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特集 ラグビーワールドカップまで1年 リーチ マイケルが語る日本の“現在地”

ラグビー 2022年9月28日(水) 午後6:52

2015年のラグビーワールドカップで日本が南アフリカに勝利した戦いはスポーツ史に残る『奇跡』と言われました。日本で開催された2019年の大会では準々決勝に進出。成長したチームが『勝つべくして勝った』という強さを見せました。

 

来年9月にフランスで開幕するワールドカップまであと1年となり、今月(9月)に入って日本代表の合宿が行われています。今回召集された代表候補は50人を超えますが、その多くがワールドカップ未経験です。若いメンバーが積極的に選ばれた中で、『日本ラグビーを背負い続ける男』リーチ マイケル選手も参加しています。サンデースポーツの豊原謙二郎キャスターが合宿地を訪れ、リーチ選手から見たチームの“現在地”について話を聞きました。

 

聞き手は豊原キャスター

ジャパンのスタンダードとは何なのか?

豊原キャスター
過去3大会の1年前と比べると今回はコンディションがいいんじゃないかと思いますが、いかがですか?


リーチ選手
前回大会の1年前はほとんどケガ持ちで結構大変だったんですけど、今回は1年前で股関節・足首・ひざも調子良くて、あとはレギュラー争いをどうやって勝っていくか。毎日頑張っています。

 

日本代表合宿の様子

豊原キャスター
過去3大会とはぜんぜん違う1年前という感じですか?


リーチ選手
ぜんぜん違いますね。前回ワールドカップが日本開催だったからそのプレッシャーもあって、2015年の成績もあって、どうやって超えるかっていうプレッシャーもあって、今回アウェーでワールドカップという難しさもあって、チームがだいぶ変わって新しいメンバーも入ってきたから違うプレッシャーは感じますね。

 

豊原キャスター
キャプテンではない状況で迎えるというのは心の持ち方から違いますか?


リーチ選手
だいぶ違いますね。今回キャプテンから外れて、より自分にフォーカス、集中できる時間が増えたから少しは楽になりました。キャプテンじゃないところのメンバーは新しい経験なので。どうやってやっていくかまだつかみ切れてないところはありますね。かなり新しいチャレンジ。キャプテンをどうやってサポートするかも考えないといけないと思います。

 

豊原キャスター

今回50人をこえる経験値の低い選手たちがたくさんいますが、今回の合宿で集合した時の第一印象はどうでしたか?


リーチ選手
かなり若いなという感じです。テストマッチの経験数でいえばかなり低くて、それを一番感じましたね。ただそれは言い訳にはならなくて、ジャパンのスタンダードをどうやって教えるか、押し上げるかが大事だと思います。テストマッチの経験数もない選手がいるので、まずは練習のスタンダードをどうやって上げるか。僕も含めて練習をちゃんとしっかり集中してやることが大事です。

世界の強豪「ティア1」に勝つ精神力をどう考える

ワールドカップの南アフリカ戦で劇的な逆転勝利をあげた(2015年9月)

豊原キャスター
2015年の前と後でリーチ選手も「マインドセットが変わった」と話していましたが、ティア1に対しても勝つんだというマインドセットは進化していますか?より高いものを求めるチームになってきている感じですか?


リーチ選手
もう少しかかると思います。新しいメンバーがたくさんいる中で、ティア1とのテストマッチではいいところまでいけて勝ててないのが現状です。どうやったら勝つところまでいけるのか、あと少しのところを仕上げるのが大事です。この3つのテストマッチが大事。オーストラリアに対して3試合あって、オールブラックスに自信をつけていきたいですね、ワールドカップ前に。


豊原キャスター
内容もそうですし、結果でも?


リーチ選手
結果がすべてですよね。いい内容はたくさん出ています。たくさんいいプレーがあって、ただ試合は勝ち切れていない。どうやって勝ちきるかがリーダー陣もスタッフ陣も必死に考えないといけないことだと思います。

 

豊原キャスター
自分がチームに「勝ち」の精神を植え付けてきたという自負はありますか?


リーチ選手
ティア1に勝つって本当に難しい。1回勝ったらこれをやれば勝てるというカギみたいなのをもらえるので、そのあと日本ラグビーの可能性もかなり感じています。まだまだ日本ラグビーは成長できる。ティア1に勝つだけじゃなくて、ワールドカップで結果を出す。結果をもっと出せるというのは僕は心から思っているから。僕はその辺の自信はあります。どうやっていろんな人に教えるか、そういう考えになるかが僕の使命だと思います。オールブラックスに勝てるかって10年前に聞いたら絶対ゼロ。5、6年前のW杯前に聞いたら5、6人いたかもしれないけど、今回は15人がオールブラックスに勝てるというような選手を増やさないといけない。勝ってどれだけチームが変わるかということをみんなに感じてほしい。日本ラグビーもかなり変わります。いま世界一じゃないかもしれないけど、オールブラックスに勝てるのは世界でも5、6チームしかなくてそのひとつが日本代表であってほしい。負ける理由がなくて、同じ力もあるしスキルも戦術もあって、コーチ陣もすばらしいし、キャプテンもいい。あとはどうやって試合を深めるか、それだけなんですよ。試合中の判断、どこでアタックするか、ディフェンスがいかに規律をもてるか、勢いをどうやって取り戻すか、1つ1つクリアにすればどこのチームでも勝てるノウハウはあります。勝ったことによって子どもたちや日本だけじゃなくアジアもそうだし、いろんなチームが日本代表がオールブラックスに勝ったら相当勇気をもらえる。ちゃんとやれば勝てる。ちゃんと準備すれば勝てる、新しいメッセージを送れるかもしれないです。

