記者日誌編! パラ陸上世界選手権

1924年5月、現在の4分の1にも及ばない44の国と地域が参加して行われた第8回の夏季オリンピックパリ大会。そこから100年の時を経て、再び五輪の旗が、そして初めて3色の曲線「スリーアギトス」を配したパラリンピックの旗が来年パリに掲げられます。オリンピックの開幕は来年7月26日、パラリンピックの開幕は、約1か月後の8月28日です。記念すべき大会を1年後に控えた今月、来年の本番を見据えてパラ陸上の世界選手権が開催されています。現地の最新情報や気になる選手の競技結果を、現地取材班が随時更新の日誌形式でお伝えしていきます。(※2023年7月18日スポーツオンライン掲載)


大会最終日 日本のメダルは計11個


報告:沼田悠里記者

10日間にわたる大会も最終日を迎えました。来年のパリパラリンピックに向けて、フランスでは初めてパラスポーツの大会のチケットが有料となった今大会。

期間中12万5000人の観客がスタジアムには集まり、各国の選手たちに大声援を送っている姿を見て、来年のパリ大会も楽しみに感じました。

日本勢は、男子走り幅跳び視覚障害のクラスで福永凌太選手が銀メダルを獲得しました。400メートルに続いて、今大会2つめのメダル獲得です。

福永選手は、パラ陸上に転向してわずか2年あまりの新星です。大学では、10種競技の選手として世界を目指しましたが、思うように記録が伸びず、目標を見失いかけたときに母親から勧められたのが、パラリンピックへの挑戦でした。挑戦してから「自分はできる」と言い聞かせて、日々トレーニングを積み重ねてきたといいます。

福永選手が競技後のインタビューで語った「自分を大好きだといえる大会になった」ということばが印象に残りました。

<福永凌太選手>
「夢を諦めかけたこともあったがこの舞台に立つと決めていたし、『自分はできる』とずっと思っていたことが証明できた。この体に生まれてすごく不自由だなと思ったことは今までないが、それでも今の自分の体でよかったなと思えたし、自分のことが大好きだと言えるような大会になった」

今大会、日本は金メダル4つ、銀メダル3つ、銅メダル3つと計11のメダルを獲得しました。来年のパリパラリンピックに向けて、新星の活躍が光った一方で、東京パラリンピックを経験したベテラン選手たちが苦しんだのも事実です。残り1年、さらなる強化が迫られます。


現地のスポーツ新聞をのぞいてみると…


報告:藤田大樹カメラマン

現地のスポーツ新聞「L’EQUIPE」は、毎日パラ陸上世界選手権について大きく伝えています。

「L’EQUIPE」は毎日21万部が発行されるフランスで最も有名なスポーツ新聞です。少し中身をのぞいてみると…

▼競技の結果や地元のアスリートの出場種目が掲載されています。15日の新聞には、女子砲丸投げ腕に障害があるクラスで銅メダルを獲得した齋藤由希子選手の結果もしっかりと載っていました。

▼男子走り幅跳び(義足のクラス)のマルクス・レーム選手(ドイツ)は、やはり写真付きで大きく取り上げられ注目の高さがうかがえました。

▼また、大会中13万のチケットが売れ、毎日1万人から1万1千人の人が観戦に訪れていることも書かれていました。

記事を通して、アスリートと観客の距離が近く、大会が盛り上がっていることが伝えられ…

「その盛り上がりが来年のパラリンピックの盛り上がりにつながることが期待される」と記されるなど、1年後の大会への高い期待感が伝わってきました。


カメラマンが見つめた増田明美会長


報告:上林幹カメラマン

大会も終盤。 日本選手団の中で一際大きな声で声援を送る人がいました。日本パラ陸上競技連盟会長の 増田明美さんです。

14日に現地到着し、シャルレティ競技場に応援に駆けつけていました。応援する増田さんにカメラを向けると… 出場する選手ひとりひとりに、立ち上がって声をかけていました。

競技中、ノートを見つめていた増田さん。そのノートを見せてもらうと…選手の特徴や記録など、情報がたっぷりと記されていました。選手ひとりひとりに声をかけられるようにするためだそうです。

