ストーリー野球

楽天 安樂智大 這い上がった“火消し役”

2021-10-12 午後 10:20

楽天の安樂智大投手。プロ7年目の今シーズン、リードした試合を勝利に導く“火消し役”としてチームのピンチを何度も救い、リリーフ陣に欠かせない存在に成長した。

 

かつて高校野球で活躍し、ドラフト1位で指名された“将来のエース候補”は、「あの苦しさは僕にしか分からない」と表現するほどの野球人生の窮地から這い上がってきた。

※記録は10月11日現在

ピンチを救う“火消し役”

2021年5月30日 DeNA戦 安樂投手が6回途中から2人目として登板

 

安樂は今シーズン、主に「リードした試合の、先発に続く2人目」としてマウンドに上がっている。際立っているのが、ピンチでの粘り強さだ。ランナーを得点圏に背負ったときの被打率は1割5分。

 

ある時はホームランで一気に点差を詰められた直後。ある時は複数のランナーを背負った場面。数々の修羅場をくぐり抜け、防御率1.52と優れた安定感を見せている。相手に傾きかけた流れを食い止める姿はまさに“火消し役”。ピンチでマウンドに立つ心境を、独特の表現で明かした。

 

安樂 智大 投手

水中に潜っているような感じで息もできないので、歯を食いしばって、なんとかもがいて、ベンチに帰ったら陸上に上がるというか、やっと息ができるかなという感覚。全部の試合が苦しいし、楽しいという思いはまったくない。

石井 貴 投手コーチ

ピンチを救ってくれて『よし、いくぞ』と勇気をもらえる投球をしてくれている。安樂投手以降のピッチャーも力がわいて、大胆な投球ができると思う。

甲子園を沸かせた剛腕の窮地

今シーズン、リリーフ陣の柱として存在感を増した安樂だが、これまでのプロ野球人生はピンチの連続だった。

 

2013年 済美高校時代 センバツ高校野球で準優勝した


愛媛・済美高校時代には、平成25年のセンバツ高校野球で772球を投げ、チームを準優勝に導いたほか、その年の夏の甲子園では春夏通じて史上最速に並ぶ155キロをマークし球界に衝撃を与えた。しかし、この時点で安樂の右ひじは限界だったという。

 

楽天への入団が決まりガッツポーズ

 

ドラフト1位で楽天に入団したものの、ひじの痛みをかばって投げ続けたことで肩や下半身のけがを繰り返した。“将来のエース候補”と期待されながら、昨シーズンまでの6年間でわずか6勝。自分のふがいなさを責め、人生をかけてきた野球への情熱を失いかけたことさえあったという。

 

2018年9月11日 ソフトバンク戦で先制2ランを浴びる

安樂 智大 投手

ストレートの球速が130キロ台に落ちたりして、こんなはずじゃないと思う自分と、けがでこうやって(プロ生活が)終わっていくんだなと思う自分と、いろんな葛藤があった。好きだった野球がもう嫌で、ボールを握りたくないと思う時期もあった。あの苦しさは僕にしか分からない。

ギリギリを攻めて成長

野球人生の窮地に立った安樂。それでも上を目指す姿勢を失わなかった。おととし、右ひじの手術に踏み切るとともに、再びけがをしないよう自分の体を見つめ直すことにしたのだ。

 

2020年4月 筋力トレーニングに励む安樂投手

 

動作解析の専門家を頼り、ピッチングフォームを一から見直した。たくさんの本を買って骨格や筋肉について学び、自分の体の特徴やリスクを知った。この結果、みずからを限界まで追い込めるようになったという。

 

2020年7月16日 西武戦でシーズン初勝利

試合が終わってからもウエイトトレーニングをやっている。けがをおそれて、自分に過保護にやっちゃうと成長できないし、ギリギリの場所を攻めないと成長できない。(今は)自分の“これ以上はダメ”というラインをしっかり決められているのかなと思っている。

戻ってきた剛速球

2021年10月7日 ロッテ戦に登板 プロ初セーブ

 

この決断と努力が実を結び、本来の持ち味だった速球の威力が戻ってきた。今シーズンのストレートの平均球速は144キロ。わずか2試合の登板にとどまった3年前と比べて5キロ速くなり、150キロを超えるボールも増えてきた。

 

速球が復活してきたことで、130キロ前後で落差の大きい決め球「スプリットチェンジ」との緩急がさえ、活躍の原動力になっていると手応えを感じている。

 

安樂 智大 投手

ここ数年に比べてまっすぐ(ストレート)の走りがよくて、ファウルを打たせたり空振りを取ったりできるようになってきた。スピードが出るに越したことはないので、もっともっと速くなればいいかなと思っている。

“歯を食いしばって”

楽天投手陣は今、絶対的な抑えの松井裕樹をけがで欠いているだけに、安樂の成長と活躍が光る。

 

2015年2月 プロ初キャンプでの安樂投手と松井裕樹投手(左)

 

安樂にとって松井は、単なる1年先輩ではない。同じ「高卒ドラフト1位」で入団し、結果を残し続けてきた特別な存在だ。今も連絡を取り合い、ピッチングフォームなどのアドバイスをもらっているという。

 

そんな松井に不在の責任を感じさせたくない。“守護神”のいないチームの危機を救うためにも、野球人生のどん底から這い上がった“火消し役”は、これからも右腕を振り続ける覚悟だ。

 

2021年10月9日 西武戦で2セーブ目を挙げた

安樂 智大 投手

この間も裕樹さんから連絡が来て、『自分自身がふがいない、腹立たしい』と言っていました。帰ってきたときにしっかりバトンパスできるように、歯を食いしばって、どんな形でもいいからゼロで帰ってきたいという思いだけでマウンドに上がっていきたいと思います。

この記事を書いた人

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並松 康弘 記者

平成26年NHK入局。新潟局を経て、仙台局で楽天担当3年目。野球は「中学から大リーグまで」幅広く愛する。

 

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