特集 NHK杯フィギュア 高橋成美さんが語る日本選手への期待とは① 男子シングルと女子シングル

フィギュアスケート・グランプリシリーズ第5戦のNHK杯が11月18日から20日まで札幌市で行われます。
選手たちはどういう思いで4年後のミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックに向けた最初のシーズンに臨んでいるのでしょうか。
2014年のソチオリンピックにペアで出場し、今回のNHK杯で解説を務める高橋成美さんに大会の見どころや高橋さんだけが知っている情報について聞きました。
2回シリーズの1回目は男子シングルと女子シングルについてです。
オリンピック直後のシーズンは若い世代に注目
高橋成美さん
オリンピックという4年に1回の試合が終わった直後で目指すべきところがグランプリシリーズに集中している中で、ファイナル出場に向けてのモチベーションがある意味、一番高い年かなと感じています。
世界選手権はシーズンを通すと最後になりますが、2022年の中では気持ちの上でファイナルを目指そうという気分があって、その後の世界選手権になると思います。
世界選手権に向けて自分たちの勢いを保つためにもファイナルに出場することが時間的なブランクも踏まえた上で、自分たちにとってそしてジャッジにとってもかなり強い印象を残します。
シーズン中ずっと自分たちを存在させ続けるということで、グランプリ一戦一戦がすごく大事に感じると思います。
ーー前のシーズンが終わって男子シングルでは、羽生結弦さんがプロに転向したり、ネイサン・チェン選手がしばらくの間、競技会から離れたりという大きな変動がありました。どのように見ていますか?ーー
高橋成美さん
次のオリンピックに向けた新世代が頭角をあらわす年だと思っています。
順位はもちろんですが、エースの選手が休憩している間に、若い世代が大舞台を経験する。
若い世代の選手にとって、とてもチャンスの年であると思っていますし、スケート界のスタイルが変わるのもこの年の有り様によってです。
これからの4年間であったりが変わってくる本当に一番の基盤となります。
どのような能力が高い点数につながるかというところなんですが、例えばバンクーバーオリンピックの前はとてもスケーティングスキルが重視されました。
ソチオリンピックになってくると総合力、そしてピョンチャンオリンピックになってくるとちょっとまたテクニカルな面が重視されました。
その次の北京オリンピックではテクニックに音楽性が加わりました。
もっともっとこれまでのスケートの評価で収まらないような外部からの技術だったり芸術性だったりも評価されるような感じですね。
他のスポーツそして他のアートとも少し調和していくような、フィギュアスケートでありながらさまざまな要素が取り入れられたとてもバラエティー豊かなプログラムが評価されるような年になってくるのではないかとグランプリシリーズ初戦のアメリカ大会を見て感じました。
男子シングル 宇野昌磨選手は若い選手と同じ向上心を持っている
ーーまずは男子シングルの見どころを日本選手を中心に教えてくださいーー
高橋成美さん
宇野昌磨選手は純粋にスケートに対して自分との挑戦を楽しんでいるように見えます。
今シーズン来シーズンというより今できることを限界を決めずにやっていくと思うので。
グランプリシリーズカナダ大会で演技する宇野昌磨選手(10月)
4年後のオリンピックを彼自身がどう考えているかわかりませんが、目の前のことにすごく全力で取り組んでいると思いますし、実際にジャンプの種類も完成度も高かったものをさらに高めてくるような。
みんなの中で宇野選手がどうかってよりかは、宇野選手自身がどこまで突き詰めていくかということが気になります。
若手の突き上げがあったとしてもやっぱり経験値っていうもので上回る部分があって、それはまさに宇野選手が得意とするスケーティングスキルの部分や音楽との調和の部分もそうなんですけれども。
そうじゃない部分、見落としてもいい部分を自分よりレベルの高い選手を探してそこを純粋にほめて、そこを越えていこうっていうところでやっていると思うので。
若い選手と同じような向上心を持って進めていく感じですね。
そうしたらおのずとこれからのシーズンもそうですし、次のオリンピックに向けて勝ち続けていくような存在になるんじゃないかと思います。
宇野選手の負担にならなければいいなっていう思いを込めながら、完璧な宇野選手を見てほしいですね。
友野一希選手、山本草太選手の演技はここ!