最終日まで会場のあちこちを駆け巡り、選手ひとりひとりと目を合わせ、笑顔でお話をされているのがとても印象的でした。最後に増田さんにお話をお伺いしました。

<増田明美さん>
ーー どんな気持ちで声をかけていましたか
少しでも選手の力になればいいなと思って声を出していました」

―― 来年神戸で開かれる世界選手権に向けては
神戸の世界選手権は、日本の選手が活躍してくれると日本中の人が喜ぶと思うので、だから私たちが頑張って、日本の選手の強化を進めます。あとはお客さんをどう楽しませるか。東京オリンピック・パラリンピックの頃と違って、無観客から有観客になる。パリの世界選手権を参考に考えていきたいです」

―― どんな大会になるといいですか
多様性っていいよねという考えがグラウンドから町へ広がって、町から社会へ広がって。スポーツから社会に良い影響を与えられるようにしたいです」


大会9日目 ユニバーサルリレーで“金”


報告:沼田悠里記者

大会も残り2日、競技も大詰めです。
夜のセッションで、障害のことなる男女2人ずつで走るユニバーサルリレーが行われました。
日本は、1走に澤田優蘭選手、2走に※辻沙絵選手(しんにょうの点が2つ)、3走に松本武尊選手、アンカーに生馬知季選手の初めて組むという走順で臨みました。

澤田選手から辻選手へタッチ

ふだんはそれぞれ別の場所で練習をしていますが、1年間を通して合宿などでタッチワークの練習を積み重ね、パリに入ってからも、どのメンバーの組み合わせでも対応できるようにタッチワークを繰り返し行ったといいます。

松本選手から生馬選手へタッチ

日本は、決勝で見事なタッチワークを見せて2位でフィニッシュ。

その後、1位のカナダが失格となり、繰り上がりで金メダルとなりました。選手たちが、笑顔でそれぞれをたたえ合う姿が印象的でした。

左から生馬選手、松本選手、辻選手、澤田選手

<澤田優蘭選手>
しっかりつないでベストを尽くせばメダルが近いところにあったので、今シーズン1番の走りをすることだけを考えて、いいスピードに乗った状態で辻選手にタッチできた」

<辻沙絵選手>
予選で走ったメンバーがつないできてくれたバトンを決勝でつなぎ通そうと意識した。1年間通してタッチワークの練習をしてきた成果が出た。しっかりと金メダルの重みを感じたい」

<松本武尊選手>
きょうだけは、ミスなく終われるよう頑張った。メダル獲得できると思っていなかったので、ことばにできないほどうれしい」

<生馬知季選手>
後ろから追い抜いてやるという思いだった。みんなが誇りを持っていい金メダルだ。来年もこの色の金メダルを目指して頑張りたい」

女子走り幅跳び知的障害のクラスでは、初出場の酒井園実選手が4位に入り来年のパリパラリンピックの出場枠を獲得しました。

競技中、酒井選手が何度も確認していたのが手の甲に書かれた3つのことば。

酒井選手の左手の甲には手書きの文字
スピード リラックス 楽しめ

競技前に自分で書きました。初めての大舞台に「やるぞ」と思いすぎるとガチガチに緊張して、自分の力が出せないと感じていた酒井選手。コーチから言われた「リラックスしてからやれ」というアドバイスをしっかりと自分に言い聞かせるためのことばだったといいます。

観客の大歓声の中、「自分がどうなるかと思ったが、楽しめた」と満面の笑顔で、競技を振り返った酒井選手。来年のパリパラリンピックでは、メダル獲得を目指します。


午前のセッションでも新星が活躍>

男子円盤投げの脳性まひなどのクラスで世界選手権初出場の22歳新保大和選手が4位に入り、来年のパリパラリンピックの出場枠を獲得しました。

自己ベストをマークした新保選手の投てき

円盤投げの海外勢は、パワー自慢の大きな体格の選手がそろっています。その中で、身長1メートル72センチ、85キロの新保選手は、ひときわ小柄に見えます。新保選手は、体格の差を埋めようと、筋力トレーニングを欠かさず行ったほか、遠心力を使っていかに効率よく飛距離を伸ばすか、基本的な技術に磨きをかけてきました。

