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特集 藤井皓哉 ソフトバンク中継ぎで戦力外から復活

野球 2022年12月14日(水) 午後5:30

誰ひとりとしてこうなるとは…

藤井皓哉投手は26歳。2015年にドラフト4位で広島に入団し1軍の登板がなかったおととしオフに球団から戦力外通告を受けた。その後、独立リーグで結果を残し今シーズンはソフトバンクに育成選手として入団、開幕前に支配下契約をかちとった。

 

CSファーストステージ第2戦の8回に登板し無失点(2022年10月9日)

中継ぎの柱としてチームで2番目に多い55試合の登板。5勝1敗3セーブで22ホールド、防御率1点12の好成績を残した。12月13日の球団との契約更改交渉で今シーズン(年俸650万円)の8倍に迫る年俸5000万円で来シーズンの契約を更改した(金額はいずれも推定)。

 

契約更改交渉後の会見で笑顔を見せた(2022年12月13日)

藤井投手

金額は想像を超えていた。去年12月に育成契約をした時、誰ひとりとしてこのようになると思っていなかったと思う。

ソフトバンクは今シーズンに向けて中日から又吉克樹投手を補強した。中日時代の8年間で400試合に登板し昨シーズンも66試合で防御率1点28、3勝2敗8セーブで33ホールドと実績十分だった。ところが又吉投手が7月上旬の試合で右足甲を骨折しチームを離れた。そんな苦境の中でフル回転してきたのが藤井投手だ。「誰ひとりとして…」と藤井投手は話したが、齋藤学1軍投手コーチは活躍を予感していたひとりだ。

 

宮崎キャンプの紅白戦で好投した(2022年2月)

齋藤1軍投手コーチ

春のキャンプで目立っていたので最初から使えるのではないかという見方をしていた。オープン戦も順調でほとんど打たれなかった。どこまで持つかという不安はあったが、投げているボール自体はうちの中でもトップクラスだった。

“今までの自分と違う気持ち”で今季ワーストの3失点

前日まで防御率0点台と抜群の安定感を誇っていた藤井投手が崩れた。8月13日のオリックス戦、4対1とリードして迎えた8回のマウンドへ。ここで今シーズン自身最悪の3失点、終盤になって同点に追いつかれた。

藤井投手

状態がそのころ良くなかったので不安な気持ちも多少あった。今までの自分と違うような気持ちで投げてしまった。先発(武田翔太投手)が粘り強く投げていたし、8回を任されてる以上勝っているまま(次の投手に)渡せるのがベストだった。悔しいという気持ちがすごく強かった。

ところが9回ウラに1番の周東佑京選手がホームランを打って、チームはサヨナラ勝ちした。

 

周東選手がサヨナラホームランを打ち藤井投手を救った(2022年8月13日)

藤井投手

周東さんのホームランですごく助けられた部分もある。そういった意味ではすごく大きい試合だったと思う。

起用に応えトラウマを断ち切る

次の出番はサヨナラ勝ちのあと2連敗し迎えた8月17日の西武戦。5対3とリードした8回に登板した。

藤井投手

いつも以上に緊張した。トラウマを断ち切らないと僕も次に進めない。成績も残せない。どんな形でも「0」で抑えて帰ろうとマウンドに上がった。

相手は今シーズンホームラン王に輝いた4番の山川穂高選手から始まる攻撃だった。藤井投手は持ち味の勢いのあるストレートと鋭く落ちるフォークボールで見事三者凡退に封じた。前回の失敗にもかかわらず、終盤のリードした展開で起用した首脳陣の期待にしっかり応えた。

藤井投手

一度、戦力外通告を受けている。NPBに戻りたいと思って、去年1年間、独立リーグでやった。やっと戻って来てこうやって1軍で投げている。ここでそのままずるずるいってしまうと、今までと変わらないと思った。強い気持ちを持ってやろうと思った。

レギュラーシーズン最終登板で涙 

ソフトバンクは2年ぶりとなる優勝へのマジックナンバーを「1」として残り2試合に臨んだ。10月1日の西武戦は引き分け以上で優勝が決まる試合だった。しかし4回に失った1点が重くのしかかる展開の中、9回ワンアウトから柳田悠岐選手がホームランを打ち1対1の同点。しぼんでいたこの日の優勝の可能性がふくらんだ。そのまま11回ウラに突入し、1点取られたら終わりという場面で首脳陣は藤井投手をマウンドに送った。西武は1番からの好打順だったがしっかりツーアウトを奪った。このあとヒットを打たれ、ツーアウト一塁で4番の山川選手を迎えた。その4球目、得意のフォークボールを完璧に捉えられてサヨナラ負け。この日の優勝はなくなった。

 

レギュラーシーズン最後の登板で初めて敗戦投手となった。藤井投手はあふれる涙を抑えられなかった。


サヨナラホームランを打たれた藤井投手 うなだれて引きあげた(2022年10月1日)

藤井投手

流れが少しずつこっちに来ている中でのホームランだったのでよけいに悔しかった。勝ちか引き分けで優勝という場面であの11回に投げさせてもらえるところまでいったというのは自身としてはいいと思う。でもそういうところで抑える投手が一流になっていくと思った。そこは来年以降の僕の課題だと思う。

翌日10月2日にソフトバンクは敗れ、ライバルのオリックスが勝って、逆転優勝を許すことになった。

悔しさをバネに先発での活躍誓う

ソフトバンクではこのオフに7年連続でふた桁勝利をあげていた千賀滉大投手が大リーグにいくことになり先発投手陣の整備が求められる。藤井投手は来シーズン先発転向を目指している。

 

秋季練習で調整する藤井投手(2022年10月28日)

藤井投手

去年、独立リーグでは先発をやっていた。NPBの舞台で先発に挑戦しその良さを経験してみたいと思った。ことし1年で先発が長いイニングを投げればリリーフの負担は減ると思った。先発した試合は長いイニングを投げられるピッチャーになりたい。来シーズン以降、あの負けがあったからこそと言えるように取り組んでいきたい。

藤井投手は戦力外通告という挫折を味わいながらもくじけなかった。その都度、置かれた環境を生かして進化してきた。中継ぎから先発へと役割が変わる環境においても、あと一歩で優勝を逃した悔しさをバネに自身を高めていくに違いない。
 

この記事を書いた人

中村 成吾 記者

中村 成吾 記者

令和2年NHK入局。福岡局で警察担当を経て、プロ野球・ソフトバンクを取材。趣味はクラシック音楽をきくこと。

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