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特集 ラグビー日本代表特別企画第1弾!長谷川慎×山村亮 “スクラム対談”

ラグビー 2023年7月13日(木) 午後0:00

ラグビーワールドカップ開幕まであと2か月半!サンデースポーツでは、2週連続で日本代表を特集します。第1弾は“スクラム”。2015年のワールドカップ・南アフリカ戦。あの奇跡を呼び込んだのは、終了間際・逆転トライの直前に選んだスクラムでした。2019年のワールドカップ・アイルランド戦。あの歓喜をもたらしたのも、相手を圧倒したスクラムでした。日本代表の躍進の鍵を握る「スクラム」。その全責任を任されているのが、日本代表の長谷川慎コーチです。かつて一緒に戦い、長谷川慎さんのスクラム理論を肌で感じてきた、“まな弟子”の元日本代表・山村亮さんが迫ります!(サンデースポーツ 2023年6月25日放送)

 

特別企画第2弾 リーチ×中村×山中×五郎丸の熱血トーク!はこちら

スクラムとは?

 

長谷川慎さん(以下:慎さん):よろしく!

 

山村さん:よろしくお願い致します。なんでも聞いていいですか?

 

慎さん:答える、答えないは俺の自由ね(笑)。

 

対談の前に、まずはスクラムの基礎知識をおさえましよう。スクラムが組まれるのは、ボールが密集から出ず、プレーが止まった時。あるいは、どちらかのチームが反則を犯した時、試合を再開する際に行われます。

 

 

8人で組むスクラム。

最前列の1番3番はプロップ、真ん中の2番はフッカー。この3人はフロントローと呼ばれます。

第2列の4番5番はロック

第3列の6番7番はフランカー

そして8番はナンバーエイト。後ろ5人はバックファイブと呼ばれます。

 

山村さん:前回2019年の大会からスクラムにすごくフォーカスされたじゃないですか。そこで今大会もスクラムが注目されると思うので、慎さんのスクラムを組むうえでメンバー選考に残る選手とは、どんなことが求められるんですか?

 

慎さん:まず大前提で選手に言っていることは、8人全員の力を使う、力を漏らさないスクラム。1人強い選手がいて、その人の組み方をしてしまうと、どうしても負けてしまうのでね。

 

山村さん:それ僕も現役の時、慎さんに何百回と言われた記憶がある。ちょっと独りよがりでチームのルールを破ると“それ違うだろう”って。

慎さん流スクラムの手引き

 

山村さん:慎さんのスクラムのポイントだと、8人それぞれに役割というかディティールがあるじゃないですか。

 

慎さん:大体は1番2番3番と言われるフロントローに特化した練習が多かったよね。

 

山村さん:昔そうですね。

 

慎さん:でもよくよく考えると、この3人より後ろの5人を使ったほうが、強くなるって思った。あと8人で押すというのも、8人で押し始めると前の3人がバラけてしまうので前3人は押さない。

 

山村さん:前3人は押さない?押さないでどうすればいいですか?

 

慎さん:前の3人は相手を崩す人。この3人がしっかりタッグして、バラけないように3人で相手を崩しにいく。相手を崩すことによって、相手が100 %にならない。

 

スクラムの象徴とも言えるフロントローの3人は”押さない”という慎さん独自の理論。さらに、そのオリジナリティーは、練習中に飛び交っていた「壁」ということばにも。

 

 

慎さん:“壁”って言っているんだけど、“壁”はスクラムの中で 4つある。

1)フロントローの重心を下げないロックとフランカーの壁。

2)ロックの重心が下がらないようにナンバーエイトとロックの間にある壁。

3)フロントローが両サイドにズレないようにちょっと斜めに付きながら、フランカーが首とほおを使って止めてあげる壁。

 

そして、4つ目の壁は意外なところに。

 

 

慎さん4)フッカーとプロップの間の壁。3番が横からあおられた時に1番2番が助けてあげる壁っていうのは絶対に必要。スクラムって1番きついのは3番で、3番が負けるとスクラムってどうにもならないね。3番は相手2人から押しが来るので1番きついよね。だから3番をとにかく頑張らせる。そのために1人で組ませるんじゃなくて、他の7人全員が3番に対して。

 

山村さん:3番はそうですね、3番を助ける。

 

慎さんの緻密なスクラム理論を、選手はどう理解しているのでしようか。

 

 

姫野選手「慎さんに出会ってからスクラムの概念がやっぱり変わりましたね。プロップが外に出がちなので、そこをしっかり抑えてあげる、お尻を抑えてあげて。しっかり壁を作ってあげるというところからまず始まっているので。100 %コミットするようになりました」

こだわりは数センチ単位

さらに慎さんのスクラムには、数センチ単位のこだわりがあります。膝の高さは、いちばん力が入るという、地面からわずか”1センチ”。

 

 