決勝では、3回目に自己ベストを更新する50メートル99センチをマークし、見事4位。競技の後、笑顔で来年のパラリンピックでの活躍を誓いました。

<新保大和選手>
「海外勢と比べ、自分はめちゃくちゃ小さいですが、来年のパリでは、またベストを出して金メダルを獲得したい」


大活躍! リモートドリーカメラ


報告:藤田大樹カメラマン

各国のメディアに大会映像を配信するISBは、今大会22台のカメラを使って国際信号と呼ばれる映像を制作しています。そのうちの1つがトラック、フィールドを縦横無尽に走り回る「リモートドリーカメラ」です。

「リモートドリーカメラ」とは上の動画で見て取れるように「リモート=遠隔で操作でき」「ドリー=動きながら選手たちを追いかける」カメラのことです。
どんな利点があるのか、ISBのマネージャーは次の4点をあげました。

・機敏性
スピード
柔軟性
安全性

<マネージャー>
「通常使われる(レールを移動する)カメラは固定ルートしか動けない。常に同じポジションに戻る必要あるが、リモートドリーカメラは自由自在に、いつでもどこにでも、素早く柔軟に移動することができる。また俯瞰の位置から全体を見渡しているので、オペレーターが常にカメラ周辺の動きを確認しているので、人が付くカメラよりも視野が広い、だから安全性も高い」

選手紹介のカメラを担当

今大会、選手紹介やトラック、フィールドを問わず、一番近いポジションで選手たちの表情や躍動する姿を撮影しています。

選手の近くでの撮影も影響が少ない

リモートドリーカメラの大きさは、およそ長さ1m、幅60cm、高さ80cm。重さは40kgありますが、なんと最高時速40kmで走ることができます。

カメラは360度動かすことができ、スタビライザーという機能がついていて、トラックからフィールドへ移動する時に段差がある場所を通るときも、滑らかな映像を撮影することができます。

リモートドリーカメラを操作しているのは、Simon StevensonさんLee Martinさんの2人です。

2人は、スタンドの最上階からトラッキングカメラを操作しています。Lee Martinさんはリモートドリーカメラを動かすドライバー、Simon Stevensonさんはカメラを操作し、2人のオペレーターが役割を分担して操作しています。24年近くリモートドリーカメラに関わる仕事をしているそうです。

<Lee Martinさん(ドライバー)>
「パラ陸上を撮影する時に気をつけていることは選手との距離です。選手やガイドにぶつかることがないよう、アスリートとの距離を保ち、安全に注意して撮影していきたい」


大会8日目 福永凌太選手が金メダル


報告:沼田悠里記者

男子400メートル視覚障害のクラスで24歳の福永凌太選手が金メダルを獲得しました。

福永選手は、パラ陸上に転向してわずか2年で記録を次々と塗り替えていて、14日の予選ではみずからのアジア記録を0秒55更新していました。

この日は、スタートから飛び出し、中盤以降もストライドの大きな走りで一気に加速して2位以下を振り切り、予選で更新したアジア記録に並ぶ47秒79のタイムで、初出場の世界選手権で金メダルです。

金メダルの福永選手(左) メダリスト勢ぞろい

<福永凌太選手>
「優勝してやろうと思ってここにきていたので、やっと自分が世界で戦えるんだということを証明できた。予選の時からいい走りができていたので、予選の300メートルまでの走りをそのまま再現して、最後しっかり走りきろうと思っていた」

ーー 来年のパリパラリンピックに向けて
世界記録を更新し、歴代で1番になりたい。記録を更新することで、パラスポーツは面白いものだと伝えたいので、それを目指して成長していきたいと思う」

女子走り幅跳び義足のクラスでは24歳の兎澤朋美選手が4メートル59センチを跳んで4位に入り、来年のパリパラリンピックの出場枠を獲得しました。

4位に入った兎澤選手の跳躍

25歳の前川楓選手は6位でした。


大会7日目 フランス革命記念日 


報告:沼田悠里記者

この日7月14日はフランス革命記念日、街はお祝いムードに包まれます。
スタジアムには、来年のパリオリンピック・パラリンピックのマスコットキャラクター「フリージュ」が初めて登場し、たくさんの人が写真撮影を求めていました。

フランス革命で自由の象徴とされた赤い縁なしの帽子「フリジア帽」がモチーフとなっている「フリージュ」。

パラリンピックのエンブレムがあしらわれた「フリージュ」は右足が義足ですが、そのほかは色も形もほぼ同じで、オリンピックとパラリンピックの2つの大会に区別をつけていない組織委員会の方針が反映されています。


