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特集 体操 村上茉愛 57年ぶりの快挙達成の背景には “戦友” の存在

体操 2021年10月18日(月) 午後4:50

2020年東京オリンピックの体操個人・女子ゆかで銅メダルに輝いた村上茉愛選手。日本女子体操のメダル獲得は1964年東京オリンピック以来57年ぶり快挙。大健闘の背景には “戦友(とも)” 寺本明日香選手の存在がありました。

東京で必ずメダルを。2人なら必ずできる!

2016年 リオオリンピック 体操 女子 団体 決勝


体操女子代表が一躍、脚光を浴びたのが、2016年リオオリンピック。予選を通過できれば十分、メダルの可能性は限りなく低いと見られ、代表選手たちも、そう思っていました。

 

しかし、予選を通過して臨んだ決勝で、村上選手が驚きのパフォーマンスを発揮。そして、村上選手とともにチームの得点を押し上げたのが団体キャプテンの寺本明日香選手でした。

 

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2016年 リオオリンピック 体操 女子 団体 決勝 跳馬 寺本選手


得意の跳馬では、高難度の大技・チュソビチナを見事に成功。平均台でも完成度の高い演技を見せ、出場した3種目すべてで高得点の目安となる14点台を出したのです。ふたりの活躍で、結果は周囲の予想を大きく上回る団体4位。

 

しかし、試合後に村上選手を襲ったのは、激しい後悔でした。

 

2016年 リオ五輪 体操 女子 種目別 決勝 ゆか 村上選手

村上選手

メダルをとれる位置にいる自分っていうのを、しっかり分かって練習していれば、もしかしたら(メダルに)届いたかもしれない。こんな悔しい思いをしたら東京(オリンピック)でという思いがあった。リベンジをしたい。

 

“自分で限界を決めずに挑めていれば、もっと上へ行けたかもしれない…”


その思いは、寺本選手も同じでした。東京オリンピックでは、互いに成長してメダルを目指す。ふたりならできると、メダル獲得を誓いあったのです。

寺本選手を追いかけるように成長

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幼い頃から、高い身体能力で注目されてきた村上選手。小学6年生でH難度の大技・シリバスを成功させ、将来のオリンピック候補と呼ばれました。

 

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そんな村上選手が寺本選手に出会ったのは中学生の時。自分とは違う、美しさや完成度をアピールする体操に、衝撃を受けたと言います。

 

2012年 ロンドンオリンピック 体操 女子 個人総合 決勝 平均台 寺本選手


先にオリンピックの舞台に立ったのは寺本選手。16歳の時、ロンドン大会に出場しました。

 

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寺本選手

茉愛はちょっとサバサバ男っぽいというか、個性が強いなって思いました。負けず嫌いだし、スポーツマンっていう感じの性格だなって思いました。

 

そんな寺本選手を追いかけるように成長してきた村上選手。メダルを誓ったリオオリンピックの2年後、世界選手権の舞台で、夢への大きな一歩を踏み出します。

 

2018年 世界体操 女子 種目別 ゆか 表彰式 村上選手


跳馬で24人中3位、得意のゆかでは高い跳躍から美しく着地を決め、日本女子初となる個人総合の銀メダルを獲得。寺本選手に成長した自分の姿を見せました。

 

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寺本選手

あのときは、すごく自分もうれしかったです。やっぱり団体でメダルを取りたいなっていう気持ちが強くなった。

肝心なところで…「棄権する、あとは任せた」

ところが、2019年、順風満帆に見えた2人の道のりが一転します。

 

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世界選手権の代表を決めるNHK杯大会の当日、村上選手に異変が。痛めていた腰の状態が悪化していたのです。

 

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この大会の先にある世界選手権は、東京オリンピックへの出場権がかかる最後の大会。しかし、試合直前の練習中も何とか体を動かしてはみるものの、痛みに耐えられません。体は、もう限界。村上選手は棄権を決め、寺本選手に気持ちを伝えました。

 

