特集 やくみつる 大相撲初場所を前に "令和5年の注目は大関の座の奪い合い"

大相撲初場所は1月8日が初日。去年は6場所すべてで優勝力士が違い、特に後半は平幕優勝が3場所続く混戦の1年となりました。「全場所違う優勝力士」の予想を的中させた好角家の漫画家やくみつるさんがことしの大相撲の予想と期待を語りました。
ことしの大関候補の力士は?
今の大相撲を見ると、候補といわれる力士がみな着実に力をつけて大関の座を奪い合い、星の潰し合いになってしまうのではないか。傑出した人が出にくい状況になっているんじゃないかと思っています。
豊昇龍は5場所三役を務めて九州場所では11勝。確実に大関に向けた一歩をしるしたことは異論のないところだと思います。
豊昇龍は去年、安定した成績を残した
しかし、とかく比較されがちな叔父さん(元横綱朝青龍)が上がってきた時の一気に出るという相撲がなかなかない。僅差の勝負が多いため「次の大関は揺るがない」とまでは言い切れない。そうは言っても逆転勝ちが多いということは悪いことでも何でもないわけで十分に期待できますね。
その豊昇龍に迫っているのが、安定した成績を挙げている若隆景とにわかに戻ってきた阿炎ですね。若隆景はそのまっとうな相撲に磨きをかけてほしいです。いつもスタートがよろしくありませんので、少なくとも5日目ぐらいまで全勝でいくことです。まずふた桁白星の場所を作って大関への起点にしてほしいと思います。
やくさんは若隆景の取り口を評価
阿炎は秋場所を休場してしまったのですが、錣山親方が語っていたところでは、ひじと膝が相当悪くて手術をして休んだということです。しかし九州場所で優勝という確かな実績を残しました。勝負度胸は大関候補といわれる力士の中でもいちばんだと思います。
阿炎(右)は優勝決定戦を制し初優勝(九州場所千秋楽)
そして高安です。九州場所で優勝を逃した後、もちろん悲しい顔はしていましたけれども「まだ自分は強くなるんだ」という意志を感じさせました。負けたのは自分が弱いからだ、自分がはね返していくしかないんだという気持ちの強さを感じさせました。
高安には先行逃げ切りでの優勝を期待
これまでの優勝争いでは先行してはひっくり返されるパターンが多かったので「先行をしないほうがいいんじゃないか」という声もありますが、いや多少こけても追いつかれないくらいの独走先行を見せてほしいですね。
琴ノ若には将来の横綱候補としても期待!
その次が琴ノ若ですね。5番手であげましたが将来の横綱とまで予感させる大関候補というと琴ノ若になると思いますね。
やくさんは琴ノ若を将来の横綱候補に推す
ついこの間までなかなかブレイクしないと言われていたのが、大勝ちする場所が何回か出て上にいったら、もう落ちましたけれど大関たちとも互角以上の勝負を見せました。若隆景にも力負けしなくて相当強くなっている。初場所ひいては令和5年に琴ノ若なりの回答を出すんじゃないかという気がしますね。
大栄翔はなかなか2回目の優勝とまでいきませんけれども、年齢的にもうギリギリのところにきました。なんだかんだ言ってるうちにことしが勝負だろうと思います。さらにこの中に明生を入れていいだろうし若元春も入れてもいいかなと思います。
昭和47年と似ている大相撲界 その理由とは?
去年は年6場所すべて優勝力士が違いました。私はこれを同じように全場所優勝力士の違った51年前の昭和47年(1972年)と状況が似ていると言っているのですが、昭和47年はのちの横綱北の湖が10代で新入幕をしてきていました。北の湖は初場所で1回はね返されましたが、これはどう見ても強くなるというのが自明の理でした。そして当時の北の湖になぞらえたくなるのが熱海富士ですね。
やくさんが横綱北の湖をイメージするという熱海富士
初場所はいったん十両に後退しますが、まぁ毎場所強くなっていくんだろうと見ています。北の湖のように一気に主役に躍り出るというようなこともあるかもしれないというくらいの希望を持ちたいですね。
さて初場所ですが、関脇と小結の数が膨れ上がりました。ここから抜け出す力士がいるのか。三役で優勝となれば確実に大関へのスタートラインです。豊昇龍に至っては13勝か14勝で優勝すれば、いきなり大関にという声も上がってくると思うんです。また若隆景も14勝ならわからない、一気にいくかもしれないですね。
物足りない貴景勝 正代と御嶽海には復活してほしいが…
貴景勝に横綱昇進の可能性うんぬんという話が出ていますけれどもあまり現実味がない。ピンとこないというのが正直なところです。
貴景勝は若隆景にはたき込みで勝って優勝決定戦に進んだが…(九州場所千秋楽)
九州場所で優勝争いに絡んだのはよしとしても、前半でいったん脱落したかのような展開で、場所を引っ張っていったという印象がない。物足りなさはありますが、よく大けがから復活して孤塁を守っているという感じはしますね。
正代と御嶽海はこのままいったら残りの土俵人生を多くの陥落大関がそうだったように、平幕の実力者として過ごすのか、もう1回奮起するのか。正代は何かのはずみで腰を突きつけて出ていった時の無類の強さがどうしても脳裏にあるものですから、なんかこう工夫できないものなのかなと思います。
正代(奥)が押し出しで御嶽海に勝利(九州場所14日目)
腰を突きつけるという最大の武器をまったく使っていないんですよね。まぁやれればとっととやっているという話なんでしょうけれども。そこにもう一度活路を見いだしてほしいですね。差し身もいいわけですからまだ見切るには早い気がしています。高安は復活している訳ですからね。
相撲専門雑誌 NHKG-Media大相撲中継初場所号から