特集 朝乃山 幕内復帰の場所で増す存在感 ~推し相撲~

「満員御礼」が続く夏場所の国技館でひと際大きな歓声を受けている力士がいる。2年ぶりに幕内力士として土俵に臨んでいる朝乃山だ。
国技館には「朝乃山LOVE」の文字
中日8日目を終えて7勝1敗。対戦した力士からは「やっぱり強い」という声が相次ぎ、大関経験者として存在感は日増しに大きくなっている。トップの横綱・照ノ富士を星の差1つで追う形で勝負の後半戦に向かう。
朝乃山
戻ったからには優勝争いの中に加われるように頑張りたい。ことし中に三役に戻りたいので近い番付を目指して成績を残したい。
恩師のことばを支えに
朝乃山は力強い立ち合いから右四つに組む相撲を持ち味に4年前の夏場所で初優勝。次の年には大関に昇進し、横綱候補とも期待されていた。
出場停止明け三段目での土俵
しかし。
新型コロナ対策のガイドライン違反で6場所の出場停止処分を受け、大関から三段目まで番付を落とした。処分を受けた直後には父と祖父を亡くした。みずからの不祥事に大切な家族を失うという不幸が重なり、相撲に対する気持ちを見失ったという。
再び相撲に向き合うきっかけとなったのが、高校時代の相撲部の監督、浦山英樹さんのことばだった。6年前に病気で亡くなった恩師が、病床から託してくれた手紙に書かれているメッセージが、沈んでいた自分を奮い立たせてくれた。
浦山さんからの手紙
スーパースターになれるやつは一握り。
お前にはその資格がある。
富山のスターになりなさい。
朝乃山
出られなかった1年間は最初のほうは気持ちが晴れなかったが、その時になぜ自分は大相撲の世界に入ったのかを考えてやってきた。自分は富山県出身でただ1人の関取。その中で地元からの応援がありがたいことだし、もう1回応援を力に変えて頑張りたい。
立ち合いに馬力を
再スタートを切った朝乃山。幕下、十両と順調に番付を上げる中で課題も見つかった。それが持ち味の1つでもある「立ち合いの力強さ」を取り戻すことだった。
春場所の落合戦 土俵際まで追いつめられる
東の十両筆頭で臨んだ先場所、特に後半戦に入ってからは立ち合いで押し込めず、逆に上体を起こされて土俵際に追い込まれる場面が増えた。幕内復帰を決めたものの、これでは通用しないと危機感を抱いた。
朝乃山
先場所も腰が高くなっている相撲も何番かあった。昔に比べると立ち合いの馬力もなくなっているし取り戻していきたい。しっかり立ち上がって根こそぎ持っていきたい。
低く速くを徹底
場所前の稽古では低い体勢から当たることを徹底的に意識した。
さらに巡業や出稽古に3年ぶりに出向いて三役力士などほかの部屋の関取衆と稽古を重ねた。幕内力士の圧力を肌で感じながら、立ち合いに磨きをかけてきた。
場所前の出稽古
その成果が今場所の白星につながっている。4日目には先場所敗れた王鵬と対戦。
4日目 王鵬戦
立ち合い押し込めなかった前回とはうって変わって前に出続け、一気に押し出し。王鵬が「立ち合いが違った。速くて低い」と舌を巻く力強さを見せるなど、初日から7連勝と勢いに乗った。
初黒星から立て直せるか
しかし、中日8日目。勝ち越しをかけた一番はその立ち合いが裏目に出た。
相手は21歳の成長株、北青鵬。身長2メートルを超える相手に対して「がっぷり四つになりたくない」とこれまで通り、立ち合いから強く当たっていく狙いだった。
中日は北青鵬に豪快な下手投げで敗れる
しかし、立ち合いで左にかわされて上手を取られ、避けたかった四つに組む展開に。粘って土俵際に押し込んだものの、最後は下手投げで土俵の外にたたきつけられた。磨いてきた持ち味をすかされる形で初黒星を喫し、取組後の取材には悔しさ全開で現れた。
朝乃山
当たって勝負したかった。思い切った結果、相手が横にずれて上手を取られてしまった。負けは負けだ。
朝乃山はこの先の白星次第で上位の力士との対戦する可能性もある。恩師から託された「スーパースター」になるために。
今場所の優勝争い、そして大関復帰に向けて番付を上げていくためにも勝負の後半戦となる。
朝乃山
1つ負けてあすからまた自分の相撲をという気持ちだ。切り替えていくしかない」。
この記事を書いた人

足立 隆門 記者
平成25年NHK入局。甲府局、山形局から地元の大阪局を経て、スポーツニュース部。30代半ばにして初の東京暮らし。