特集 競馬GⅠ 天皇賞(春)長い歴史が生む「親子」の挑戦 伝統の一戦を制するのは!?

日本競馬において、屈指の伝統と格式を誇るレースが、春と秋の年2回開催されている「天皇賞」です。今度の日曜日、5月1日に阪神競馬場で行われる天皇賞は165回目を迎えます。
第1回は昭和12年の秋に開催され、当時のレース名は「帝室御章典競走」でした。さらにルーツを遡れば、明治時代の「エンペラーズカップ」に行きつきます。そこを起点と考えると、天皇賞の持つ歴史はゆうに100年を超え、数々の記録が生まれてきました。今回は「親子制覇」というキーワードでレースの見どころを紹介しましょう。
騎手の親子三代制覇なるか?タイトルホルダー
今年の天皇賞で実績上位、人気も二分すると目されているのが、タイトルホルダーとディープボンドです。
去年の菊花賞を制したタイトルホルダー
タイトルホルダーは、出走予定馬の中で唯一のGⅠウィナーです。去年秋のGⅠ、菊花賞では後続に大きな差をつけて3000mを逃げ切り、競馬ファンを大いに驚かせました。ことし初戦となった3月の日経賞(GⅡ)でも、終始先頭を譲らずに勝利。
調教中のタイトルホルダー
これまでに挙げた4勝は全て逃げ切り勝ちのタイトルホルダーが、キャリア最長となる3200mの天皇賞の舞台でも逃げるのかどうか、スタートから目が離せません。
こちらにかかる「親子制覇」は“騎手”です。タイトルホルダーに騎乗予定の横山和生騎手は、親子三代で騎手という競馬一家に生まれ育ちました。
競馬学校卒業式の記念写真 父の横山典弘騎手(左)横山和生騎手(中央)祖父の横山富雄元騎手(右)
祖父の横山富雄元騎手は昭和46年にメジロムサシで春の天皇賞を勝ち、父の横山典弘騎手も春の天皇賞を3回勝っています。今回、横山和生騎手が勝てば、春の天皇賞「親子三代制覇」の達成です。
弟の横山武史騎手は去年、秋の天皇賞を勝って、一足早く秋の天皇賞での「親子三代制覇」を成し遂げました。競馬史に刻まれる前人未到の記録に、兄も続くことができるのかどうか注目です。
『親子』で受け継ぐ血統
タイトルホルダーには、もう一つ「親子」に関係する挑戦があります。タイトルホルダーを管理する栗田徹調教師は、厩舎を開業して12年目で初めての天皇賞挑戦です。
栗田徹調教師(左)と父の栗田博憲元調教師(右)
栗田調教師はかつて、GⅠを6勝した栗田博憲元調教師のもとで厩舎スタッフとして調教技術を学び、さらに養子となった「親子」でもあります。父は平成5年に秋の天皇賞をヤマニンゼファーで勝ちましたが、春の天皇賞には管理馬を出走させた経験はありません。父の勝てなかったレースを制し、吉報を伝えることができるでしょうか。
タイトルホルダーと栗田徹調教師
栗田調教師は「(3200mという)天皇賞の舞台においてはタイトルホルダーの適性が合ってくると思う。本番に向けての不安はありません」と自信をのぞかせます。
そしてタイトルホルダーの母・メーヴェは、父・博憲さんが管理していた馬です。ここにも競馬ならではの親子の縁を感じます。この点についても栗田調教師は「メーヴェは自分も現役時代を知っている馬で、思い入れは深い。血統を残すという意味でも責任は重大だと感じている」と強い思いを秘めています。
調教師の親子制覇が懸かる ディープボンド
去年の有馬記念 2着のディープボンド(左手前)
一方のディープボンド。去年春の天皇賞で1番人気に支持されるも2着、年末の有馬記念でも2着と、悲願のGⅠ勝利まで「あと一歩」という所まで来ています。
ディープボンドにまつわる「親子制覇」、それは「調教師」です。管理する大久保龍志調教師の父・正陽さんは、三冠馬ナリタブライアンを育てた元調教師です。昭和51年にはエリモジョージで春の天皇賞を勝ちました。大久保龍志調教師は、過去の春の天皇賞で2着2回、3着1回と、やはり「あと一歩」。勝てば春の天皇賞では史上3組目となる「調教師の親子制覇」です。
天皇賞(春)に向けて調整するディープボンド
大久保龍志調教師は「父もそうでしたが、天皇賞は自分の中で大きいウエイトを占めているレースです」と父や天皇賞への思いを口にし、さらに「大きいチャンスであることは感じています。逃したくないという気持ちが強い」と、悲願のGⅠ制覇に向けての決意を語りました。
競走馬の親子制覇を狙うのはこの2頭
最後は、GⅠレースの中でも、天皇賞だけで達成された「親子制覇」をご紹介しましょう。
1991年の天皇賞(春)を制したメジロマックイーンと武豊騎手
天皇賞を勝った馬の子どもが天皇賞を勝つ親子制覇は複数回ありますが、メジロアサマ、メジロティターン、そしてメジロマックイーンは「親子三代」での天皇賞制覇を成し遂げました。親子三代での制覇は、日本の競馬史において未だにこの一例だけです。
調教中のトーセンカンビーナ
今年の春の天皇賞では、親子三代制覇となる馬はいませんが「親子制覇」がかかる2頭が出走します。ディープインパクト産駒のトーセンカンビーナ、そしてゴールドシップ産駒のマカオンドールです。ともに数多くのGⅠを勝った父を持つ両馬が、初のGⅠ勝利を目指します。
我が子が自分と並ぶ、そして超える…。天皇賞の長い歴史の中ではそんなドラマが人馬含めて数多く繰り広げられてきました。果たしてその時の父の胸にどんな思いが去来するのでしょうか。歓喜か、誇らしさか、それとも少々の悔しさか…。3200mの長丁場、天皇賞。レースを楽しみつつ、親子の物語にも思いを馳せてみて下さい。
第165回「天皇賞」は、総合テレビで5月1日(日)午後3時から放送予定です。
NHKプラスでもライブで配信します。放送から1週間は何度でもご覧いただけます。
この記事を書いた人

小林 陽広 アナウンサー
平成18年 NHK入局 福島局-長崎局-高松局-東京アナウンス室-宇都宮局
天皇賞の中継ではキャスターを担当します。逃げ馬ファンとしては2004年春の天皇賞、横山典弘騎手のイングランディーレが大逃げからの圧勝を果たした場面が忘れられません。今回はどんな展開が待っているのでしょうか。