NHK sports

特集 競馬天皇賞 秋のレース見どころ 3歳馬vs古馬 世代を超えた王座に輝くのは?

競馬 2022年10月27日(木) 午後5:50

ノーザンファーム天栄で調整するイクイノックスと紹介した馬の写真が誤っていました。
正しい写真を掲載しました。大変失礼しました。

 

春と秋の2回行われる競馬のG1「天皇賞」。

春は3200メートル、4歳以上の馬によって争われる古馬の長距離王決定戦ですが、秋は距離が2000メートルになり、3歳馬も出走できます。

いわば世代を超えた中距離の王者を決める戦いです。

ことしは3歳世代でもトップクラスの実力馬たちがエントリーし、歴戦の古馬たちに挑戦。

ハイレベルな争いが期待されます。

クラシックで好走の3歳コンビ イクイノックス&ジオグリフ

ことし春の3歳クラシック、皐月賞と日本ダービーでともに2着に入ったイクイノックス。

皐月賞は1馬身差、日本ダービーではわずかクビ差で及ばず涙をのみました。

この秋はクラシック最後のレース・菊花賞ではなく、古馬に挑む天皇賞に照準を定め、初のG1タイトル獲得に挑みます。

そして栗毛の馬体が目を引くジオグリフはことしの皐月賞で初のG1タイトルを手にしましたが、続く日本ダービーでは7着と沈み、レース後に右前足の骨折が判明しました。

そのけがも癒え、秋の天皇賞が復帰戦となります。

 

ことしの日本ダービーで2着のイクイノックス(左)と皐月賞で優勝したジオグリフ(右)

2頭とも、5月の日本ダービーを最後にレースから遠ざかっていて、いわば「ぶっつけ本番」で古馬との初対決に臨みます。

“放牧”で強くなる?事情を探ってみたら

これまでG1を目指す馬は前哨戦(G1の1か月から1か月半ほど前に行われる、似たような条件のレース)を経て本番を迎えるのが一般的でした。

しかし近年は前哨戦を経ずにG1を出走し好走する馬が増えています。

ことしの皐月賞でも勝ったジオグリフは2か月の休養明け。

イクイノックスに至っては5か月もの休養を挟んでの好走でした。

また過去を振り返ると、休養明けの大レースを次々と勝った馬の代表格がアーモンドアイ。

芝のG1レースで歴代最多の9勝をマークした史上最強のひん馬です。

 

2019年の秋の天皇賞で優勝したアーモンドアイ

秋の天皇賞だけで2勝を挙げましたが、いずれも前走から5か月の休養期間を経ての勝利。

G1レース9勝のうち、実に6勝が3か月以上の休養を挟んでのものでした。

休養期間中、馬たちはJRAのトレーニングセンターから離れて外部の施設で過ごします。

このことを関係者は“放牧”と呼びます。

学生時代に競走馬育成ゲームに熱中した私のイメージでは、放牧と言えば「厳しいトレーニングから解放され、大好きな草を食べながらのんびりリフレッシュ」なのですが…それで馬が強くなるのでしょうか?

休養期間中の様子を探るべく、放牧中のイクイノックスとジオグリフに会いに行ってきました。

向かったのは福島県の牧場ノーザンファーム天栄です。

ノーザンファーム天栄(福島県)

東北新幹線の新白河駅から車で約30分。

山あいに広がる広大な敷地に馬たちが過ごすきゅう舎のほか、調教に使われる周回コースや坂路コースなどがあります。

主に茨城県にある美浦トレーニングセンター所属の馬たちがレース後のリフレッシュや次のレースに向けた調整を行っています。

あのアーモンドアイも現役時代にここで休養期間を過ごしました。

常時300頭ほどが滞在しているということですが、2000頭近い馬がいる東西のトレーニングセンターと比べると、どことなくのどかな雰囲気を感じます。

取材した日は美浦トレーニングセンターに戻るのを間近に控え、イクイノックスとジオグリフには心肺機能の強化を図る調教が行われていました。

全長900m、高低差36mの坂路コースを2回、力強く駆け上がってくる2頭。

たくさんの酸素を吸い込もうと鼻の穴を大きく膨らませ、荒い息づかいもはっきり聞こえました。

「これはもはや休養ではない。レースに向けたトレーニングだ」と感じずにはいられませんでした。

このように競走馬の体調維持だけではなく、レースに向けた調教までを担う牧場は「JRAのトレーニングセンターの外にあるきゅう舎」という意味で「外きゅう」とも呼ばれ、競馬界では年々その存在意義が高まっています。

ここでの調整期間中に気をつけていること、気になる両馬の状態などについて、木實谷雄太場長に聞きました。

木實谷 場長

どうしたら大目標のレースにベストの状態で出走できるかを考え、馬の健康状態や調整過程など、調教師の方々と情報共有しながら進めていくことを大切にしています。美浦と(滋賀県にある)栗東のトレーニングセンターはレースを間近に控えて臨戦態勢の馬ばかりですが、ここは静かな環境で馬にとってはのんびりできる施設であってほしいなと思っています。

