なでしこジャパンが挑む!FIFA女子ワールドカップ2023展望

今月20日からサッカーのFIFA女子ワールドカップが、オーストラリアとニュージーランドで開催されます。日本女子代表の「なでしこジャパン」は、2011年ドイツ大会で優勝、2015年カナダ大会で準優勝と世界をリードしてきましたが、前回2019年のフランス大会では決勝トーナメント1回戦で敗退し世界ランキングは11位と追う立場で今大会を迎えます。

「なでしこジャパン」は再びワールドカップの舞台で輝きを取り戻すのか、ドイツ大会の優勝メンバーで今シーズンのWEリーグMVP、安藤梢選手(三菱重工浦和レッズレディース)に大会の展望や「なでしこジャパン」への期待を聞きました。(※2023年7月21日スポーツオンライン掲載)


世界の中で“なでしこ”の現在地


ーー 世界を驚かせたワールドカップ優勝から12年。日本は世界ランキング11位で大会に臨みます。世界の中での「なでしこジャパン」の位置づけをどのように見ていますか?

日本代表合宿で調整する選手たち (7月6日)

<安藤選手>
2011年のあと、特に2015年以降は世界的なレベルが急速に上がっています。私たちの時代は、例えばスペイン(世界6位)やオランダ(世界9位)はまだまだ出てきていなかったですが、本当にヨーロッパの多くの国が力を入れ出して、レベルが上がりました。そして、アフリカや南米にも強いチームが出てきたという印象です。その中で、世界で勝つのがすごく大変になっていると感じています。

ーー 具体的にどういった点でレベルが上がっているという実感がありますか?

<安藤選手>
2011年の前までは、アメリカとかドイツとかフィジカルのあるところが、それを前面に出して世界一になっていました。しかし、2011年に日本がパスワークやコンビネーションを生かして優勝したことで、フィジカルで勝る強豪国がより戦術的になってきて、パスワークを大事にしたり技術力が上がったりして総合的に世界のレベルが上がったのだと思います。フィジカルがあるチームに技術や戦術力がついたので、強烈になりました。またアフリカのチームも急速に伸びてると思います。


自信がついたパナマ戦


強化試合のパナマ戦に勝利 (7月14日)

ーー 日本もレベルアップを図って今大会に臨みます。最後の強化試合のパナマ戦では5対0で勝ちました。今のチームの仕上がりはどのように見えますか?

<安藤選手>
最後の試合でいろいろなことを試せたと思います。あんまり試合経験がない選手が試合に出たり、交代選手も多く使ったりと、より多くの選手が試合を経験できました。見ていて思ったのが、プレーが止まった時間に選手たちがすぐに話し合っていたこと。そういうところで実戦の中でコミュニケーションを高められた試合だったのかなとも思います。格下の相手だったかもしれませんが、そういう相手にもしっかり点を多くとって勝ちきることは簡単ではありません。最後の親善試合を通して、チームにも自信がついて、ぐっと成長できたのではないかと思います。

パナマの選手と競り合うMF宮沢選手(左)とFW植木選手

ーー パナマ戦では、選手たちの判断で前線からプレスをかける選択をしました。選手たちが自分たちで判断して流れを引き寄せるという部分は大きな成長なんでしょうか。 

<安藤選手>
ワールドカップでの厳しい試合になったときに、練習で監督から言われていることプラス、選手たちがピッチで考えてできることも重要になってくると思います。選手たちがピッチで判断しながら勝てたことは、自信になっているのではないかと思います。


攻撃のカギは“関わり方”と“距離感”


ーー 続いて攻撃について伺います。パナマ戦ではヨーロッパで活躍する長谷川唯選手清水梨紗選手がしっかりと力を発揮しました。今の攻撃陣をどのように評価されますか。

<安藤選手>
パナマの試合でいうと、2列目(MF)の選手が追い越してチャンスを作っていくのは、世界を相手にしても有効なプレーだと思いました。長谷川選手や清水選手の得点はすごくいい形だったと思います。本大会でもとても有効なプレーになるでしょうし、彼女たちのよさが出たすばらしい得点だったと思います。攻撃でいうと、ワントップに対してボールが入ったときに、2人のインサイドハーフの選手たちがどう関わっていけるか。そこからどうシュートまで持っていけるかのコンビネーション、さらにそれだけではなくそこでタメを作ってワイドの選手が上がってきて関われるかなどの距離感がとても大事になってくるのかなと思います。

ーー 攻撃のキーマンは誰でしょう?

