特集 競馬 第89回 日本ダービー 勝利のカギは?

ことしも、生涯に一度、3歳馬だけが出走できるクラシックレースの最高峰「日本ダービー」が近づいてきました。2019年に生まれたサラブレッドは7522頭。勝ち抜いた18頭が東京競馬場の2400mに挑みます。競馬中継に携わる者にとっても、毎年、心浮き立つダービーウイーク。ことしの日本ダービーでは、レース実況を担当します。
クラシックレース初戦の皐月賞では、5番人気のジオグリフが勝利。騎乗した各ジョッキーからは、レース中の位置取りの差が結果を左右したとの声が多く聞かれました。今回は、皐月賞の上位馬を中心に、5月29日に開催される「日本ダービー」の見どころを紹介します。
ポイントは1コーナーでの位置取りか
まずは、NHKの中継で解説を担当する元調教師の鈴木康弘さんに聞いたダービーのポイントです。
元調教師・鈴木 康弘 さん
ダービーは1コーナーでの位置取りがポイント。スタートしてから1コーナーまでは350mほど。そこで理想のポジションを取れるかどうかで、その後のレースの組み立てが左右される。
ダービーでの1コーナーと言えば、近年、強い印象を残しているのが、過去4年のダービーで3勝をあげている福永祐一騎手です。
日本ダービー3連覇に向け意気込みを語る福永祐一騎手(5月25日)
スタートしてから1コーナーに向けて、騎乗馬を積極的に前方へと誘導するレースが目立ちます。その点について、以前、福永騎手に直接聞いたことがあります。
おととし、コントレイルで優勝した時は・・・。
福永 祐一 騎手
スタート後に、近くの馬がいく構えを見せたので、こちらも好位置を取るために意図的に促した。1コーナーを先頭から3頭目で入ることができて、あとは脚をじっくりためるだけだった。
また、2018年にワグネリアンで勝った時も・・・。
福永 祐一 騎手
事前にかなり戦略を練った。芝コースの状態や、他の馬のレーススタイルを考えると、先行してレースを運びたかった。先行するには不利とされる外枠(17番枠)だったが、あえてスタート直後にスピードを上げて、好位置を奪った。
いずれも狙っていたポジションを序盤に獲得できたことで、最後の直線まで余力を残し、勝利へとつなげました。
福永 祐一 騎手 ジオグリフでダービー史上初の3連覇なるか?
福永騎手は、ことしのダービーでは、皐月賞を勝ったジオグリフとのコンビで、史上初、ダービー3連覇の大記録に挑みます。
皐月賞で優勝したジオグリフ(2022年4月)
前走の皐月賞では、福永騎手はジオグリフを先頭から5頭目に導いて、1コーナーに入りました。「一番取りたいポジションでレースができた。そのためにスタートに集中。好スタートを切ってくれて、かなり楽になった」と振り返ります。
そして、クラシック2冠達成がかかるダービー。福永騎手が、ジオグリフを再び先行させて、またも1コーナーで好位置につけるのか注目ですが、ひとつ気になる要素として考えられるのが皐月賞から400m延びる距離です。
取材に応じる福永祐一騎手
これについて、福永騎手は皐月賞を勝った直後に「2000mまでは全く問題なかったが、ダービーに向けては距離が課題になるのかなと思います」と明確に距離への適性をポイントにあげていました。
今週の取材でも「こればかりは走らせてみないとわからないところが多い。ただ、操縦性が高い馬なので、2400mで乗りづらくなることはないです。有力馬の中では、一番前にいるのではないかな」と話しています。
調教中のジオグリフ
解説の鈴木元調教師は、ジオグリフの距離適性について「落ち着いて走れれば、ダービーでも先行して大丈夫。ただ、もし距離に不安を抱えたままであれば、皐月賞よりは少し控えるポジションになると思います。1コーナーに向けては、促して好位置を狙うよりも、他馬と接触してエキサイトしないように乗るのではないでしょうか」と分析しています。
福永騎手が描くダービー勝利へのポジショニング。ぜひスタート直後から、その動向に注目してください。
皐月賞で敗れた有力馬 逆転のシナリオは?
