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特集 藤川球児さんが名審判に迫る!ストライクゾーンの見極め方 審判のやりがいとは

野球 2023年2月10日(金) 午後6:20

球春到来!春季キャンプがスタートしたプロ野球。そのすべての試合は、球審の「プレイ」のコールから始まります。球審、そして3人の塁審がワンプレーごとに下すジャッジ。審判は、複雑な野球のルールを厳格に司る絶対的な存在です。時には打球が当たったり、乱闘の仲裁に入ることも。この過酷な仕事を35年にわたり全うしてきた、球界きっての名審判に、藤川球児さんが迫ります。(サンデースポーツ 2023年1月29日放送)

名審判・笠原昌春さんからみた藤川球児投手

 

藤川さん:この道35年の大ベテラン、笠原昌春さんです。さばいた試合は、なんと2763試合。正確な判定と、冷静で円滑な試合運び。2019年には、リクエストで判定が覆ったことが1度もなし。2017年に続き2回目の最優秀審判員賞に輝きました。

 

 

藤川さん:審判の服装を見ると緊張するね。まず初めに、僕も2020年まで現役でしたが、実際僕の投げるボールはどういった印象でしたか。

 

笠原さん:藤川投手は、僕からしたら楽な投手でした。

 

藤川さん:審判泣かせではなかった?

 

笠原さん:はい。球が速いので、バッターが力んで空振りが多かったので、ストライクやボールを判定することが少ない投手でした。やっていて気持ちいい投手でした。

 

藤川さん:笠原さんにいきなり褒めてもらえました。

「猛抗議にも冷静に」昔と今で監督に違いは?

 

藤川さん:時には判定を巡り相手の監督からの猛抗議を受けることもありますが、どのようにきぜんとした対応をとっていましたか?

 

笠原さん:監督さんが出てきた時は、僕らにとってはあまりいいことではない。お客さんにも納得してもらわなければいけないし、もちろん、監督や選手にも納得してもらわなければいけないので、とにかく冷静に努めて説明しています。

 

 

藤川さん:監督のプレーに対する熱さは、昔と今で違いはありますか。

 

笠原さん:かなり変わってきていると思います。今はリプレー制度というのがあるので、監督さんが出てきて猛抗議みたいな事がなくなってきたんですよね。それがいいのか悪いのかは分からないですけど、我々にとっては決してマイナスではないと思います。

 

ストライクゾーンの判断 は「頭のなかでリプレイ」

藤川さん:球審の方がストライクゾーンを判断する時、見る角度をすごく気にされていると思いますが、どのような角度でやっているかを今日は知りたくて。

 

笠原さん:わかりました。

 

藤川さん:まずは構え方から。

 

笠原さん:昔はキャッチャーの真後ろに構えていたんですね。そうすると、キャッチャーの頭でミットやホームベースが見えないので、横にずれる。

 

(左)以前の立ち位置 (右)現在の立ち位置

 

藤川さん:ずれていますよね。斜めに見るようになったので。

 

笠原さん:ホームベースが見えるように。昔と変わっているんです。

 

笠原さんの実際の試合映像を見ると、立ち位置は右バッターのときはやや右、左バッターのときはやや左であることがわかりました。

 

 

藤川さん:投げた球の軌道は、どこを見ている?

 

笠原さん:常に球を見ています。球がミットに入ったところで、頭の中で球をホームベースまで戻す。

 

 

藤川さん:後から自分の中でリプレイ映像みたいにしているイメージですか?

 

笠原さん:はい。

 

 

球の軌道を正確にとらえたうえで、それがストライクなのか、ボールなのか。バッターの体格や打つ姿勢はさまざま。球審はバッターごとに見極めなければなりません。

 

藤川さん:ここはストライクですか。

 

 

笠原さん:はい。

 

藤川さん:ここは?

 

 

笠原さん:ここはボールですね。

 

藤川さん:この高さは?

