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スポーツクライミングは体力&知力フル回転!

2020-03-09 午後 10:43

自然での岩登りがルーツのオリンピック新競技、スポーツクライミング。オリンピックでは「スピード」、「ボルダリング」、「リード」の3種目の総合成績で順位を競います。求められるのは、瞬発力、持久力に加え、頂上へのルートを解き明かす想像力。

 

まさに体力と知力を総動員する、スポーツクライミングの奥深い世界に、プロクライマーの大場美和さん、国際ルートセッターの平嶋元さんと迫ります。

見どころは様々、多様性こそ魅力!

オリンピックのスポーツクライミングで実施される「複合」は、3種目の総合成績で争われます。

 

 

最初に行われるのは、「スピード」。高さ15メートルの壁をいかに速く登るか。男子のトップ選手のタイムはなんと5秒台。息もつかせぬ速さで壁に挑みます。

 

 

ふたつ目は、「ボルダリング」。制限時間内にいくつ壁を登れるかを競います。大小さまざまなホールドが設置された課題を攻略し、目指すは頂上のトップホールド。両手でつかめれば、「完登」です。

 

 

そして最後の種目、「リード」は上った高さを競います。制限時間の6分以内に12メートル以上の反り立つ壁のどこまで登れるか。落ちたら終わりの一発勝負です。

 

同じクライミングでも、3種目で求められる能力も様々。2015年にアジアユース選手権で優勝した経験を持つ大場美和さんは、この「多様性」こそ、スポーツクライミングの魅力だと言います。

 

プロクライマー・大場美和さん

ひと口にクライミングといっても、ただ壁を登る単純なものではないんですね。様々な動きやテクニックを使うので、種目によって見どころも様々です。スピードは瞬発力、ボルダリングはいろいろな動きへの対応力、リードは持久力が主に必要な能力と言われていて、当然トレーニング方法も違います。3種目ともいい状態に持っていくのはすごく難しいですし、気持ちも切り替えなければいけないのでメンタル面も重要ですね。

順位は掛け算!1種目も落とせない!

スポーツクライミング複合の順位は、3種目それぞれの順位の数字を掛け合わせた合計ポイントの少ない選手が上位になります。例えばスピード2位、ボルダリング2位、リード3位だと「2×2×3=12」となり、合計12ポイントです。
去年の世界選手権、男子の楢﨑智亜選手が金メダル、女子の野口啓代選手が銀メダルを獲得し、ふたりは東京オリンピック代表に内定しました。ふたりの3種目の順位と合計ポイントを振り返ってみると。

 

楢﨑智亜選手

スピード2位
ボルダリング1位
リード2位
→合計4ポイント

 

 

野口啓代選手

スピード7位
ボルダリング1位
リード3位
→21ポイント

 

 

楢﨑選手のように3種目すべて上位に入ればもちろん有利。野口選手はスピードでの出遅れをボルダリングの1位で大きく取り返しました。
上位に入るために重要なのは、「3種目どれかで1位を取る事」だと大場さんは見ています。

大場さん

野口選手はボルダリングで1位をとりましたが、もしここが2位だったらポイントが一気に42点になってしまうところでした。「掛け算」でポイントを争う複合競技は、どれかの種目で1位を取るのが、すごく大きな事なんです。

みんなの知力を結集?

スポーツクライミングでは、ホールドをしっかりつかみぶら下がる体の強さ、難しい体勢でもホールドに手足をかけるしなやかさに加え、実は頭脳も欠かせない要素です。

 

その象徴的な場面は、「競技が始まる前」に見ることができます。

 

大会ごとに課題が異なるボルダリングとリード。競技が始まる直前、合図と共に選手たちは一斉に壁の前に駆け出します。この時初めて課題を目にする事ができるのです。

 

 

日本語で「観察」を意味する「オブザベーション」と呼ばれるこの2分間、競い合う選手同士で意見を出し合い登り方を相談します。オブザベーション終了後、選手たちは控え室で待機。ライバルが競技中どのルートで上ったのか、見る事はできません。

 