 

 

豊原キャスター
7月のフランス戦のあと、リーチ選手が「次に集まった時にそれぞれが持ち寄って話し合っていきたい」と言っていましたが、そういう作業はしましたか?


リーチ選手
全体的なテストマッチ、世界の中で何が起こっているか、勝っているチームのスタッツとか負けているチームのスタッツとかも含めてミーティングをしてきて、なぜフランスに負けたのか?オールブラックスはなぜアルゼンチンに負けたのか?同じような検証を持っていて、それを今回のキャンプでよりフォーカスしたと思います。

 

豊原キャスター
秘密な部分は多いと思いますが、なぜ負けたのか一部でも教えてもらえますか?


リーチ選手
準備と試合に対してのマインドセットだったり、入り方や80分間の態度ということに関しては問題ない。ただ自分たちが立てたゲームプランやボールを持って継続するところは限界があって、もう少しボールを蹴っていかないといけないというのはいちばん改善したいです。ボールを持ってのアタックとキックのバランスをどうやって判断するかがすごく大事になってきます。

 

フランスとのテストマッチ第2戦は後半に逆転された(2022年7月9日)

豊原キャスター
フランスの第2戦は蹴っていたように見えましたが、もっと多くていい?


リーチ選手
もっと多くていい。その試合に関しては僕らも多く蹴った印象だったんですが、フランスはもっと蹴っていたので。どこで戦うのかも大事ですしエネルギーを保って80分戦うかも大事。ボールを持って継続するのもジャパンスタイルでしたけど、どこのエリアでやるかどんな状況でやるかが大事です。

 

豊原キャスター
継続してテンポの速いアタックをやれれば、ティア1相手にトライを取れるという確信みたいなものがあるからこそもっと蹴ろうということですか?


リーチ選手
それももちろんあって、それは日本代表のスタイル。絶対変わらないけど、いつやるか、どのタイミングでどのエリアでやるか、その判断ですよね。その判断は9番10番15番が判断しないといけない。


豊原キャスター
若いハーフ団にはいい経験になりましたか?


リーチ選手
かなりいい経験。若い選手がどんどん出てきたし、いい経験もしてるしハードな練習もしているので、まだまだ日本代表は強くなれると思います。前回大会よりいい結果が出せるはずです。

組織でどれだけ止められるかが大事

豊原キャスター
ジョセフヘッドコーチがディフェンスをもっと構築するんだと会見で話しましたが、そのことについてはどう受け止めていますか?


リーチ選手
ディフェンスはどのチームも大事。日本代表の強みがディフェンスだったのでタックル、ダブルタックル、強いタックルをどれだけ増やせるかは意識していると思います。このチームのラグビーをやるためには、強いディフェンスができないと。

 

宮崎県で行われた日本代表合宿で練習を見守るジョセフHC(2022年6月)

豊原キャスター
新たにミッチェルコーチが就任して6月の合宿でも相当やってきたそうですが、進捗状況はどうですか?


リーチ選手
いい感じに落とし込めていると思います。強いタックラーもたくさんいるので。あとはシステムをどれだけ80分やりきるか。その中で堀江選手や布巻選手がディフェンス能力に関してはすごく高くて、チームにいい影響を与えています。日本代表は強いタックラーじゃなくて組織でどれだけ止められるか、全員が同じ考えをしないといけないです。

 

豊原キャスター
立ち位置など細かい約束事がミッチェルコーチになって変わったと聞いていますが、どのようにディフェンス面は変わったのですか?


リーチ選手
立ち位置くらいですかね。ラックができてからの動きが一番変わったと思います。1人に対していかに2人でタックルしていくか。それが一番変わったところかなと思います。

 

フランスとのテストマッチ第1戦 激しいタックルをするリーチ選手(2022年7月2日)

豊原キャスター
これをやっていったら、とてもいいディフェンスが構築できるという手応えは?


リーチ選手
まあ部分部分ですかね。ディフェンスの一番プレッシャーの時に疲れ切っていても、いかにチームを組織で守れるか。精度を高く止められるかが日本の弱点でもあるし日本の強さでもある。どうやってやれるか練習量を大事にしないといけない。練習のきついときにいかにしゃべれるか。堀江さんもずっと言ってますけど、ディフェンスは1人でやるもんじゃない。

「ONE TEAM」から「Our Team」へ

豊原キャスター
チームスローガンが「ONE TEAM」から「Our Team」に変わりました。どういう思いがありますか?


