特集 SC軽井沢クラブ 栁澤李空選手「優勝した去年は緊張の『き』の字もなかった」

去年5月の日本選手権で5年ぶり9回目の優勝を果たしたSC軽井沢クラブ。2018年のピョンチャンオリンピック出場後、メンバーは大きく様変わり。年齢も性格もバラバラな4人が今、一体となって再び黄金期を築こうとしています。日本選手権連覇、そして3年後のオリンピックを目指すチームの強さの秘密に迫ります。
そもそもカーリングって?
「氷上のチェス」とも呼ばれるカーリング。そのルールを少しおさらいします。
4人ずつの2チームが、およそ40メートル先の「ハウス」と呼ばれる円の中を狙って、ストーンを交互に投げ入れます。1つのエンドで1チームが投げるのは8回。相手方の最も中心に近いストーンより内側にある味方のストーンの数が得点となります。10エンドを終えた時点で、得点合計が上回った方が勝者です。
ポイントはメンタル 山口剛史選手
山口剛史選手
SC軽井沢クラブの中心選手で、4人のうち唯一、5年前のオリンピックに出場したのが、38歳の山口剛史選手です。日本選手権では2013年から5年連続で優勝を経験しているベテランが、連覇に必要なものとしてあげたのは精神面のコントロールです。
山口選手は2013年から日本選手権5連覇を経験(写真は2022年大会)
山口 剛史 選手
メンタル的に追い込まれたくなくても、自然とそういう気持ちになってしまうことはあると思います。でも、そういうことは気にしないで、自分たちらしいプレーをしっかり出せるようにしたい。
21歳の司令塔 栁澤李空選手
栁澤李空選手
カーリングの試合で常に強いプレッシャーにさらされるのが、チームの作戦を立て、4人のうちで1番最後にストーンを投げる「スキップ」というポジションです。チームの司令塔とも言える重要な役割を担うのが、21歳の栁澤李空選手です。去年の大会の決勝では、第3エンドにスーパーショットを見せて一挙に3点を奪うなど、大活躍しました。スキップを任せられてから2年足らずですが、常に落ち着いてプレーできる精神力を持ち合わせています。
去年の日本選手権決勝でショットを放つ栁澤選手(2022年5月)
栁澤 李空 選手
去年の大会では、ある意味でゾーンに入っていたというか、何でも決まるような感じがしていて、緊張の『き』の字もありませんでした。去年に続いて、ことしも本当に調子がよいので、自信は結構あります。
世界で長く戦い、自身もスキップの経験がある山口選手も、栁澤選手のメンタルの強さに太鼓判を押します。
山口 剛史 選手
プレッシャーがかるポジションにも関わらず、それをすごく楽しんでプレーしています。非常にカリスマ性があり、光るものがあります。
最年少が急成長 山本遵選手
山本遵選手
栁澤選手とは対照的に、去年の大会で大きな重圧を感じながらプレーしていたのが、チーム最年少の高校1年生、山本遵選手です。6歳からカーリングを始め、競技に打ち込むために中学生の時に神奈川県から長野県に移住しました。カーリングに青春のすべてを打ち込む16歳は、この1年間の心身のレベルアップを実感しています。
山本選手(右)は初の日本選手権で重圧を感じながらプレーした(2022年5月)
山本 遵 選手
去年は初めての日本選手権で、本当に緊張して戦っていました。ことしは緊張せずに、選手としてひとまわり成長した自分を、チームメイトやファンに見せたいです。
山口選手に山本選手の印象を聞いてみると、若さ故の調子の波が課題だとしながらも、精神面での成長を感じていると答えてくれました。
山口 剛史 選手
勢いに乗れば突っ走ることができますが、うまくいかないときはへこんでもいます。それでも去年と比べると、この1年で調子の波が相当減って、だいぶ大人っぽくなり、いいプレーヤーになったと思います。
お父さんのような感想だなと思いきや、実際に2人の年齢差は22歳!本当に親子ほども離れています。そう、SC軽井沢の特徴は、その年齢構成のバラツキです。コミュニケーションが特に重要とされるカーリングでは不利な要素になりそうですが、山本選手はむしろ有利に働いていると分析しています。
山本 遵 選手
それぞれの年代の考えや意見を出し合うことで、同い年ではできないようなコミュニケーションがとれます。一方で、先輩方は寄り添ってくれるので同い年のような気分になるときもあります。そこがチームの強みにもなっていると思います。
まとめ役の元先生 小泉聡選手
小泉聡選手
そんな年齢差の大きいチームを真ん中で支えているのが35歳の小泉聡選手です。以前は中学校の教師を務め、仲間からは親しみを込めて「小泉先生」と呼ばれています。個性豊かなクラスをまとめるように、チームの一体感を保つことを意識していると話します。
小泉 聡 選手
ある程度はまとめ役にならないといけないと思っています。ただ、年齢の上下関係なく、思ったことはほとんど言っています。
去年の日本選手権決勝でプレーする小泉選手(2022年5月)
小泉選手が務めるのは、チームで1番最初にストーンを投げる「リード」というポジションです。会場の室温などによって氷の状態は変化し、ストーンの滑り方も曲がり方も全然違ってくるため、最新のコンディションを仲間に伝えるコミュニケーション能力が特に必要とされています。
小泉 聡 選手
何もないところに1投目を投げていきますので、自分自身の感覚が大事になってきます。それを研ぎ澄ませて、アイスの特徴をいち早く察知し、チームメイトに情報共有するというのが、僕の役割だと思っています。
女子に負けない活躍を
北京オリンピックで銀メダルを獲得したロコ・ソラーレ(2022年2月)
国内のカーリング人気は、現状では女子がリードしています。その中心にいるのが、北京オリンピックで銀メダルを獲得し、最高峰シリーズ「グランドスラム」で優勝を果たした「ロコ・ソラーレ」です。
山口 剛史 選手
世界でも上位のチームしか出られない大会で優勝しているので、本当にすごいなと思いますし、刺激を受けてばかりです。
軽井沢から世界へ
今回の日本選手権で優勝すれば、4月に行われる世界選手権の出場権を獲得し、その先のオリンピック出場も見えてきます。軽井沢町出身の栁澤選手は、女子に負けないような活躍を見せ、地元をさらに盛り上げたいと意気込んでいます。
栁澤 李空 選手
チームの中で軽井沢で生まれ育ったのは僕だけなので、僕が活躍するところを見てもらいたいです。オリンピック出場と、金メダル獲得を目標にしてきたので、夢を現実にできるように、日々できることをしっかり積み重ねていきたい。
SC軽井沢クラブの連覇がかかるカーリングの日本選手権は、1月29日に開幕します。
この記事を書いた人

松下 周平 記者
2014年入局。長野局では遊軍を担当、主にスポーツを取材。