勝1敗で序盤を終える
得意な相手に苦杯 眠れぬ日々が続いた中盤
6日目は小兵の翠富士との対戦。
6日目 翠富士を破る
過去の対戦で負け越している相手に対し、両腕を抱え込み、最後は「外掛け」で勝負を決めた。
そして7日目は大関経験者の朝乃山との一番。
大関経験者・朝乃山を豪快に投げ飛ばす
実力者と警戒する相手に対し、先に上手を取って豪快な「上手投げ」でねじ伏せた。
豊昇龍
相手は力強いのでやりたいと思ってた。しっかりやれてよかった。
ところが暗転したのが10日目、小結・琴ノ若との一番。
10日目 琴ノ若に完敗で2敗目
立ち合いから圧力をかけられて土俵際まで寄られた。まわしを離さずに粘りを見せるも、最後は押し出され土俵を割り2敗目を喫した。過去10勝1敗と大きく勝ち越している相手に苦杯をなめさせられた。この日、支度部屋では取材に応じず会場をあとにした。
実はこのころ、たび重なる重圧に夜も眠れぬ日々が続いていたという。
豊昇龍
中日すぎたくらいから、夜、全然眠れなかった。目つぶって1時間、2時間くらい眠れなくて。
追い詰められてから増す集中力 明暗を分けた終盤
終盤戦、優勝争いも熱を帯びてくる中、1敗に平幕力士2人が並び、豊昇龍は星の差1つで追う展開。11日目は同じモンゴル出身の38歳、玉鷲を破ったが、続く12日目だった。
12日目 北勝富士に敗れ3敗目
2敗で並んでいた北勝富士に押し出され、完敗。3敗に後退し、とうとう大関昇進の目安「3場所33勝」へ、あとがなくなった。
豊昇龍
すごく硬くなったし、集中、そんなにできていなかった。今考えると、逆に負けてよかった。自分の体の動きとか集中が足りていなかったと、それでわかった。あとがなくなったので、しっかり勝ち取ろうという気持ちで。
そのことばどおり、追い詰められたことをむしろばねにして、豊昇龍はここからさらに集中力を高めた相撲を取り続けた。
翌13日目。新大関・霧島との対戦。初優勝、大関昇進を一足先に決められたライバルだ。今場所にかける意気込みの原動力となった相手でもある。
新大関を破って10勝目
もう1敗もできない状況の中、頭をつけて勝機をうかがい、最後は寄り切った。
豊昇龍
体はしっかり動いているし、集中出来ているので、この感じで頑張る。
14日目、相手は今場所ともに大関昇進を目指した関脇・若元春。立ち合い左に動かれたが落ち着いて対応して最後は小手投げ。
14日目 変化した相手をつかまえて完勝
大関という重圧がかかった場所で、ライバルとの差を見せつける白星だった。
人前で初めて流した涙 優勝と大関をつかんだ千秋楽
そして、優勝争いが3敗の3人に絞られて臨んだ千秋楽。先に相撲を取った北勝富士が勝ち、決定戦に進むには勝つしかない本割の土俵、相手は新入幕の19歳、伯桜鵬だ。
ただただ挑戦者の新入幕を相手に決して簡単ではなかったはずだ。それでも「若手には負けられない」と仕切りから闘争心を前面に押し出した。
ぶつかり合った2人。ここから豊昇龍は攻めが速かった。まわしに手がかかると、すぐに上手投げ。一気に勝負を決めた。
そして迎えた北勝富士との優勝決定戦。
12日目に敗れた相手との再戦だったが「ここまできたからには『やってやるぜ』」と高まった集中力は揺らがなかった。
初優勝を決めた優勝決定戦
相手の引きに乗じて一気に前に出て、押し出し。初めての優勝を決めた。
土俵上では気迫みなぎる勇ましい表情が印象的な24歳が、初めて人前で涙を流しながら花道を引きあげた。ゆがんだ顔に、栄冠にたどり着くまでの苦しさもにじんでいたように感じた。
豊昇龍
今まで相撲を取ってきて、その中でたくさんいろんなところをけがをした。痛めたところもたくさんあった。痛めてなかったらもっと早くできたとか、いろんな考えがあって。泣かないと思っていたけど、我慢できなかった。泣いちゃった。それくらいうれしかった。
優勝インタビューでは大関昇進が確実となった知らせが届いた。
豊昇龍
ありがとうございます。夢の地位なので、今すごくうれしい。1番最初に親方に、そのあとにおじさんに言いたいです。
1敗も許されない絶体絶命の状況に追い詰められてから、重圧に打ち勝った豊昇龍。25回の優勝を果たした叔父で元横綱・朝青龍が平成14年に大関昇進を決めた同じ名古屋の地で初優勝、大関昇進を確実にした。叔父の背中を追って、最高の場所を目指して歩んでいく決意だ。
豊昇龍
番付はまだ上があるので、一生懸命稽古して、自分を信じて上までいきたい。
この記事を書いた人

持井 俊哉 記者
平成26年NHK入局
北九州局を経て、スポーツニュース部。小1から剣道をはじめ、現在、5段。「打って反省、打たれて感謝」をモットーに何事にも謙虚に誠実にチャレンジすることを目指す。