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村上選手

(寺本選手に)「もう無理だから」っていうのは言って、「とりあえず棄権する、あとは任せた」だけ言って終わりました。

 

2人で夢をつかむために、絶対に必要なオリンピックの出場権。肝心なところで、ベストな状態に臨めなかった自分を村上選手は責めました。

 

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村上選手

もう代表に戻れるような実力がないのかなっていう風に思っていた自分もいたので、このまま身を引いたほうが楽なのかなって思うときは、正直ありました。

 

この頃の村上選手の姿を、寺本選手は忘れられないと言います。

 

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寺本選手

ジャパン(日本代表)ジャージを全部捨てたって聞いたんですよ。そのときに全部捨てちゃって、まぁそこまで(村上選手は)悔しかったんですね。


村上選手の想いを背負って臨んだ2019年世界選手権。東京オリンピック団体出場権の条件は12位以内。エース・村上選手を欠くチームを引っ張ったのは、寺本選手でした。

 

2019年 世界体操 女子 団体 予選

 

4種目全てに出場し3種目でチームトップの成績を収め、結果は11位。東京オリンピックの出場権をつかみ取ったのです。試合直後、日本で待つ村上選手にメッセージを送りました。

“おみやげしっかり持って帰ってきたから、一緒に来年出ようね”

 

戦友の頑張りに、村上選手は再び前を向くことを決意しました。

「私は引退する」寺本選手の左足アキレス腱断裂

ところが、東京オリンピックが開かれる年だった2020年。2月に再びピンチが訪れます。日本のトップ選手が集められた強化合宿に寺本選手の姿がありませんでした。

 

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寺本選手は合宿直前に左足のアキレス腱を断裂し、全治6ヶ月。東京オリンピック代表が決まる大会は2ヶ月後で、出場は絶望的でした。


“私は引退する”――寺本選手は、村上選手にメッセージを送りました。

 

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寺本選手

もう辞めようと、引退しようと思っていたので、茉愛に「本当にごめん、もう任せたよ」と

 

村上選手は強化合宿を終えると、寺本選手の病室へ駆けつけました。その時に渡した寄せ書きには、精一杯の言葉が記されていました。

 

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村上選手

何かあったら何でも言っておいで。絶対に支えるし、助ける!私も明日香のために頑張る!

 

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寺本選手がリハビリを始めた、その1ヶ月後の2020年3月、新型コロナウイルスの影響で東京オリンピックの1年延期が決定。

 

“オリンピックに間に合うかもしれない”

 

寺本選手は5月に本格的に練習を再開、周囲も驚く回復を見せていました。

オリンピック団体代表をかけて 2人にとって勝負の時

そして1年後の2021年5月。2人にとって勝負の時、NHK杯を迎えました。

 

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東京オリンピックの団体代表選手は4人。4月に行われた全日本選手権とNHK杯の合計点で上位3人が内定、残る4人目は、上位3人と組み合わせたときに団体の合計点が最も高くなる選手が選ばれます。村上選手は全日本選手権を終えて総合1位、対する寺本選手は6位。代表が確実になる3位との差は1.469、全ての種目で失敗は許されません。

 

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この時、寺本選手は、アキレス腱を切った左足とは逆の、右足首に痛みを抱えていました。それでも、跳馬では村上選手を上回る14.733。3種目を終え、全て今季の自己ベストを更新する大健闘を見せました。


しかし、最終種目のゆかを迎えたときには、足首の痛みが増していました。

 

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冒頭の連続ジャンプ、2つ目のジャンプでは、ともに着地も決めたものの、最後のジャンプでは、着地の衝撃に足首が耐えきれませんでした。

 

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寺本選手の最終順位は5位。代表選手4人目の選考からも外れ、寺本選手は、補欠として代表チームを支えることに。2人の約束は叶いませんでした。

 

その後、寺本選手は村上選手にメッセージを送りました。

 

