特集 大野豊さんが見つめた 広島・新井貴浩新監督のキャンプ初日

広島・新井新監督 初キャンプへ
2月1日、宮崎県日南市の天福球場でカープが今シーズンのキャンプをスタートさせました。今シーズンからチームを率いる新井貴浩(46)新監督は現役時代と変わらぬ25番のユニフォーム姿でグラウンドに姿を現しました。
キャンプ初日のセレモニーであいさつする新井監督(2023年2月1日)
練習前に行われた歓迎セレモニーで新井監督は「現役を引退して5年ぶりに現場に戻ってきました。選手たちと同様、よしやってやるぞという気持ちでいっぱいです。私も精一杯選手たちと一緒に汗にまみれ、泥にまみれ、頑張っていきたいと思うのでよろしくお願いします」と意気込みを語りました。
日南市の暖かい日差しのもとスタートした新井新監督のキャンプ初日をNHKプロ野球解説者でカープOB会長でもある大野豊さんはどう見たのでしょうか。
新井監督の笑顔が生み出すチームの雰囲気
大野さんが初日の練習を見ていて感じたのはチームの雰囲気の変化でした。バッティング練習中は新井監督の周辺で選手やコーチの楽しそうな笑い声が幾度となく響き、全体的に活気がある中で練習が行われていました。この雰囲気を作っているのは新井監督の笑顔ではないかと大野さんは考えています。
練習を見つめる大野さんはチームの雰囲気の変化を感じ取った
大野さん
監督としてこの時期多少は余裕もあるんでしょうが、練習中は笑顔がよく見えましたよね。私がブルペンで会った時も笑顔が見られましたし、バッティング練習中のケージの裏でも新井監督が笑顔で楽しそうに選手と接する姿が見られましたよね。その笑顔がチームに良い雰囲気をもたらしていると思うんですよね。
打撃練習中の野間選手(左)に笑顔で声をかける(2023年2月1日)
大野さん
難しい顔でしかめっ面で対応するのもありなのかもしれないですけど、やっぱり選手は監督の笑顔を見れば、ちょっと気持ちが落ち着くというか、変な気負いがなくなるというか、良い効果が生まれる可能性があると思うんですよね。選手たちは監督が笑顔でいられるようにしないといけないですよね。新井監督には『その笑顔を忘れないでくれよ』と言っておきましたら、「極力そういう風にしたいと思っています!」と笑顔で返ってきました。
キャンプの中で新井監督がどう変化するか
練習前にインタビューを受ける新井監督
練習前のインタビューで「キャンプでは目が疲れるまで選手を見ていきたい」と語った新井監督。キャンプ初日はブルペンやバッティングケージの裏で選手たちの動きをモニターなども使いながらじっくりと見守りました。キャンプ初日は選手をじっくりと観察するような新井監督の姿を見て、今後キャンプが進むにつれて監督がどう変化していくのか大野さんは楽しみにしていました。
大野さん
初日に限らずキャンプの第1クールあたりはおそらく選手の雰囲気や動きを見て観察するという感覚でやっていくと思うんですよね。今は見ながら個々の選手の状態をインプットしているんだと思います。ただこれから先、選手が出来上がってくれば気づいたことをコーチを通じてなのか、あるいは監督自らが選手に伝えていくことを徐々にしていくと思います。選手1人1人にアドバイス、コミュニケーションをとる姿も増えてくると思います。このキャンプの中で選手の変化も楽しみですが、新井監督の行動や言葉がどう変化していくのかも楽しみですね。
チーム再建へキャンプで取り組むべきこと
現在4年連続でBクラス(4位以下)の広島が上位進出するために、大野さんは“このキャンプで新井監督が取り組むべき課題の1つは接戦を勝ちきることができるチーム力を磨くこと”だと言います。攻撃面のポイントとして「機動力の強化」を挙げました。
打撃練習を見守る新井監督
大野さん
昨シーズンはチーム5位でしたけれども、打率は.257でリーグトップでした。打点もリーグで3番目ですから悪くないんです。そういう意味ではこの1点で勝敗が決まるという接戦の中での1点をどう取るかなんですよね。となるとただ打つだけでなくて小技も絡めた機動力。盗塁も増やさないといけないし、ヒットエンドランなどの仕掛けも必要になってきます。そうした面が新井監督になって変わってくるのではないかという期待感はありますね。
守備面では「リリーフ陣の安定感」を大野さんはポイントに挙げます。
大野さん
あとはリリーフ陣の安定感が大事になってくるでしょうね。昨シーズン若い投手を起用してだいぶ力をつけてきたんですけど、まだムラがあるんですよ。きのうは良かったけど今日は別人という感じで安定感が欠けていた投手が多かったです。今シーズンはその安定感、安心感を持ってシーズンに入っていけるかが大事になるでしょう。去年活躍した矢崎拓也(去年47試合登板2勝1セーブ17ホールド 防御率1.82)が今年も同じようにやれるか。左の森浦大輔(去年51試合登板24ホールド)そこにケムナ誠(去年43試合登板4勝14ホールド)、松本竜也(去年50試合登板)もいる。ここに新人の益田武尚(東京ガスからドラフト3位)、河野佳(大阪ガスからドラフト5位)、長谷部銀次(トヨタ自動車からドラフト6位)の3人が一軍に割り込んでいけるかがカギになるでしょうね。
ルーキー3投手と話をする大野さん(右から)益田投手、長谷部投手、河野投手
大野さん
今日のブルペンでの投球を見て、特にケムナはキャンプ初日から角度のあるボールを投げていたのが目につきました。リリーフ陣の底上げがこのキャンプからできるかが大事になると思います。すべてを新井監督一人ではできませんから、コーチやスタッフと協力してやっていってほしいですね。
新井監督への大野さんからのエール
大野さん
僕がカープで投手コーチの時にルーキーで入団してきたのが新井“選手”。投げ方を見てやってくれと守備コーチから依頼され、室内練習場で彼と出会いました。内野手の彼に対し「投手のように大きくテイクバックをとって投げよう」と話したのですが失礼ながらあの時は正直なところ、(プロ野球選手としてやっていくには)ちょっと厳しいかもなと感じたことを思い出します。ただ彼は本当に頑張り屋さんだった。できないことを素直に受け入れて、そこを変えるにはどうしたらいいかとずっと取り組んできたんです。泥んこになって厳しい練習を乗り越えて鍛え上げられ、2000安打するまでの選手になった。新井監督は言葉に力を持っています。自身がたたきあげでがむしゃらにやってきて地位を築いた選手だからこそ、その経験から選手にやる気を出させる言葉をかけることができる。一方で選手に楽をしていても上手にならないということを気づかせることもできる。課題を持って努力する、厳しさを乗り越える。そういうことを言葉の端々から伝えることができる人だと思います。選手たちの兄貴分として、シーズンに入ってもそうした“新井らしさ”を発揮してほしいと願っています。