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特集 ラグビー元日本代表・畠山健介さんに谷真海さんが聞く「あの日のこと」「これからの日本ラグビー」

ラグビー 2022年6月26日(日) 午後9:00

2022年6月26日放送予定のサンデースポーツでは、パラアスリート谷真海さんがラグビー元日本代表で先月引退した畠山健介さんに話を聞きます。ふたりとも宮城県気仙沼市出身、対談はふるさとの話から始まりました。

 

谷)気仙沼の景色で好きなところありますか?


畠山)大人になってから帰って、安波山からの港とか見える景色すごいきれいだなぁって。

 

谷)私もそこが1番好きで。ほんとに大人になってみる方がジーンとくるというか、気仙沼が見わたせてキラキラした海と緑に囲まれて。

 

畠山)街全体を俯瞰で見られる場所って実はあんまり気仙沼多くないから。安波山登って上から見ると自分の街、住んでる街が見られるので。

 

谷)近くで見る海と安波山から見える海って違って見えたりして。私、中学3年間陸上部だったんですけど毎朝自主練で安波山を走ってました。すごい思い出の場所で、その時は景色はどうこう思わなかった当たり前すぎて。大人になって帰るとあそこからの景色で、あ、帰ってきた、いいところだなぁって思ったんですよね。

 

畠山)俯瞰できる感じ。すごいなと思うのと「自分でもそういうものが見られるようになったんだなぁ」って言うふうに思えるのですごい好きな場所ですあそこは。

 

安波山から望む気仙沼港(2005年)

 

2011年に発生した東日本大震災では、ふたりのふるさと・気仙沼市に津波が押し寄せました。

 

谷)2011年をきっかけにすごくいろんなものを考えさせられたし感じたしその後のキャリアにもものすごく影響を与えたなと思うんですが?

 

畠山)2011年の東日本大震災のときは僕は気仙沼に戻れたのは約1ヵ月後だったんですよ。ちょうど父の誕生日に帰れて、当時はほんとになんていうんですかね、ほんとに甘ちょろい考えで何とか後片付けとか何か手伝えたらと思って帰省したんですけど、目の前の光景に閉口して。自分がなんでこんなちっぽけなんだろうと思って、もう個人でできるレベルじゃないなと。僕はそこで1ヵ月2ヵ月瓦礫撤去することももちろんできたと思うんですけど、それよりも自分にできることってラグビー通じて何か明るいニュースを気仙沼に届けられたらそれぐらいしかできないんじゃないかなと言うふうに思いましたね。ただ2011年は結果が伴わずにその思いを達成する事は…

 

谷)そうか、あの年にW杯に出てますもんね。

 

2011年W杯ラグビー1次リーグ トンガ戦でタックルを受けながら突進する畠山選手

 

畠山)その前に、女子サッカーのなでしこジャパンがワールドカップで優勝したんですよ。それで日本中が沸いて、「次は俺たちだ」と思って臨んだらうまくいかなくて良い結果が出せなくて個人としても落ち込みました。それで次のシーズンたまたま宮城県で当時トップリーグの試合があったときに横断幕で「感動ありがとう」っていう横断幕見たときに、「勝つことで明るいニュースを」と思ってたんですけど、戦う姿勢とかそういうことを示して戦っている誰かがいるっていうのを知ってもらうだけで共感してもらえるのかなっていうのを感じたので。それがよりいっそう2015年、よし次はほんとにもう戦いたいって思えたので大きいできごとでしたね。

 

谷)自分たちができることアスリートにしかできないことを考えるきっかけになりましたよね。

 

2015年ワールドカップイングランド大会では畠山さんも強豪・南アフリカ戦に先発で出場。日本は、最後まであきらめずに戦い、大金星をあげました。

 

2015年W杯ラグビー 1次リーグ 米国に勝利して初の1大会3勝目を挙げ感極まる畠山選手(一番左)

谷)2015年のワールドカップでは私から見ていてスポーツの力、ラグビーの力が日本にも伝わったなって思ったんですけどその辺はどう感じてますか?


畠山)先日もラグビーをしたことがない海外に住んでいる人から握手されて。「日本代表すごいなぁ」と。「こないだはシンガポールの人から同じアジアの人間としてすごいうれしかったんだみたいな話をされたんです、だからあの時のメンバーにほんとに感謝してます」って言われたときに、何かすごい事をしたというかこっちもすごい誇らしいし、シンガポール僕行ったことありますけど、友達はいないんですけどでもそうやって握手を日本人にしてくれるってスポーツの可能性というか、力みたいなのを感じましたし、それって南アフリカっていうずっと頑張ってラグビーの歴史を紡いで積み重ねてきた強国があるからぼくらの偉業も成り立っているので、そういう意味では南アフリカのラグビーの歴史にも感謝しなきゃいけないし逆に今度僕たちがアジアの国にいつか負ける時が来たときに、僕らはどういう態度をしなきゃいけないかと言うのは南アフリカから教わっていると思うんですよね。そういうの考えるとスポーツの力ってすごいなぁと思いますしそれを次の世代にもつないでいかないといけないなと感じます。


