特集 サッカー日本代表 ブラジル戦のデータから見えた課題と勝敗のカギは

6月、ワールドカップに向けた強化試合を戦ったサッカー日本代表。4試合を2勝2敗で終えました。果たして、日本代表は目標のベスト8に届くのでしょうか。世界ランキング1位・ブラジルとの対戦データから読み解きます。
分析で浮かびあがった”トラップの質“
先制のPKを決めるブラジル代表ネイマール選手
6月6日、日本代表はブラジル代表と対戦。ネイマール選手にPKを決められ、0対1で敗れました。今回、ブラジル戦の分析をお願いしたのは、サッカーアナリストの杉﨑健さん。3年前、横浜F・マリノスのJ1優勝にもアナリストとして貢献した、データ分析の第一人者です。
サッカーアナリスト 杉﨑 健 さん
杉﨑さんが指摘した日本とブラジルの差が、ボールを止める基本のプレー「トラップ」。ボールをコントロールする技術、判断の差でした。
杉﨑 健 さん
止めて蹴るを繰り返しているだけのように見えるんですけど、ものすごく細かい技術がブラジル代表はある。
その差は「自陣でのトラップミス数」に現れています。
失点につながりやすい自陣でのミスの数を数えると、ブラジルの2回に対し、日本は10回と大きな差がありました。決勝点となったネイマール選手によるPK。このPKを与えたきっかけは、日本が自陣でボールを奪われた場面にありました。田中選手から堂安選手への縦パス。堂安選手がトラップしようとした瞬間、ブラジルの選手がプレスをかけボールを奪われます。このシーン、杉﨑さんの指摘は「トラップしようとする際、どちらの足でボールを止める意識があったか」でした。
後半、攻め込む堂安選手
杉﨑 健 さん
ブラジルの左サイドバックの選手が近くに居ます。当然プレスがかかりますという時に、どちらの足でトラップしますか、先に触る意識がありますかと。相手からすると近い方の左足でボールを止めようとするので、ミスとなって引っ掛けられる。それによってショートカウンターを許してしまった。
右足でトラップしていれば相手から遠い位置でプレーできましたが、左足でトラップを試みたため、ボールを奪われ、カウンターからPKを与えてしまったのです。
一方、対照的なのが前半終了間際のブラジルの自陣でのトラップ。
ブラジル代表 カゼミーロ選手
日本代表が積極的にボールを奪いにいったシーンで、ブラジルのミッドフィルダー・カゼミーロ選手は、相手から遠い右足でボールをトラップしてコントロール。自陣ゴール前からパスをつないで日本のプレスを一気に突破。チャンスにつなげました。
杉﨑さんは、ここにブラジルのトラップの質の高さを感じるといいます。
杉﨑 健 さん
相手が来ていることを見越して、遠い方の足でトラップします。ここが全くもってずれない。そうしたうえで、相手はこっちに守備をしてくるだろうということを見越して逆を取るパスができる。日本としてはボールを取りにいったんですけど、ブラジルのトラップ前の視野の質の高さっていう部分が見えたところかなと思います。
実は、試合全体でのトラップの成功率を比べてみると、ブラジルは95.4%、日本は94.2%。その差は、わずか1.2%です。しかし、杉﨑さんはこの差が世界との差を示しているといいます。
杉﨑 健 さん
本当に微々たるものですけど。逆に非常に大きな差なのかなとは感じました。トラップの質だとか、本当に1つ2つの差でPKになることもあれば、シュートまで打たれることもあるというところが差として出てるんじゃないかなとは感じました。
本番を勝ち抜くカギは「ビルドアップ」
ワールドカップではドイツ、スペインといった強豪と対戦する日本。杉﨑さんは、ワールドカップでも日本がブラジル戦のように押し込まれる時間帯が増えると予測したうえで、次のように提言しています。
杉﨑 健 さん
自陣からのビルドアップ(後方からパスをつないで押し上げる攻撃)を放棄するっていうことをしてはいけないと思うんですね。恐れずに自陣から(つなぐことを)繰り返して相手の守備をひっくり返す力をつけていかないと世界トップは取れない。
そのためのキーマンとして名前が挙がったのが遠藤航選手。
遠藤 航 選手
3人で構成される日本代表の中盤で一番後ろに位置する「アンカー」と呼ばれるポジションで、ブラジル戦ではチーム最多の45回のトラップを記録しています。
杉﨑 健 さん
ブラジル戦は(押し込まれた結果)自陣でビルドアップする回数が多くなったからこそ遠藤選手のトラップ数も多くなったと思います。ドイツ、スペイン戦でもこうした状況が起こりえるかなと。トラップの質によってボールを失ってしまうと相手のカウンターを受けるという意味では、遠藤選手がキーになるんじゃないかなと思いますね。
ビルドアップの起点になる遠藤選手のトラップの質が、勝敗のカギを握ることになるかもしれません。
6月の強化試合では、ビルドアップでミスが出て、失点につながった場面があった日本代表。それでもビルドアップに取り組む重要性について、日本代表の森保監督もコメントしています。
日本代表 森保 一 監督
森保 一 監督
最初からボールをつなぐこと、マイボールにすることを放棄して、クリアするようになってしまったりすれば、もっと相手の攻撃を受けることになって、疲弊し、最後は失点につながる。ここから世界で勝っていくために守から攻、ディフェンディングサイドからのビルドアップは絶対にやらないといけない。
今後の日本代表の国際試合は、7月にJリーグでプレーする選手で臨む東アジア選手権、9月の海外遠征が予定されています。ワールドカップ本大会に向け、今後の試合でも「トラップ」と「ビルドアップ」に注目です。
この記事を書いた人

西阪 太志 アナウンサー
平成22年NHK入局
鳥取・岐阜・札幌・釧路局を経て「NHK NEWSおはよう日本」のスポーツキャスターを担当。学生時代に経験したスポーツは、サッカー・アメリカンフットボール。