競技も白熱 スーパースターも登場>

競技も盛りだくさんでした。まずは、女子砲丸投げ腕に障害があるクラスの齋藤由希子選手が銅メダルを獲得。

メダルの喜びをジャンプで表現する齋藤選手

齋藤選手は、21歳の時に世界記録をマークした実力者で、来年のパリパラリンピックでのメダルが期待されています。

齋藤選手の投てき

齋藤選手は3回目の投てきで10メートル98センチをマークして3位につけると、最後の6回目には11メートル42センチとさらに記録を伸ばして、銅メダルを獲得しました。

いつも笑顔で元気いっぱいの齋藤選手ですが、選手が取材に答えるミックスゾーンで涙を流していたのが印象的でした。

<齋藤由希子選手>
「目標の4位以内がしっかりとれたので、それは100点です。ただ悔しい思いもしたので、1年かけて強くなりたい」

ーー 来年のパリパラリンピックに向けて 
「たくさんの支えがあってこの場に立てているのでまたパリに戻って、さらにいい色のメダルをとりたいという思いが強くなった」

そして、リオデジャネイロパラリンピックで銅メダルを獲得した※辻沙絵選手が女子400メートル腕に障害があるクラスに出場しました。(※しんにょうの点が2つ)

辻選手は、最後の直線で競り負け、惜しくも5位。来年のパリパラリンピック出場枠の獲得はなりませんでした。

5位でフィニッシュの辻選手(右から3人目)

来年のパリ大会を最後に引退する意向の辻選手。「3大会連続でパラリンピックに出場できたら自分の目標を達成できるかなと思うので、悔いなく終わりたい」と次のチャンスに向けて気持ちを新たにしていました。

この日、一番会場が盛り上がったのが、ドイツのマルクス・レーム選手の跳躍です。

レーム選手は、男子走り幅跳び、義足のクラスでパラリンピック3連覇を果たし、オリンピックの幅跳びの金メダリストの記録を上回ったこともある、パラ陸上を象徴する選手の1人です。最後の6回目で大会新記録となる8メートル49センチをマークして金メダルを獲得、大会6連覇を果たしました。

<マルクス・レーム選手>
「多くの観客が見てくれる中で戦うのはとても興奮したし、観客の存在が励みになった。記録はもっと伸ばせたらいいが、常に挑戦することが大事だと思っている」


特別編:マンホールの秘密


報告:沼田悠里記者

パリオリンピック・パラリンピックまで1年。サスティナブルな大会を目指すとしていますが、きょうは、競技場の外で、どんな準備が進められているのか取材してきました。

私たちが向かったのは、パリの象徴でもあるエッフェル塔に、ほど近い中心部。そこにあったのが、謎の大きなマンホールです。

スイッチが押されるとマンホールが動き出し、地下に通ずる階段が出てきました。地下へと歩みを進めると、そこにあったのは…

これ何だかわかりますか?

セーヌ川の水を循環させる、巨大な冷却システムなんです。
川の水を循環させて、冷たい水を地下に張り巡らせることで、室内を23度から26度に保つことができるそうです。

来年のパリ大会では温暖化対策のため、冷房ではなく、バドミントンや新体操、それに車いすバスケットボールなどが行われる競技場で地下水を使った冷却システムが使われる予定だといいます。

導入予定の地下水を活用した冷却システムはおととしの熱波の中、ルーブル美術館でも活用され、ルーブル美術館で適切な効果が得られたことで、パリ市は3倍規模で拡大する見込みです。

担当者は「来年のオリンピック・パラリンピックをきっかけにエコな取り組みが世界にも広がってほしい」と期待を寄せています。


大会6日目 メダル相次ぐ


報告:沼田悠里記者

銀メダルの唐澤選手(左)5位の和田選手(右から2人目)

男子1500メートル視覚障害のクラスでは、今大会の5000メートルで金メダルを獲得した唐澤剣也選手が銀メダルを獲得しました。
レースは序盤から、唐澤選手が2番手につけてトップのブラジルの選手を追う展開で進みました。

