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特集 北京オリンピック フィギュアスケート日本代表 坂本花織、樋口新葉、河辺愛菜の3選手の特徴は?鈴木明子さんに聞く

フィギュアスケート オリンピック 2022年1月28日(金) 午前11:10

北京オリンピックのフィギュアスケート女子シングルの日本代表は、オリンピック2大会連続出場の坂本花織選手、いずれも初出場の樋口新葉選手、河辺愛菜選手の3名です。オリンピックの舞台で、日本代表の3選手はどのような演技を見せてくれるのでしょうか。気になる3選手の特徴や見どころを、バンクーバー大会とソチ大会に出場した元日本代表の鈴木明子さんに聞きました!

 

流れのある演技に注目 坂本花織選手

2021年全日本選手権で演技する坂本選手

 

――坂本花織選手の特徴はどのようなところでしょうか?

 

ひとつ挙げられるのは、スピードだと思います。一般的に、ジャンプのあとの着氷時には、どうしても少しスピードが落ちてしまうので、次に動き出すため加速することが必要になります。いわゆる「つなぎ」という部分になりますが、実はここが難しいんです。フィギュアスケートの得点は、基本的には「技術点」と「演技構成点」の2つを加算したものになりますが、このような繋ぎの部分も演技構成点として評価されます。スピードがないと、演技が途切れて全体の流れが悪くなり、結果、評価が低くなってしまうんです。その点、坂本選手にはスピードがあるので、着氷したあとも流れるように次につなぐことができる。ここは大きなアドバンテージだと思います。

 

2021年の全日本選手権で演技中の坂本選手

 

もちろん、スケーティングのスキル、ひとつひとつをとってみても、そのクオリティは、非常に高いです。例えば、演技冒頭のダブルアクセルは、踏み切ってから着氷まで、すごい幅を飛んでいますし、他のジャンプも、高さ、幅ともにあって、とてもきれいな放物線を描いています。見る側からすると、高得点を出せる4回転やトリプルアクセルといった技に目にいきがちですが、坂本選手は、そのような大技は取り入れていません。それでも、しっかり高得点を出しているのは、スピードを生かした、きれいなジャンプを跳び、スムーズに次の動きに移るという、質が高く、流れのある演技ができているからです。

 

坂本選手のジャンプ

 

また、タッグを組んでいるブノワ・リショーさんの振り付けも、体の四肢を縦横無尽に使った非常にダイナミックな動きが要求される難度が高いものですが、それも坂本選手の個性を生かせるよう、しっかり詰めて構成されています。技術・表現ともに完成度が高く、4回転のような「必殺技」がなくても、しっかりと高得点を出せるのが坂本選手の特徴です。北京オリンピックでも、こういう特徴に注目してほしいですね。

パワー溢れる演技が魅力 樋口新葉選手

2021年全日本選手権で演技する樋口選手


――樋口新葉選手は、オリンピック初出場。特徴や持ち味は、どんなところですか?

 

樋口選手は、トリプルアクセルが注目されていますよね。彼女は、4年前の前回大会の代表になれなかった悔しさをモチベーションに頑張り続けて、トリプルアクセルを習得しました。でも実は、トリプルアクセルが跳べることと、本番のプログラムに組み込めることは、別です。たとえトリプルアクセルが跳べても、演技中に他の技に悪影響が出てしまっては、点数が伸びず、試合には勝てないからです。トリプルアクセルを含めてパーフェクトに演技ができて、初めてトリプルアクセルがアドバンテージになるんです。その点、樋口選手は、北京オリンピックに向けて、質のいいトリプルアクセルの成功確率が上がっているし、演技全体も安定してきました。着実に、トリプルアクセルを自分の武器にしていると思います。

 

樋口選手の力強いジャンプ

 

――樋口選手は、坂本選手と同様、スピードもあるのでしょうか?

 

樋口選手もスピードがあります。シニアデビューしたころ、生で観たときの彼女のスピードには驚きました。ただ、スピードがありすぎるとジャンプのタイミングが難しくて回転し損ねてしまうミスがありました。そのために苦労していた印象があるんですが、今はスピードをうまくコントロールできるようになっています。

 

2021年GPシリーズのエキシビションで演技する樋口選手

 

ただ、そのスピードはもちろんですが、私は、彼女の演技に"パワー"を感じるんです。フリープログラムの曲は『ライオンキング』ですが、曲のイメージに合わせて力強いジャンプをどんどん決め、躍動感のあるステップシークエンスを見せてくれる。この曲の持つエネルギーや生命力をしっかり演技に反映することで、観客もパワーや幸福感を味わえる。そこが、まさに樋口選手の持ち味だと思います。トリプルアクセルは樋口選手の大きな武器ではありますが、演技全体を通しての表現力やエネルギーにも注目してほしいですね。

17歳で迎える大舞台 河辺愛菜選手

2021年の全日本選手権で演技する河辺選手

 

――17歳で日本代表に選ばれた河辺愛菜選手は、いかがでしょうか?