<安藤選手>
キーマンって難しいですね(笑)みんなに期待していますから。WEリーグで対戦していたり、仲間だったりするので、みんなに思い入れがあるんです。ワールドカップは、途中から出てくる選手の活躍がすごく重要になってくると思うので、交代で出場してくる選手は、個人の特長をどんどん出して積極的にプレーしてほしいなと思いますね。


2011年を知る熊谷紗希キャプテン


キャプテンの熊谷紗希選手

ーー 守備について。今大会のメンバーで唯一、2011年の優勝を知るのがディフェンダーの熊谷紗希選手です。熊谷選手の存在については。

<安藤選手>
やっぱり海外の選手と日常から闘っているので、経験もあって、そういった選手の存在は心強いですよね。間合いとかスピード感とかも慣れているなと感じます。この前のパナマ戦では、声が一番出ていて、後ろから引き締めているというのがすごく印象的でしたね。できるだけ失点を少なく、できればゼロでいきたい中で、ワールドカップではすべて自分たちが思うように試合を運べるということは決してないです。自分たちの時間ではないときもいかにその時間を耐えられるかどうかということも重要になってきます。そういう中で、彼女の経験というのは大事になってくると思いますね。パナマ戦ではすごく集中してコントロールされていたんじゃないかなと思います。

ーー 熊谷選手はどういうキャプテンに見えますか。

練習で笑顔を見せる熊谷選手(中央)

<安藤選手>
私は彼女が高校生ぐらいのときから知っているので、すごく大人になったなという風に見ているんですけど。年齢に関係なく誰とでもフランクに話ができるところが、彼女のよさだと思います。彼女自身がいつも前向きで明るいですし、チームをポジティブな雰囲気に持っていく力があります。彼女は、オンオフどちらでもふだんからコミュニケーションをとってチームを引っ張っていっていると思います。


勝ち進むために必要なことは


ーー 今の日本代表は、ボールを保持してパスをつなぐ従来の形に加えて、前線からボールを奪って素早く攻める新たな形にもトライしています。欧米の強豪と渡り合って勝ち進んでいくためにどんなサッカー、どんな試合運びが必要でしょうか。

<安藤選手>
「いい攻撃をするためにはいい守備」と言いますけど、本当にまずは1人1人がハードワークをして、自分たちのいい形でボールを奪うところから始まると思います。前線からの連動したプレスというのは絶対に必要なところかと思います。その中で自分たちで狙いをかけたところの球際で強く奪い切るところが何より重要になってきます。

パナマ戦で競り合う藤野選手

2011年のときはかなり前からハードワークをして高い位置で奪ってというところが優勝の鍵になっていました。でも今は女子サッカーのレベルがもっと上がってきて、プレスをかいくぐるチームが増えてきています。すべて前から強く行くことが有効ではないときもあります。力をつけてきたチームはプレスを剥がしてきます。なので、前からいけない時間帯は、最初のプレスに行くフォワードの選手をどこに設定するかなども必要になってくるかもしれません。時間帯や疲労度や点差などによってどうするのかのコントロールもすごく大事になってくると思います。


日本の対戦相手について


ーー 日本が入ったグループCザンビアコスタリカスペイン)の全体的な印象は。

<安藤選手>
どこも手ごわい相手だと思います。まずはスペインがいま乗っている強豪チームなので、それまでのザンビア(第1戦)コスタリカ(第2戦)には勝ってスペイン戦に臨みたいなというのはありますね。勝ち点を重ねて、いい状態でスペイン戦にいきたいなと。でもやっぱりワールドカップは、自分の感覚としては世界ランキングとか全然関係なくて、国と国が誇りを持って、みんな本当に死ぬ気でぶつかってくるので、どこも全然侮れないですね。どの相手でも一戦一戦が大事だと思います。

