特集 大相撲秋場所 やくみつるさんが注目する力士は?

漫画家のやくみつるさんは好角家として知られ、ユーモアと鋭い切り口の作品・批評が人気です。大相撲秋場所の見どころを語ってもらいました。
隆の勝には優勝のチャンスがある!
ことし(令和4年)はここまで4場所で優勝力士の顔触れが違っています(初場所:御嶽海、春場所:若隆景、夏場所:照ノ富士、名古屋場所:逸ノ城)。次の大関を目指す力士たちが力をつけて上位が星をつぶし合い、ことしは年6場所すべてで優勝力士が違うという1年になるのではないかと私は予想しているのです。
その中で秋場所で私が注目するのは、名古屋場所はけがで途中休場し西前頭10枚目まで番付を落とした隆の勝です。私は隆の勝を次の横綱候補というくらい高く買っているのですが、けがが回復すればこの番付ならば大勝ちができる。けがという逆風は吉兆と思わなければいけないです。上位がつぶし合う中で「しめしめ」と優勝を狙ってほしいですね。
隆の勝は番付が西前頭10枚目に下がったが、やくさんは優勝候補にあげる
そして大関陣では正代が名古屋場所の中盤以降の相撲を序盤から取るようになって、11月の地元九州場所で優勝すれば、年6場所の優勝力士が違うという私の予想が実現します。
阿炎 豊昇龍、若隆景、琴ノ若に注目
近々優勝しそうだなと思っていた阿炎は、再起からしばらくの間は立ち合いから突き切るような相撲を取っていましたが、最近は飛ぶは跳ねるは引くわとなって、師匠の錣山親方(元関脇寺尾)にかつを入れてもらわないとこのままになってしまうと心配しています。
阿炎には期待の大きさから厳しいことばがかけられた
豊昇龍が新関脇となりましたが、これはただ上がつっかえていて小結から上がれなかっただけの話です。強いと思わせる相撲が多々ありますからね。これから先はさらに成長を重ねていって、来年の半ばぐらいには大関に、というような位置にいるのではないかと思います。また若隆景は地力は大関に引けを取らないくらいです。波に乗りたいですね。取り口がどうのということではないと思います。
秋場所に向けて稽古する豊昇龍(左)と若隆景(右)
そして琴ノ若です。若隆景とか大栄翔とか、そこに逸ノ城が加わって、豊昇龍に霧馬山。次期大関候補の中に、名古屋場所で部屋にコロナ感染者が出て途中休場したとはいえ、琴ノ若は確実に割り込んでむしろその中でも上にいるというふうに見たいですね。準優勝した経験もありますし、白星の中にはびっくりするぐらい強い相撲を取るなというのがあります。元気任せで勝っているというよりは地力で勝っています。
琴ノ若(左)が遠藤を突き出し圧勝(名古屋場所5日目)
まだ番付は追いついていないですが、もう父(元関脇琴ノ若の佐渡ケ嶽親方)は超えているんじゃないかという気がしますね。師匠に遠慮してまだ誰も言っていないですが、ここで断言して差し上げます。「おやじより強い」と。
朝乃山 「うれしい」は早い
注目されている朝乃山は、名古屋場所は三段目で優勝しましたが、「優勝して素直にうれしい」という発言はだめですね。それを言っちゃだめです。もっと神妙になりなさい。そんなところで素直にならなくてもいい。うれしいなどというポジティブなことばをまだ言うなということですね。秋場所は幕下の優勝争いをかき乱すことになるわけですから、また皆さんに迷惑をかけます。
朝乃山は出場停止から復帰し三段目で優勝した(名古屋場所千秋楽)
新入幕平戸海の相撲は見応えがある
秋場所で新入幕の平戸海は、名古屋場所の十両の相撲を見ていていちばん見応えがあった力士でした。平戸海以上に星をあげた人はいるんですけれども、敢闘精神というか、一生懸命取る若手の相撲というのはこういうものだよなと思いました。全力を傾注しているのが見て取れて魅力的ですね。舞の海さんが早いうちから平戸海を注目してくれと言っていたのは、むべなるかなと思いましたね。
秋場所新入幕の平戸海(8月29日東京・足立区 境川部屋)
相撲専門雑誌「NHK G-Media大相撲中継」から