特集 横綱・照ノ富士 “無理に挑戦するのが自分” ~推し相撲~

横綱 復帰初日に力示す
大相撲夏場所初日、結びの一番。
横綱・照ノ富士が土俵に上がった。去年秋場所の途中休場以来およそ8か月ぶりだ。
復帰戦の相手は大関経験者の小結・正代。強い圧力で一気に追い込んでくる相手だ。
初日 結びの一番
注目の立ち合いでは、右を差せない。上手も取れない。むしろ正代が狙っていた苦しい展開に持ち込まれ、土俵際まで追い詰められた。
それでも右腕をねじ込み、最後はすくい投げ。落ち着いて逆転勝ちした。
力を見せると、国技館に響いていた悲鳴はすぐに大歓声へと変わった。
横綱・照ノ富士
やっと土俵に立てた。久しぶりに盛り上がる歓声を聞けてうれしい。1日でも早く土俵に戻りたいと思ってやってきた。緊張感もなくやれていたと思う。
越えても続く苦難の日々
番付最上位に立つ照ノ富士だが、歩んできた道のりは壮絶だ。
平成27年夏場所で初優勝
平成27年の夏場所で初優勝し、さらに大関に昇進。
だが、ひざのけがなどで厳しい土俵人生が続くことになった。
休場を繰り返し、一時は序二段にまで番付を下げた。
平成31年春場所 序二段まで番付下げる
大関経験者が幕下以下に陥落するのは昭和以降では初めてのことだった。
それでも…
2年前の春場所のあとに大関に復帰。名古屋場所のあとには横綱にまで駆け上がった。
新横綱として綱打ちに臨む
しかし、その後もひざのけがに苦しみ続けた。
去年、再び悪化して両ひざを手術。リハビリを経て稽古を始めても今度は炎症が出て、また休まざるを得ない状況に陥った。
ことし1月に明治神宮で土俵入りした際に取材に応じた時には思わずこう漏らした。
今年1月 明治神宮での奉納土俵入り
「将来を考えたら今でもやめたい」
”無理”に挑戦
ただこの時も、照ノ富士はあくまでも前を向いていた。
序二段から横綱まで昇進したときのように、「無理と言われたことを挑戦してやるのが自分」という思いが照ノ富士を土俵に駆り立てていた。
現在7回を数える優勝回数をふた桁に乗せることを目標にして、必ず復帰すると覚悟を示した。
横綱・照ノ富士
1回立てた目標なので、達成しないと自分の中で満足感がない。無理だと思う人はたくさんいると思うが、無理と言われていることを実現させるためにできなくても努力することが大事だなと思って頑張っていこうと思う。
勝って、なお前へ
そして今回、照ノ富士は復帰の一番を苦しみながらも白星で飾った。
花道から引き上げたあと、モニターで入念にみずからの取組を振り返り「立ち合い、あまり当たれていない感じがあった。見直してやっていきたい」と反省のことばを口にした。あくまでも目指すのは去年の夏場所以来となる賜杯だ。
取組後には「優勝を目指すか」と問われて「もちろん」と力強く答えた。
残り14日、照ノ富士が土俵を引っ張り復活を遂げることができるか。大相撲に横綱の存在感が久々に戻ってきた。
この記事を書いた人

足立 隆門 記者
平成25年NHK入局。甲府局、山形局から地元の大阪局を経て、スポーツニュース部。30代半ばにして初の東京暮らし。