谷)ただ歴史を変えたというだけではなく、もっと深いところで意味があると言うことですね。

畠山)次は僕たちが歴史を変えられる側になるというか、そういう立場になるために僕らも研鑽をしていかなきゃいけない。そういう意味で持続化とか永遠に続けられるかと言うのもすごく大事になってくるんじゃないかと思っています。

 

谷)そこから日本のラグビーの位置づけも変わって2019年のワールドカップ開催の盛り上がりにもつながっていったかなと思うんですけど、その人気みたいな定着とか盛り上がり具合っていうの客観的にどう見てますか?


畠山)難しいですよね。爆発というか一気に盛り上がること自体はそこまで難しくないのかな、大事なのはその灯をともし続けること。ろうそくもそうだと思うんですけどすごい勢いで燃えるろうそくってすぐ減ってしまう。長時間耐え得るために少しの火で保つというか、火力も大事なのかなって思うんですよね。そのために必要になってくるものが競技によっても違うと思うんです。ラグビーは人数も多いしコンタクトスポーツなので例えば相撲でも参考になると思いますしNFLアメフトも参考になるし、そういうところを勉強してどうすればラグビーというスポーツが継続して興行としてできるのかっていうのは真剣に考えなきゃいけないなっていうのは、2015と2019年のワールドカップの盛り上がりを通していろんな人が気がついたと思いますね。

 

その後、畠山さんは海外のプロリーグにも挑戦しました。

 

谷)プレーの部分で持ち帰れた部分はありましたか?

 

畠山)プレーの部分は日本の方が(アメリカより)正直高いと思います。ただ、すごいわかりやすいです。でかいやつはバーン、速いやつはサァ、キック上手なやつはキック決まるみたいな。アメリカもヨーロッパ圏の人が多いのでラグビー好きな人を知っている人も多いんですけど、それ以上にラグビーを知らない女性の方とか子供を見ますし。そういう人たちってラグビー知らなくていいんですよ、わかりやすくて良いんですよ盛り上がるシーンがあれば。

日本のラグビーはめちゃくちゃ高度で僕が入った社会人1年目に入った時よりも全然フィジカル、戦術、スキル全然段違いで高度になったんですけど、それがわかるのってファンの人だけで、ラグビー知らない人からしたら何が凄いのかとかは正直わからないと思います。レベル上がってるけど、ファンとかラグビーを見たことない人にはより難しくなっている。やっぱりたくさんの方に来てもらうにはわかりやすさが必要で、1回入ってしまえば沼になるような制度設計というか 圧倒的に体がでかい、本当に細いんだけど足が速い、なんかあんまり体がないけどかっこいいとかいろんな人がいていいと思うんですよ。いまの日本はレベルが上がりすぎて、みんな走れて速くて強くて。体力もあって戦術を理解していて体を張ってみたいな、結構みんな正直似てきてるなぁと思って。もっと何か尖ってていいんじゃないかな。

 

谷)面白さがね。

 

畠山)あいつのアソコが好きだわとか勝てないけどあそこかわいいんだよなぁっていうのが、少し技術の向上とともに薄れているなと。それってなんかラグビーの本来のいい部分をもしかしたらそいでないかなぁとか思う時もありますね。難しいとこですね。ほんと難しいです。

 

谷)より難しいレベルを目指しながらにわかファンと言う人たちも楽しめるような仕組みが必要と言うこと。

 

畠山)そういうところがバランスだと思います。フライング横綱(「走れるプロップ」だった畠山さんの愛称)じゃないですけど、二律背反するのを合わせること、矛盾も生じるクリエイティブな作業だと思うんですけどそれがもしできたら面白いユニークなものになると思うので。属性が異なるものをどうすれば実現できるか形にできるかっていうのはもっともっと考えていかなきゃいけない、勉強していかなきゃいけないかなと思います。

 

畠山さんは、ラグビーの魅力を多くの人に伝える活動を始めています。

 

谷)アメリカはスポーツの生活とか文化への浸透の具合というか全然違いますよね。

 

畠山)ただそれを日本に持ってきてもイコールにはならない。日本には日本に合ったアプローチの仕方があるんですよ。だからそこはしっかりラグビー界だけじゃなくて日本のスポーツ界全体で海外の事例をまるまる引用するんじゃなくてどうすれば日本のマーケットとか日本人に合ったものになるのかっていうのはすごい大変な作業だと思うんですけどやらなきゃいけない。カレーもラーメンもいま日本の国民食といっても相違ないくらいいろんな種類ができているように、「アレンジ」が日本人は得意だと思うので、海外から学んでいかに日本流にアレンジできるか。そういう話し合いもぜひラグビー界からできたらいいなと思います。

 

谷)その辺も期待してます。もうほんとにやることいっぱいですね。現状にはもどかしさを感じている?

