特集 ダブルダッチONE'S王者 KO-YA “自分のスタイルを追求したい”

2本の縄跳びを使って多彩な動きを繰り出す「ダブルダッチ」。公園などで見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。アメリカに入植したオランダ人が遊びで行っていたため「オランダの2本の縄跳び」という名を冠するとされる、人気のアーバンスポーツで、近年注目されています。 6月上旬に開かれた「横浜アーバンスポーツフェスティバル」でも多くの観衆を魅了していたダブルダッチ。その大会で行われた「ONE'S」という種目で優勝した、日本一のジャンパーのKO-YAさんに、その魅力や技術、ダブルダッチへの思いなどについて聞きました。
ONE'S FINAL2022で技を披露するKO-YAさん。会場は2人の熱いバトルに魅せられ、熱気に包まれていました。
ダブルダッチ「ONE'S」とは?
チームで戦う「パフォーマンス」と違い1対1で競う種目。あらかじめ用意された同じターナー(ロープの回し手)が回すロープを、ジャンパーが1分ずつ交互に跳んで技を競い合います。勝敗は、5人のジャッジによる旗判定ですが、明確な審査基準があるわけではなく、どれだけ相手を圧倒するインパクトを残せたかが勝者を決めます。
このインタビューや「ONE'S」決勝の模様&ステップの技術解説などは、「アーバンスポーツFans」で放送します。ぜひご覧ください。
BS1 7月31日(日)16時00分~16時49分
※再放送 8月4日(木)前0時50分~1時39分(水曜深夜)
自分だけの上半身の動きへの追及
―よろしくお願いいたします。さっそくKO-YAさんのダブルダッチについて聞いていきたいのですが、上半身の使い方がすごく特徴的ですよね。
KO-YA
ありがとうございます。僕がダブルダッチを始めた頃って、やっぱりまだ首を動かせたり、上半身をスムーズに動かせる人ってすごい少数だったと思うんですよ。なので、やっぱりジャンプしながらキレイに体を一個一個動かせるって、ダンサーさんたちで言うとISOLATION≪アイソレーション=手や足などの体の一部一部を、独立させて動かすこと≫って言葉を使っていますけど、それってすごく難しいことなので。これは、僕のスキルの一つとして、ジャンプしながらあんなに一つ一つ身体の場所をキレイに残せるんだっていうのが、技の一つとして大事にしていますね。こだわりです。あとはやっぱり上半身が動かせれば動かせるほど、大きさを表現できることもあるし、細さを表現できることもあるし、そういった意味でも、上半身の動きは常々練習しています。
―緩急は意識しているのでしょうか?
KO-YA
そうですね。やっぱり自分の中でリズムを崩すっていうところで、静と動は意識していると思います。それこそバトルとかショーに出始めたころって、気持ちが前のめりになってしまって、静と動でいうならばいきなり動で行っちゃうことが多くて。そうすると、結構お客さんってついてこなかったり。あとは動ですごいことをやっているのに、それで始めてしまうと、それがベーシックで捉えられちゃうのもあって。
静から入ることによって、動が引き立つというか。その逆もあって、動から行くことによって静が引き立つみたいなのも、やっぱりお客さんとか見ている人の反応からすごく感じていました。なので、やっぱり静と動はどこで使い分けるかっていうのを、音を感じながら、お客さんや周りの人、会場の反応を見ながら、『今これ動で入るほうがいいな』みたいな時と、静から徐々に、ちょっと動を入れて、また静に戻って、みたいな時と。やっぱりその静と動の緩急の構成は考えていると思います。
―上半身と下半身の連動は、どういう意識ですか?
