ストーリー水泳

東京へのキーワード"成長や進化を信じて"井村雅代HC

2020-01-23 午前 09:00

東京オリンピックでアーティスティックスイミングの日本代表を率いる井村雅代ヘッドコーチ。日本や中国を強豪に育て上げ、メダルを獲得し続けてきた井村ヘッドコーチに東京オリンピックでの日本のメダル獲得のカギを聞いた。(※以下、敬称略)

 

 

「最後の1秒まで選手達を成長させ続ける」
去年4月に取材した時に井村自身が書いた東京オリンピックへのキーワードだ。
オリンピックイヤーを迎えた今、改めてこのボードを見せると「書いたのは世界選手権の前ですか? かなり勢いありますね、この字は」と苦笑いを浮かべた。

苦笑いのわけ

オリンピックの前哨戦となった去年7月の世界選手権。
日本は世界のトレンドの変化に直面していた。

 

 

長身で大柄な選手をそろえ、パワーとスピードを前面に出した海外勢が高得点をたたき出していたのだ。
「シンクロナイズドスイミング」から「アーティスティックスイミング」へ。その名称だけでなく、演技の見せ方や審査の傾向も変化していた。

 

 

チームのフリールーティン予選で、日本は精彩を欠いた演技で4位。
“メダルは厳しい”と考えた井村は異例の行動に出た。

観客席から見えたのもの

予選2日後の決勝。
本来であればプールサイドで選手を送り出すはずの井村がいたのは、なんと観客席だった。ライバルとの差は何か、自分の目で見極めようとしたのだ。40年以上に渡る長いコーチ人生で初めての経験だったと言う。

 

井村雅代ヘッドコーチ

このまま帰っても、東京オリンピックに向けて確実な策を持って帰れない。『ああ、負けた』だけでは、そうなってしまうと感じていました。もうここまできたら何かそこで得るものがあるだろう。非常に大きな決断でした。

ライバル“ウクライナ”

井村の目にとまったのは、銅メダルを獲得したウクライナの演技だった。
オリンピックで一度もメダルを獲得したことがなく、演技内容もそう難しいものには見えなかった。

 

 

しかし1メートル80センチ近くの長身選手がすごいスピードで、そして力強く魅せた演技は審査員から高い評価を受け、日本の得点を大きく上回ったのだ。
井村は「予想していた以上」と驚きを隠さなかった。

日本の強み

 

一方の日本。パワー不足は明らかだったが、井村には日本の「強み」も見えていた。
それが厳しい練習に裏打ちされた、演技を合わせる技術。
日本が長年積み上げてきたものだった。

 

井村雅代ヘッドコーチ

日本には優れたものがあるんだって、それにも気付きたかった。悪さだけではなく、良さも見えるだろう。その良さは何だったかというと、やはり技術は確かだなと。ひょろっと崩れる選手は1人もいないんだと。

勝機は…

日本の持つ「技術」に、世界のトレンドともいえる「パワーとスピード」をどう加えるか。
井村がたどり着いたのは、日本発祥の格闘技「空手」だった。

 

 

空気を切り裂くような技のキレ。寸分たがわぬ正確な動き。
空手の世界を描ききった先に、東京のメダルが見えると考えたのだ。

 

 

井村は、世界選手権から帰国後「空手」をテーマにした振り付けに取りかかる。「ただ真似しただけのものにはしたくなかった」と空手のトップ選手の試合を繰り返し見て研究。
選手には1日2時間半、週3回の空手の稽古を課した。

 

 

「1つの動きの速さ、プラスそれをしつこくやるということですよね。これでもかこれでもかというぐらいの速さで見ている人に満足感を与える。そこで完璧に並び、完璧に合わせたときに日本に勝機が生まれてくる」と井村。

日本ならではの「パワーとスピード」を体現できるまで、徹底した強化の日々が続いている。

変わらない“キーワード”

 

採点競技のアーティスティックスイミングでは、オリンピック本番だけでなく、それまでの大会の実績も審査に影響するといわれる。
前哨戦の世界選手権で日本に下された評価は「世界4位」。
4月からの国際大会で「空手」の演技を披露し、日本の評価を覆すための厳しい戦いが始まる。
オリンピックまで残された時間はあと半年。
改めてキーワードを尋ねると、井村は力強く締めくくった。

 

井村雅代ヘッドコーチ

最後の最後まであきらめない。彼女たちの成長や進化を信じられるからコーチってやっていられるのかなと思います。この気持ちはまったく変わりません。

 

(取材:スポーツニュース部 記者 橋本剛)

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