ストーリー野球

コロナ禍で様変わりしたM L Bの取材現場

2020-07-14 午前 11:48

新型コロナウイルスによるパンデミックの中でもメジャーリーグは開幕を目指し、7月上旬から各チームはサマーキャンプをスタートさせている。大谷翔平選手(エンジェルス)、ダルビッシュ有投手(カブス)、田中将大投手(ヤンキース)、筒香嘉智選手(レイズ)、秋山省吾選手(レッズ)といった日本選手たちもそれぞれキャンプイン。田中投手が初日に頭部に打球を当てるというアクシデントがあったものの、他の選手たちはこれまで通りに元気な姿を見せている。

これまでとの様々な違い

ただ、パンデミック下のシーズンはもちろんこれまでと様々な点で違いがある。キャンプ再開とはいっても、春のようにアリゾナ、フロリダのキャンプ地に全チームが集まるのではなく、それぞれの本拠地での開催。選手たちはフィールド上でもマスクをしていることがあるし、可能な限りソーシャルディスタンスを保っている。アメリカ人の大好きなハグや握手も許されず、雰囲気は確実に変わった。

 

 

そして、もちろん選手たちだけではなく、私たちメディアの動きも劇的に変わった。基本、取材活動はすべてリモート。クラブハウスでの選手との触れ合いが中心だった去年までとは、メディアのあり方も別物になったといっても大袈裟ではない。今季の開催が決まった時点で、「本来なら全球場に立ち入りできる全米記者協会(BBWAA)のパスは無効」「取材申請は連日必須」「記者席に入れるのは35人まで」「監督、選手、コーチとの接触は禁止」「クラブハウス、フィールドの立ち入りは禁止」「インタビューはズームのみ」といった厳格なルールが各チームから送られてきた。その時点で取材活動は厳しいものになると想像できていたが、案の定だった。

 

ニューヨークを拠点に15年以上、メジャーリーグの取材活動を続けてきた私は、7月3日はメッツ、4日以降はヤンキースの本拠地に通ってきた。どちらの球場でも入り口でまず検温が行われ、「Release of Liability(賠償責任免責)」と記された書類にサインしなければならない。この書類は、簡単にいうと「感染した場合は自己責任でありMLB、チームを訴えることはできない」と同意するためのもの。この時点で、今季の取材活動は非常事態下の仕事であると思い知らされることになった。

これは余談だが、ヤンキースタジアムでの初日、炎天下で長時間待たされたために、検温時に一時的に私の体温が規定の摂氏38度=華氏100.4度を超えてしまった。ここで引っかかった記者は、10分後に再検査となる。2人のアメリカ人記者はそれでも体温が下がらず、やむなく帰宅を命じられていた。私は再検査では規定以下まで下がったために事なきを得た。

球場内の変化

ようやく球場内に入ると、指定された道順通りに記者席に直行する。定められた通路以外の場所にはすべて“立ち入り禁止”のテープが貼られており、メディア、広報以外の人間には基本接触できない構造。記者用の食堂、売店などもすべて閉店で、食べ物、飲み物は持参するしかない。
 

 

いつもは多くのメディアが肘を突き合わせるように仕事している記者席でも、もちろん約2mのソーシャルディスタンスが義務付けられる。座席はすべて指定されており、普段よりもゆったりとスペースを使えるのは良いが、やはり活気のなさは否定できない。

 

 

このような環境で記者たちにできるのは、基本、高い位置にある記者席からフィールドに出てきた選手の動きを見ることだけだ。普段はロッカールームで選手と話し、フィールドに出て練習を見るが、現状ではそのどちらも叶わない。

双眼鏡、モニターを使って必死にお目当ての選手の動きを追いかけるが、得られるものは多いとは言えない。そして、コメント取りはすべてズームを使ってのリモート会見。1対1のインタビューを申し込むことはできるが、その機会はごく限られるとのことで、これでは独自の情報を手に入れることはほぼ不可能だ。取材の醍醐味は完全に奪われ、オリジナルの記事を書くのは極めて難しくなってしまった。

田中選手を襲った悲運

打球を頭部に受け、マウンドに倒れ込む田中選手

 

ただ…ここまで厳しい環境に関して書き連ねてきたが、それでもスタジアムに来て取材することの意味がなくなったとは思わない。それを実感させられる“事件”が4日、ヤンキースのサマーキャンプ初日に起こった。

すでに報道されている通り、試合形式の練習でマウンドに立った田中投手を悲運が襲った。ジャンカルロ・スタントン選手が打ち返した弾丸ライナーが田中投手の頭を直撃。時速180キロと伝えられた打球をまともに受け、背番号19はヤンキースタジアムのマウンドに倒れ込んだ。このシーンだけでもショッキングだったが、その直後のフィールドの雰囲気も筆舌に尽くし難いものがあった。

打ったスタントンは頭を抱え、他の選手たちもしばし呆然。瞬間、田中投手の状態が危ぶまれたため、記者席でスマホを使って写真やビデオを撮影していたメディアに向かって、アーロン・ジャッジ選手が「撮るな!」という仕草をする場面もあった。田中投手が立ち上がったあともチームメイトたちは沈黙。球場の音楽が一時的に消されるなど、消沈ムードはしばらく続いた。

 

医療スタッフらに状態の確認を受ける田中選手

 

その後、幸いにも田中投手は「軽度の脳震盪」と診断され、MLBによって定められた脳震盪プロトコルを経て復帰を目指している。もちろんまだ油断はできないが、アーロン・ブーン監督は「どうやら深刻な問題にならずに済んだようだ」と述べており、チームを震撼させたアクシデントからの早期復帰も期待できそうだ。

この衝撃的なプレーの流れはニュースなどでも確認できたが、ヤンキースが味わったショックの大きさ、田中投手が無事だとわかった際の安堵感は現場にいなければ確認できなかったはずだ。だとすれば、この日、球場に足を運んでいたことには依然として大きな価値があったのだろう。やはり記者にとって、現場は宝なのだ。

 

 

田中投手の件では寿命が縮むような思いを味わったが、今後、MLBらしい素晴らしい場面がライブで目撃できることを願いつつ、今シーズンも可能な限り球場に通い続けようと考えている。それと同時に、一刻も早くコロナが収束し、以前の取材体制に戻ることを願ってやまない。その時が来るまで、今はとにかく我慢するしかない。

ファンは選手との距離が近ければ近いほどエキサイトするが、メディアの仕事にとってもその意味は同じであったことを、もうしばらくは思い知らされることになりそうだ。

この記事を書いた人

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杉浦 大介

高校球児からアマチュアボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に取材。MLBの取材歴はヤンキースを中心に15年以上。現場第一主義で、年間300日以上はスタジアムやアリーナで過ごす。

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