ノーザンファーム天栄の木實谷雄太場長

注目されるイクイノックスとジオグリフの状態について次のように話します。

木實谷 場長

イクイノックスは日本ダービーの後、左前脚に疲れが出たので、回復具合や馬体重を見ながら調整を進めてきました。皐月賞の時と比べて一段と馬体が大きくなり成長したと感じます。体重は20キロ以上増えていますし背中や腰の筋肉もついて走りのブレが少なくなってきたと感じます。また日本ダービー後にわかったジオグリフの右前脚の骨折は幸い軽度なものでした。レース1か月後から騎乗運動を再開してそこから順調に来ています。いちばん感じるのは精神面の成長です。以前は調教前に発汗が目立ち焦りがちなところがあったんですが、それが解消して落ち着いて調教できるようになりました。2頭とも長くゆったりした走りで乗り込むことで、より強い体幹作りや基礎体力作りに励んできました。無事にいい状態でレースに出走してくれることを期待しています。

ノーザンファーム天栄で調整するイクイノックス(左)とジオグリフ(右)

“放牧”で春の疲れを取り除きつつ秋に向けたパワーアップを図った2頭に対し、管理する木村哲也調教師も大きな手応えを感じています。

木村 調教師

2頭とも牧場でしっかり日本ダービーの疲れを取り元気になってから少しずつトレーニングを積んできました。牧場の方々とは毎週のように言葉を交わしているので、特別なリクエストはしなくても大丈夫です。2頭とも元気いっぱい秋のG1に向けてエネルギーが溜まった状態で美浦に戻って来てくれました。ジオグリフはいい意味で春と変わっていませんが、体が立派になり体重が増えて帰ってきました。イクイノックスも背が伸びて一回り大きくなったなと感じます。天皇賞では素晴らしい馬たちの胸を借りてファンの皆さんに喜んでもらえるような競馬をしたいです。

イクイノックスとジオグリフを管理する木村哲也調教師

秋の天皇賞は1937年に行われた第1回のレースで3歳馬のハツピーマイトが勝った翌年から出走資格が4歳以上に改められました。

再び3歳馬が出走できるようになった1987年以降で、3歳で天皇賞を制した馬はバブルガムフェロー、シンボリクリスエス、そして去年のエフフォーリアの3頭しかいません。

そして日本の競馬史上2年連続で3歳馬が天皇賞を制覇したことはありません。

今回3歳馬はイクイノックスとジオグリフのほか日本ダービーで1番人気だったダノンベルーガもエントリー。

3歳馬による快挙達成となるでしょうか?

4歳馬の存在も忘れてはいけない

受けて立つ古馬勢も強力です。

その中心的な存在が4歳馬のシャフリヤール。

去年の日本ダービーの勝ち馬です。

 

ドバイシーマクラシックに勝利したシャフリヤール(2022年3月27日)

4歳になったことしは3月にUAE=アラブ首長国連邦のG1「ドバイシーマクラシック」に勝ち、6月にはイギリスのG1で4着に入りました。

前走から4か月の休養を挟み、こちらも3歳の各馬と同様、前哨戦を経ずに秋の天皇賞を迎えます。

競走馬が最も充実すると言われる4歳の秋を迎える中、管理する藤原英昭調教師はこの馬に類まれな力強さ、底知れぬ成長力を感じています。

藤原 調教師

海外遠征の疲労がどれぐらい残っているかと思いましたが、予想以上に心技体の状態がしっかりしていたので、天皇賞に挑戦することにしました。調教で騎乗した騎手たちも『去年とは動きが違う』と話しています。今も馬はどんどん成長していて、能力の限界がどこにあるのか、私にもまだわからないぐらいです。チャンピオンホースとしてどんな競馬をしてくれるか、とても楽しみにしています。

シャフリヤールを管理する藤原英昭調教師

このほか古馬では去年からことしにかけて5連勝した4歳馬のジャックドール、去年のオークスを制したユーバーレーベン、ことし3月にUAEの「ドバイターフ」を逃げ切ってG1初勝利を果たした5歳馬のパンサラッサなどが出走を予定しています。

今回出走を予定している15頭のうち、実に9頭が2か月以上の休養明け。

夏を越えたトップホースたちがどんな成長した姿を見せてくれるでしょうか。

この記事を書いた人

稲垣 秀人 アナウンサー

稲垣 秀人 アナウンサー

平成14年入局 京都局-新潟局-名古屋局-東京アナウンス室-大津局

今回、中継番組の進行を担当。秋の天皇賞では、快速馬サイレンススズカが競走を中止した1998年のレースが強く印象に残っています。全馬が無事に完走することを祈りながらお伝えします。

関連キーワード

関連特集記事