(右から)皐月賞で優勝したジオグリフ、3着ドウデュース、2着イクイノックス
続いては、皐月賞では上位人気の支持を集めるも、ジオグリフに敗れた有力馬の3頭です。2着のイクイノックス、3着のドウデュース、そして4着のダノンベルーガ。騎乗した各ジョッキーも、皐月賞で勝負を分けたポイントにあげたのがポジション(位置取り)でした。
クリストフ・ルメール騎手 <イクイノックス騎乗>
外枠からのスタートで(先行してしまって)残念ながら馬の後ろで我慢させることができなかった。ジオグリフは自分の後ろで我慢していた。
武豊騎手 <ドウデュース騎乗>
大事に乗ったが、ポジションが結果的に後ろだったかも。もっとペースが流れるかと思ったが残念。勝ちたかった。
川田将雅騎手 <ダノンベルーガ騎乗>
(芝コースの内側が外側よりも走りづらい状態だった中で、終始、内側を走行)
この枠(最内の1番枠)でできる最大限の走りができた。必ずダービーにつながってくると思う。
皐月賞では、いずれも理想の位置でのレースとはなりませんでしたが、ダービーの舞台、東京競馬場はコース形態が大きく変わります。特にゴールまでの直線が約525m。皐月賞の中山競馬場よりも200m以上長くなります。
調教中のイクイノックス(左)とダノンベルーガ(右)
東京競馬場でのこれまでの実績では、イクイノックスとダノンベルーガはともに、長い直線を生かし、素晴らしい瞬発力を発揮して重賞を勝利。特に、ダノンベルーガは2月の共同通信杯で、ジオグリフに1馬身半の差をつけて勝ちました。
イクイノックスに騎乗するルメール騎手
イクイノックスは、皐月賞ではジオグリフにマークされる格好でした。ルメール騎手は今回のレースプランについて「ペースにもよるが、皐月賞よりも後方でいかせてあげて、瞬発力を生かしたい。前回は休養明けで走りたがっていたが、今回はスタートから冷静に走れると思う」と、今度はジオグリフを前に置いて追い抜くイメージを描いています。
朝日杯フューチュリティステークスをドウデュースで制し、歓声に応える武豊騎手(2021年12月)
また、皐月賞では後方からの追い上げが及ばなかったドウデュース。最後の直線での伸び方は出色だっただけに、今度こそ後方からでも逆転できるか注目です。
騎乗する武豊騎手は「皐月賞の前は、2000mでどこまで走れるのかなというところが多少あったが、まったく問題なかった。この内容なら2400mでも大丈夫だと感じた」とダービーへの手ごたえをつかんでいます。
レース途中の展開にも注目することで、ダービーの結末もより興味深いものになると思います。実況でも、各馬の位置取りに注目して伝えていきますので、ぜひ、レース中の各騎手の駆け引きもお楽しみください。
日本ダービー誕生から90年
ことしはダービーが始まってちょうど90年。1932年に、第1回の日本ダービー(当時は「東京優駿大競走」)が開催されました。
当時は、目黒競馬場で行われ、NHKでもラジオで実況中継をした記録が残っています。時代は移り変わっても、競馬関係者にとっての大目標であることに変わりはありません。
この記事を書いた人

高木 修平 アナウンサー
2003年 NHK入局
仙台局-青森局-大津局-広島局-NHKグローバルメディアサービス-東京アナウンス室
前回、ダービーの実況を担当したのは、コントレイルが無敗で2冠を達成した一昨年でした。福永騎手はウイニングランで、コロナ禍のため無観客だったスタンドに向かって馬上から一礼。それまで少し興奮していたコントレイルも、その瞬間はピタッと静止。人馬の息の合った美しいシルエットが強く印象に残っています。