ーー 初戦、ザンビアとはどう戦うべきですか。

国際親善試合のドイツ戦で勝利したザンビア代表 (7月7日)

<安藤選手>
最近、ザンビアがドイツと戦った試合(7/7 ザンビア3-2ドイツ)を見たんですが、ドイツの選手をスピードで置き去りにして、得点を奪っている選手がいました。攻めているときのリスクマネジメントが本当に大事になってくると思います。相手は、攻められていてもそこからの速攻が得意な形だと思うので、そこで相手をスピードに乗せないというか、そのキーマンとなる選手をどう抑えるかという点では、ディフェンスラインにとって90分間気が抜けない戦いになると思います。あとは自分たちの時間帯のときにチャンスをものにできるかがすごく大事になってくると思います。

ーー 第2戦の相手はコスタリカです。求められる試合運びは?

コスタリカ代表が試合会場を訪問 (7月20日)

<安藤選手>
コスタリカの情報は、まだこれから試合を見てみようと思っていますが、南米のチームは独特のタイミングのドリブルだったり、一瞬のスピードや馬力があったりするので、球際のところで強いと思うんです。そこをそれ以上に強くいって奪いきるところは重要になってくると思いますね。

ーー 「強度」が重要になる?

<安藤選手>
そうですね。球際のところは結構強いと思うので。その分、食いついてくるイメージもあって、味方とのコンビネーションとか食いついてきたところの裏に2列目から出て行くとかっていうのは、すごく有効になってくると思いますね。

ーー 最後の3戦目が最大の山場、スペイン戦。どう戦うべきですか。

試合会場を訪れたスペイン代表 (7月20日)

<安藤選手>
第1戦、第2戦で日本が勝って臨めるとすごく自信がついていい状態でいけるんじゃないかなと思うので、充分に自信を持って臨んでほしいなというイメージがあります。スペインは、個人個人のキックの技術やシュートの技術はすごく高いです。それまでの2チームよりもさらに技術が高い選手が多いので、簡単にクロスを上げさせないとか、シュートのときも深く寄せるとか、1個のミスが命取りになる可能性があるので、集中力を切らさないで戦うところが大事になってくると思います。少し(距離を)開けてしまうと、いいシュートを持っていって簡単に決められたりすると思うので、我慢する時間帯は必要になってきます。そこでしっかり連動して守備をして、セットプレーも重要になってくるんじゃないかなと思います。


2011年の“なでしこ”に似ている


ワールドカップ ドイツ大会で優勝 (2011年)

ーー ずばり、日本の成績をどう予想されますか? 

<安藤選手>
私は優勝すると思っています。期待もありますけど。自分たちが優勝したときの雰囲気に似ているというか。そんなに期待されていないじゃないですか、正直。自分たちも全然期待されていなかったし、その中でも優勝できた。チームの雰囲気を見ていると、すごく明るくてチームが1つになっているように見えるんです。WEリーグで対戦しても、選手たちが世界を意識してやっているなってひしひしと感じていたので、このグループリーグ、スペインとかを倒して突破していくと、信じられないような勢いに乗るんじゃないかなと。日本のチームワーク、チーム力を楽しみにしています。

ーー 2011年の当時は、どんな雰囲気を感じていましたか。

<安藤選手>
出発するときには、記者の方が2名くらいしかいなかったです。ワールドカップに出場することすら世の中に知られていなくて。それでもチームは優勝という目標を掲げていて、すごく明るいチームでした。

ーー それを反骨心にして大会に臨んだのですか?

