特集 友野一希 NHK杯フィギュア で”脱 代打の神様" さらなる高みを目指す 男子シングル

フィギュアスケート・グランプリシリーズ第5戦のNHK杯が11月18日から20日まで札幌市で行われます。
4年後のミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックに向けた最初のシーズン、男子シングルに2年ぶり出場の友野一希選手は今回のNHK杯をきっかけに新たな自分を作り出し、世界への飛躍を期しています。
グランプリシリーズや世界選手権に予定選手の欠場によるいわゆる“代打”で多く出場。
このうちことし3月の世界選手権ではショートプログラムで初めて100点超えを果たし6位に入賞しました。
世界選手権男子フリーでの演技(2022年3月)
こうした経緯から友野選手はフィギュアスケート界で”代打の神様”と言われています。
24歳で迎えた今シーズン、その立ち位置から脱却しようと強い決意を示しています。
友野選手
(代打の神様と呼ばれることは)僕にとって全然ほめ言葉ですしチャンスをものにする力があることだと考えています。世界選手権でもそれを少しアピールすることができたかなと。人間は追い込まれると意外に力を発揮できると感じていて、けっこう自己ベストを更新しています。常に出場できる位置にいたから機会が回ってきたとも思うし、その代表にはなれないけれどその一歩手前には安定していたと。あとは気負わず思い切っていけることがいいんじゃないかなと。
友野選手によると"代打”で出場したのは過去に5つの国際大会。世界ジュニア選手権、NHK杯、世界選手権、四大陸選手権、直近がことし3月の世界選手権となっています。これまでの経歴を肯定的に捉える一方で、24歳となって迎えた今シーズンは日本を代表する選手として大会に出場することを強く意識するようになっています。
四大陸選手権で2位となりメダルを掲げる(2022年1月)
友野選手
日本代表では四大陸選手権とか世界選手権とか大きい試合を経験しました。グランプリシリーズもそうですが、日本代表として行くのは勢いだけじゃない、いろいろ背負わないといけないものがあります。最後は自分自身がどうしたいかなので一緒だと思うんですが、代表での試合はなんか違った難しさがあるという風にいろいろ経験して感じています。代打も代表ではあるんですけどちゃんと全日本選手権で勝ち抜いて代表をつかみとって世界選手権に行きたい気持ちがあります。自分はそこを目指していかなければならないし、そこに行けると思っているのでそれだけ練習をしなきゃいけないなと思っています。
ことし3月の世界選手権は6位入賞を果たし一定の手ごたえをつかんだ一方で、スケートに取り組む姿勢を改めて自分自身に問いかけるきっかけになったと言います。
それは同じ日本代表として出場し、優勝した宇野昌磨選手、2位となった鍵山優真選手との差を痛切に感じたからでした。
2022年3月に行われた世界選手権の表彰式でメダルを掲げる2位の鍵山選手(左)と優勝した宇野選手(右)
友野選手
表彰式をしっかり目に焼き付けて見ていたんですけど2人の背中の大きさをすごく感じました。最後にメダルを取るか取らないかの差はスケートにかける思いやどれだけスケートに力を注ぐことができているかだと思いました。僕は2人に比べたらまだ足りなかったなってすごく感じていて悔しさもありますけど、今の自分の実力をしっかり知ることができたのでよかったと思います。一流選手になるにはあとどのくらいの努力をしなければいけないのかすごくわかりましたし、もっともっとスケートに向き合わなきゃいけないと。
具体的に見えたことを聞くと、次のような答えが返ってきました。
友野選手
練習の量とか質もそうですけど姿勢なんですよね。なんていうんだろう見ているところが違うんです。誰だって目標はあると思うんですが「こうなりたい」とか「ああなりたい」ということを何の疑いもなく本当に信じてそれのためだけに頑張るという姿勢というか気持ちです。例えば漫画の主人公、これ一番わかりやすいと思うんですが、主人公は例えば「海賊王になりたい」とか「世界一の野球選手になる」とか「俺はメジャーにいく」とかよくあるじゃないですか。それをどんどん本当にかなえていく物語なんですけど、最初はみんなに馬鹿にされたりできるわけないと思われたりするんですが、ひたすらそれに向かって、それを信じて突き進めている人が本当に一流の選手だと思うんです。そのために何を言われてもどう思われてもどう見られていても自分を信じて磨き切れる人。それが一流の選手だと。僕にはそれがまだまだ足りなかったから、メダルを取る人と取らない人の差はそこにあるなと。目標を達成するために1つ1つのことを全力で取り組むってことが一番大事だと思っていて、トップの選手は練習だったり練習だけではなく私生活だったりそういうところにもあらわれているのが一流選手だと僕は思います。
友野選手は世界選手権の後、自身の練習に取り組む意識や姿勢に変化が出てきたことを自覚しています。
世界選手権男子フリーでの演技(2022年3月)
友野選手
僕はどうしても甘えが出てしまうので行動を変えて自分の生活から見直そうと。競技のために練習のためにそうしたことが一番よくできるために生活しようと切り替えていきたいと思いました。どれだけスケートにかけることができるかなので。先が見えないからその努力が無駄になるんじゃないかとか成長できないんじゃないかとか誰だって怖いと思うんですけど、せっかくここまで成長しているんだから、僕もかけてもいいんじゃないかと思っています。五輪シーズン(2021‐2022)もそのつもりでやっていましたし、ことしはことしの目標に向かっていかに自分の時間を注ぎ込めるか。練習だけじゃなくて生活すべて目標に向かって努力できるかなので、少しずつですけど自分の意識を変えていかないといけないと思っています。
