特集 陸上 日本選手権 注目はパリオリンピック目指す “Z世代” ②

陸上界を席けんする、いわゆる「Z世代」の旗手たち。2回目は大会3日目と最終日です。※「Z世代」とは1990年代から2000年代に生まれた若者を指す。
2002年生まれ すい星のように現れた村竹ラシッド選手 20歳
去年の日本選手権 男子110mハードル予選 13秒28で決勝進出
大会3日目は、男子110メートルハードルに注目選手が登場します。村竹ラシッド選手は、トーゴ出身の父親と日本出身の母親を持つ大学3年生です。去年の日本選手権の予選で全体1位の13秒28のタイムを出し、オリンピックの参加標準記録を突破しました。
「ここまで来たら1位を目指して頑張る」と、ハイレベルの代表争いに名乗りをあげ、すい星のように現れましたが、注目の決勝では「意気込みすぎた」と、人生初のフライングで失格。あと1歩で東京大会の代表を逃してしまいました。
東京オリンピック 男子110mハードル準決勝で力走する泉谷駿介選手(2021年8月)
その大会で日本新記録をマークして優勝し、オリンピック代表に内定したのが泉谷駿介選手(22)。すでに泉谷選手は7月の世界選手権の参加標準記録を突破しています。村竹選手の大学の先輩にあたり、順当にいけば12日の最終日の決勝で激戦が予想されます。
2002年生まれ 異次元の走りを見せる三浦龍司選手 20歳
東京オリンピック 男子3000m障害で7位に入賞した三浦龍司選手(2021年8月)
3日目の最終種目は、今、国内で世界レベルのレースを見ることができる3000メートル障害の決勝。ほかの長距離種目に比べて、取り組む選手が少ないマイナー種目のイメージがありましたが、三浦龍司選手というスター選手の登場で様相が一変しています。東京オリンピックには19歳の大学2年生で出場し、予選で日本新記録を出して全体2位で決勝に進みました。そして決勝では世界のトップ選手と真っ向勝負を挑んで7位に入り、日本選手初の入賞という快挙を成し遂げました。
選抜中・長距離大会 男子1500mで日本歴代2位の記録をマーク(4月9日)
強さの要因の1つは、日本トップレベルのスピードにあります。4月に1500メートルで日本歴代2位の記録をマークし、5月には「関東インカレ」でもラスト1周のスパートで圧倒的な力を見せ周囲を驚かせました。三浦選手も「大学に入ってギアの段数が増え、ラストのスピードに自信がある」と手応えを口にし、東京大会からさらに進化しています。
この種目にこだわる理由は「一番自分に合っているから」。小学生のころからハードル種目も得意で、体のバネやバランス感覚も飛び抜けたものを持っています。去年の日本選手権では、途中で転倒したにもかかわらず日本記録を更新して優勝した三浦選手。「こけないのがベスト」と笑いながらパリオリンピックでのメダル獲得を見据えて連覇を目指します。
1999年生まれ 日本記録なるか 橋岡優輝選手 23歳
東京オリンピック 男子走り幅跳びで6位に入賞した橋岡優輝選手(2021年8月)
東京オリンピック、男子走り幅跳びで、日本選手としてロサンゼルス大会以来37年ぶりの入賞となる6位に入った橋岡優輝選手。メダルまであと11センチに迫ったジャンパーです。日本選手権では18歳だった2017年から19年にかけて3連覇を達成。
去年の日本選手権 8m36cmの自己ベストで優勝
東京オリンピックの代表選考を兼ねた去年の大会も8メートル36センチの自己ベストをマークして制しました。しかし、直後に発したのは「日本記録更新に届かなかったのは悔しい」という言葉でした。
4月の記録会で踏み切りの際に左足首を痛め、日本選手権を見据えて5月の国際大会を欠場するなど不安要素もあります。それでも東京大会後に走力向上を図るなど手応えを感じている橋岡選手は「そろそろ日本記録保持者になりたい」と強い決意で大ジャンプを目指しています。
2000年生まれ 帽子を投げてギアチェンジ 廣中璃梨佳選手 21歳
大会最終日の大トリを飾るのが女子5000メートルです。1500メートルにも出場する田中希実選手(22)や東京オリンピック代表の萩谷楓選手(21)など5人もの選手が、すでに7月の世界選手権の参加標準記録を突破していてハイレベルです。
東京オリンピック 女子5000m決勝で力走する廣中璃梨佳選手
その中でも本命視されているのが廣中璃梨佳選手。廣中選手のトレードマークは「帽子」。中学時代から「願かけ」と「自分の走り」に集中するため、試合や練習のほとんどの場面でかぶっています。その廣中選手は東京大会の5000メートル決勝で、ある行動を見せました。スタートからかぶり続けていた帽子を3000メートル地点で放り投げました。「ここから切り替えたい」と自分にスイッチを入れる合図で、さらに、スピードを上げて福士加代子さんの日本記録を16年ぶりに更新する快走を見せました。
10000mの日本選手権で優勝した廣中選手(5月7日)
廣中選手は、ことしに入って貧血に苦しめられましたが、5月の10000メートルの日本選手権でも勝負どころと見た7600メートル地点で帽子を放り投げ、観客のどよめきを後押しに、ほかの選手を振り切って2連覇を達成、7月の世界選手権代表に内定しました。果たして今回のレースでもトレードマークの帽子を投げるのか、廣中選手のギアチェンジの合図に注目です。
この記事を書いた人

本間 由紀則 記者
スポーツニュース部記者。平成16年NHK入局。東京2020大会を招致から取材し、
本番時は大会組織委員会と陸上(主にマラソン)を担当。
高校時代に数回、3000メートル障害の経験あり。