KO-YA
最初の頃は、上半身を速く動かすと足が速くなっちゃったりとかしていました。脳内で行う手遊びゲームと一緒で、脳を活性化する感じもあるんですけど、とにかく慣れが必要でした。まず、足はシンプルにずっと一定の16ビートでずっとリズムを取っています。でも上半身は8ビートで動かしているので、下は16ビート、上は8ビートで動かす練習を基礎からやっていました。徐々に激しく動いても、一定のリズムをずっとキープしたままでいるので、感覚的にはドラマーさんと近いのかもしれないですね。上半身を動かしていると、ステップを早取りしやすくなるのはすごいダブルダッチの最初の登竜門だと僕は思っていて。だからロープをちょっと待つ感覚で、本当にそれこそロープが足の裏に入ってきたというのを常々感じているのがもうクセになっています。
―そうしてこだわってきたことが、いまの自分の強みなんでしょうか。
KO-YA
まず、このダブルダッチとかヒップホップカルチャー・ストリートカルチャーって、その個性を出すことによって、その個性が出始めた時に自分のスタイルが確立していて、それが技になっていて、実際にそれが会場で湧いてくる。『KO-YAはあれが得意だよね』『KO-YAっていったらあれだよね』っていうのが出始めたら、それがひとつのスタイルとして、上位に食い込めるものなんだなというのはずっと感じていました。先輩たちもそうだったし、だから誰もやったことがないようなことを常々探していました。という中で、上半身をこれだけ動かせている人ってダブルダッチ業界はまだ少ないよな、という中で、俺が一番動かせるやつになってやろうというのも、一つ僕の中で頑張った理由ですね。
スタイルを可能にしたステップ
―KO-YAさんの上半身を動かしていくスタイルを可能にした秘密が、足のステップにあると聞きました。詳しく教えてください。
KO-YA
ペダルというステップの技があるんですけど。前からくるロープはつま先を挙げて、飛ぶというより、すらすみたいな感じですね。溜め過ぎて足に当てちゃってる時もありますね。当てるけど、当ててぎりぎりでよけるみたいな感じです。ロープ2本分ぐらい、つま先を挙げるイメージです。
前から来たロープをかかとを上げ、ぎりぎりまで引き付けている瞬間。このあと、かかとにロープが引っかかる直前に足を浮かせます。
―飛ばずにステップでロープをかわす「ペダル」、どんなメリットがあるのですか?
KO-YA
やっぱり僕の場合はなるべく上半身を動かしたいので、地面に足がついている時間が長いほど、上半身で動ける時間もコンマ単位で長くなるので、やっぱり空中で体を動かすよりも、地面になるべく着いている時間が長いほうが体も動かしやすいんですよね。音を感じて、なるべく地面にいた方が体で表現できるので、それが一番音を取りたいからリスクを背負ってでも長く地面にいるようにしたいと思い、ペダルを身に着けました。
極限まで鍛え上げたステップ。ロープ2本分どころか…。
―ロープは見ているんですか?
KO-YA
ロープはもう背景の一部として、見ているというか感じているイメージで、ほぼほぼ目で追ってはいないです。音に集中していて、音でちゃんとロープこのぐらいで来るだろうなということがわかっているので。
3年連続準優勝からつかんだ頂点
―6月の「ONE'S FINAL2022」、自身初めてとなる優勝となりました。3年連続決勝で敗退する中、勝つためにどんなことをしてきたのでしょうか。
KO-YA
やっぱり3年連続準優勝していた自分と、この1年の自分はやっぱりやってきた練習の仕方が何よりも違うと思います。まず、すごく基礎的なところはもう一回学びに行きました。ダンサーさんのところへ通って、体の動かし方から学びにも行かせてもらいました。今までやってきた胸の動きだったり、ちょっとした手首の動きだったり、そういう1個1個を、前回まではここまでしか動かなかったのがここまで動くだけでやっぱり変わってくるし。あとは前回の時、手がおろそかだったので、手とか足の形、やっぱ格好いいシルエットを作る上でかっこよさってどういう意識でやっているのだろうっていうのは、すごく学んだので。そこを聴きに行ったり、学びに行ったり、レッスンを受けに行ったり、ワークショップを受けに行ったり。あとはダンサーのバトルに出場してみたり。いろいろなことをやっていました。
