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特集 どうなる岡田阪神 3つの視点で阪神春のキャンプに迫った

野球 2023年2月25日(土) 午前10:00

ファンの大きな期待を背負って就任した岡田新監督の下でスタートした2023年の阪神タイガース。3人のNHK解説者梨田昌孝さん宮本慎也さん田中賢介さんが春のキャンプ取材で何を感じたのか、3つの視点で掘り下げます。

視点その①「監督の視点」

NHKプロ野球解説の梨田昌孝さん(69)。近鉄、日本ハム、楽天で計3回、監督を経験。岡田彰布新監督(65)も今回で3回目の監督就任となります。

 

梨田さんが阪神のキャンプをスタンドから見守る

現役時代はともに関西で活躍し、監督としても日本ハムとオリックスでしのぎを削りあった戦友です。そんな梨田さんが監督の視点から、岡田新監督への期待を口にしました。

 

選手を迷わせない、意思を明確に伝える監督

 

「梅ちゃん、いい顔していたなぁ。」

投球練習場で挨拶を交わした梅野隆太郎選手の顔が印象に残ったという梨田さん。

 

正捕手として本格始動する梅野選手

梅野選手の表情の裏に、岡田監督のチーム作りの原点を感じたと言います。

梨田さん

岡田監督は自身の考えを選手に対して明確にしている。勝つために扇の要は梅野に基本任せる。中軸を打つ大山悠輔はファースト、佐藤輝明はサードと、ポジションを固定する。梅野には捕手として、大山・佐藤には中軸として役割を明確にすることで本人たちに責任感も芽生える。そうすると選手は一心不乱に集中できる。梅野の表情を良いと私が感じたのはレギュラーでうれしそうということではなく、迷いなくキャンプに臨めているからだろう。

また梨田さんは、岡田監督の明確な意思表示は試合中にも表れるだろうと見ています。その一例をキャンプ中の会話の中から明かしてくれました。

 

岡田監督と話す梨田さん

梨田さん

岡田監督の話では『今季はランナー1,3塁での“中間守備”はしないと決めている。1点を防ぐのか、併殺を狙うのかはベンチが明確に決める。判断を選手任せにしないという意図。そこまではベンチの責任ですよという意思表示がしたい』ということのよう。

最近では複数の選手を複数のポジションで競わせるというような状況も多くある中、レギュラーをキャンプの時点で明言することは他の選手のモチベーション低下につながらないのでしょうか。その問いに対する梨田さんの答えは・・・。

 

セカンド・中野拓夢選手の守備練習

梨田さん

それも岡田監督の明確な意思表示だよ。現状でキャッチャーは梅野とかセカンドは中野っていうことは、逆に坂本誠志郎(去年60試合出場)は控え、渡邉諒(日本ハムから今季加入)も控えと明確に伝えているわけだ。つまり現時点でのそれぞれの役割・立ち位置を明確にしている。であるならば、坂本や渡邉はレギュラーを取るために必死に頑張らないといけない立場。そこで腐ってしまうならそこまでというのがプロの世界。

 

監督の仕事は「チーム戦力の見極め」と「方向性の決定」

 

通算3回の監督経験がある梨田さん。その経験から、監督として大事なことは“引き受けたチームの戦力を見定め、どうすれば伸びるか、その方向性を決めること”だと言います。

 

近鉄の監督に就任 選手にあいさつする梨田さん(1999年10月)

梨田さん

近鉄の監督になった時、投手陣の戦力は少し厳しかったが、野手陣は得点を取れる戦力だった。だから就任1年目は、得点を伸ばすために盗塁やヒットエンドランなどの機動力もプラスしていきたいと考えた。でもね、結果、全然うまくいかなかった。だから監督2年目は“ランナーを貯めてドカンといく”という魅力のほうを優先させることにした。選手の気質的に近鉄はやっぱり“いてまえ打線”だと。礒部(公一)をキャッチャーから外野に回して打席に集中させたりしてね(この年、礒部は打率.320 17HR 95打点と活躍)。それで前年の最下位から一気にリーグ優勝となったわけだ。

その観点からも岡田監督の方向性は理解できると、梨田さんは話します。

梨田さん

阪神のメンバーを見るとやはりピッチャーはそろっている。でもあまり点は取れない。その見極めの上で岡田監督が出した方向性は“守りを重視する”という形。その観点で見ると、投手はそろっているけど先発は右投手が多い。上積みを望むなら左投手の先発も増やしたい。だから岩貞祐太を先発に挑戦させ、ソフトバンクから大竹耕太郎を獲得、更に2年目の桐敷拓馬も競わせる。その中で良かった投手がローテーションに入る。投手が良いから守り勝つ野球がしたい。だったら失策ワーストの守備を改善しないといけない。まずはキャンプから選手とポジションを固定する。スローイングが苦手な中野をセカンドに回す。これだけでも併殺の完成率は上がるでしょう。そして現状の守備力ではショートは小幡竜平と示す。木浪聖也は頑張る。それで木浪が小幡を超えたらそれはその時。何を重視しているか、どこで競争をしてほしいか、何を改善したいか分かりやすいでしょう。