畠山)めちゃめちゃありますよ。

谷)じゃあ、これからやることいっぱいありますね。

畠山)僕のやることがなくなるのがいいですね。やっぱり僕はどこまでいってもいい意味でも悪い意味でもラグビーしかしてこなかった人間なので、だからこそ見えるものもあるので。僕の見識、僕だけじゃなくプレーヤーの見識も生かされつつ、でも試合だったりリーグを興行してくれる方々の考えもあって、何よりもそれを支えるファンの方やお客さんがお金を払って試合を見に来て、そのお金で我々はご飯を食べている、ラグビーをさせてもらっているという感覚をまず自覚するっていうことから始まるのかなとすごく感じてます。

 

谷)これまでのキャリアを振り返っていかがですか改めて?

 

畠山)感謝しかないですね。いろんな良い事もそうですけど試練を与えてくれましたし自分の弱い部分を突きつけられたり、苦しい時にその人の本性を裸にしちゃうんですよスポーツって。ラグビーとか特にそうで、苦しい時にやっぱり逃げ出しちゃうと、ふだんの私生活でもグランドの外でも苦しくなったら俺逃げよとか、これやめとこうとかなると思うんですけど、苦しい時に頑張ってる先輩とか苦しい時に誰よりもけがしてるはずなのに体をはってるやつを見ると勇気をもらえるというか、「おれもああいう風になりたい」っていうのをラグビーを通じて教えてもらったので。僕みたいな怠惰な人間を外に連れ出して健康体にしてくれたと言う意味でも本当に感謝してます。自信を与えてくれましたし、素晴らしいところにも連れてってくれたし、素晴らしい人にも出会わせてくれたし。本当に感謝しかないです。

 

谷)これからやっていきたいことは感謝の気持ちを次につなげる意味でどんな形にしていきたいですか?


畠山)いろいろ考えたんですけど、ラグビーに対して多大な恩がありますけど、やっぱり恩は遠くから返せっていう言葉があるとおり「距離感」を考えなきゃなと。ラグビー界の中に、ラグビーの近くにいることが決して恩返しになっているかというと、そうでもないのかなと個人的に思うので、「あの人ラグビーしてたよね」「何か面白い人だね」とか「いいこと言ってるね」というだけでもラグビーの価値を高めることができると思う。ラグビー界にいた人間がラグビー界じゃないところに行ってラグビーの価値を広めることが僕にはできるんじゃないかなという時もあるので、その辺のバランスは良いとこ取りしていこうかなと。

 

谷)楽しみにしてます。そのキャラを生かして。

 

畠山)興味を持った人がラグビーを見に行こうとか、ラグビーちょっとやってみようかなぁと思ってもらえたら。

 

谷)その第一歩が難しくて。

 

畠山)まずは自分自身がもっともっと成長できるように。ラグビーが背中を支えてくれなくてもちゃんと2本の足で立って、たまには手をついちゃうこともあると思うんですけどでもラグビーによっかかかるんじゃなくて、ラグビーを背負っているって言う自覚をもって2本の足、もしくはハイハイでもいいから…

 

谷)ラグビーの経験がいきそうですね。

 

畠山)少しずつ歩んでいければなと思います。

 

谷)さて最後。このコーナー「たに色まみ色」で最後に「色」を聞くことになってるんですけど、今の畠山さんの色、これからの色でもいいし、キャリアを振り返った色でもいいし、もし答えられるんだったら今の気持ち、これからの色を教えてください!


畠山)ダークグレーです。

 

谷)イメージと違いますけど。

 

畠山)スポーツって白黒ハッキリするじゃないですか。勝てば白だし負けたら黒。そういう世界で生きてきてそういうものごとで世の中見たら正しいか間違っているかの価値観だけ。でもそうじゃなくて実はその中間色が実はあって。白でもない黒でもない。どっちかに振るんじゃなくて、中間色というか赤とか白とかパープルとかピンクとかそういうなんて言うんですか、中間色みたいなのって大事だなと思っていて。黒だと完全に片側なんですけど、僕は決してキレイなタイプの人間じゃないのでダークグレーくらいで、ちょっと「白」を残してみたいなぁ、そこも取り入れたいみたいに。

 

谷)これからの人生も、どっちか決めずに。

 

畠山)あとダークグレーがおしゃれだなと思ってるんで。やっぱりいろんな色を合わせると黒に近づく。黒だけだとどっちかだけ二元論みたいになっちゃうので、そうじゃなくて、いろんな色あわせるんだけど白もちゃんと入れてますよっていう意味でダークグレーです。

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