慎さん:よく”1センチ⁉”とか言われるんだけど、選手ってだいたい5センチって言ったら10センチ動くの。1センチって言ったらインパクトあるよね。

 

山村さん:はい。ちょっとしか上げられない。

 

慎さん:ちょっとしか上げたらあかんと思うよね。そうすると3センチぐらいで止まる。いちばん力の入るところでいちばんいい姿勢になりたい、8人が。

 

 

押して前に出る時も、歩幅は1センチずつ。

 

慎さん:全部1センチずつ出ましょう。1センチとんとんチェイスしたら体を伸ばして、とんとん1センチチェイスしたらまた体伸ばしてというのを練習で。その練習しかしてないかもしれない。

スクラム理論の原点

 

慎さんのスクラム理論の原点は、2003年のワールドカップ。当時、スクラムの強さは世界最強とも言われたフランスと対戦したときでした。

 

慎さん:自分の中で転機は、俺が1番で(山村)亮が3番でいったフランス戦かな。あの時の対面は俺と(体格は)一緒ぐらいかな。対面で組んでいてもそんなに負けている感じはなかったけど、なんか8人で押されたよね。

 

山村さん:そうですね、後ろからの第2波っていうか。

 

慎さん:もうどうにもならないと。

 

山村さん:我慢できない、耐えられないっていう感じ。あんな衝撃は初めてでしたね。

 

慎さん:だからこそ何て言うのかな、あの試合があったから気づけた部分もあるよね、お互いがね。

 

山村さん:そうですね。あの時にバックファイブの重要性というかすごく感じて。

 

慎さん:このまま行ったら日本はずっと勝てないとも思ったね。バックファイブに教えどころがいっぱいある。そこが変わるとスクラムは変わる。

ワールドカップへ秘策あり!

今月から始まった強化合宿で、バックファイブを鍛えるための新しいマシンがお目見えしました。

 

慎さん:今回のスクラムマシンというのは、すごく簡単な作りなんやけど、エアーコンプレッサーで向こうから押してきてくれる。それを使ってロックとかフランカーとかナンバーエイト、特にロックやね。ロックの足を作りたい。しっかり組めている中で押せる足を作りたい。

 

山村さん:足の力を使って推進力を出すみたいな感じですよね。

 

“シン・スクラムマシン”でトレーニングする選手たちの手ごたえは?

 

 

ティアンズ選手「きついっす。初めてやった時、足つって。それぐらいきつい」

 

姫野選手「すごくおもしろい。かつトレーニングとしてのキツさも兼ね備えているので、すごくいいマシンだなと感じました」

 

スクラムを支える力強い足のふんばり。スパイクがかむ芝生への対策もぬかりはありません。

 

慎さん:日本が予選(W杯1次リーグ)する4試合は全部同じ芝生、全部同じハイブリッド。

 

山村さん:なるほど、そこまで調べていらっしゃるんですね。

 

慎さん:だから今回もちょっと無理言って、宮崎のグラウンドのスクラム練習場も同じハイブリッド(芝生)をひいてもらって。どんなにシステムがあって、どんなに気持ちがあって体が強くなっても、スパイクが滑るともうその時点で負けだから。

 

山村さん:そこまでこだわっているってことですね。

 

慎さん:そりゃもう。というぐらいやっぱり1個1個を大事にしないと。これをやったら強くなるとかそういうのはない。魔法はないので。だから細かいところをいっぱいいっぱい積み重ねていって、やっと100になる。

1次リーグ”強豪イングランド”戦へむけて

 

今大会、1次リーグで日本の前に立ちはだかるのが、前回大会準優勝のイングランドです。去年11月に対戦したときは、スクラムで圧倒されました。

 

山村さん:イングランド戦に向けてスクラムはどういうところがポイントになると思います?

 

慎さん:まず相手の1番はすごく体重かけてくる選手。

 

山村さん:ゲンジ選手ですね。

 

イングランド代表 1番プロップ エリス・ゲンジ選手

慎さん:エリス・ゲンジというのは(審判の合図でヒットする前に)体重をすごくかけてくる選手、バインドの時にかけてくる選手。国内のリーグワンでやったらほとんどペナルティーになる。でも、国によって、レフェリーによってそこの解釈というのは一貫性がなくて。俺たちはそこに合わせていかなくちゃいけない。イングランドとあの時(去年11月)にやっておいてよかったなと。誰がどういう組み方をするというのをすごく情報集められた。

 

山村さん:イングランド戦、慎さんの自信のほどはいかがでしようか?

 

慎さん:あるって言わなあかんよね(笑)。やっぱり“勝ちきる”というのはすごいテーマかな。予選(1次リーグ)を勝ちきって次にいく。で、次も勝ちきる。そのための1つの重要なパーツのスクラムを“勝ちきる”ように。「耐える」じゃ押されると思うのね。最後にとにかく勝ちきりたいね。

 

山村さん:慎さんスクラムを楽しみにしています。

 

慎さん:ありがとうございます。

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