こうした岡田監督のチーム作りについて賛辞を送る梨田さん。一方で岡田監督自身の印象は少し変わったそうです。

 

2人でドラフト1位ルーキー森下翔太選手の打撃練習を見守る

梨田さん

今日話した感じだと性格的にはずいぶん丸くなったなあ。オリックスの監督時代は対戦相手として見ていると、俺が監督だから引っ張っていくんだ!という気持ちが前面に出ていた。選手にもよく話しかけて指導していたけど、今は良い意味でコーチを信頼して細かいことは任せている感じ。チームをふかんして見守っているように感じる。その上、今回のキャンプに高卒捕手2人(藤田健斗・中川勇斗)を帯同させている。その理由を聞くと『若手で高卒の捕手は1軍でいい投手の球を受けさせてあげないといけない』と言っていた。親心もあるし、育成という側面でもよく考えている。今年は阪神、期待していいんじゃないか。順位?優勝候補に挙げなきゃいけないでしょう。

心なしか梨田さんの笑顔が多く見られたように感じた今回の阪神キャンプ取材でした。

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執筆者

酒匂飛翔アナウンサー

平成21年入局 名古屋放送局。
高校時代は外野手。50m6秒台前半で走るも今は当時より25kg増量。ジョギングを大切にしている。

 

 

視点その②「チームリーダー・内野手の視点」

NHKプロ野球解説の宮本慎也さん。チームリーダーとしてWBCや五輪で日本代表を引っ張り、名ショートとしてヤクルトの黄金時代を支えました。

 

キャンプ取材中の宮本さん

 

岡田監督就任で生まれた変化

 

岡田監督が15年ぶりに復帰したキャンプを見て、宮本さんは早速変化を感じ取っていました。

宮本さん

一番の違いは、去年までよりずっと緊張感があることですね。のびのび野球もいいけれども、同じポジションを争っている選手同士がワイワイやるのはどうかと思います。私は現役時代、ポジションを争うライバルがチャンスで打席に入ると、『フォアボールになってくれ』と祈っていましたよ。試合には勝ちたいのだけど、打ってしまうとその選手の評価が上がりますから(笑)。プロなのですから、そういう厳しさはあっていいと思います。

ランナーをつけての守備練習が始まると、宮本さんが気づいたのは“守る選手たちが一切声を出さずにプレーしていること”でした。

宮本さん

意図的にやっているのかなと思って平田ヘッドコーチに尋ねてみたら、やはりそうでした。『今シーズンから声を出しての応援が戻ってくるから、歓声で選手同士の声が聞こえないことを想定してやっている』と。こういうところを含めて、工夫して練習をやっているなということは感じますね。

 

ポジション固定化がもたらすもの

 

 

キャンプで打撃練習する大山選手(左)と佐藤選手

岡田監督は、去年ショートのレギュラーに定着した中野拓夢選手をセカンドにコンバート。大山悠輔選手をファーストに、佐藤輝明選手をサードに固定することを明らかにしています。宮本さんは、この岡田監督の考え方にうなずきます。

宮本さん

大山と佐藤輝のポジション固定には大賛成です。去年まで阪神ではみんなが複数のポジションを守ることがありましたが、やはり彼らは主軸を打ちますから、あちこちを守るよりも固定するほうが好ましい。中野のセカンドも同じです。このほうがバッティングでより力を発揮できるのではないかと思います。

 

内野の要・ショートは誰が?

