特集 翔猿 大相撲九州場所で新三役の小結 “猿の速さ”と“ゴリラの力強さ”で活躍を誓う

「猿みたいな速い動きだけではなくゴリラっぽい力強さもつけていきたい」
しこ名にかけて目指す相撲を表現した翔猿。
上位に力負けしないよう押し相撲を磨き、九州場所では新三役として土俵に臨む。
抜群の運動神経とスピードが持ち味!
「翔猿」という一風変わったしこ名。
そこには「猿のような速い相撲」で見ている人を楽しませたいという思いが込められている。
平成4年、さる年生まれの30歳。
身長1メートル74センチ、体重133キロ。
先場所の幕内力士の平均より25キロ近く軽いが、抜群の運動神経とスピードで体格のハンデを補ってきた。
前頭筆頭で迎えた9月の秋場所は四つに組むと力を発揮する横綱・照ノ富士を相手に初の金星を挙げた。
俊敏な動きで距離を取り、最後はもろ差しから一気に寄り切ってみせたのだ。
そして10勝5敗の好成績を残し九州場所では新三役の小結に昇進。
秋の巡業では写真撮影を求めるファンが長い列をつくるなど人気力士の1人として定着した。
翔猿
少しずつやっていけば三役になれると信じていたのでうれしい。相手を翻弄するような“翔猿相撲”をファンに楽しんでもらいたい。
ゴリラにもなりたい その真意は?
一方で三役昇進に向けて「押す力の強さ」も鍛えてきた。
去年の夏場所からことしの初場所まで5場所連続で負け越し、上位陣と対戦した時のパワー不足を痛感したからだ。
半年ほど前に「年内に三役昇進」という目標を立てて課題の克服に取り組んだ。
目指したのは「ゴリラ」のような力強さ。
通常、稽古の最後の仕上げに1回行うぶつかり稽古。
準備運動後と三番稽古の前後の3回に増やし意識的に体重の重い力士の胸を借りた。
その結果、先場所は力で押し込まれる場面が減って逆に攻め込むことができるようになり、三役以上の力士にも勝ち越すことができた。
体重200kgの剣翔(左)と翔猿のぶつかり稽古
翔猿
今まで押しきれなかった相手を押しきれるようになった。体重は変わらないが「大きくなったね」と周りにすごく言われるようになった。猿みたいな速い動きだけでなく、ゴリラっぽい力強さもつけていきたい。
出世が遅かった悔しさを胸に
壁にぶつかりながらもつかみとった新三役。
学生相撲出身では史上2番目のスロー昇進となった。
その原動力となったのは同じ部屋の同世代の力士たちに出世で遅れをとった悔しさだ。
追手風部屋には翔猿のほかに現在十両以上の関取が大栄翔、遠藤など5人いる。
全員が30歳前後とほぼ同世代。
この中で翔猿は十両昇進から新入幕まで3年かかるなど出世が一番遅かった。
その悔しさを今も胸に刻んで相撲と向き合っている。
翔猿
みじめさと悔しさで少しずつ気持ちは変わっていった。少しずつでも努力して上位にいけたらいいと頑張ってきた。
“小さくても努力すれば通用する”
初の三役に「プレッシャーも感じる」と語る翔猿。
地位の重みを背負いながらも、持ち味の素早い動きに力強い押しを加えた新しい“翔猿相撲”でさらなる活躍を誓う。
翔猿
小さくても努力すれば上位には通用すると思う。どんどん前に出ていく相撲を取っていきたい。まだ上があるのでどんどん上を目指して頑張っていきたい。
この記事を書いた人

足立 隆門 記者
平成25年NHK入局。甲府局、山形局から地元の大阪局を経て、スポーツニュース部。30代半ばにして初の東京暮らし。