とはいえ、ライバル同士が一緒に相談をしてから競技するというのは、他のスポーツではなかなか考えられない光景です。もし腹黒い選手がいたら、わざと嘘をついて混乱させることもあるのでは?
と考えてしまいそうですが…。

 

大場さん

クライミングをやっている側からすると(登り方を相談するのが)当たり前だったので、言われてみればおかしいなと思いますけれども(笑)。
でも選手同士で相談して選択肢を増やすと言っても、選択するのは結局自分ですし、動きがわかっていても実力がなかったら当然登れない。選手はやはり壁と自分の戦いということを大切にしているので、あえて自分から嘘をついて他の選手を落とそうなんて事はしないんです。

 

 

また、大会で課題を設定する国際ルートセッターの平嶋元さんは、このオブザベーションの様子をルートセッターならではの気持ちで見ていると言います。

 

国際ルートセッター 平嶋元さん

どういう風に登ろうとしているのか、やっぱり僕らも見ていてハラハラするんですよ。ある程度こう登るだろうな、と想定して作っているので。オブザベーションでは、選手の手振りでどう登ろうと考えているのか見えてくるので、「それそれ!」という時と「ちょっと違う」という時と、いろいろですね。もちろん、まずは選手に最高のパフォーマンスを出してもらいたいので、完登してもらいたいという気持ちが一番です。

日本のエース楢﨑智亜の「新技」とは?

オリンピック本番までおよそ5か月。
金メダルを目指す楢﨑智亜選手が、課題として重点的に取り組んでいるのがスピードです。去年の世界選手権ではスピードで2位。ここからさらにタイムを縮めようと、新しい技の習得に取り組んでいます。

 

左端丸印のホールドをスキップする「トモアスキップ」

 

3種目の中で唯一、常に同じコースで行われるスピード。楢﨑選手はおととし、ある技を編み出しました。その名も「トモアスキップ」。スタート直後にあるコース左側のホールドを飛ばす、つまりスキップする技です。飛ばすひとつ前のホールドを体に強くひきつけ、一気に跳びあがるこの技の習得で、楢﨑選手は飛躍的にタイムを伸ばしたのです。

 

そして今年。楢﨑選手は「新たなスキップ」を加えようとしています。コース中盤。左寄りのホールドを飛ばす「マルチンスキップ」。この種目で世界屈指のスピードを誇る、マルチン・ジェンスキー選手が取り入れていた技です。

 

「マルチンスキップ」は丸印のホールドをスキップ

楢崎智亜選手

「遊びでやってみようと思って取り入れたら、なんか1発目でできちゃったので。自分にすごく合っていると思ったので取り入れました。
両手で一つ手前のホールドを強く引けるので、もう一回加速出来る。中間地点のダッシュポイントですね。」

 


先月東京で行われたスピードのジャパンカップ。楢﨑選手は初めて実戦で、マルチンスキップを披露しました。スタート直後のトモアスキップ、中盤のマルチンスキップと2つのスキップを駆使した楢﨑選手は、全選手最速の6秒420をマークしました。

 

ただ、楢﨑選手に言わせれば、「5秒9、5秒8を目指しています」と目標タイムはまだまだ先。オリンピックでは、どんなタイムを出してくれるのか期待が高まります。

どうなる?代表選考

 

楢﨑選手、野口選手のメダル獲得への期待が高まる一方、残る1枠ずつの日本代表選考は心配な状況が続いています。

 

 

国際競技団体は、世界選手権で日本選手の中で2番手だった男子の原田海選手、女子の野中生萌選手が日本代表に確定しているとしていますが、日本の協会は5月の複合のジャパンカップの結果で決まるものだとして、意見が対立。現在スポーツ仲裁裁判所の判断を待っている状況です。

 

選手たちのためにも、円満かつ速やかな決定が求められます。

 

選手それぞれが、初めて見る課題にどのように挑戦するのか。新たな発想で壁に挑む選手は現れるのか。

 

種目ごとの順位が一つ違うだけで総合順位が大きく変動するスポーツクライミング。オリンピックでも、最後の瞬間まで目が離せません!


 

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