 

 

木浪選手(左)と小幡選手がショートのポジションを争う

宮本さん

岡田監督に話を聞いたところ、『ショートはしっかり守れればそれでいい』と。ただプロにおける“しっかり守る”というのは高いレベルを指すので、当然要求は高くなると思います。やはり内野で核になるのはショート。全てのプレーに関わっていますし、キャッチャーと同じく試合を動かす重要なポジションですから。このキャンプでは若い小幡に期待しているようです。ただ私の目から見ると、スローイングに不安がありますし、プレーに少し軽さを感じます。我慢して使い続けるほどのレベルにはまだ達していないかもしれません。となるとバッティングを含めた総合的な評価では木浪にもチャンスがあります。ショートがどんな形で固まっていくかがひとつのポイントでしょう。

 

岡田監督の野球とは

 

宮本さんは現役時代、岡田監督率いる阪神と何度も対戦してきました。宮本さんの抱く“岡田阪神”のイメージと、このキャンプで見えてきた新しい“岡田阪神”の姿とは。

 

岡田監督と話す宮本さん

宮本さん

やはり当時は※JFKですよね。『阪神との試合は6回まで』と言われるほどの勝ちパターンを築いた方ですから。基本的にはオーソドックスな考え方で、ピッチャーを中心とした守りの野球をやりましょうと。大崩れしないどっしり感がありましたよ。『ショートは守れればいい。打つほうは期待していない』という今日の岡田監督の言葉からも、今も守り勝つ野球を目指していることが伝わってきました。今シーズンの阪神のストロングポイントは、明らかにピッチャー。セ・リーグNo.1の投手陣と言っていいでしょう。リリーフ陣には岩崎優、カイル・ケラー、湯浅京己がいますし、1イニングを任せられるピッチャーは他にもいます。投手力という強みに加え、大山と佐藤輝が、ポジション固定によって持っている力を存分に発揮できれば面白いです。間違いなく優勝候補と言っていいでしょうね。
JFK…ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之のリリーフトリオ。頭文字をとってJFKと呼ばれるようになった。

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執筆者

塚本貴之アナウンサー

平成11年入局 東京アナウンス室。
高校時代は野球部で捕手。キャッチャーフライを捕ることだけには自信があった。

 

 

視点その③ 外国人選手をどう見るか

NHKプロ野球解説の田中賢介さん。現役時代、日本ハムで多くの外国人選手と接し、自らもメジャーリーグでプレーしました。

 

スタンドから練習を見つめる田中さん

外国人選手が異なる環境で活躍するためには何が必要か、阪神の新戦力・新外国人をどう見たのか?田中さんの視点です。

 

 

岡田監督に聞いた~外国人野手に期待すること~

 

岡田監督が田中さんに、新外国人選手の構想について話をしてくれました。

田中さん

岡田監督には「元々、甲子園でホームランを30本も打つような選手はなかなかいない」との考えがあるそうです。そのため「外国人選手に対して過度に期待をかけないようにしている。打率3割に近い数字を残しながら、ホームランを20本近く打ってくれればいい。確実に得点に結びつく打撃をしてほしい」と話していました。

 

対照的なスイング~2人の新外国人野手~

 

新加入のシェルドン・ノイジー選手(左)とヨハン・ミエセス選手

今年、阪神には2人の新外国人野手が加入しました。1人は昨年、アスレティックスで89試合に出場したシェルドン・ノイジー選手。広範囲に打てるバッティングが持ち味の中軸候補の一人です。

 

ノイジー選手のスイング

田中さん

ノイジーのバットの軌道を見ていると、ボールをしっかり面でとらえようとするスイングです。いわゆるミートポイントが長く、詰まっても泳いでもヒットが打てるタイプでしょう。ただバットに当たりやすいということは、結果的に当たってしまって内野ゴロが増えることもあります。ツーシームなどの小さな変化に打たされないことも重要でしょう。広角に打てるので打率.250を切ることはないのでは。その分ホームランを量産するタイプではなさそうなので、打率3割、ホームラン20本くらいを目標にする選手という印象です。

もう一人がアメリカのマイナーリーグで通算140本のホームランを打ったヨハン・ミエセス選手。練習中も陽気な雰囲気で、スタンドのファンからは“ミエちゃん”の愛称で呼ばれていました。

 

ミエセス選手の打撃練習

田中さん

ミエセスは縦にバットが入ってくる“縦振り”。このタイプは、カットボールやツーシームなど小さな変化には強い傾向があります。ただ高めの強いストレートには少し差し込まれるかも。そうしたボールはファウルで粘りながら我慢して、ベルトより下にきたボールを打っていけばいい角度で飛ぶと思います。もう一つ感じた良さは“打席での間の取り方”。外国人打者は、相手投手の投球リズムに合わせて「1、2、3」のリズムで打つことが多いですが、ミエセスは足を上げながら、「1,2”の“3」のリズムで打っています。“2と3の間”でバットの始動を少し待てるので、タイミングを外されても我慢しながら打てる可能性があります。

 

岡田監督に聞いた ~外国人投手の構想は?~

 

 

 

岡田監督と話す田中さん

田中さん

ピッチャーについて岡田監督は「実戦にならないとまだまだ判断はつかない。先発投手の数はそろっているし、リリーフもカイル・ケラーがいるので、新加入のブライアン・ケラーやジェレミー・ビーズリーについては、適性を見ながらうまくはまってくれればいいけどな」と話していました。

