ストーリーバスケットボール

Bリーグ新チェアマン・島田慎二さんが語るコロナ禍の戦略

2020-07-27 午前 10:49

「喜んで火中の栗を拾う」。
就任が決まった会見でこう語った、Bリーグの新しいチェアマン・島田慎二さん、49歳。昨シーズン、Bリーグは新型コロナウイルス感染拡大の影響で3月に中断。10月開幕予定の新たなシーズンへ向けて、この難局をどう乗り越えるのか。ウィズコロナの時代、リーグのかじ取りを託された島田さんのビジョンに迫ります。

逆境からはい上がるだけ

49歳の若さでチェアマンに就任した島田さんはバスケットの競技経験はなく、「経営者」として多くの実績を残してきました。

 

 

大学卒業後に就職した旅行会社から30歳で独立。アメリカ同時多発テロの影響で旅行会社の倒産が相次ぐ苦境の中で、事業拡大を成功させます。その経営手腕を買われ41歳の時に千葉ジェッツの代表に就任。倒産寸前だったクラブをリーグ随一の人気クラブへと急成長させ、Bリーグ日本選手初の1億円プレイヤーも誕生させました。そして、このコロナ禍の中でチェアマン就任。人生の節目節目で逆境に直面しながら、リーダーとして組織を引っ張ってきたのです。

 

 

島田さん
「そうしたくてそうしているわけではないんですけどね(笑)。たまたま、めぐり合わせです。30歳で起業した時は2001年のテロが起こって2か月後、その時も旅行業界は今と同じように最悪の時期でした。逆にこの状況で潰れなかったら何があっても潰れないだろうなと、前向きな気持ちで企業したのを覚えています。むしろピンチの方がチャンスなんですよね。落ちているところからは、あとは上がるだけ。厳しいときに仕事を受ける方が、ダメであってもみんな『しょうがないよね』と言いますし、うまくいけば『よくやったね』と言ってくれます。むしろ厳しい状況の方がいいんじゃないかなと個人的には思っていますよ。」

「理念なくして戦略なし」

とはいえ、他のスポーツ同様Bリーグの現状を見ると厳しい数字が見えてきます。リーグ全体の売り上げは発足シーズンの150億円から昨シーズンは220億円と増加しましたが、チーム平均では1760万円の赤字(一昨シーズン時点)。想定外の中断となった昨シーズンの損失は30億円と言われています。このピンチを乗り切っていくために何が必要か。島田さんは自らのリーダーとしての哲学を教えてくれました。

「理念なくして戦略なし」

 

 

島田さん
「厳しい状況であればあるほど、非常に悩ましい難しい決断を迫られます。その時にいかに正しい判断をするか。その正解は無いと思うんですよね。こういう時、正解がわかるのは後々の時代のことなので。では決断する時に何を信じてジャッジするのか。それはやはり理念です。組織の存在意義、我々は何のために競技団体として存在しているんだということをしっかり定義すれば、結果的に難しい決断もしっかりジャッジができるのかなと思っています。もちろん私一人の力ではどうにもできないこともありますが、理念をはっきり打ち出せばスタッフもその方向に動いてくれますから。」

 

 

島田さんが掲げたBリーグの理念は「バスケットボールで日本を元気に」。そこから目標を定め、そのための戦略を実行していきます。
まず目標は「B1・B2合わせて36クラブの1クラブも破綻させないこと」です。その為の戦略として「クラブ支援のために最低7.6億円を確保」、そして「マンスリーアクティブユーザ―(リーグ動画の月間視聴者数)を昨シーズンの5倍に増やす」ことを掲げました。

就任直後の7月3日。リーグスタッフとのオンラインミーティングで、島田さんはこの理念、目標、戦略を全員に共有しました。

 

 

島田さん

「私はどちらかというと攻めの経営者。有言実行していくタイプです。守るばかりではダメなんです。成長戦略なくして、バスケ界の発展はない。守る事と攻める事のバランスを考えてやっていく。過去の前例にはとらわれず判断していきたい。」

 

そして、目標が達成できなかった場合は未達割合に応じて役員報酬を返上することを宣言。クラブ経営を経てチェアマンになったという経験から、リーダーとして危機に臨む強い覚悟をにじませました。

 

島田さん
「私も以前代表として千葉ジェッツにいたので、このコロナ禍において各クラブがどういう状況にあるのかよく分かっています。社長が役員報酬を削ったところもあるでしょうし、社員の賞与をカットしたところもあるかもしれない。本当にやっとのところでみんなやっている。そうしたクラブと一緒に戦うリーグの責任者として、自分が痛みを伴わないで頑張ろうといっても示しがつかないなと思いましたし、その位の覚悟を示さないとスタッフも新しいチェアマンについていこうと思わないだろうなと。」

 

 

島田さん
「私はいつもこんな感じで自分をさらけ出しているんですけど、前職の千葉ジェッツの代表に就任したときに、『もし黒字化できなかったら退任します』って最初の所信表明で言ったんです。さすがに今は『ダメならチェアマンを退任します』なんて無責任なことは言えないですけど、その位の覚悟で望まないと迫力は出ない。迫力が出ないと、ステークホルダーの皆様や世の中の人たちを動かしていくことは難しいと思うので、自分の決意を示したいなといつも思っています。」

「厨房の見えるラーメン店であれ」とは?

