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特集 卓球代表選考レース連続ドキュメント 第2回"執念"

卓球 2019年8月6日(火) 午後1:14

東京オリンピックで副主将を務めた卓球の石川佳純選手が引退を表明しました。石川選手がライバルたちとしのぎを削った東京大会の代表選考を追った2019年の特集記事を再掲します。全4回シリーズです。

 

2020年にメダルが期待される、卓球の日本選手たち。男子シングルスでは、張本智和、丹羽孝希、水谷隼。女子では石川佳純、伊藤美誠、平野美宇。世界ランキング上位に名を連ねている彼らは今、し烈な代表選考レースの真っただ中にいます。オリンピックのシングルスに出場できるのは、男女ともに2人だけ。選手たちは12月までの国際大会で好成績を残し、少しでも多くのポイントを獲得しなければなりません。

 

5月から7月。世界各地で大会が続き、ポイントを競い合った選手たちの「連戦の夏」に密着しました。

波乱の幕開けから勝負の季節へ

代表選考レースは波乱の幕開けでした。他の大会に比べて大きなポイントを獲得できる、4月の世界選手権。男子ではメダルが期待された張本選手が格下の相手に4回戦で敗れ、ベスト8に進出した丹羽選手の後塵を拝する結果に。

 

 

女子も伊藤選手が3回戦、石川選手が4回戦で敗れる一方、2人を追いかける平野選手がベスト8と躍進。

代表争いの重圧の中で、「追いかける立場」の選手たちが好スタートを切りました。

 

世界選手権での獲得ポイント

男子
丹羽 1500
張本 1200
水谷  900

女子
平野 1500
石川 1200
伊藤  900

伊藤「4月の悔しさをバネに」

 

4月の世界選手権から1か月。およそ2か月の間に6つの国際大会が連続する、選考レース前半の山場を迎えました。

 

 

世界選手権でライバルに遅れをとった伊藤選手は、ここが勝負の季節だと考えていました。

 

伊藤美誠選手

世界選手権ですごく離された感じはあったけど、やっぱりそれをバネに、絶対(12月までの)ツアーでは一番上に残るっていう思いです。まずは、勝つ。やり切る。やりきったら勝つチャンスは出てくるので。

 

連戦のスタートとなる中国オープン。準々決勝で立ちはだかったのは、リオ五輪の金メダリスト、中国の丁寧選手でした。

 

 

伊藤選手はこの試合、臆することなく攻めます。厳しいコースへ打ち分ける得意のスマッシュで相手を圧倒し、ゲームカウント4-1で勝利。ベスト4に進出し、着実にポイントを積み重ねていきます。

 

 

そして翌週。6月の香港オープン準決勝で、選考レースの行方を左右する日本勢対決を迎えました。上り調子の伊藤選手に対するのは、同学年の平野選手です。

伊藤と平野 近くて遠い存在

平野選手は伊藤選手に特別な思いを抱いてきました。

 

 

3年前のリオ五輪、団体戦で銅メダルを獲得した日本女子チーム。平野選手は代表選考レースで敗れ、「補欠」としてオリンピックの舞台で活躍する伊藤選手の姿を見つめていました。その後も世界の舞台で先を走る伊藤選手に、平野選手はこの3年、勝てていません。

 

平野美宇選手

伊藤選手は近い存在だけど、遠い存在。全然違う世界に行ってしまった。

 

伊藤選手に追いつき、追い越すために。平野選手にとって大きな意味を持つ直接対決。
第1ゲーム。11-10と先にゲームポイントを握ったのは平野選手。しかし伊藤選手は動じず、得意のサービスエースで再びデュースに。

 

 

互いにデュースを繰り返す譲らない展開の中、14-13と平野選手に再びゲームポイントが来ます。しかしここでもサーブを決められ、ゲームを取り切れません。

 

悔しさをあらわにする平野選手に対し、伊藤選手はフォアハンドで攻めます。

 

