特集 舞の海×西岩親方 大相撲九州場所 注目力士を語る

1年納めの九州場所を前に、NHK大相撲解説の舞の海秀平さんと名関脇だった元若の里の西岩親方が対談。
秋場所で優勝した玉鷲と最後まで争った高安。
関脇に陥落した御嶽海と角番の正代について。
活躍が期待される新三役の翔猿や若隆景について話し合いました。
出稽古制限でも優勝の玉鷲は見事
――秋場所は37歳の玉鷲が優勝という結果になりました。
舞の海
年齢的にも見事な優勝でした。
ちょっと認識を変えさせられたのは、出稽古の期間も限られている中で力を落とさず、これだけの相撲が取れたということですね。
玉鷲(右)が高安を押し出し2回目の優勝(秋場所千秋楽)
――優勝を争った高安について、旧鳴戸部屋で兄弟子でもある西岩親方から聞かせてください。
西岩親方
残念でしたが、千秋楽に負けた後のコメントを聞くと、勝った玉鷲をたたえながら「あきらめないで次も優勝を目指して頑張る」と前向きな発言が出ていたので、大人になったなと思いました。
15歳から知っていますから。
九州場所以降も優勝を狙えると思いますので、期待しています。
正代と御嶽海は地位の重みを考えるべき
――九州場所は御嶽海が陥落し、正代が角番で迎えます。大関陣についてお願いします。
舞の海
両国で正代とばったり会ったら、秋場所は肩をけがしていたみたいで「痛みを止めを打ってやったんですがダメでした」と言っていました。
御嶽海もけががあったのでしょうが、内容が悪かったので、私は途中で休場するべきだったと思いますね。
ちょっとお客さんに見せられるような相撲内容ではなかったです。
西岩親方
ひと昔前では考えられなかったですね。
舞の海
幕内の佐田の海のお父さん(元小結佐田の海)は場所中に朝、稽古場に降りて来なかったら、師匠に休場届を出されていたということです(笑)。
稽古ができないのならば本場所でも相撲は取れないだろうと。
秋場所の大関の相撲は深刻な問題ですよ。
横綱や大関の地位というのは他のスポーツのランキング1位2位などとは違って、誰もが認める神聖で厳格な重いもので、大相撲の番付は成り立っていると思うんです。
このままでは大関も軽く見られてしまいます。
苦しい場所を迎える正代(左)と御嶽海(秋場所13日目)
――九州場所で御嶽海は10勝で大関復帰、正代は角番です。どうでしょうか。
舞の海
これが微妙なところなんですよ。
照ノ富士は休場の可能性があって、大関陣は元気がないとなると10勝いくかいかないか。
一方で若手が力をつけていますからね。
西岩親方
たとえけがをしていても次の場所はやってきますし、まあ御嶽海の10勝というのは簡単ではないですね。
舞の海
正代は8勝でいいわけですから、それは可能性があるんじゃないかと思いますね。
若隆景はふた桁勝利できる力がある
――関脇以下には元気な力士がいます。2人が推薦する力士を教えてください。
若隆景は大関昇進を目指す(秋場所5日目)
西岩親方
若隆景は初日から3連敗したと思ったら、その後盛り返して優勝争いに絡み11勝ですからね。
価値があるし力がないとできないですよ。
九州場所でもふた桁を勝つ力は十分にあります。
翔猿が秋場所で金星を挙げた一番は照ノ富士に勝つためにはこう取れという教科書どおりの相撲でした。
とにかく捕まらないように離れて離れて。
そしてちょっと長くなると照ノ富士の膝が伸びてきますから、持久戦から中に入っていく。
本当によく考えた相撲でしたね。
舞の海
翔猿は体は小さいですが、肩とかお尻とか太ももといった大事なところにしっかり筋肉が付いていてなかなか壊れないような体をしていますね。
それと相手が嫌がるような動きをする。
攻め急ぐわけでもなく、押し込まれたからといって安易に引くこともなく、じりじりじりじり相手を追い込んでいくようないやらしい相撲。
よく考えた取り口です。
西岩親方
豊昇龍ですが秋場所は8勝では物足りなかったと感じるくらい力がついています。
負けた相手が翔猿、翠富士、宇良でした。
自分より小さい人はやりにくいんですかね。
でも、じきに大関になるでしょうね。
翠富士 天下一品の肩透かし
西岩親方
それから翠富士です。
前頭の筆頭まで上がって1つの負け越しでした。
もっと苦戦するかと思いましたが、相当力がついています。
体は小さいですが、前に攻めることができますし肩透かしは天下一品です。
上位のもっと大きな相手でも押し込むぐらいの力をつければ、いくらでも肩透かしが決まると思います。
肩透かしだけでお客さんが呼べるような力士に成長してほしいですね。
翠富士の立ち合い(秋場所4日目)
舞の海
私は佐田の海ですね。
玉鷲と同じように35歳になっても取り口が若々しいです。
力が落ちず、かえってベテランらしく視野が広くなって、勝負にいくタイミングの感覚などが磨かれてきたように思いますね。
若手が注目される中で、佐田の海はじわじわと上がってきていて、三役になる可能性がありますね。
西岩親方
そして平戸海ですね。
秋場所は新入幕でしたが、初日から3連勝した相撲はすばらしかった。
この時の左の前回しを早く取る相撲をもっともっと磨いていくと楽しみな力士になると思います。
しこ名が物語るように長崎の平戸島出身ですが、平戸の人たちは島を挙げて応援しているみたいですね。
平戸島の人たちを元気づけてほしいです。
左四つ 型を持った若元春
舞の海
ひたむきさが伝わる相撲を取っている力士は自然に応援したくなるし拍手も大きくなりますね。
私が推すのは若元春です。
秋場所は前頭6枚目でしたが、10勝を挙げて番付を上げ、弟(若隆景)と一緒に三役に定着しそうな雰囲気ですね。
離れて押し込む力もあるし押されても簡単に土俵を割らない。
左四つという型があって右の上手を取ったら前に持っていく力もかなりあります。
こうなったら絶対という型を持っているので、一気に番付を上げていくことも考えられます。
若元春(左)が大栄翔をはたき込みで破る(秋場所13日目)
西岩親方
熱海富士は楽しみな若手ですね。
みんなが応援したくなるようなキャラクターです。
動きもちょっと高見盛風で面白いキャラクターの力士が上がってきたなと。
人気力士になっていくと思います。
舞の海
まずはかわいいですね。
取り口は真っ正直と言うか、純粋と言うか。
彼の人間性が表れています。
小細工せずに正面から堂々と攻めていくのを見ていると気持ちがいいですね。
相撲専門雑誌「NHK G-Media大相撲中継」から