岡田監督の話に出てきたブライアン・ケラー投手は先発候補として期待されているようです。入団会見では「どのカウントでも色々な球種を投げられるのが自分の強み」と話していました。

 

先発候補のB・ケラー投手

田中さん

インステップ(投球時に踏み出す足が内側に着地する<*右投手なら左足が3塁方向寄りに着地>)の幅がかなり広く、投球時に手が遅れて出てくるので、打者はタイミングが取りづらい。インステップする投手は、右打者の外角に投げ切れないことが多いが、彼はしっかりと制球ができていました。あとは球速がどうか。150キロ中盤まで出るそうだが、それならば非常に面白い。チェンジアップやカーブも投げていたので、緩急を生かせば投球の幅が広がります。

 

日本で活躍する外国人選手の特徴は

 

日本ハムで多くの外国人選手を見てきた田中さん。日本で力を発揮できる選手にはどんな特徴があるのでしょうか。

田中さん

野手で一番大事なのは“性格”でしょう。日米の野球の違いを受け入れ、対応を変えていける性格なのか。例えば「なぜ日本の投手はもっとストレートを投げないんだ。変化球でかわしてばかりだ」と言う外国人野手がいます。そんな不満を言ったところで実際に変化球が多いわけです。そこで自分のスタイルを柔軟に変えられると日本の野球に対応しやすい。柔軟な考え方ができる選手だと、うまくいかない部分があっても、起用する側も我慢して長く様子を見るという判断も出てくる。ただ考えを変えられずにずっと同じことを繰り返すような選手だと糸口は見えないので、早めに別の選手に切り替えられることも出てきます。

一方、投手は、野手とはまた事情が異なるとも言います。

 

B・ケラー投手の投球練習

田中さん

投手は性格以上に、持っているボールの質や球種がそのまま能力や結果に反映されやすい。“自分主導で進められる”投手と、“投球に対応するいわば受け身の立場の”野手との違いでしょうか。また、日本のボールは、マイナーリーグのボールの質と似ている。日本に来る選手の多くがマイナーリーグの経験が長いですから、彼らはボールの違和感を感じることはあまりなく、投げやすいと思います。

 

自らのMLB経験を振り返って

 

田中さん

自分がメジャーリーグに行く時に大事にしたのは、これまでのスタイルを変えることを恐れないこと。でも変えるためのスピードに自分が追い付かなかった。“スタイルを変えるために必要な時間”と“結果を残さないといけない時間”が合わずに苦労しました。日本はキャンプから開幕まで約2か月あるので、外国人選手にとっては日本の野球に対応するにはいいスパン。なるべく多く打席に立たせてあげるのが重要だと思います。ここ数年はコロナで外国人選手の来日が遅くなるチームも多く、ぶっつけ本番で開幕を迎えることもあり、ここ2,3年の外国人選手はかわいそうでした。今年に関しては早い段階で日本に来ているので、本来の力を発揮しやすくなるのではないでしょうか。

 

新天地にかける日本ハム時代の後輩の姿も

 

田中さんの視線の先に、懐かしい日本ハム時代の後輩の姿がありました。トレードで移籍してきた渡邉諒選手です。

 

日本ハムから移籍した新加入の渡邉選手

日本ハムでは、田中さんの現役時代と同じくセカンドのレギュラーとして活躍しました。しかし、阪神のセカンドには、今季ショートから転向する中野選手が主力として位置付けられています。渡邉選手にとっては、キャンプでアピールする日々が続きます。

 

田中さん

渡邉選手は、ここ数年、体重が増えて守備範囲が狭くなっている印象でした。彼に聞くと「体を絞りました。今は80キロ台の前半でシャープに動けるようになっています」と言っていたので、実戦での動きがどうか見てみたいですね。彼はストレートに強い打者と言われていますが、元々は変化球を打つのが得意でした。ストレートに意識を置きすぎて、変化球を徐々に打てなくなっていましたが、今も変化球を打つスキルは十分にあります。阪神でのレギュラー争いに向けて、本人も「セカンドの中野選手の存在はすごく大きい」と話していて、その壁はかなり厚いですが、長打力もアピールして貢献してほしいですね。

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執筆者

高木修平アナウンサー

平成15年入局。広島放送局(2回目の勤務)。 
前回勤務した4年間は、カープ25年ぶりのリーグ優勝や連覇達成、黒田博樹投手の日本復帰初登板の試合など歓喜の場面に数多く立ち会えた。

 

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