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特集 プロ野球 日本ハム 北山亘基投手 “苦境を乗り越えて”

野球 2022年6月28日(火) 午後2:00

日本ハムのルーキー 北山亘基投手。新庄剛志監督から今シーズンの開幕投手に抜てきされたあとは、抑え投手として欠かせない戦力になっています。その北山投手は交流戦で2試合連続のサヨナラホームランを打たれるどん底を経験しました。ルーキーはこの苦境をどう乗り越えたのでしょうか。 

ルーキーながら抑え投手

3月25日  開幕投手としてソフトバンク戦に先発した北山亘基投手

日本ハムにドラフト8位で入団した北山投手の武器は、最速156キロの速球です。この速球を軸にカウントを取れるカーブ、空振りを取れるフォークボールと高低を使って勝負するのが投球スタイルです。北山投手が春のキャンプで1軍の選手相手にバッティング練習で投げた際、前に打球が飛ばず、そこから新庄監督が1軍での起用を始めました。サプライズで開幕投手に選ばれたあとは、抑え投手として活躍し、交流戦に入る前には、3勝して5セーブをあげ、ルーキー離れしたピッチングを見せていました。

プロ入り後 初めてホームランを打たれる

5月24日 ヤクルト戦で村上選手(手前)にサヨナラ2ランを浴びた北山投手(写真奥)

5月24日。日本ハムは交流戦の初戦で昨シーズン日本一に輝いたヤクルトと対戦し、試合は1対1で延長にもつれる接戦でした。同点の11回に北山投手が登板し、ツーアウトまで取ったあと、フォアボールでランナーを出しました。そして、対戦したのは4番の村上宗隆選手。1球目はインコースへの速球でボール。そして、2球目の速球をとらえられ、ホームランを打たれてサヨナラ負けしました。

 

北山 亘基 投手

ちょっと高めのアウトコースのボールだったと思うんですけど、そこのボールをスタンドまで運ばれたのは、プロに入ってからは初めて。あそこまでしっかりとらえて、ホームランにされるのは初めての経験だった。すごいなという気持ちはあった。

まさかの2夜連続サヨナラホームラン打たれる

 

5月25日。ヤクルトとの2戦目は日本ハムが6対4とリードして9回へ。北山投手が2試合連続でマウンドにあがりました。先頭バッターにデッドボール。2人目にはヒットを打たれ、ノーアウト二塁三塁で打席には2番・山崎晃大朗選手。1球目はカーブでストライク。2球目もカーブでボール。そして、3球目のフォークボールが甘くなりました。ライトにサヨナラのスリーランホームラン。

 

ヤクルトに2試合連続のサヨナラ負けを喫し、引き揚げる新庄監督

これまで日本ハムの勝利を呼び込んできた抑え投手が、まさかの2夜連続のホームランでサヨナラ負けを喫して、どん底の経験になりました。

北山 亘基 投手

自分のなかでは1試合目の内容は消化して、しっかり取り組んで準備をしていました。マウンドにあがる過程とか準備は一切妥協なくやったので、そこに対して後悔も反省点もないんですけど、いま思えば、1戦目のホームランに引っ張られていた部分はどこかしらあったのかなと思います。1戦目、2戦目とチームの勝ちを消してしまい、負けに導くようなピッチングをしたことにはすごく責任があると考えていた。

初の3連投を決断 新庄監督の意図は

そして、5月26日。ヤクルトとの3戦目は、日本ハムが延長10回に4点をリードしました。この場面でも新庄監督は北山投手を登板させました。プロ入り後、初めて3日連続で投げさせる決断をしたのです。北山投手がマウンドに向かう際、新庄監督は直接声をかけていました。

 

5月26日 ヤクルト戦 延長10回、万波選手のタイムリーを喜ぶ新庄監督

北山 亘基 投手

監督からは『こんな遅くまで、ファンの方々は残って見守ってくれているし、きのう、おとといのことは越えていけと。楽しんで越えていけよ』と言ってもらって。3日連続でああいう場面で新人を起用するというのは、監督の立場からしてもすごく勇気のいることだと思います。それでも僕のために、僕の成長につながるのならばとしてくれたと解釈していたので、それは応えるしかないという気持ちで臨んでいました。