 

 

笠原さん:その高さは、そのまままっすぐ行くとおそらくミットは下向きになるので、ボールだと思う。

 

藤川さん:いいピッチャーだと、この高さから球が上がってくることはないですか?

 

笠原さん:錯覚だと思います。ここから上がってくることはまずないと思います。

 

藤川さん:ピッチャーから見ると上がっているように見えるんですよ。まっすぐスーっと入っていますか?

 

笠原さん:はい。

 

ピッチャーからすると際どいコースに投げ込んだつもりでも、笠原球審は迷いなくボールの判定。恐れ入りました。

 

藤川さん:僕がそちら側に立って見させてもらっていいですか。

 

 

笠原さん:球を見るとき、体や顔は全く動かさずに。

 

藤川さん:目だけですか。

 

笠原さん:はい、そうです。

 

藤川さん:難しいです。どうしてもここ(ホームベースの境目のあたり)を見ちゃいます。

 

 

笠原さん:通る時は見ているけど、(頭の中で球を)ホームベースまで戻して、最終的にはミットを必ず見て判断する。最初に(この世界に)入ったときから教わるので。

自動審判への思い

近年海の向こうでは、審判に大きな影響を与えかねない試みが始まっています。大リーグの傘下トリプルAで、レーダーと複数のカメラを使って、ストライクとボールの判定を機械で行う自動審判が、試験的に導入されたのです。いずれ審判は、機械に取って代わられる日が来るのでしょうか。

 

笠原さん:まだ実用化されていないのは、例えば、大きいカーブとかはストライクと反応するわけですね。しかし、ずっと野球をやっているとわかるが、ショートバウンドになることもある。ショートバウンドはやっぱりストライクじゃないですよね。

 

藤川さん:そうですね。ストライクじゃないです。

 

笠原さん:それが機械ではストライクと判定してしまう。生きているボールか死んでいるボールかを我々も感じるので、それを機械では表せないのが、ちょっとおもしろくないような気がします。

 

 

笠原さんが考える“審判のやりがい”とは

 

「あの人立派だなって言われるような、選手に信頼されるような審判になりたいと思います。」1988年、新人研修に臨む当時22歳の笠原さんのことばです。あれから35年。笠原さんは、審判を志す人たちを育成する立場になりました。

 

 

去年12月に行われたアンパイア・スクール。公募で集まった49人が、声の出し方や姿勢など、審判に必要とされる細やかな動きを学びました。

 

藤川さん:黒衣に徹してジャッジをし、目立たないことが一番正解だということですが。

 

笠原さん:そうですね。名前を覚えられない審判というのは、一番優秀な審判なのかもしれない。減点法なので、審判って。100点からプラスはない仕事なので。いかにマイナスを減らしていくかを努力するという感じです。

 

 

藤川さん:やりがいとは。

 

笠原さん:5万人のお客様の中で無事に試合が終わったときの、感動する感じですかね。

 

藤川さん:試合の最後、見渡しますか。

 

笠原さん:そうですね。

球児論 今日の格言

豊原キャスター:藤川さん、審判の方としっかり話すのは初めてだそうですね。

 

藤川さん:そうですね。現役時代は審判の方と話すことはほとんどなくて、審判の方も私情を挟まないように宿舎・移動の交通機関も選手やチームと一緒にならないように行動しているんですね。

 

川口キャスター:それでは藤川さんきょうの格言をお願いします。

 

 

藤川さん:“最も敬意を払われるべき存在”と改めて感じました。昨今SNSなどいろいろ事情もありますが、きぜんとした態度で振る舞わなければいけない、非常に大変な仕事だと思います。本当に尊敬しています。

 

豊原さん:谷さん、野球をよく観戦されるそうですが、いかがでしたか。

 

谷真海さん:正直、審判に注目することはなかったのですが、すごく奥が深いですよね。本当に縁の下の力持ちだなと思って。減点法ということでしたが、今日の取材で加点になりましたね。

 

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