唐澤選手は残り100メートル付近で3番手のポーランドの選手に追い上げられますが、わずかな差で逃げ切り、シーズンベストとなる4分8秒26のタイムで銀メダルを獲得しました。今大会2つ目のメダルです。

一方、東京パラリンピック銀メダルの和田伸也選手は、4分10秒45のタイムで5位でした。

<唐澤剣也選手>
「1500mでもメダルを目標にやってきたので、2つメダルが取れてとてもうれしい」

ーー レースを振り返って
「1位のジャクエフ選手が最初から出る展開だったんですが、しっかり追うということをチームみんなで話し合って決めていました。追い越すことはできなかったですが、銀メダルという結果はとてもよかった」

ーー 収穫と課題は

「ブラジルのジャナエフ選手とドサント選手の2人が結構強くて、スピードもあるので、そのスピードに対応できるような練習を今後取り入れて先頭集団でしっかりと戦える力を来年までにつけたい。その課題を克服して臨みたい」

ーー 今大会はどんな大会
「来年のパリ大会への通過点ではあるが。しっかりと2つメダルを取って、ふだん応援して下さっている方、支えて下さっている練習パートナーの皆さんにメダルを持ち帰れるというのはとてもうれしい」

<小林光二さん(ガイドランナー)>
「強かった。純粋に強くて私が最初のアクシデントのところで足を使ってしまって最後足がもたなかった。私のせいであと1,2秒速いレースができたのではないかと反省している。かけがいのない仲間です」


<佐藤友祈選手が銀 伊藤竜也選手が銅>

男子400メートル車いすのクラスでは、佐藤友祈選手が銀メダル37歳の伊藤竜也選手が銅メダルを獲得しました。

1位の選手を追う佐藤選手(左)

レースは序盤、世界1位でベルギーのマクシム・カラバン選手が抜けだし、佐藤選手が追う展開となりました。残り100メートルの直線で佐藤選手は力強く伸びのある走りで追い上げましたが、わずかに及ばず56秒42のタイムで銀メダルを獲得しました。
佐藤選手は、この種目の大会4連覇はなりませんでした。金メダルを獲得したカラバン選手は、佐藤選手の持っていた記録を1秒近く更新する54秒19の世界新記録をマークしました。

<佐藤友祈選手>
「スタートから出だしを丁寧に、しっかり速度をのせていこうと考えてやっていて、そこはしっかりかみ合った。今回は世界記録を1秒近くも更新されてしまい、僕の力不足で世界選手権のタイトルを明け渡してしまった」

ーー 来年のパリパラリンピックに向けて
「来年の本番でこの1秒の差をしっかり縮めて1位の座を取り戻したい。世界記録を更新して金メダルを取ることを目標に再びやっていきたい」

伊藤選手も粘りを見せて自己ベストを更新する1分0秒84のタイムで銅メダルを獲得しました。東京パラリンピックのこの種目の銅メダリスト、上与那原選手は5位でした。

<伊藤竜也選手>
「最後の直線まで接戦で『ここまできたら絶対にメダルを取ってやろう』という気持ちだった。なんとか差し切れてよかった。いろいろな支えがあってメダルを獲得できた」

ーー 来年のパリパラリンピックに向けて
「まだまだ自分の中でやらないといけないこともあるし、パワーアップできると思っているので、そこをトレーニングで形にして、結果に結びつけたい」

このほか女子100メートル脳性まひなどのクラスの決勝に出場した19歳の小野寺萌恵選手は苦手とするスタートで出遅れ、後半に加速したものの及ばず、19秒41のタイムで5位でした。


大会5日目 石山大輝選手は4位


報告:沼田悠里記者

男子走り幅跳び視覚障害のクラスで、初出場の23歳、石山大輝選手が6メートル83センチをメークして4位に入り、来年のパリパラリンピックの出場枠を獲得しました。

これだけ多くの観客の中で跳躍するのが初めてだった石山選手は「絶対やったろう!」と決めていたことがありました。

それは跳躍の前に観客に手拍子を促すこと。通常、選手は勝負どころや最後の跳躍のみ、手拍子を促すことが多いのですが、石山選手は「初めての世界選手権を思い切り楽しみたい」と、2回目の跳躍からすべて拍手を観客に求めました。

