特集 照ノ富士 横綱の覚悟 ~復帰の夏場所へ~

「復帰してからいつ辞めてもいいという覚悟でやっているから。1日1日が勝負」(横綱・照ノ富士)。
強い覚悟を持った横綱が、ついに土俵に帰ってくる。去年9月以来の本場所の土俵にかける番付最上位の思いとは。
単に強くなりたい、ではない
膝には分厚いサポーターが
去年の秋場所を途中休場した横綱は、10月に4回目となるひざの手術を受けた。「完全に治ることはない」というひざと向き合いながら、復帰に向けたリハビリと稽古を地道に積み重ねてきた。
横綱・照ノ富士
負担を考えて体重も20キロ以上落とした。で、いま順調に体重も筋力も戻ってきているのかなというね。完全ではないけど、順調には来ているんじゃないかなと思います。
稽古のかいもあってか、先月(4月)の巡業では久しぶりに土俵で相撲を取る姿を披露。ファンからも連日、大きな歓声と拍手が上がった。
伊勢神宮で奉納土俵入り
横綱という地位についてまもなく2年。かつては「がむしゃらに強くなろうとしか思っていなかった」という横綱は、休場の間も土俵に立つ意味をかみしめ、復帰への意欲を高めていた。
横綱・照ノ富士
横綱という『綱』をしめて、みんなの前で立っている以上はなにを望まれているか。ただ単に強くなりたいという気持ちだけじゃだめだと、いろんなことを考えるようになったし、土俵入り1つでもお客さんの目の前で相撲を1つ取るにしても全部一生懸命やろうと思った。
準備万端 緊張なし
4場所休場してから戻る場所。緊張などはないかと尋ねると力強い答えが返ってきた。
横綱・照ノ富士
なんで人が緊張するかわからないんで。基本的にテストの勉強している人ってさ、勉強を全部ちゃんとしていれば、どんなテストが来ても、どうのこうのって緊張しないでしょ?ちゃんと準備していないからそういうことになるだけで、場所前の稽古は自分なりにやれることはやったって、それをやるだけだからさ。それに関して緊張とかしているんだったら、準備が足りなかったということになるし、それでも負けたってことは弱いってことだし、だから緊張する必要ないのかな。
原動力は追いかける力士たち
今場所に向けては新型コロナウイルスの感染対策が緩和され、本場所直前まで出稽古も解禁された。
場所前は出稽古で汗を流す
横綱も精力的に出稽古にも参加。今月(5月)3日、時津風部屋に赴いた時には、新関脇の若元春や、小結・正代など実力者たちと10番申し合いを行って8勝2敗。若元春との相撲では、あえて若元春が得意とする左四つの形にさせてから、力強く寄りきって見せた。
稽古総見では伸び盛りの力士に胸を出した
さらに、この翌日。横綱審議委員会の稽古総見では、今場所、大関昇進がかかる関脇・霧馬山と胸を合わせた。1勝1敗だったものの、腕をきめて前に出る相撲で横綱の強さを示した。上を目指す力士の壁であり続けることも、照ノ富士の復帰の原動力となった。
横綱・照ノ富士
『次の子が出てこないと』というのもあるし、ちょっとでも背中で、自分で感じた部分を語っていきたいという思いもありますし、限界をもう1回確かめてみるという気持ちになれたかな。
にじむ静かな闘志
一度は序二段まで番付を落としながらも、横綱にまで登り詰めた照ノ富士。周囲からは再びの復活劇という期待も寄せられる。
「一生懸命やるだけ」だと淡々と語ったが、そのことばからは静かな闘志を感じさせた。
横綱・照ノ富士
下まで落ちて戻ってきたという意味で、そう見られているわけですから、もう1回見せちゃいけないのかなと。もちろんできるという自信を持ってやらないと絶対にできないことですから。ずっと辞めるまで納得できる状況にはならないと思う。とりあえずはいまの自分ができることをやりきっているかな。
初日は小結・正代との対戦が組まれた。力強い四つ相撲で健在ぶりを示せるのか。復帰の場所に注目したい。
この記事を書いた人

舟木 卓也 記者
平成25年NHK入局。令和2年秋からスポーツニュース部。
プロ野球(ロッテ)担当を経て、現在は大相撲や柔道など格闘技担当。