友野一希選手は自身も言っているように”代打の神様”ということで補欠のチャンスで出た試合で結果を残してきました。
実力的には補欠ではなくしっかりとした代表選手として出られる実力をすでに持っています。
グランプリシリーズフランス大会で3位に入った友野一希選手(11月)
ただ練習で跳べていても本番でハマらなかったり昨シーズンは靴が合わなかったりと、スケート以外のことでパワーやエネルギーを費やした部分があったと思います。
そういうストレスを取り除くことができれば、伸び伸びと滑ることができるのではないでしょうか。
友野選手のいいところは自分の練習に120パーセントのエネルギーを費やして余力がないはずなのに、他の選手や大学の後輩への貢献というか助けになろうと技術を教えたり励ましの言葉をかけたりという点が人間として素晴らしすぎるんです。
そして個人的には無条件で友野選手のエンターテインメントさをすごく尊重というか素晴らしいと言いたいです。
彼のコレオシークエンスは世界中の誰もが振り向いてしまう。
見つめたまま立ち上がってしまうような・・・。
スケートファンに限らずなんですけど、人々が「おおっ」と思うコレオなので。
注目はコレオだと思います。
私は毎回会うと「やっぱりすごいね、天才だね」って言うんですけど、そのたびに「僕なんかそんなことないよ。ナルちゃんの天性の動きに比べたら、僕のなんてまだまだ作られたものだから」とかそんな感じで言い合っています。
山本草太選手はすごく探求心にあふれています。
私は小さい時からずっと見てきて、いつももう一皮って思って応援してきました。
そして今シーズン、すでに国内試合とかを見ていても一皮むけたんだっていうふうに思っています。
山本草太選手はグランプリシリーズフランス大会で2位となった(11月)
見どころは全体的にレベルの高い選手なので、ジャンプはもちろんなんですどスケーティングスキルですね。
一朝一夕では絶対に習得できないスケートのスキルを彼は持っています。
「もしかして山本選手の靴にだけ秘密のエンジンが搭載されてるんじゃないか」と言われるくらい本当に一歩一歩のスケーティングの伸びであったり静かさであったりがすごくハイブリッドな感じです。
決して氷を削ることなくただとても重い。
重心の使い方がとても力強くかつ高貴なスケートをする選手です。
海外選手も個性派ぞろい!
海外の選手でいうと韓国のチャ・ジュンファン選手(北京オリンピック5位入賞)ですね。
グランプリシリーズアメリカ大会では3位となったチャ・ジュンファン選手(10月)
今シーズンも出場した試合で優勝をしていますが彼のショートプログラムは注目です。
マイケル・ジャクソンメドレーなんですが、ただただマイケル・ジャクソンを真似て滑っているというよりも、忠実にマイケルジャクソンを表現しながら独自の高いレベルのダンス技術を使って伸びやかに滑っています。
そしてその中に質の高い4回転ジャンプを取り入れ、芸術性そして技術性も申し分のない演技をする選手です。
日本での人気がかなり高い選手で彼自身も日本が大好き。
日本のファッションにすごく興味を持っています。
もう1人は樋渡知樹選手です。
表現力がとっても豊かで柔軟性を生かしたジャンプ、プログラムの中に溶け込むかのようなジャンプを跳んで、一切観客を飽きさせない演技をします。
NHK杯の男子シングルって、エンターテイナーぞろいだなっていうのを私はまず感じています。
それぞれが本当に自分の表現に対するこだわりを持っていて、それを極めている選手がそろったなって。
これはファンを楽しませるための策略なのかって思うぐらい豪華なメンバーになっています。
四大陸選手権で演技する樋渡知樹選手(1月)
女子シングル 坂本花織選手はどんどん自信をつけている
坂本花織選手はことしの目標として『いろんな大会で表彰台に上がる』や『グランプリファイナルで表彰台に上がる』を掲げて強い気持ちで臨んでいます。
やっぱり昨シーズンの成績を踏まえてすごく自信をつけていますね。
坂本花織選手はグランプリシリーズ初戦のアメリカ大会で優勝した(10月)
それが滑りにも出ていて衰えないスピードやジャンプの質の高さ、スピンの軸がかなりしっかりしています。
ジャネット・ジャクソンメドレーのスケーティングでこれまでと違った表現方法ですごく大人っぽさもありながらスタイリッシュ、その中に坂本選手らしさが垣間見られます。
坂本選手にしかできない唯一無二のスタイルで滑っていると私は思っています。
ちょっとした動きの中でもスピードに乗って1つ1つの動作をするので一瞬一瞬にとても鳥肌が立ちます。
毎回そうなんですが表情からは力強さの中に優しさを感じます。
グランプリシリーズアメリカ大会を見ていると日本人だけではなく現地のファンからも盛大な声援が送られていました。
スケートはもちろんですが彼女の人柄もスケートに表れていると思いました。
また坂本選手はシーズンの過ごし方がとっても一流で、冷静に挑戦してきてしっかりとピークを合わせることができます。
ことしもオリンピック後にかかわらず、自分なりに計算して調整できています。
これからも勝ち続けるような選手なんだなぁと尊敬します。
日本選手で表彰台独占も夢ではない
ーー若手の住吉りをん選手と渡辺倫果選手への期待を教えてくださいーー
高橋成美さん
住吉選手は4回転ジャンプですね。
渡辺選手も3回転半トリプルアクセルを持っていて、今シーズンの試合でもかなりの確率で決めています。
すごく得点源として高いものを2人は持っています。
ただジュニアから上がってシニアデビューの年でもあるので、そのあたりの評価がジャッジの目にどう映るかというのはまだもしかしたら時間がいるのかもしれません。
ポテンシャル的には坂本選手を含めてこの2人がいることで、NHK杯の表彰台を独占することも決して夢ではないですね。
海外の選手ではアメリカのアンバー・グレン選手ですね。
身長が1メートル67センチで彼女独特の表現力を持ちつつ、大きなトリプルアクセルがあります。
グランプリシリーズアメリカ大会 アンバー・グレン選手は3位に入った(10月)
これまでジャンプと体の大きさを生かしたダイナミックさを共存できる選手は少なかったんですが彼女はそれで勝負しています。
日本選手のライバルになる選手だと思っています。
今はジュニアの選手とシニアの選手のレベルのギャップがほぼなくなってきている時代です。
若い選手はジュニア時代に培った経験を踏まえ堂々と滑ったら、今は絶対に点数がつく時代になっているので、自信をもって大会に臨んでほしいですね。