石山選手が手拍子を求めると、スタジアムが一体となった手拍子。大きな跳躍を見せると大きな歓声が石山選手を包みました。

石山大輝選手>
「1本目はいろいろ考えていたので忘れちゃったんですけど2本目からはがん攻めしてやろうと思っていた。とにかく楽しかった。会場全体ですごくもり立ててもらえたので、今度のパリパラリンピックではその空気にのまれないように頑張りたい」

また、女子400メートル知的障害のクラスの決勝には、21歳の菅野新菜選手が出場し1分00秒59で7位でした。


大会4日目 澤田優蘭選手が銅メダル


報告:沼田悠里記者

女子走り幅跳びの視覚障害のクラスで東京パラリンピック代表の澤田優蘭選手が銅メダルを獲得しました。

澤田選手は、1回目の跳躍で5メートル3センチと今シーズンの自己ベストをマーク。4回目には、助走のスピードを踏み切りに生かして5メートル23センチとさらに記録を伸ばし銅メダルを獲得しました。

<澤田優蘭選手>
「本当にうれしい。記録も順位も今自分ができる精いっぱいはやれたかなと思う。シーズンの最初は本当に苦しくて、目標と自分のいる位置がだいぶ離れてしまっていた。世界選手権に入る前は、漠然とした不安があったが、そこから着実に、信じて1個1個やっていった。きょうの跳躍が一番よかった」

ーー パリパラリンピックに向けて
「今大会、金メダルと銀メダルを獲得した選手は、5メートル50センチを超えている。しっかりと修正してまたパリに戻り金メダルを目指したい」

男子400メートル脳性まひなどのクラスの決勝には、21歳の松本武尊選手が出場しました。
松本選手は陸上の強豪校でハードルに取り組んでいた高校2年生のとき、脳出血で倒れて両手足のまひが残りました。

この日はスタートから飛び出し、持ち味の大きなストライドを生かして加速すると、後半も伸びのある走りで55秒85のアジア記録を更新するタイムで4位に入り、パリパラリンピックの出場枠を獲得しました。

アルペンスキーとの”二刀流”で挑んでいる村岡桃佳選手は女子800メートル車いすのクラスの予選に出場し1分51秒59のタイムで3位。予選敗退となりました。

<村岡桃佳選手>
「想定していたレース展開では走ることいっぱいいっぱいでまくってくる選手に対処できなかったというのはあったが、世界選手権で走れたことが経験値として大きなものになった。大会の雰囲気やトラックコンディションも把握できたので次に向けて準備をしたい」

村岡選手は、大会7日目の女子100メートル車いすのクラスの予選に出場します。


マスコットも活躍中!


報告:上林幹カメラマン

国際大会のシンボルになるのがマスコットです。パリで行われているパラ陸上世界選手権でも、大会を盛り上げている公式マスコットがいます。

モチーフはひょう(豹)。速く、勢いがあり、巧みで賢いひょうがパラ陸上の普及に理想的な象徴であると考えられました。
灰色のひょうが「ルーダ」、青色のひょうが「ヴィゴー」です。

パラリンピックの生みの親であり、「パラリンピックの父」と呼ばれているドイツのルートウィッヒ・グットマン博士にちなみ、その名が付けられました。
ルーダは右手に義手をつけているのが特徴です。ヴィゴーは見た目にはわかりませんが、聴覚などに障害があるという設定で、両マスコットともに障害を乗り越えて生き生きと活躍する姿が印象的です。

また、多様性を尊重して、性別を不特定としているのも、ひとつの特徴です。世界パラ陸上組織委員会によると、フランスのマスコット専門の会社と共同で5か月ほどかけ開発したということです。

「ルーダ」と「ヴィゴー」は時折フィールドに現れ、今大会の顔として会場を盛り上げています。


大会3日目 唐澤選手が金 中西選手が銅


報告:沼田悠里記者

午前セッションでは女子のレジェンドが2大会連続のメダルです。

女子走り幅跳び義足のクラスで中西麻耶選手が今シーズンのベストとなる5メートル38センチをマークして銅メダルを獲得しました。

前回大会の金メダルに続いて2大会連続のメダルで、来年のパリパラリンピックの出場枠を獲得しました。

<中西麻耶選手>
「こんなに準備ができずに臨んだ世界選手権は初めてで、自分の中で受け入れなかったんですけど、他の国の選手と良い時間を過ごして、最後まで負けずに安定した跳躍ができたので、そこは良かったと思う。自分的にはしぶい大会になってしまいました」