 

河辺選手も、力強いトリプルアクセルを跳べます。ショートプログラムにも、フリープログラムにも、トリプルアクセルを組み込めるので、高得点を上げることができた。それで、今回、代表に選ばれたという経緯があります。その河辺選手の特徴は「勢いがある」というところだと思います。大きな試合であっても、怖さを感じるよりも「自分が持っているものを全部出しきる」という強い思いで演技に向かっているように感じます。若さゆえ、という言い方が正しいのかわかりませんが「繊細」というより「大胆」という表現が合うようなスケートを見せてくれます。

 

河辺選手のジャンプ

 

――そこが河辺選手の個性ということになるのでしょうか?

 

そうですね。それが現時点での河辺選手の持ち味だと思います。大きな試合をいくつも経験していくなかで、技術や表現力は自然と繊細さが加わり、洗練されていきます。もちろん、今の段階でも十分、日本代表にふさわしいスキルがありますが、さらに磨きをかけることで、完成度は高くなっていくと思います。その意味で、とても伸びしろのある選手であることは間違いないでしょう。

 

河辺選手のイーグル

 

現在、河辺選手の振り付けをしているのは、浅田真央さんやパトリック・チャンさんの振り付けも手がけていたローリー・ニコルという超一流の振付師ですが、たとえばプログラムのハイライトでは「イーグル」という両手足を広げた大きな動きを長く見せるなど、河辺選手の伸びやかさを存分に感じられる内容になっています。きっと、思わず応援したくなるような若々しい演技を見ることができるのではないかと思います。

日本選手のメダル獲得に必要なのは演技の完成度

2021年全日本選手権の表彰式 北京オリンピックの日本代表に選ばれた3人

 

――日本のライバルには、どんな選手がいるのでしょうか?

 

2022年ヨーロッパ選手権で演技するワリエワ選手

 

カミラ・ワリエワ選手でしょう。彼女は4回転、トリプルアクセルが跳べて、完成度も高い。しかも体に柔軟性があるのでスピンも綺麗で、表現力もあります。私はワリエワ選手のことを「4回転を跳べるバレリーナ」だと思っていますが、それくらい隙がなくて、すべてのクオリティが高い。正直なところ、私は今まで、これほどのレベルの選手は見たことがありません。現段階ではフィギュアスケートの最高峰であり、最高傑作だと思います。

 

――かなり強敵のように感じますね。

 

 

それは間違いありません。ただ、オリンピックに限らず、物事に絶対ということはありません。ワリエワ選手はまだ15歳ですし、これだけ世界の期待を背負っている状態で、どこまで本来の力を出し切れるかはやってみないとわかりません。

 

――ワリエワ選手をはじめとする強敵を相手に日本の3選手はメダルを獲得できるでしょうか。

 

可能性はゼロではないと思います。最近は、見ていてわかりやすいからか、4回転やトリプルアクセルなどの技術が偏重されがちで、中には「日本選手は4回転を跳べないから、そもそも基礎点で勝負にならない」という方もいます。だからといって、同じ土俵に立って技術で競う必要があるのでしょうか。極端な言い方になってしまうかもしれませんが、ジャンプだけを競うならジャンプ大会を開けばいいでしょう。

 

鈴木さんの現役時代

 

そうではなく、選手が見せてくれた、さまざまな技術と表現を総合的に評価するのがフィギュアスケートです。坂本選手のように、派手な技はなくても、ジャンプにせよ、ほかの技にせよ、ひとつひとつのクオリティを高めて、より洗練されたものにして、4分間の演技の完成度を上げていくという勝負の方法もあるはずです。そしてフィギュアスケートはそのような競技だからこそ、まるで4分間の映画を見たかのように、人の心を打つのだと思います。結果はもちろんですが、フィギュアスケートは演技がとても記憶に残るスポーツでもあります。日本の選手も力をすべて発揮して、それぞれの持ち味をしっかり出していければ、結果とともにたくさんの方々の心に残るのではないでしょうか。

 

 

今回のオリンピックはコロナ禍にあって、本来であれば試合に集中したいときに検査を受けたり、さらにその結果次第で試合に出られなくなったりと、通常時と比べて選手たちの心理的な負担は大きく本当に苦しいでしょう。でも、条件は誰も同じです。怪我と体調に気をつけていい形で仕上げ、メンタルも平常に保っていくことができれば、きっと結果はついてくるものと思います。

 

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