特集 御嶽海の正念場… 今度こそ期待に応えられるか 大相撲秋場所

「ああ~っ」
秋場所7日目、御嶽海が逸ノ城に敗れて2敗目を喫した瞬間、各社が取材していた記者クラブはため息に包まれた。多くのファンにとっても同じだっただろう。
新横綱・照ノ富士が圧倒的な強さで勝ち続けている秋場所。役力士では、ただ1人、1敗で追っていた御嶽海が敗れたことで、前半戦ですでに照ノ富士の「独走状態」となりつつある。
幕内後半の審判長を務めていた藤島親方(元大関・武双山)も厳しく断じた。
「いいときと悪いときの差が激しい。きょうも力を出す前にやられてしまった」
こうした厳しい評価を聞くたびに、御嶽海という力士が、いかに大きな期待をかけられているかを感じる。優勝2回、三役に昇進してからの5年間で平幕に落ちたのはわずか3場所。
いいときには、大関に匹敵する力があるが好不調の波が激しい。安定してふた桁の白星を挙げられず、「次の大関」という期待には長い間応えることができていなかった。
今場所の直前、そんな御嶽海が「スイッチが入った」と話す出来事があった。先月(8月)の合同稽古で、元大関・霧島の陸奥親方から声をかけられたのだ。
陸奥親方
もっと稽古をやっていたら今ごろ(大関に)上がっていたよ。(稽古を)やったら強いんだから。
違う一門でありながら、わざわざ忠告をしてくれた陸奥親方。
まわしを取られないよう速い攻めを意識したり、まわしを切る動きを工夫したりするようにと具体的なアドバイスもしてくれた。
御嶽海
気合いが入りましたね。元大関の方が僕みたいな力士を気にかけてもらっているのがうれしくて。
この日、関取衆と精力的に15番の相撲を取った御嶽海。その後も立ち合いから一気に前に出るスピードを意識した稽古を重ね、殻を破るために何が必要かを模索し続けてきた。
2021年8月26日 合同稽古で炎鵬と話す御嶽海
28歳となり若くはない。大学の後輩、若隆景をはじめ琴ノ若や豊昇龍といった若手が台頭していることもわかっている。
場所前には強い決意を話していた。
御嶽海
大いに期待してもらっているので僕もそろそろ応えたいというのは毎場所、思っている。下から若い者たちが来ているが譲れない部分はあるので。
7日目に敗れたものの、ここまでの相撲にはその言葉通りの気迫が感じられる。立ち合いからの出足、前に出るスピードも稽古で磨いてきた成果が発揮されていた。だが、2敗目を喫したことで、ずるずると後退してしまってはこれまでと変わらない。
今度こそ、今度こそ期待に応えるため御嶽海にはここでふんばってほしい。それは今場所の優勝争いを左右するだけでなく、御嶽海の今後の分岐点になるのかもしれない。
この記事を書いた人

清水 瑶平 記者
平成20年 NHK入局。熊本局、社会部などを経て、平成28年からスポーツニュース部で格闘技を担当。学生時代はボクシングに打ち込む。