特集 照ノ富士 静かに、だが力強く 大相撲九州場所

2年ぶりに開催された九州場所。一人横綱が、初日からしっかりと責任を果たした。
結びの一番、横綱・照ノ富士が相まみえたのは新三役の小結・霧馬山。過去4戦全勝の相手とはいえ、伸び盛りの25歳だ。
立ち合い、踏み込んできた霧馬山にもろ差しを許しながらも、左の下手で応戦。
時間を掛けて勝機を探り、最後は「小股すくい」で白星を手にした。
「すべては思い通りいかない。その中で白星を1つでも多く重ねていくのがいいと思うのでよかった」
粘る相手を力強さで退けた1勝に本人も満足した様子だった。
「落ち着いていて慌てなかった」(八角理事長)
「慎重に自分の形になってからゆっくり出た感じだ」(高田川審判長)
いつも通りの冷静な相撲内容に、評価する声が続いた。そして、この人からもたたえる声が届いた。
九州場所初日 花道で警備に当たる元横綱白鵬の間垣親方
「多少時間をかけて相撲を取ったと思うが、やっぱり最後は力で勝負をつけた感じだ」
元横綱・白鵬の間垣親方。先場所後に現役を引退したばかりの親方は、打ち出し後の報道陣の電話取材でこう評したのだった。
名古屋場所千秋楽で攻め合う照ノ富士(右)と白鵬
白鵬にとって最後の土俵となった名古屋場所千秋楽。白鵬は照ノ富士との熱戦の末に全勝を守り45回目の優勝を果たした。もちろん、照ノ富士の成長ぶりは肌で感じている。
みずからの引退でただひとりの最高位となった後輩横綱へのアドバイスも忘れなかった。
「自分の場合は、大関陣が全員負けて結びに自分だという時に“これが一人横綱のプレッシャーだな”というのを感じた。それを乗り越えて、1つ1つ経験を積んでいけば、流れに乗っていくと思う」
照ノ富士は冷静な相撲内容と同様に取組後、いつも通り淡々と語った。
「久しぶりに来たので、一生懸命いい相撲を取って九州の皆さんを喜ばせたい。一人横綱としての緊張?そこは感じていないので、1日、一番、集中してやるだけ」
最強を誇った横綱が土俵を去り、新しい時代が、静かに、だが力強く始まった。
この記事を書いた人

小野 慎吾 記者
平成28年NHK入局。岐阜局を経て、2019年8月からスポーツニュース部で格闘技(大相撲、ボクシングなど)を担当。前職はスポーツ紙記者。