そうすると、『この動きの時は、ここの中にしまう感覚でやっているんだ』とか教えてくれたり。レッスンを受けて、同じステップでも全部をこの丹田のところにしまう感覚みたいにやるといい、とか言われるとわかりやすくて、なるほどみたいな。それで、格好いいグルーブのシルエットの出し方みたいなのも学んだから、それをじゃあ、ロープの中でやるには前へとロープも意識しながらという形で、細かいところが意識的になりました。とにかく僕は、格好いいダンサーさんたちをすごく参考にはしましたね。
―3年連続準優勝となると、メンタル面は大変だったのでは。
KO-YA
そうですね。メンタル強くさせてもらったと思います。でも正直、何かこういうと偉そうですけど、1回目、2回目は決勝まで“行っちゃった”感もあったんですよ。そんなに自信なかったので。たぶんいろんな音との巡り合わせと会場との波長が合って。決勝までは上がれちゃったんですよね。自分の感覚だと『えっ、これまさかいけちゃう俺?!』みたいな。でもやっぱり負けて、その瞬間は『そりゃそうだよな』って。そんな優勝は甘いもんじゃないよな、こんな気持ちで優勝できるわけがないなっていう。1回目・2回目の準優勝は、自分の準備の甘さが、それは結果に出るわなって実感させられる大会でした。
だからこそ、絶対次はって思っていた3回目も準優勝だったので、あれはホント悔しかったですね。でも、やっぱり3回目の時も自分なりに準備していたけど、今思うと相当甘い準備でした。優勝した相手のほうが完全に俺より準備していたし、思いの強さが俺より一歩違った。いや一歩どころか全然違ったかな。それによってジャッジの旗1個変わるなというのは、3回やってからでは気づくのでは遅いんですけれど、3回目で本当に気づきました。
本当に心の底から悔しかったからこそ、3回目の準優勝をした瞬間に決めたのは、1年間、誰よりも絶対に気持ちを切らさない。誰よりも優勝するつもりで、1年間動くぞって決めたのが、最後3対2のこの1個の旗が上がったおかげではないかなって感じています。
ONE'S FINALの優勝が決まった瞬間。
―スタイルを変えたりなど、悩みはなかったのでしょうか。
KO-YA
ありましたよ。何回も1年間で、この練習していていいのかなとか。もっと技に特化したことをやらないと勝てないんじゃないのかとか。何回も気持ちの波もあったし。もう大会に出たくないみたいな、苦しい時もありました。
この練習していたら勝てないよって感じた時に、『やっぱり出たくねー』なんて思ってたんですけど、それを実家にいたときに母親にボソッと言ったんですよね。そしたら、母親が、半年目指している姿を知っていてくれたので、『やるとこまでやったら』って。『結果がどうであろうと、やるとこまでやったらどちらにせよ、清々しいから。もう最後って決めて、今回をもって最後にしなさいよ』って。
やっぱ一回でも目指した優勝なので、掴まず終わりたくなかったし。この優勝というものを自分の中で持ってるか持ってないかで、この先の人生、全然気持ち変わるだろうなっていうのを自分の中で感じていて。本当に自分がやり切ったってところまではやらないと絶対に後悔することは分かっていたので、間違いないと思って、よし最後にしようと決めてやりました。
―次は追われる立場となったわけですが、最後に今後のKO-YAさんについてお聞かせください。
KO-YA
そうなりますね。全然追われる立場って感覚は全くないです。挑戦者です僕は。今回は優勝という結果をいただけましたけど、やっぱり今も練習してるとはみんなマジうまいって思うんで。よく優勝したなとかも思う。だからやっぱ負けたくないし、みんなに常に挑戦者なんで何か追われている感覚は全くないです、僕の中で。だからそこのプレッシャーが全くないし、勝たなきゃ、というだけじゃなく、自分の好きなスタイルを追求した練習をもっとしたいし、そういうショー作りをしたいし、そういう映像とか撮りたい。そんな状態の自分でONE’sの舞台でどう自分の好きを表現できるか。自分が選んだ曲じゃない曲で、自分が用意したステージじゃない場面で、それをハメに行く楽しさを、今後はさらに楽しみたいですね。
―ありがとうございました。