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SNSによる選手たちへの “ひぼう中傷” を問う 東京オリンピックを通して考えてみた

2021-08-20 午後 06:55

東京オリンピックのある競技後のインタビューで涙を流す選手がいました。涙の理由は結果ではなく、みずから受けたひぼう中傷でした。メダルラッシュに沸いた陰で相次いだひぼう中傷。なぜ、懸命に競技に挑む選手たちに、心ないことばが寄せられたのか。東京オリンピックを通じて考えてみました。

なぜアスリートがSNS?

SNSは今ではコミュニケーションのツールとして幅広い世代で浸透しています。調べてみるとアスリートたちがSNSを活用するのは、ほかにも理由があるようです。

 

ハンドボール日本代表の土井レミイ杏利選手

 

まずは、競技の知名度アップにつなげる目的です。ハンドボール男子日本代表として出場した土井レミイ杏利選手は、動画投稿サイトで積極的な発信を行い、240万人を超えるフォロワーを獲得しています。

 

土井選手は、自分の姿を通して知名度が低いハンドボールを知ってもらうきっかけにしてほしいという思いから、SNSでの発信を続けています。

 

 

「ハンドボールって、皆さんあまり知らないじゃないですか。だったらまず僕という人間を知ってもらってハンドボールに興味を持ってもらえると思っている」

 

 

 

また、コロナ禍によってアスリートとファンが接する場面が少なくなり、交流の場として活用するケースもあります。

 

去年5月には、日本代表として今大会にも出場しているバドミントン選手が、動画投稿サイト「YouTube」でチャンネルを開設し、トレーニングの様子などを配信しています。また、ことし1月には、プロ野球の人気選手が「インスタグラム」の利用を始め、球場への入場制限などで現場に訪れられないファンに対して、シーズン中の生活の様子などを紹介しています。

相次いだ被害 その背景に

しかし、メリットばかりではありません。東京オリンピックは選手たちへのひぼう中傷が注目される大会にもなりました。

 

混合ダブルスで金メダルを獲得した水谷選手

 

このうち、卓球の混合ダブルスで日本卓球界初の金メダルを獲得した水谷隼選手は7月31日、自身のツイッターに送られてきた、ひぼう中傷のコメントを動画で公開して被害を告白しました。さらに、大会期間中、ひぼう中傷の問題に対して、ネット上ではこうした意見も見られました。


「有名なんだから仕方ない」

「嫌なら発信しなければいい」

「言論の自由だ」

 

もともと、こうしたひぼう中傷は以前からあったと専門家は指摘します。

 

国際大学の山口真一准教授

 

国際大学の山口真一准教授は「アスリートへのひぼう中傷は以前から散見されていたが、今回は水谷隼選手のような知名度の高い選手が発信し、ほかの選手も声を上げたことで初めて広く認識された」と指摘します。

 

また、山口准教授のこれまでの研究ではネットで炎上しているテーマに書き込みをする人は、平均すると、全体のおよそ0.0015%と限定的な割合だったことがわかっています。

 

今回はオリンピックという世界最大のスポーツの祭典の開催時期ということもあり、コメント量が増え、全体の割合としては少ないはずの否定的な意見やひぼう中傷の数が多く見られたのではないかとしています。さらに…。

 

 

「コロナ禍」という社会的背景によって被害が増えた可能性も指摘します。緊急事態宣言などによる外出自粛でSNSと触れる時間が増えていたことに加え、コロナ禍の生活で社会不安が増したことから、その不安やストレスの「はけ口」として横行した可能性があるというのです。

選手を守るには

 

選手へのひぼう中傷をめぐっては大会期間中、IOC=国際オリンピック委員会が、24時間態勢の相談窓口を設けてカウンセリングを行う取り組みを行ったほか、日本選手団がモニタリングをして記録として残し、関係機関と対処するといった動きがありました。

 

インターネットユーザー協会の小寺信良代表理事は、SNSでは直接コメントが寄せられるため、ひぼう中傷をなくすことは難しく被害を未然に防ぐ必要性を強調しています。アスリートの場合はその後の競技にも影響することがあるため、まずはひぼう中傷から心を守る手だてを知ってもらう必要があるといいます。たとえば、フィルタリングやブロック機能などを活用するとある程度の不適切な投稿は排除できるといいます。

 

一方で、競技を観戦する私たちにも忘れてはならないことがあるとして「アスリートも私たちと同じ一般人です。アスリートだから特別強いメンタルを持っているとは限らないので結果やふるまいなどが気にくわないからといって軽率な発信はやめてほしい」と訴えます。

ひぼう中傷を問う五輪

インターネット上にはびこる匿名の人物からのひぼう中傷は大会前からも大きな社会問題となっていて適用される侮辱罪の厳罰化の議論も進められています。

 

アスリートたちが声をあげて広く認識された今、SNS上だからと、軽い気持ちでつぶやいたことばが、相手に深い傷を与える「やいば」になることを自覚し、いま一度、SNSの正しい使い方について考え直すオリンピックとなりました。

この記事を書いた人

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林 直樹 記者

令和元年NHK入局。鳥取局で警察・司法を担当 東京オリンピックの取材班に加わる

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山田 友明 記者

平成27年NHK入局。長野放送局を経て令和元年から横浜放送局小田原支局 東京オリンピック取材班に加わる

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