連載1回目 鍵山優真の成長を促した合言葉 “YuMaximus” ユーマキシマス

NHK
2024年3月1日 午前9:01 公開

北京オリンピック、フィギュアスケート男子シングルの銀メダリスト・鍵山優真。NHKは2年間にわたり、急成長する姿に密着取材を行い、4月4日に「スポーツ×ヒューマン まっすぐ、心と向き合って」で放送した。その内容を再構成し、番組の中ではお伝えすることができなかった情報も織り交ぜながら5回に分けて、優真の魅力をお届けしていく。(※2022年6月28日スポーツウェブ掲載)

優真が北京オリンピックに臨んだ2021―2022のプログラムには実はある一貫したテーマが隠れている。それは新型コロナウイルスに苦しめられた世界へのメッセージ。演技を通して人々に「笑顔」「勇気」「未来」を届けたいという思いが込められた。

【2021―2022のプログラム】

・ショートプログラム “笑顔”をテーマにした「When You’re Smiling」

・フリー 剣闘士の“勇気”を表現する「グラディエーター」

・エキシビション “未来”を歌ったMISIAさんの楽曲「明日へ」

去年(2021)5月、優真は北京オリンピックを控えたシーズンのフリーのプログラム「グラディエーター」に取りかかっていた。振り付けを担当するのは、ローリー・ニコルさん。これまで浅田真央や髙橋大輔など世界のトップ選手を担当し、複雑で難度の高い振り付けに挑ませることで選手の表現力を伸ばしてきた。

「グラディエーター」は、古代ローマを舞台とした映画で、剣闘士の勇敢さや心の強さを表現するプログラムだ。

ローリーさん> 
  『グラディエーターの曲はとても美しく、温かく、崇高。そして『勇気』や『強さ』を表しています。自分の意志や強さ、力をプログラムに集結させることを目指しました。氷上の戦士としてステップで最高評価をとり、4回転ジャンプに挑む。音楽と映画が持つ意味合いがオリンピックシーズンにぴったり

勇気や力強さといった抽象的な要素を、氷上の演技で伝える。優真について“控えめで気持ちの表現が苦手”と感じていたローリーさんが、その表現力を最大限に高めて成長させたいと用意したプログラムだった。

ローリーさん> 
  『控えめだからといって、頭や心の中で何も起きていないわけではない。ただ、体や顔の表情がそれを外に出す準備が出来ていないだけ。私は優真にこの部分の自信をつけてもらいたいと思っていた

このプログラムを演じるにあたって、

ローリーさんと優真の2人が大切にしたある“合言葉”がある。

「YuMaximus(ユーマキシマス)」

優真の名前と「グラディエーター」の主人公・マキシマス、そして「最大限」を表すMaximumを掛け合わせた言葉だ。ローリーさんは、日本とカナダをつないでリモートで行う練習のときに何度もこの言葉を口にした。力強さ、そして複雑で高難度のステップを習得するため、いつもくたくたになりながら練習する優真を励ますためだ。

(写真)ローリー・ニコルさん

ローリーさん> 
  『本当にスケートを極めたいと思うならば、毎年がチャレンジの連続だと思わなければなりません。素晴らしいアーティストになるためには、習得しなければいけないスキルがたくさんあります。それを組み合わせて、素晴らしいパフォーマンスになるのです。その道のりには決して終わりがない。毎シーズン「ユーマキシマス」を達成して進化しないといけないのです

優真もその期待に応えたいと、必死の努力を続けた。

優真
自分でどう感じ取って、それをどう表現するかがすごく大切になってくる。最初はローリーさんから言われたことを自分自身の表現で表すのはすごく難しかったです。映画を何回も観たりして、どういう場面なのかとか、主人公はどう思ってるのかとか、観て研究をしました

今シーズン、優真は自分の気持ちをもっと表現できるように、決まった型がなく自由な発想で踊るコンテンポラリーダンスにも取り組んだ。教えを受けたのは「パプリカ」の振り付けを担当するなど、一線で活躍する辻本知彦さん。辻本さんは、優真に自分の殻を破らせようと厳しく接した。

取材中、2人の間でこんなやり取りがあった。

<辻本さん>『僕の振り付けをやる人は絶対難しい。2000%できない』

<優真>『2000%できなかったら、8000%分頑張ればできるようになりますか』

優真の負けん気の強さが表れた言葉だった。はじめは、自分の心の赴くまま自由に体を動かすコンテンポラリーダンスの動きが全くできていなかったが、厳しいダメだしを受けながら必死に食らいつく。次第に踊りには変化が見られ、表現するヒントをつかみ始めていた。

<優真>  『新しいものを求めていくのがすごく大事かなって。環境にしても技術的なことにしても新しいものを挑戦するっていうのは、本当にすごく好きなので。それがたとえ成功したとしても失敗したとしても、それは経験の1つになっていくと思うので、僕はやりたいと思っています』

実直に、そして素直に。

優真はスポンジのように新たな要素を吸収し、着実に進化を遂げていった。


鍵山優真選手の趣味はカメラ「写真大好き」!

★取材メモ「いつか旅に出たい」

優真の趣味の1つに、お気に入りのミラーレスカメラでの写真撮影がある。

海外遠征で時間を見つけては、その国の風景をカメラに収めている。

「バックパックとカメラ一本で、いつか旅に出たい」

引退後には各国を旅する姿が見られるかも知れない。


次回2回目は、優真の成長を支えてきた父・正和さんとの歩みに焦点をあてます。

https://www.nhk.jp/p/ts/2LVYW12QJQ/blog/bl/pBQ2112mey/bp/pXKOkPxm3X/