真っ向勝負 北山の23球

マウンドにあがった北山投手は真っ向勝負を挑みました。1人目には2球続けてストレートを投げて、3球目のインコースへのストレートでセカンドフライ。2人目には2球続けたストレートでツーベースヒットを打たれました。それでも北山投手はストレートにこだわり、3人目は153キロの高めのストレートで空振り三振を奪いました。ツーアウトを取るまでの10球はすべてストレートでした。なぜストレートにこだわったのか。

北山 亘基 投手

本当に向かっていく気持ちだけは、絶対に切らしてはいけないと思ってマウンドにあがったので。一歩でも引けば、たとえ抑えたとしても、何も得られるものはないと思っていました。

ビッグボスの意向に反してでも

迎えた4人目。1球目で152キロのストレートが大きく外れてボールになったあと、2球目のサインで北山投手は首を振りました。

北山 亘基 投手

ビッグボスの指示で、あそこはカーブのサインが出ていたんです。まっすぐが高めに浮いているときに、調整の意味も込めて、低めにいくようにカーブを1球挟んでという意味合いだったみたいです。でも、僕のなかではそんなことすら関係ないと思っていたので。首を振って、結果的にまっすぐを選んで投げました。

北山投手は、新庄監督の意図に反してでも、自分で決めた勝負に徹していました。

23球のストレート 苦境を乗り越えて

北山投手はこのあとフォアボールとヒットで1点を失い、6人目は、前日にサヨナラスリーランを打たれた山崎選手との対戦となりました。

北山 亘基投手

余裕もなかったので、このバッターだからこうしようというようなレベルではなかった。本当に、向かっていくだけという気持ちで投げました。

山崎選手への1球目。149キロのストレートが大きく上に外れました。そして、2球目はインコース高めの149キロのストレート。逆球になりましたが、センターフライに打ち取って試合を終えました。北山投手が投げた23球はすべてストレートでした。北山投手はマウンド上で大きく息をはき、グラブをポンとたたいて、安どの表情を見せました。チームメートも一様に、苦境を乗り越えた北山投手をたたえました。

涙のわけ 感謝のボール

北山投手はベンチに引き上げたあと、最後のアウトを取ったボールを受け取りました。これまでプロ初勝利のウイニングボールを新庄監督から渡されるなど、記念のボールを手にしてきましたが、このボールこそ特別だと言います。

 

北山 亘基 投手

抑えてブルペンに帰る途中で涙が出たんですけど、自分が抑えたから「よかった」の涙ではなくて、支えてくれた人たちへの感謝の気持ちで涙があふれてきました。ほかのボールは実家に送っているんですけど、あのボールだけは日にちと、『感謝』と書いて、ずっと自分で持っています。ボールを見たら、支えてくれたチームメートとかコーチ陣とかファンの方々を思い出せるボールなので。自分が調子いい時でも調子に乗らないように、調整が悪い時はその人たちの顔が思い浮かべるボールなので、これから一生、大事にして持っていたいなと思っています。

北山投手は2試合連続のサヨナラホームランでどん底に落とされたあと、ストレートだけを投げて、自ら苦境を乗り越えました。この経験を糧として、さらなる成長を誓っています。

北山 亘基 投手

(登板後に)SNSを通じて『感動しました』と言ってくれる人がたくさんいて、友達とか色々な人からもそういう連絡をもらい、そこはうれしかったです。ただ、僕は意図して、そういうふうにしたわけではなくて、必死にやった結果として、何か伝わるものがあったのであれば、すごく幸せなことだなと思います。普通の1試合のなかでも感動を与えられるようなピッチングは、これからもしていきたいと思っています。

 

この記事を書いた人

雁田 紘司 記者

平成15年 NHK入局 鳥取局、スポーツニュース部、静岡局、アメリカ総局で勤務。大リーグの取材は通算6年担当。現在は札幌局で日本ハムを担当。

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