ーー 2大会連続のメダルです
「いいメダルを見せたいなというのが自分の中ではあるので、そこは戒めて、帰ったらちゃんとみんなで喜びたいと思います」

ーー 手応えは?
「きょう一番下は17歳がいたんですけど、こんなに年が離れているんだというのを感じていますが、たぶん生涯を通して今が一番フィールドの上では速く走れているのは自分でも分かっているので、あと微調整があえば、いつでも6メートルに手が届くという準備はできているんだろうなという手応えは感じています」

ーー 来年に向けて
「まだまだ日本も東京パラの後の大会になるので、東京パラで何が変わったのか、皆さんにぜひ見せたいなという気持ちがあります。この私がとった枠に食い込んでくる、他の日本のアスリートが出てくるくらい熾烈な争いをまた日本選手権から(やりたい)」

ーー 中西選手ご自身は?
「私も次の大会、大丈夫かな大丈夫かなという年には入ってきたと思うので、1大会1大会、自分にできるベストを尽くしてやっていきたいなと思います」

このほか、男子400メートル脳性まひなどのクラスの予選には、初出場で21歳の松本武尊選手が出場し、得意の後半に加速してシーズンベストとなる56秒80をマークして、この組の3位で決勝進出を決めました。

夜のセッションでは、男子5000メートル視覚障害のクラスで唐澤剣也選手が最後に追い上げて金メダルを獲得しました。印象的だったのは、誰よりも涙を流して喜んでいたガイドランナーの森下舜也さん(写真左白い帽子)です。

視覚障害のクラスは「絆」と呼ばれるガイドロープで呼ばれる伴走者とともに走ります。選手の目であり、戦略的な頭脳でもあるので常に周りを見ながら「前が仕掛けた」と伝えたり、1周ごとのラップを読み上げたりする欠かせない存在です。

唐澤選手は、ガイドランナーを2人に増やして新たな「チーム唐澤」で今回の世界選手権に臨んでいました。新たなガイドランナーだった森下さんにとっては初めての世界選手権でした。

3000メートル過ぎまで、唐澤選手のガイドランナーとして伴走。その後、小林光二さんにバトンタッチしてレースを見守っていました。

フィニッシュしそうになったときには、大号泣。すぐに唐澤さんの元に駆け寄り、チーム唐澤で念願の金メダルを喜び合っていた姿は本当に印象的でした。

<森下さん>
「世界の舞台で走るのも初めてで金メダルをとってくれるとやってよかったな、これからもさらに応援していきたいなという思いがさらに芽生えました。うれしいという思いがこみ上げ号泣してしまいました」

<唐澤選手>
「いろいろな人の思いを背負って最後は気持ちで走り抜くことができました」


大会2日目 日本選手が登場 佐藤友祈選手が金


報告:沼田悠里記者

大会は2日目、きょうから日本選手が出場します。注目は男子1500メートル車いすのクラスの世界記録保持者、佐藤友祈選手です。

東京パラリンピックで金メダルを獲得している佐藤選手は、強化してきたスタートからとびだし、ほかの選手を終始寄せつけずそのままフィニッシュしました。

みずからが持つ世界記録には及びませんでしたが、大会記録を更新する3分36秒22のタイムで金メダルを獲得しました。この種目3連覇で日本チームに勢いをつけました。(この種目はパリパラリンピックでは実施されません)

また、男子5000メートル車いすのクラスの予選には41歳の吉田竜太選手と42歳の久保恒造選手が出場し、久保選手が10分31秒14のタイムで出場した組の5位となり初めての決勝進出を決めました。吉田選手は、予選敗退です。

<佐藤友祈選手の談話>

<佐藤友祈選手>
「疲れました。この種目がパラリンピックのメダルイベントから除外されて、400mとか、スタートとか、短距離に移行して、1500mの練習がなかなか積めていない状況でのタイムなので、前回の世界選手権の時よりも2秒くらい縮められているので、よかったと捉えています」

ーー きょうの走りでよかった点は
「スタートが、いつもと違ってピッチ、回転数を出だして上げていくことができたということで、最初の400mの入りも意識しながらこいで、そこそこのタイムで400を入ることができたので、そこはよかったかなという感じです」