バスケットボールで日本を元気にするという理念のもと、リーダーとして組織を、社会を動かしていくために。島田さんにはモットーにしている言葉があります。

 

「厨房の見えるラーメン店であれ」

 

一見意味がわからないこの言葉。島田さんに説明してもらいました。

 

島田さん
「ラーメンを作っている方たちの日ごろの努力、例えばスープを磨き上げていくとか、寝ないで味を追究しているとか、そういうシーンって、普通にラーメンを注文して食べるだけだとお客さんは分からないですよね。『おいしかった』で終わりです。でも厨房が見えてそういう努力が分かると、『ここまで魂を込めて作っているラーメンならそりゃあうまいよね』となると思っていて、これは我々スポーツの世界でも同じじゃないかなと。前職の千葉ジェッツの代表をやっている時、もちろん選手が主役なんですけれども、代表の私や社員もどんどん表に出ていく事がクラブのブランディングにとって重要だと思ってやっていました。社長やチェアマンがどういう思いでやっているか、選手たちやクラブのスタッフ、応援しているスポンサーさんの気持ちもそうですね。そういうものをどんどん世の中に出していく事で、ファンの皆様に感情移入していただけるんじゃないかと思います。『こんなに頑張っているなら応援しなきゃ』と。それがムーブメントやエネルギーになっていくと思うので、私自身も『さらけ出していこう』と思っています。」


コートでの選手のプレーだけでなく、バックヤードの努力も含めて全部が見えるBリーグでありたい。島田さんはこのモットーの通り、これから具現化していく予定の前例のないチャレンジの一端を教えてくれました。

ウィズコロナの時代の観戦体験 その先には

“ウィズコロナ”と呼ばれる時代。観客同士の密集を避けるため、現在プロ野球やJリーグなどでは観客数を制限した状態で試合が行われています。10月開幕予定のBリーグでも、制限によって試合会場に来られないファンが多くなることが見込まれます。そこで島田さんが注目しているのが、テクノロジーで新たな観戦体験を提供すること。現在進めているのは、インターネット配信などでのリモート観戦の新しい形。

 

 

画面上に自分のアバターを出現させることができるパスを販売し、同じ画面の中で試合の映像と自分やファン仲間の応援が見られるという仕組みです。チャンピオンシップなど普段と違ったテンションで応援したい時はファッションが変えられるというアイデアも。リモートならではの技術によって、ファンはもう一人の自分を作って試合を楽しみ、リーグは新しい収益源を得ることがねらいです。

 

島田さん
「コロナの中でお客さまが直接会場に足を運べない状況を、テクノロジーを使っていかに楽しめるようにできるか。もともと考えはいたんですけど、ここを追求していきたいです。お客様が『会場で楽しむ』ことと、『会場に行けなくても楽しめる』ことの両方を用意する。テクノロジーを使った視聴体験を磨いていきたいと思います。そうすれば将来コロナが落ち着いた頃には、テクノロジーとリアルが融合したスポーツの新たな観戦体験が生まれてくるんじゃないでしょうか。」

 

バスケットボールのみならずスポーツ界全体が厳しい状況に置かれた中で、Bリーグがどう進んでいくのか。本当に逆境をチャンスに変える事ができるのか。“ウィズコロナ”の時代のスポーツの一つのモデルとして、島田さんは決意を語りました。

 

 

島田さん
「バスケットボールの競技人口は60万人ぐらいありますので、ビジネスの観点で言えば視聴者数を増やしていく事などやれることは多々あります。まずはビジネスとしてリーグがやっていくためには、厳しい状況の中でも投資をして安全対策を進め、しっかり試合を行っていくという事です。サッカーや野球とは違う、より密閉した空間のアリーナスポーツであるバスケットボールで、安全対策をしっかり取って、かつ外国籍選手も迎え入れる状況の中でシーズンを全うできるかという事は、恐らくオリンピック開催の可否にも影響を与えるのではないかと思っています。バスケ界のためだけではなくスポーツ界全体のために、今シーズンは何が何でもすべての試合を全うすることを一番の目標に掲げて頑張っていきたいと思います。」


 

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