ストーリー野球

筒香嘉智は武士のように 「バット1本持ってアメリカへ」

2020-02-25 午後 03:49

アメリカ・大リーグでもキャンプがスタート。今シーズン、レイズに移籍した28歳の筒香嘉智選手はルーキーシーズンに臨みます。松井秀喜さん以来と言っていい、久々の長距離打者の大リーグ挑戦。大きな期待を背に、筒香選手が胸の内を語りました。サンデースポーツ2020での放送に入りきらなかった未公開部分を含む、完全版です!

楽しみと不安が行き来して

「うれしい、うれしいです。」

去年12月、レイズ入団会見での筒香嘉智は、終始笑顔だった。

 

「勝つために君の力が必要だと何度も言って頂きました。キャッシュ監督の熱意がすごく伝わって、レイズに来ないと監督が夢に出てきそうだったので(笑)。それでレイズに決めました。」

 

日本でのイメージとは一味違う饒舌さ、ジョークを交えたスピーチ。長年の夢がかなったこと、首脳陣から「レイズのリーダーになってほしい」と期待をかけられていることに、心底喜んでいるようだった。
しかし、笑顔もここまで。会見から約1か月半後に行われたNHKのインタビュー。筒香はほとんど笑顔を見せることなく、決して浮足立った発言はしない。夢の大リーグを目の前にした、期待と不安を包み隠さず語ってくれた。

 

 

「まだ何も始まっていない、という感覚ですね。僕にとってまだ大リーグは想像の世界。楽しみな部分も不安ももちろんたくさんあります。日本でのルーキーイヤーとも、また違う不安というか。日によって心が毎日変わっている状態ですよ。でも結果が出ないと不安は絶対消えない。現段階で準備ができていると思っていても、向こうへ行ったら必ず問題が出てくると思うので、そのときにどう対応できるかだと思っています。」

どんなバッターを目指すのか

筒香が移籍するレイズは20代の選手が多くを占める若いチーム。所属するアメリカンリーグ東地区では、ヤンキース、レッドソックスと強豪がそろう中、昨シーズンは投手力を武器に地区2位となりプレーオフに進出した。

 

昨季のレイズ、プレーオフでは地区シリーズまで進出

 

しかし、打線はチーム打率が30球団中12番目、ホームランは21番目と長打力に課題があった。近年の「フライボール革命」という言葉に現れているように、ゴロではなくフライで長打を狙えるバッターが重宝されるのが、大リーグのトレンド。となると、プロ野球だけでなく国際舞台でも結果を残している日本屈指の長距離砲、筒香にかかる期待は自然と大きくなる。その中で、筒香はどのようなバッティングを見せていきたいと思っているのか。その理想像を聞いた。

 

 

「どうなんでしょうね…。たぶん自分を“見せに行こう”としたら僕は狂うと思う。アピールとは違うんですけど、自分をどうにか見せようとした瞬間に、僕は崩れ出すのかなと思っています。ちょっと表現が難しいですけど、理想はいかにも“メジャーで何年もプレーしていました”というような選手ですかね。そんなプレーができたらうまくいくんじゃないかな。」

 

慎重に考えを巡らせながら、彼はちょっと変わった視点からその理想像を表現した。日本の野球を見慣れているファンからすれば、やはりスラッガー・筒香嘉智には打率、ホームラン、打点といった主要な記録を期待しがちだ。しかし、日本に比べて収集されるデータの量も質も比較にならないほど充実した大リーグにおいては、見られる数字も幅広い。加えて資金力に恵まれているとは言い難いレイズは、特にデータの活用に積極的なチームだと言われている。世間の目ではなく、チームに何を求められているか。その期待に応えることでチーム内での信頼を得る。それが「メジャーで何年もプレーしているような選手」なのだと筒香は語る。

 

首脳陣からの筒香への期待は大きい

 

「もちろん誰が見てもいい数字を残し、中にいる人しか分からない数字もしっかり評価されているのが理想です。一番分かりやすい例で言えば、日本ではやはり「打率」が評価されますけど、アメリカでは「出塁率」を重視します。あと、ピッチャーに何球投げさせているとか。そういう数字は日本だとなかなか表に出ないけど、向こうへ行ったら大事な要素だと思います。監督・コーチから何を求められているか、チームが勝つために野球をやるわけですので、そこを一番に評価される選手になりたいですね。」

何よりも準備、大切なのは準備

では、初めてのことだらけの大リーグで、その理想に近づくにはどうしたらいいのか。もちろん正解はわからない。ただ筒香には「これだ」という明確な答えがある。

 

「もう、“準備”しかないんじゃないですかね。」

 

 

「準備は僕の中で、すごく大きな割合を占めています。野球はもともとすごく失敗が多いスポーツ。そして失敗したらプレーが止まる。他のスポーツはプレーが流れていくものも多いですけど、野球は失敗で一回一回止まるので、それを怖がっていたらプレーできないですよ。失敗を怖がるのは、準備不足だからだと僕は思います。失敗したときの準備も成功するための準備も、プレーに入る前にしないといけない。準備していても想定外のことは絶対起きますし、行ってやってみないと分からないというのが本音ですけどね。」