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“茉愛へ。改めて、東京オリンピックの代表内定おめでとう。正直、補欠も受けようか、辞退しようかすごく迷ったけど、その立場でもいいから、最後まで茉愛と一緒に戦っていたいっていう気持ちがあって、補欠を受け入れました。気持ちが切れてちょっと悩んでいたときに、何かを感じ取ったかのように茉愛がLINEしてきてくれたときは、やっぱり言わなくても、離れてても、分かり合える私達の絆はすごいなって想いました。本当にありがとう。茉愛はすごくかっこいいです。私のカンだけど、なんか、いけそうな気がします。いい試合ができそうな気がします。なので、私の分まで楽しんで試合してきてね。見守っています。明日香より。”

5年の歳月をかけて目指してきた舞台へ!

2020年 東京オリンピック 体操 会場


そして迎えた東京オリンピック。体操女子団体のキャプテンを任された村上選手は、4種目すべてに出場します。

 

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村上選手の背中には、手作りのお守り。寺本選手から渡されたものでした。

 

2020年 東京オリンピック 体操 女子 種目別 決勝 ゆか 村上選手


予選は8位だった日本。決勝では、ゆか、跳馬で勢いをつけて5位まで順位を上げ、3位まで0.616差に迫りました。しかし、3種目の段違い平行棒、村上選手は演技冒頭でバーをつかみ損ねる痛恨のミス。得点は、24人中23位に終わりました。3位との差は大きく広がり、団体の最終結果は5位。メダルに届きませんでした。

残されたチャンス 個人種目での戦い

寺本選手から託されたメダルへの夢。残されたのは、個人での戦い。団体決勝の試合後、村上選手は寺本選手と連絡を取ります。

 

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寺本選手

本当に、頑張ってくれたらそれだけで私はうれしいので、堂々と胸を張って、いつもの村上茉愛らしい体操を見せてほしいなって。こっちはもう勝手に感動しているから、自分の演技を、自分の悔いなく出し切ってほしい、と伝えた。


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村上選手

茉愛が楽しまないと私も楽しくないし、茉愛がいい演技できたら、私もうれしいから、私のことは考えずに、もう思い切って楽しくやってきて」って、やさしく声をかけてくれた。「普段の練習からやっていれば大丈夫じゃない」っていう風に、何回も声をかけてもらった。


メダルへのラストチャンス、種目別ゆかの決勝。村上選手は、積み重ねてきた表現力、美しく完成度の高い演技を見せました。

 

2020年 東京オリンピック 体操 女子 種目別 決勝 ゆか 村上選手

村上選手

この1分半がすごく楽しかった、自分の体操をしているっていう

 

2020年 東京オリンピック 体操 女子 種目別 決勝 ゆか 村上選手

 

最後のジャンプも成功。積み重ねてきたすべてを出し切り、得点は14.166の3位。日本女子体操57年ぶりのメダルをつかみ取りました 。

2020年 東京オリンピック 体操 女子 種目別 決勝 ゆか 村上選手が銅メダルを獲得


寺本選手は、村上選手に喜びを伝えました。

“まい、本当にかっこよかった。一緒に頑張ってきて良かった。何年も苦しんで、色んな壁を乗り越えて、ここまで強くなった彼女を、心の底から祝福したいです。あとでいっぱい抱きしめよう”

 

2020年 東京オリンピック 体操 女子 種目別 決勝 ゆか 表彰式

村上選手

夢を諦めないで、頑張っていれば(メダルを)取れるっていうのを、私は証明できたのかな。諦めなければ、いいことがあるっていうのを、本当にこの何年も経験してきたけど、それを心の底から分かることができたのが、今回の試合だったかなと思う。本当に明日香がいなかったら、たぶんここまでやっていないなって思います。明日香と出会えてよかった。

 

戦友(とも)のサポートを受けて、東京オリンピックでメダルを獲得した村上選手が五輪後、初めて臨む大会が、今月(2021年10月)に北九州で予定されている世界選手権。オリンピックの銅メダリストは、どんな演技を見せてくれるのか、楽しみです。

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