特集 “サンショー”で頂点目指す大学生 三浦龍司選手(20)陸上日本選手権から

陸上日本選手権の主役の1人、三浦龍司選手。京都・洛南高校から順天堂大学へと進んで素質が開花し、箱根駅伝ファンにもおなじみの大学生ランナーです。
その三浦選手が最も得意としているのが3000メートル障害、通称“サンショー”。ヨーロッパでは高い人気を誇るこの種目も、これまで日本国内では注目を集める機会がそれほど多くありませんでした。ところが、去年の東京オリンピックで三浦選手が7位入賞を果たしたことなどから、注目競技へと様相が一変しています。「一番、自分に合っている」という“サンショー”で世界の頂点を目指す三浦選手。強さの秘密に迫りました。
過酷な種目 “サンショー(3000m障害)”
去年の日本選手権 男子3000m障害 水ごうを越える三浦選手(2021年6月)
“サンショー”は、スピードを出しながら90センチを超える障害物を28回、池のような水ごうを7回跳び越えます。障害物は頑丈で倒れず、接触するとけがをするリスクもあるほか、水ごうでは足を取られる恐れもある過酷な種目。転倒など予期せぬアクシデントで順位が変わってきます。
去年の日本選手権 日本新記録をマークして優勝(2021年6月)
三浦選手は去年の日本選手権でレース終盤の水ごうで転倒しました。それでも他の日本選手を圧倒し、日本記録を更新してしまうほどハイレベルの力を持っています。そのレースを振り返った三浦選手は「こけないのがベスト」と笑っていました。障害を恐れない強いメンタルも求められる種目なのです。
恩師に導かれて“サンショー”へ
三浦選手がこの種目に取り組んだきっかけは、小学生時代にまでさかのぼります。地元・島根県浜田市の陸上クラブ「浜田ジュニア陸上競技教室」では、1時間という限られた練習時間で、走るだけでなく投てきや跳躍などにも取り組み、子どもたちの可能性を引き出す指導に力を入れています。
三浦選手は小学生の当時、長距離とハードル種目のいわゆる“二刀流”で活躍していました。その才能に目を付けたのが陸上クラブの恩師・上ヶ迫定夫さんでした。高校生以降の先を見据えて、上ヶ迫さんは「3000メートル障害であればインターハイに行けるかな」と実力をはかり、三浦選手にレースを見せるなど興味を持つようしむけたのです。
この狙いは大当たりでした。京都の強豪・洛南高校に進み“サンショー”を始めた三浦選手は、めきめきと力をつけて頭角を現し、3年生の時に高校記録を更新するまでになりました。上ヶ迫さんは「インターハイで3番以内くらいには入るなと思っていましたが、2年生の頃から、あらら、あららと・・・。全部いろいろなものがいいほうに回って、周囲の私たちも幸せにしてくれている」と教え子から恩返しをされています。
強さの秘密 “股関節の可動域” と “バネ”
国内では敵なし、世界のトップを目指す三浦選手の異次元とも言える強さはどこにあるのか。2つの秘密がありました。身長1メートル68センチの三浦選手は、1メートル80センチを超える選手もいる世界のトップ選手から見れば小柄です。走りを見て驚かされるのが、身長以上に感じられる大きな走り。障害物の手前で減速をする選手もいる中で、三浦選手はほとんどスピードを落としません。さらに、ラスト1周ともなると障害物に足をかけず、普通のハードルのように跳び越えていくのです。
順天堂大学で指導する長門俊介監督は、股関節の可動域が大きくうまく使えていることが要因だと指摘します。その上で「着地したあとに、すぐ次の動作に動けているのが、ほかの選手とは全く違う。身体能力の高さと持って生まれたバネですね」と分析しています。
基本となる「走力」も右肩上がり!!
選抜中長距離大会 男子1500mで日本歴代2位の好タイムをマーク(4月9日)
三浦選手のバネを生かせる“サンショー”。好記録を出すためには、もちろん基本となる走力も欠かせません。その走力の伸びも、とどまるところを知りません。
今シーズンが始まり、まずは4月に1500メートルで日本歴代2位の記録をマークし、5月の関東学生対校選手権では5000メートルのラスト1周で圧倒的なスピードを見せて優勝しました。三浦選手も「大学に入ってギアの段数が増え、ラストのスピードに自信がある」と話し、去年の東京オリンピックからさらに進化を続けているようです。
こだわる “サンショー” でパリへ
関東学生対校選手権 男子5000mで優勝(5月22日)
ほかの長距離種目でも世界に通用するのではないかと期待される三浦選手。“サンショー”にこだわる理由については「ほかの競技では味わえないドキドキやハラハラがあって危険な競技だと思うが、高校時代に始めて以降、記録が伸び続けているし、一番、自分に合っている」と魅力を熱く語ってくれました。
2年後のパリオリンピックを「陸上人生のポイントとなる大会」と位置づける三浦選手。順調に成長すれば、この種目で日本選手初のメダル獲得も現実味を帯びてきます。11日の日本選手権決勝で、どのような進化した走りを見せてくれるのか期待が高まります。
この記事を書いた人

本間 由紀則 記者
スポーツニュース部記者。平成16年NHK入局。東京2020大会を招致から取材し、
本番時は大会組織委員会と陸上(主にマラソン)を担当。
高校時代に数回、3000メートル障害の経験あり。