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特集 楽天・松井裕樹投手 まだ見ぬ2つの景色を目指して ~担当記者のイチオシ~

野球 2023年3月2日(木) 午後5:30

楽天から唯一、WBC日本代表に選ばれている松井裕樹投手。チームの絶対的守護神はプロ10年目を迎えたことし、「世界一」「日本一」というまだ見ぬ2つの景色を追い求めています。

松井投手

シーズン前に世界一と、シーズンで日本一。どちらも勝って終われたらいいなと。

 

桐光学園(神奈川)からドラフト1位で入団した松井投手は、昨シーズンまでの9年間に年間30セーブ以上を5回達成するなど抑え投手として抜群の安定感を誇ります。通算100セーブと150セーブは、いずれもプロ野球史上最年少で達成してきました。WBCでは楽天から唯一、日本代表に選ばれました。

 

ブルペンで投げ込む松井投手

2月1日、キャンプ初日。早速ブルペンに入った松井投手は、キャッチャーを座らせストレートを41球投げ込みました。まだキャッチャーを立たせて投げるピッチャーが多い中、松井投手の実戦さながらの集中力は際立っていました。

 

 

さらに翌日も2日続けてブルペンに入り、ハイペースな調整ぶりを見せます。ところがこの日は「あまりよくなかった」と25球で投球をやめてしまいます。去年のセーブ王は、実はこのキャンプでかつてないほど苦しんでいたのです。

 

松井投手を悩ませている理由が、WBCで使用するボールです。

 

 

ふだん使う日本のプロ野球のボールより大きく感じると言い、外国人投手と比べると手の小さい松井投手は、このボールの扱いに苦戦していました。ボールの違いを気にすることが投球時の力みにつながり、それがコントロールや投球フォームを狂わせていたのです。

 

2日目のブルペンの後、松井投手は前回WBCの日本代表でもある則本昂大投手や、「かかりつけ医」と評する星洋介トレーナーに話しかける姿が目立ちました。

 

則本投手(写真左)や星トレーナー(写真右)にアドバイスを求めた

いずれも新人時代からそばで投球を見守ってくれた信頼を寄せる2人で、力みや投球フォームが崩れていないかをしきりに尋ねてアドバイスを求めていました。

 

2日連続でブルペンに入り練習を終えて宿舎に戻るかと思われたタイミングで、松井投手はまたもブルペンで投球練習に臨みました。1日で2回目の“おかわりブルペン”です。

 

星トレーナーとの“おかわりブルペン”

誰もいないブルペンでそばには星トレーナーが立ち、則本投手もキャッチャーの後ろ側に座って心配そうに投球を見守っていました。

 

投球練習を見守る則本投手

松井投手は1球1球を投げるごとに、ひざの曲がり具合や軸足の重心に狂いがでていないか、それによって手の出方が早くなったり手からボールを放すタイミングがずれたりしていないか、細かな調整を重ねていきました。2回目のブルペンでおよそ40球を投げ終えると、松井投手は報道陣の取材エリアに向かってきます。

松井投手

映像、見せてもらえませんか。映像、見たいんです。

報道陣が撮影した映像で投げたばかりの投球フォームをチェック。自分の感覚と客観的に見る投球フォームとのずれを確認していました。

 

カメラのモニターで映像を確認する松井投手

松井投手

もやもやした状態で1日を終えたくないし、クリアにして帰りたかった。球数は増えましたけどいいブルペンになりました。星トレーナーや則本投手は、主観的になりすぎずに長い間、見てくれている人たちで本当に信頼している。意見は抽象的なことでも自分のプラスになっている部分がかなりあるので。映像を見たのは、フォームにどれくらい目に見えて変化が出ているのかを確認したくて、いいボールの時のフォームを見たかった。

ここまで徹底してどん欲に自らの投球に向き合うのはなぜなのか。その胸の内には日本代表にかける強い思いがありました。おととし、日本が金メダルを獲得した東京オリンピック。松井投手は日本代表に選ばれなかったのです。