キーワードは「反対方向」

今シーズン、レッズの秋山翔吾、そしてレイズの筒香の2人のバッターが日本から大リーグへ挑戦する。「二刀流」の大谷翔平を例外とすれば、バッターの大リーグ移籍は2013年の田中賢介以来、実に7シーズンぶりのことだ。それだけ長い間、日本のバッターたちはアメリカで高い評価を得ることができなかった。その理由のひとつは、これまで多くの日本選手たちが大リーグのピッチャーの投げるボールへの対応に苦しめられてきたからだ。

 

あの松井秀喜も、動くボールへの対応には苦しんだ

 

その代表ともいえるのが大リーガーの多くが操る「手元で動くボール」だ。このボールにバットの芯を外され、ゴロアウトを喫する場面を日本選手は何度となく味わってきた。このボールを攻略するため、筒香はあるバッティング技術を磨き続けてきた。ボールに逆らわずに反対の方向へ打つ。つまりレフト方向に打つ技術だ。

「反対方向へのバッティングというのは、僕の中で一番大切な要素です。反対方向に打つ技術は、動く球を打つ技術と100%に近いぐらい直結すると僕は思っていますから。」

 

4年前のオフ、ドミニカで武者修行した筒香

 

そのきっかけとなったのは2015年オフ、ドミニカのウインターリーグでプレーした経験だった。各国から集まる若手選手たちとしのぎを削る日々。連日のように動くボールと対戦する中で、ボールをできるだけ引き付け角度を微調整するバットコントロールが重要だと気付いたのだという。

 

「動くボールは、自分ではいい当たりだと思っても守備の正面に行ったり、ゴロになってしまう。僕の場合、引っ張ってライト方向を狙って強く打とうとすると、インパクトの直前にバットの角度が変えられないんですよね。でも反対方向、つまりレフト方向を狙うと“あ、これショートゴロになる”と感じた時に、ちょっとバットに角度をつけて三遊間に打ちに行けるんです。この何ミリの角度ですごくバッティングが変わる。反対方向へのインパクトの角度を瞬間的に微調整する技術が、結果の大半を占めていると僕は思っています。ドミニカに行かせていただいたり国際大会を経験させていただいたりした中で、動く球に対してはそんなに嫌なイメージはないです。」

 

 

動くボールへの対策として、反対方向へのバッティングに自信を見せる筒香。それでも、大事なのはアメリカに渡ってからいかに適応していくか。そこに油断は微塵もないようだ。

 

「速いボールは目の慣れが多くを占めると思っているので、そこは向こうに行ってから解決できる部分はあるかなと。ただ変化球がどういう変化しているのか、そのあたりは行ってみないと何とも言えないですね。映像では見ていますが、日本のプロ野球の映像と大リーグの映像では、撮影している角度が違いますから。アメリカでの打席で体感してみないとイメージのしようがないですね。」

未来の子どもたちのために

そして筒香にとって大リーグ挑戦は、日本の野球の未来のための挑戦でもある。先月中旬、筒香の姿は生まれ故郷の和歌山県にあった。子どもたちを対象にしたトレーニング教室。そこで伝えたのは、挑戦することの重要性だった。

 

「野球は失敗が多いスポーツです。10回打って7回失敗できます。色々なことにチャレンジをして、失敗をたくさんして、楽しく積極的に思い切ってプレーしてください。」

 

これまでも、子どもたちの野球環境について様々な提言をしてきた筒香。自らが子どものころから夢見てきた大リーグ挑戦によって、子どもたちに見せたい姿がある。

 

「子どもたちが憧れるような選手になることが一番です。野球少年が“俺も筒香みたいになりたい”と思うような、野球をやっていない子に野球をやりたいと思ってもらえるようなプレーをしたい。もちろんいい成績を残せばまた日本選手、特に野手がアメリカで評価される可能性も高くなりますし、自分にはいろんな意味で責任感があると思っています。」

 

では、そのために必要な事とは何か。

「心と体が一致していれば、必ずそういう姿は見せられる。僕がまず心と体を一つにすることだと思います。」

バット一本持って勝負

2020年、日本野球界において大きなイベントでもある、東京オリンピックが半年後に迫っている。これまで継続的に日本代表に召集されてきた筒香だが、今回の大リーグ移籍によりオリンピック出場の可能性は極めて低くなった。もちろん日の丸をつけて金メダルを目指したい気持ちはあった。それでも、自らの子供のころからの「夢」を選択した。その選択の重みが、彼の言葉にはこもっている。

 

「みなさんの期待に応えることが一番。バット一本持って、それだけで勝負しにいくぞという感覚です。」

 

例えるなら、刀一振りのみを携えて戦へ向かう「武士」のような、まっすぐな答えだった。そう彼に伝えると。

 

「武士に怒られますよ。ははは(笑)。」

謙遜の言葉と共に、おそらくこの日初めての笑顔ではにかんだ。

 

 

最後に、取材班は「色紙に決意を書いてください」と筒香に頼んだのだが、丁重に断られてしまった。その理由を尋ねると。

 

「わからないので書けません。1年やってみないとわからないから。1年後に書きましょう。」

 

1年後、ルーキーシーズンの勝負を終えた「武士」、筒香嘉智がつづる言葉は果たして――。


 

この記事を書いた人

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大越 健介 キャスター

昭和60年NHK入局、初任地は岡山局。政治部の記者、NW9キャスターなどを経てサンデースポーツ2020キャスター。
"スポーツをこよなく愛する親父"の代表として自ら楽しみながら伝える。

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