ドイツを破り初の準決勝進出 (2011年)

<安藤選手>
「自分たちが世界を驚かせてやる」というところはすごくありましたね。逆にそれが楽しみというか、ドイツと当たったときは1回も勝ったことがない相手でしたけど「失うものはないよね」って思いっきりぶつかっていけたので。それに勝つと、何か信じられない力がついたんです。個人でもすごく自信がつきましたし、チームとしても、そのあとは負ける気がしないっていう感じでした。今大会は結構大変なグループだと思います。ザンビアもすごく力がありますし、さらにスペインがいて。でも、そこを突破していくと、信じられない力が出てくるんじゃないかなと。当時を考えても、すごくいい状態で初戦を迎えたわけではなくて、うまくいっていないところ、不安なところもたくさんあったんですが、1つ1つ勝つごとにまとまっていった感じです。


選手たちへのエール


ーー 所属するレッズにも今大会の代表メンバーがいます。自身の経験を伝えましたか?

<安藤選手>
勝つごとにチームは強くなっていくということも、ワールドカップの雰囲気の話もしました。雰囲気に飲まれるより自分が乗っていくというか、楽しんでいくみたいなモチベーションの持ち方や、それぞれどんなプレーを出してほしいということも伝えましたね。

清家貴子選手

例えば、清家選手は途中から出る可能性が高いと思うんですが、それを自分の役割だと思って、常にコンディションを良く保っていくこと。1分だろうと10分だろうとどのぐらい出ようが、自分のプレーを出すことに集中して準備してほしいと言いました。

石川璃音選手

石川選手は、ワールドカップになると相手に速い選手が出てくるので、彼女みたいな選手が必要になってくると思うので、自分のスピードや強みを日本の中で出してほしいという話をしました。

猶本光選手

猶本選手は、もう言うことがないぐらい全部言ってきているので託しています。彼女自身フリーキックやシュートもずっと世界での戦いを意識して取り組んできていたので。その1本で世界が変わりますし、ずっと攻められていても1本のフリーキックやセットプレーで点が入れば流れが変わります。彼女のシュートの精度で流れを変えられると思うので、そういうところを楽しんでほしいと言いました。

高橋はな選手

高橋選手は、怪我をしてしまいましたが、このワールドカップに選ばれるため、さらにそこで活躍するために、想像もできないほどの努力でリハビリやトレーニングに取り組んでいました。むしろ怪我前よりもパワーアップしているので、彼女の鍛えてきた強さを存分にピッチで出して楽しんでほしいです。彼女の周りはいつも笑顔ですし、とても仲間思いなのでオンでもオフでも欠かせない存在だと思います。

ーー 23人の選手たちにどういったことばを送りたいですか。 

<安藤選手>
このワールドカップに向けてそれぞれが本当に強い思いと熱い思いを持って準備してきたと思います。女子サッカーの未来や、他にもいろいろ背負うものもあると思いますが、これまでにやってきた、準備してきたことがあるので、ピッチに立ったら、悔いのないように思いっきり自分たちのプレーを楽しんできてほしいと思います。彼女たち自身がワールドカップの舞台を楽しんでほしいと思ってます。


サポーターへ


ーー テレビで試合を見る視聴者、サポーターは、どこに注目してほしいですか?

<安藤選手>
なでしこジャパンの歴代の良さは、ひたむきさや最後まで諦めない戦いなので、そこに注目してもらいたいですね。例えば、すごく攻められて厳しい試合でも、そこを耐えて最後は勝ちきるとか、ホイッスルが鳴るまで、誰も諦めずに最後まで必死に戦うとかが良さだと思います。一つ一つのプレーが皆さんに夢や希望を与えられるよう、そういう思いでみんな戦っているので、そこを見てほしいなと思います。

ーー 解説者としての意気込みをお聞かせください。 

<安藤選手>
自分自身がWEリーグで一緒に戦っている選手たち、ぶつかり合って感じている彼女たちの良さをたくさん知っているので、そういったところを届けられたらと思っています。そして日本の女子サッカーを皆さんと一緒に盛り上げていきたいです。


この記事を書いた人

坂梨 宏和 記者 平成21年NHK入局 福岡県出身

長崎局、広島局などを経てスポーツニュース部。プロ野球を担当した後、現在はサッカー担当。