ーーこの金メダルを400mにどう生かす
「400mの前哨戦としていい刺激を体に入れることができたので、この刺激をしっかりもって、400mも55秒前半くらいのタイムで勝ちきりにいきたいなと思っています」

ーー東京パラは無観客だった。今回。すごい歓声だったが
「途中何度も気持ちが切れかけて、しんどかったんですけど、声援のおかげでかなり力を発揮することができました。背中を押してもらえました。有観客でこれだけ選手は力をもらえるんだというのを、改めて感じたのでよかったと思います」


大会1日目 開会式


報告:沼田悠里記者

パリ市内にあるシャルレティ競技場でパラ陸上の世界選手権が開幕し、開会式が行われました。

107の国と地域から1330人の選手がパリパラリンピックの出場枠をかけて争います。開会式では人気DJがパフォーマンスを行い、訪れた7000人が大いに盛り上がりました。

フランスでパラスポーツの大会のチケットが有料になるのは、今大会が初めてだということです。毎日、競技の前にはアーティストのライブが行われるなど、パラスポーツを少しでも多くの人に見てもらいたいという工夫がされています。


本番を1年後に控えるパリの街


パリは、言わずと知れた世界的な観光地です。その代表格といっていいのがこのエッフェル塔、脇を流れるセーヌ川は開会式の会場となることが決まっています。

ほかにも、自転車のロードレースもエッフェル塔の近くでスタートとフィニッシュになることが発表されるなど、大会期間中に数多くの場面で登場しそうです。

こちらの凱旋門はトライアスロンのコースの一部になる予定です。

まだ、パリの街中がオリンピック一色というわけではありませんが、伝統と革新が混在するパリの街が大会にどうフィットしていくのか、これから楽しみです。

<競技会場では…準備進む>

すでにオリンピック・パラリンピックのムードを感じられる場所もあります。
フランス国旗をあしらったデザインが描かれているのはフランスオリンピック委員会のビルです。フランス語で「勝利は目前」という意味の「LA VICTOIRE EN FACE」(フランス代表のキャッチフレーズ)という言葉が大きく書かれています。

フランスオリンピック委員会のビル

その隣にあるのが今回の大会が開かれているシャルレティ競技場です。

シャルレティ競技場

本番を見据えた大会中とあって、セキュリティーも厳しく、動線などもきっちりと分けられています。
そして中に入ると”サスティナブル=持続可能”な大会を目指しているパリ大会を見据えた取り組みが見えてきました。

<プラスチックごみを出さないために>

まずはこの写真です。
使い捨てプラスチックを出さないための取り組みとして、飲み物はこの専用のカップに移して販売されます。洗って繰り返し使えるカップです。選手やスタッフ、それに報道関係者には繰り返し使える専用のボトルも配布されています。

いつでも水を補給できる給水ポイントは14か所設置されていました。

<肉は売りません!>

会場の売店ではおいしそうなホットドックやサンドイッチが販売されています。食欲をそそるいい匂いがしているんですが、肉は一切使われていないというのです。

このサンドイッチ、よーく見ると野菜はたくさん使われているようですが、肉が見あたりません。牛肉であれば、飼育している牛のゲップに温室効果ガスの「メタン」が含まれるため、地球温暖化につながると指摘されています。こうしたことを考慮して、食事でも環境を意識してもらおうという取り組みなのです。

<環境問題や障害について学ぼう>

会場には、パネルを使ってリサイクルの仕組みを学べるゲームも用意されています。

訪れた子どもたちは、楽しみながら、捨てられた洋服がどのように再利用されるかなどを学んでいました。

このほか、会場には車いすにのって小さな段差を乗り越える大変さを感じてもらうコーナーや、ボッチャなどのパラスポーツを体験できるコーナーが設けられていました。


この記事を書いた人

沼田 悠里 記者 平成24年 NHK入局。
金沢局、岡山局を経てスポーツニュース部。

上林 幹 カメラマン 平成27年NHK 入局
名古屋局、甲府局を経て、現在仙台放送局で勤務

藤田 大樹 カメラマン 平成11年入局
岐阜局、大宮営業センター、さいたま局での営業職を経て、平成21年からメラマンに。熊本局、甲府局、大阪局を経て現在報道局映像センター。