特集 森友哉選手移籍の影響はいかに?~伊東勤さんが迫る~

首位打者1回、MVPも獲得するなど球界を代表する選手の1人、森友哉選手(27歳)。FA=フリーエージェントの権利を行使して、今シーズンからオリックスでプレーします。
攻守の要が加入したオリックスと、抜けた西武。両チームに及ぼす影響は?名捕手として西武黄金時代を支え、日本一に導くこと8回。その後、西武とロッテで監督を務めた伊東勤さん(NHKプロ野球解説者)が迫りました。
オリックスの反応
オリックスの練習を見つめる伊東さん
伊東さん
オリックスにとってはプラスしかないですよね。中嶋監督、水本ヘッドコーチ、裏方さん、だれに聞いても第一声で『森は本当に良いですよ』と返ってくる。これが物語っているのではないでしょうか。性格もまじめで、野球に真摯に取り組んでいます。『はたから見ていたのと違う』とみんな言っていましたよ(笑)。
移籍1年目のキャンプ
キャンプ初日からブルペンに入った森選手(2023年2月1日)
キャンプでは、チームメイトと積極的に話をする森友哉選手の姿が目立ちました。ブルペンでは、ボールを受けた投手と長く話し込むシーンもありました。
ブルペンで山﨑福也投手(左)と話す森選手
伊東さん
一番の違いは、今まで自分が対戦してきた投手のボールを受けるようになったこと。打者として感じていたことと、実際に捕球して感じたことを照らし合わせる作業が大事です。実際にボールを受けて体感することで『いい、いい、と言われていたけど、やっぱり良かったんだ』とか、『ゲームになればこの投手はこのボールが使えるな』という判断ができると思います。
森選手と話す伊東さん
森選手は、伊東さんに「打席で見てきたのとは全然違います。思っていた以上に投手の質がいいです。やりがいがあります」と話していました。
投手陣がより強くなる
WBCの日本代表に山本由伸投手、宮城大弥投手、宇田川優希投手が選ばれるなど、リーグ屈指の強力な投手陣を擁するオリックス。森選手の加入が、投手陣をより強固なものに進化させるのではないかと伊東さんは分析します。
(左から)ブルペン入りした宮城投手、山本投手、宇田川投手(2023年2月2日)
伊東さん
同じリーグでの移籍ですから、他球団のことを1から全部覚えなくてはいけないわけではありません。オリックスが持っている情報と森自身が持っている情報をすり合わせることもできます。オリックスの投手陣にとってもプラスですよね。違う視点から見てもらえることで、もともと力のある投手陣ですが、良いものがより良くなると思います。
打者・森は?
自主トレーニングを公開 打撃練習する森選手(2023年1月15日)
オリックスは、長く攻撃の中心を担ってきた吉田正尚選手が大リーグに移籍しました。4年前に首位打者も獲得した森選手の打力にも期待がかかるのでは・・・?
伊東さん
森を捕手としてなのか、打者としてなのか、首脳陣がどちらを主に見ているのかと言ったら、捕手だと思うんですよ。吉田正尚の代わりとは見ていないと思います。森には打つ方に関してはあまり負担をかけないと思います。3番を予定しているようですが、そこにはこだわらず、キャッチャー森を生かす方向で考えると思います。ただ、これぐらいはやってくれるだろうという森に対する最低ラインというのはみんな持っていると思いますね。 打率2割8分、ホームラン15本とか。それだけ打てればチームは勝つと思いますよ。
正捕手が抜けた西武
一方で、攻守の要がチームを去った西武。「森が抜けたのは“超”痛いですよ」と話してくれた首脳陣もいました。
今年の1軍キャンプに参加している捕手は3人。柘植世那選手(プロ4年目。去年42試合出場)、古賀悠斗選手(プロ2年目。去年26試合出場)、中熊大智選手(去年、育成選手から支配下選手登録、1試合出場)。この選手たちを競わせたいと松井稼頭央新監督は考えているようです。
伊東さんがブルペンの捕手陣を見守る
伊東さん
森は守りと攻撃の中心でしたから、 決してチームにプラスではないと思います。抜けた穴は、大きいと思います。松井監督は『捕手は難しい。メインで使う選手を決めて併用をと考えているが、そのメインを決めかねている。ただ、競争することで良いものが生まれてくるので、そちらに期待している。いないものをねだっても仕方がないので、いる人をどう使いこなしていくか、競争で勝ち残った人を優先する』と話していました。
信頼を得る
この日の練習後、一軍キャンプに参加している3人の捕手、柘植選手、古賀選手、中熊選手がコーチと共に伊東さんの元にあいさつに訪れました。アドバイスを求められた伊東さんは練習の中で気づいた技術面をそれぞれに話すとともに、いろいろな投手のボールを受けること、そして自分の打撃のことよりもまず、捕手としてやるべきことを最優先に考えていこうと3人に語りかけていました。
伊東さんの話を聞く(左から)中熊選手、古賀選手、柘植選手
伊東さん
投手陣からの森への信頼はかなり厚かったと思います。3人はそこから作っていかなくてはいけない。例えば試合の中で、『こういう配球もあるんだ』と投手に思わせることも大事ですよね。
チームが変わるチャンス
伊東さんが初めて監督に就いた2004年。西武は、攻守の中心の松井稼頭央選手が大リーグへ移籍しました。伊東監督は松井選手が守っていたショートに、当時3年目で一軍での出場が48試合しかなかった中島宏之選手(*当時の登録名は裕之)を抜擢。球界を代表する選手に成長させました。
伊東さん
私は腹を決めて、どういうことがあっても一年間使い続けると中島に話をしました。ミスもいっぱいしましたが、1年目は絶対怒りませんでした。1年やってある程度メドが立ったところで『俺は今年から厳しくするからな。1人前と見てもらえるまでがむしゃらにやってくれ』と話をしました。
伊東さん
どの選手も捕手として1年間経験したことがないので、首脳陣は不安で仕方がないと思います。誰をメインで起用するのか、悩むと思います。誰を使うにしてもどこまで首脳陣が我慢できるか、ですね。あまりにも結果が出なかったら変えざるを得ないかもしれません。でも、目をつぶって使ってほしいなあ、本当に育てようと思うなら。松井新監督は思い切ってできると思いますし、ちょうどチームが変わっていく転換期だとも思いますし、変わりそうな雰囲気もありますね。
この記事を書いた人

早瀬 雄一 アナウンサー
平成11年入局。アナウンス室所属。愛知県出身。2007年からプロ野球中継を担当。