さらに成長させるためには、年齢に関係なく周りにいる選手の良さをどん欲に吸収することも大切だと感じています。
友野選手
どんな選手でもいい所を見ようというのは昔から心掛けていて自然と身につきました。これは自分のいい所だと思っています。だから羽生結弦さんと会った時はめっちゃ感動しました。少し話をしてあとはただただ練習で背中を見て衝撃を受けて自分の中でモチベーションになるという。でも普段の生活をする中で同世代の選手や(宇野)昌磨くんや(鍵山)優真くん、特に優真くんなんかはジュニアの時からの成長過程を見ているので一番大事なところを見ることができてとても貴重だし大事なことだなと。僕はいいと思った人はどんな人でも取り入れて自分のものにしようという気持ちがあるので、ジュニアの選手でも全然嫉妬しますし、スケーティングが上手だなとかスピンの1つ1つの動きでの指先の動かし方、ジャンプの高さなんかでも僕より全然いいところがあると思うことがすごく多いですね。大事なのは総合力ですけど、人ってそれぞれに得意なことがあるじゃないですか、常にいいところを見るようにしていますね。スケートだけではなく勉強への姿勢やジュニアの子どもでもいろいろアドバイスをする中で学びがあります。
話に出た鍵山選手についてさらに尋ねると、いろいろ技術を吸収しようとしていると明かしました。
世界選手権の公式練習で言葉を交わす友野選手と鍵山選手(2022年3月)
友野選手
優真くんは腕の使い方、ジャンプのタイミングの取り方、本当に幅があって高さがあってすごいジャンプを跳ぶのでなんだろうと。あとは本当にすごくわかりやすい、見ててわかりやすい。それだけ洗練されたジャンプを間近に見る機会がたくさんありました。もちろん羽生さんや昌磨くんとも何回も一緒に練習して何回もビデオを見てというのもあるんですけど。特に優真くんは見る機会が多くてタイミングとかあとはジャンプに関する考え方、タイミングがこうですとか腕の使い方がこうですとか、優真くんも教えてくれるのでそういうのを共有しながら、僕は手本にしてジャンプをやっていました。
今シーズンは11月に行われたグランプリシリーズのフランス大会で3位に入りました。
友野選手はNHK杯に向けて自身のスケーティングに手ごたえも感じています。
グランプリシリーズフランス大会で演技する友野選手(2022年11月)
友野選手
世界選手権もありましたし、四大陸選手権やグランプリシリーズなど昨シーズンから自分の中で表現の評価はかなり上がってきたと感じています。また全体的にプログラムのコンポーネンツ、下の点数、演技点はかなり上がってきたと。安定して高い点数が出るようになったと思います。あと少しでトップスケーターと戦えるぐらいの点数になってきているので、そのあと少しを突き破りたいです。せっかく頂いている評価を無駄にしないようにしっかりそれをキープして伸ばしていけるようにしたいです。
さらなるレベルアップに向けて現状の課題と意識して取り組んでいることについても聞きました。
友野選手
僕が目指すものとして人に演技を見てもらって何か1つでも見てよかったとか自分の滑っている姿を見て少しでもいい気持ちになってほしいです。あした頑張ろうでもいいですしきょうよく寝れそうでもなんでもいいんです。すごいだけで終わるのは嫌ですね。何かを伝えられるような演技ができたらと。その人その人で感じることは違うと思いますけど、感動してもらったり幸せになってもらったりと何でもいいんです。もう今は4回転の時代になっていて冒頭の4回転のジャンプを決めるだけではなく演技の質や全体の完成度が一番大事になってきます。またショートとフリーともにミスのない演技をする。トップ選手はコンスタントにこなしているので大事になってくると思います。また演技後半まで気を抜かずに演技をこなすこともですね。コンビネーションジャンプの取りこぼしも多いですしそういった部分の取りこぼしもなくしていきたいです。さらにステップシークエンスについては手と足がバラバラにならないようにしっかり角度をそろえる、首のラインや目線も1つ1つ決めているので、この振り付けの時はしっかり下を向く、首を回すとか全部細かいところまで気を使ってやらないといけない。考えながらやっていたら試合はできないので、それを考えなくてもできるように繰り返して自分の体になじませていくと。全部を気を使ってやれるのが理想です。細かいところまで突き詰めてやれている選手は素晴らしい表現者だと思います。例えば宮原知子さんや僕が目標としている町田樹さんなどそういった表現の面ですばらしい選手は本当に細かい部分まで丁寧に丁寧にやっています。トップの選手はそれだけ演技に気を使ってやっているので、ただダンスが上手いというのではダメなんです。1つ1つの要素、どこから体を動かしてとかどういうイメージでやっているのかを考えながら練習ではそれを何回も繰り返して何も考えなくても出せるようにしていけたらと。難しいですけど。
友野選手が目標とする町田樹さん(2014年のソチオリンピック)
今シーズンの目標については
グランプリシリーズはファイナルに出るのが1番の目標になります。これまで片方の表彰台に乗ったことはあるんですけど、両方の試合で表彰台に乗ることはまだ達成できていないのでしっかり表彰台に乗る演技をしてファイナルに行きたいですね。それが1つのトップスケーターの道だと思っています。ファイナルと全日本選手権で表彰台に乗る、そして世界選手権でこんどは大きいメダルを取るというのが目標になっていきます。
最後にNHK杯への意気込みを聞きました。
友野選手
NHK杯では1番を目指して昌磨くんや(山本)草太くんなどと必ず戦っていくことになるので、そういった選手に負けないっていう気持ちで1番を狙って頑張っていきたい。