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特集 熱海富士 大相撲九州場所で新入幕 猛稽古で活躍を誓う

相撲 2022年11月10日(木) 午後7:15

大相撲九州場所で新入幕を果たした20歳の熱海富士。

現役最年少の幕内力士はふるさとへの思いを胸に猛稽古を積み活躍を誓う。

スピード出世の成長株

表情豊かな熱海富士。
勝った時は満面の笑みを見せ、負ければうつむいて悔しさがにじむ暗い顔をする。
これがファンの心をわしづかみにしている。
今回のインタビューでも、にこにこしながらこう話した。

熱海富士

カメラを向けられると笑っちゃう。ちょっと緊張して笑っちゃうところは昔からありますね。

 

熱海富士は魅力的なキャラクターだけでなく実力も兼ね備えた力士だ。

おととしの11月場所で初土俵を踏み、恵まれた体格を生かした圧力のある相撲でどんどん番付を上げていった。
ことし9月の秋場所は勝ち越せば新入幕の可能性が高い十両3枚目で臨み、7勝目を挙げたあと3連敗とやや苦しんだものの8勝7敗と勝ち越し。

初土俵からわずか2年で新入幕を果たした。

所要12場所での新入幕は年6場所制が定着した昭和33年以降、元横綱・朝青龍などと並んで歴代8位のスピード出世だ。

ふるさと”熱海”への思い

熱海富士は、そのしこ名からもわかるとおり、静岡県熱海市出身。ふるさとは去年7月、大規模な土石流で大きな被害を受けた。

熱海富士の実家も現場からそう離れていない場所にある。

"地元を元気づけたい"

その思いについて聞くと熱海富士らしい素直な答えが返ってきた。

 

熱海富士

自分ができることは相撲を取るくらいしかないので、自分の相撲を見てくださっている人がいるなら全力で頑張ります。

その思いを胸に秘め、稽古が厳しいことで知られる伊勢ヶ濱部屋でも人一倍稽古に励む。

幕下以下の力士と数十番申し合い稽古を行ったあと、休むまもなく関取の兄弟子たちと数十番。

多い時には合計で80番以上相撲を取ることもあるという。

「毎日ぎりぎりです」と口にしていたが、番付を上げてもやることは変えない真面目さがにじみ出ていた。

 

熱海富士

関取に上がったからといって、あぐらをかいて稽古量を減らさないように。まだ若いんでいまやらないとって感じで、むしろ番数が多くなりました。

必要なのは“自分の形”

猛稽古をする背景には「今のままでは通用しない」という危機感がある。

磨いているのが右四つの形。

熱海富士は常々自分の形がないことを指摘されてきたという。

熱海富士

もともと器用な方ではない。いろんなことをできるようになれば一番いいんですけど、まずは右四つを究める。

九州場所の初日を1週間後に控えた日。

熱海富士は立ち合いで素早く左上手を取る稽古を続けていた。

右四つの形を作る上で重要な動作だが、申し合い稽古では思うようにまわしを取りにいけない。

 


「なんでやらないんだ」
師匠の伊勢ヶ濱親方から厳しい指導が続いた。

熱海富士の目にはうっすら涙が浮かんでいた。

兄弟子の横綱・照ノ富士も身ぶり手ぶりを交えて熱心にアドバイスを送る。

熱海富士はそれだけ期待をかけられている力士なのだ。

照ノ富士

鍛えれば鍛えるほど強くなる子だ。自分(熱海富士)でもそれをわかってやっている。できないから悔しくて泣いている。

熱海富士

情けない姿を見せてしまいました。師匠が一番一番ごとに指導してくださって、横綱も指導してくださって、自分ができないんで本当に申し訳ない気持ちになるんですが、毎日やっています。

ふるさとに元気を届ける。
その決意を胸に熱海富士はひたむきに稽古を積み重ね、九州場所の土俵での活躍を誓う。

熱海富士

新入幕とか勝ち越しとか、三賞とか、いろいろ意識しちゃうところもあるんですけど、いつもどおりできることを全力でやって、それが結果につながってくればいい。

この記事を書いた人

舟木 卓也 記者

舟木 卓也 記者

平成25年NHK入局。令和2年秋からスポーツニュース部。

プロ野球(ロッテ)担当を経て、現在は大相撲や柔道など格闘技担当。

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