 

松井投手

当時の時点である程度の成績を出せていたので、それでもチームに必要なかったというのは本当に悔しかった。代表に必要なレベルまでもっともっと自分に足りないものを磨かなければと思って。(チーム最年少で出場した)前回のWBCは自分の力を出し切れなかったので、あのユニフォームを着て、自分の持てる力を出し切れるようにしたいです。任されたところをゼロに抑えて帰ってくる。チームが世界一になることしかないですね。

 

WBCに向けた調整を続ける松井投手ですが、もちろんチームのことも忘れていません。松井投手がもう1つ見たい「景色」があります。去年11月、本拠地の仙台で行われたファン感謝祭で田中将大投手とトークイベントに参加した時、集まったファンを前にこう誓っていました。

 

去年のファン感謝祭トークイベントに参加した田中投手(左)と松井投手

松井投手

楽天でプレーさせてもらって10年になりますが、優勝パレードの景色を見てみたい。(2022年シーズンの最終戦で)目の前で見たオリックスの胴上げ、あの中心に僕が立てるように1年間しっかり頑張っていきたい。

楽天が日本一になった翌年の2014年に入団した松井投手は、まだ優勝の経験がありません。去年、オリックスがリーグ優勝を果たした最終戦は仙台での楽天戦でした。

 

 

優勝が決まった瞬間、オリックスの選手たちがマウンドに駆け出し歓喜の輪ができる様子を、多くの楽天ナインが引き上げる中で松井投手はベンチに残りその様子を目に焼き付けていました。

 

チームの日本一へ、松井投手が目指すのは、リリーフ陣のチーム防御率向上です。そのために意識しているのは、若手が力を発揮しやすい環境を整えることです。

 

 

岸孝之投手や田中将大投手といった実績豊富なベテランも多い楽天のピッチャー陣の中で若手が萎縮することのないように、松井投手は持ち前の明るさも生かして積極的にコミュニケーションを取っています。来日したばかりの新外国人投手への気配りも忘れません。

松井投手

シーズン中は成功ばかり続かないと思うので、長く引きずらないようにチームとしての切り替えや個人としての切り替えに自分が何か力になれればなと思います。

松井投手

(新外国人投手は)当たり前にチームメイトなので歓迎して仲間だよっていうのを理解してほしいからよく話しかけています。自分が逆の立場で、例えばアメリカで日本語で話しかけられたら、絶対にうれしいじゃないですか。新戦力のバニュエロス投手はスペイン語のことばを調べて話しかけると喜んでくれるので。『ブエノスディアス』(=おはよう)『オラー』(=やあ)『アミーゴ』(=友だち)とか話しかけていますね。

 

2月中旬、松井投手は楽天のキャンプ地・沖縄を離れ、宮崎で行われたWBC日本代表合宿に合流しました。ここでも初日からブルペン入りしてWBC球の調整を図っていました。春に世界一、秋には日本一。まだ見ぬ2つの景色を追い求めて奮闘しています。

 

WBC日本代表合宿合流初日にブルペンで投げ込む(2023年2月17日)

松井投手

みんなと一緒にすばらしい景色をみたいなって年々、思いが強くなっていますね。家族や仲間、ファン、裏方の皆さん、日々支えてくれる皆さんが喜んでくれる瞬間を見たい。もちろん優勝の瞬間のマウンドには僕が立っていたいです。抑えのだいご味は、勝利の瞬間を味わえること。自分の所に集まってきてウイニングボールを先発ピッチャーに渡す。みんなで喜ぶ瞬間が本当に好きなので、抑えが僕の天職かなと思っています。最後は笑って終われるように、みんなの笑顔が見たいです。



この記事を書いた人

仙台局 徳本 絵夢 記者

仙台局 徳本 絵夢 記者

楽天担当2年目
「努力は裏切らない」と信じている

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