平野選手は16-18でこのゲームを落とすと、試合にも敗れました。紙一重まで追い詰めるものの、勝てない。伊藤選手にその差を改めて見せつけられました。

平野「鬼にならないと勝てない」

 

夏の連戦、休む間もなく次の大会はやって来ます。

平野選手

最後に勝つのは自分、っていうくらいの気持ちでやらないと、そう簡単には勝てない。
鉄の心を持った選手に勝つという事は、自分もそれぐらい、鬼にならないと、勝てない。

 

7月のオーストラリアオープン。1回戦の相手は中国の強豪、世界ジュニアチャンピオンの選手です。長身から繰り出されるパワフルなショットに、2ゲームを先に奪われます。

 

苦戦する平野選手をよそに、隣のコートで戦う伊藤選手は、1ゲームも失わない圧勝で1回戦を突破。

平野選手

このまま負けたら、絶対に後悔する。厳しいけど、でも絶対にあきらめない。

 

平野選手は、自分を奮い立たせます。

 

怒とうの5連続ポイントなどで、強豪から逆転勝利。獲得ポイントの合計で伊藤選手に食らいついていきます。

張本に続くのはどちらだ

 

一方の男子。世界選手権で出遅れた16歳の張本選手が、この連戦では準優勝やベスト4など好成績をあげ、一気に抜け出しました。いまや代表争いの焦点は2番手争いに。

 

30歳の水谷選手と24歳の丹羽選手。オリンピックのメダリスト二人がしのぎ合う、かつてないサバイバルが続いています。
 

丹羽孝希選手

水谷さんの結果は僕にはどうこうできないので、自分が力をつけていい結果を出すのが一番だと思います。でも、自分が2番目までに入れると信じてます。

水谷隼選手

自分がオリンピック出場を勝ち取るんだという気持ちが、まだまだ弱いと思います。周りが必死にオリンピックに向かっていく中で、焦りが出ているのはあります。

石川「自分を変えないといけない」

さらにこの夏、女子の第一人者・石川選手も追い込まれていました。

 

 

7月末での合計ポイントを見ると、伊藤選手、平野選手に続く3番手。

 

苦戦の理由は石川選手のプレースタイルにありました。確実性を重視し、ミスの少ない攻撃が石川選手の持ち味。そのボールを相手に読まれ、ねらい打たれていたのです。選考レースで鍵を握る中国選手との対戦では、今年一度も勝てずにいました。

 

連戦の合間。練習場では意外な光景が見られていました。石川選手がレシーブをネットにかけたり、オーバーしたりを繰り返していたのです。しかし、そこに石川選手のねらいがありました。あえてコーナーやネットすれすれの厳しいコースを攻めようとしていたのです。

 

 

連戦の中、長年のプレースタイルを捨て、攻めの卓球に変えようと模索していました。

石川佳純選手

自分自身を変えていかないといけない。オリンピック、オリンピックと思い過ぎたりすると、守りたい気持ちがどうしても出てくる。守りの姿勢になるのが、やっぱり一番よくない。

 

 

7月のオーストラリアオープン。石川選手にとって大きな意味を持つ試合がありました。

 

世界ランキング1位、中国の陳夢選手との準々決勝。練習してきたレシーブを、厳しいコースを打ち込みます。

 

 

ゲームカウント4-3で逆転勝利。苦しんだ夏。大きな手応えをつかんだ勝利でした。

石川選手

レベルアップを重ねていく事。どんどん強くなって、1試合ごとにいい成績を残していけるように頑張りたいと思います。

 


獲得ポイント(7月末時点)

男子
張本 9535
水谷 7840
丹羽 7690

女子
伊藤 10370
平野  9590
石川  9405

 

夏の連戦を終えた時点でのポイント。2位と3位の差は男女ともわずか。ひとつの勝敗でひっくり返る僅差となっています。選考レースは残り5か月、およそ10大会。目の離せない戦いが続きます。

 

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