リーチ選手
自分たちのチームにどれだけ入り込めるのか?「Our Team」の中には「信頼」「絆」「規律」といろいろあって。どれだけ言葉を大事にして行動に移すかで「Our Team」になる。自分たちのチームを愛することが大事。

 

 

豊原キャスター
よりジャパンに対してコミットしていく度合いを深めていこうということですか?


リーチ選手
2019年の時の強さはチームを本当に好きだったし、みんな本当に勝ちたいという思いがあって結果を出したと思います。いかに新しいチームにその感情が入っていくように作るかが大事です。


豊原キャスター
経験の浅い選手も多い。その人たちに自分たちのチームだと思ってほしいのですね?


リーチ選手
ジャパンも守らないといけないことがたくさんあって、ストラクチャーの中で戦術や気持ちの部分も大事にしないといけない。ストラクチャーもあって戦術もあって、あとはどれだけ気持ちを入れられるかが大事なので。特に日本は「このチームだったらいくらきつくても体を張れる」という思いがないといけないです。

 

豊原キャスター
チームとしてのメッセージは選手たちに届いている感じはありますか?


リーチ選手
さっき言ったように練習量が多くて、僕らのやらないといけないこと、戦術の落とし込みから始まっているので気持ちの面では話せていなくて、これから試合が始まるとそういう話になると思います。

 

 

豊原キャスター
ワールドカップまでまだ1年、あと1年。選手の立場ではどう考えていますか?


リーチ選手
1年前になると本当に早くて、一番ありがたいことは強い相手とワールドカップまでにたくさんやれるので、1個1個の課題をクリアしていくことでチーム力が上がる。ワールドカップまでにいい準備ができると思いますし、いろんな選手がいろんな経験をできるし、レギュラー争いもさらに激しくなっている。楽しく1年間過ごせると思います。


豊原キャスター
ここからの1年間の過ごし方は分かっているということですか?


リーチ選手
そうですね。ずっと気を入れっぱなしでワールドカップまでの合宿も。まずはレギュラー争いの勝負にあきらめずに出ることが大事ですね。

世界トップとの戦いに「ワクワクしている」

 

豊原キャスター
2018年はワールドカップの前にニュージーランドやイングランドと試合をして、ニュージーランド相手に5トライくらい取りましたが倍くらい取られました。イングランド戦はいい試合をしましたが、最後に点を取られてしまった。そうした中で迎えるニュージーランド戦・イングランド戦、4年前との違いはどういうことになりますか?


リーチ選手
そうですね。まさに日本のラグビーの成長を見せる場だと思うし、オールブラックスに関しては日本の手遅れが明らかに見えました。すべてのプレーで相手が先に動いていました。それを修正してイングランドとやってイングランドに前半勝って後半負ける。なぜ負けたかというとキックの使い方・タイミングで完全に相手が上回った。今回の日本代表はその2つをクリアしているのでかなりいい状態で戦えると思います。

 

豊原キャスター
ずっと日本のラグビーを見てきた身からすると、ニュージーランドを相手に、もしかしたらいい結果をもたらしてくれそうだというところまで来ているのはうれしいです。


リーチ選手
それくらいの期待をしていいと思います。チームの中でオールブラックスに対してどうのこうのというまだ具体的な話はしていないですけど、僕の中では絶対に日本代表が勝てる。力もあるし能力もあって選手層もあって、勝つんだったら今回が一番近いかなと思います。その「オールブラックスにも勝てる」という選手をどれだけ増やせるか。それがすごく大事。オールブラックスをどうしても高い位置に置いてしまうから。実は日本代表も高い位置にいるので、どうやって試合運びをうまくするかでだいぶ結果が変わると思います。

 

 

豊原キャスター
リーチ選手はワクワクしているような感じがします。


リーチ選手
かなりワクワクしています。その前にレギュラー争いに勝たないといけない。それを必死に考えています。本当にいい選手がたくさん出てきているし、サンゴリアスの下川選手はかなりいい選手、すごい楽しみですね。いろんな選手がオールブラックスと対戦していろんなことを感じてほしいと思います。まだまだ日本ラグビーは成長できます。


豊原キャスター
相当走り込んできたと話していましたが?


リーチ選手
自分のなかでは相当走ってきた。家族旅行でフィジーに行ったんですけど、それでも夜10時でもちゃんと走ってきたので大丈夫です。

 

豊原キャスター
ご自身4大会目となるワールドカップをどんな大会にしたいか目標を聞かせてください。


リーチ選手

チームとして前回大会よりもワンランク上に行きたいし、個人としては最後のワールドカップだと思ってないし、どんどんレベルアップできる自信もある。まずは自分のコンディションをどれだけ最高の状態にするか、それだけを必死に考えています。ワールドカップで何をするかはまだ考えていないです。まず目の前のこと、あすのこときょうのことだけ考えています。

 

 

ラグビー日本代表は10月にオーストラリア代表、ニュージーランド代表と、そして11月にはイングランド代表と対戦する予定です。リーチ選手が「まだまだ成長できる」という日本ラグビーが世界の強豪国と戦う姿に注目です。

 

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